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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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信用金庫と借りのご利用は計画的に

「うう……嫌だなぁ……」

「なんでこんなことになったと思っているんですかグレイさん。もとはと言えばグレイさんがリンゼッタ様に借りを作るようなことをしたのがいけないんですよ」

「アレはっ……、カーラがっ……!」


 今思い出しても忌々しい雪山でのあの出来事。それがなければ俺はこんなジメジメとした湿地帯に足を踏み入れることはなかったのに。


「そんなこと言われてもですねぇ……僕も多少なりともとばっちりを食らってるんですよ? リンゼッタ様と交渉する僕の気持ちにもなって下さいよ……」


 そして隣にはこれまた湿地帯と同じくらい重い雰囲気になっているカムリが。

 うるせぇ、手伝うって言ったのはお前からだからな。


 精神的にも物理的にも重い足を動かしながら、状況を反芻する。


 そもそも俺とカムリがなぜこんな湿地帯にいるのかというと、全てがカーラが言った『私のいた国がなくなるのは不憫だから、せめて属国の待遇にしてくれ』というお願いからだ。

 俺は後日、カムリにその交渉をするように依頼し、結果リゼから『へぇ……別にいいですけど、この借りは高くつきますよ? まぁ、グレイ様ほどの戦力に借りを作ることができるのなら、私は喜んでその要求をのみますがね』という試合に勝って勝負に負けた返事をもらった。非常に遺憾である。


 それで、今回はその()()を返すためにこの湿地帯に来たのだ。

 もしこのお願いが聞けないのなら、俺は帝国側として戦争の最前線へ駆り出されるらしい。絶対に失敗できない。


「でも、グレイさん。この要求はかなり運のいい方ですよ? なにせ魔王大陸で調達できる素材なんですから」

「まぁな、でもめんどくせぇのがこれまたなぁ……」

「ちなみに今回調達する素材、人間大陸じゃ手のひらにのるぐらいの量で豪邸が建ちますよ?」

「うっそマジで? 爆アドじゃん」

「魔王大陸でしか採れませんからねぇ……。魔王大陸に行く時点で相当のリスクがあるんですよ。魔王大陸に住んでいるグレイさんやヒルダさんに目こぼしを貰っている僕以外じゃほぼ不可能なんです」


 そうなのか、ところ変われば価値も変わるのか。

 ヒルダに家を追い出されたらそれ売って人間大陸で豪遊しよ。


 そう人生設計をたて、もしもの場合に備えようかと思っていると、ようやく目的の場所につく。


「んで、ここが魔王家所有の壊毒結晶の採掘地だ。危険な場所だから国で管理してるんだよ」

「わぁ……、これら全部売れば国が二、三個買えますよ……」


 眼前にそびえ立つ紫色の結晶柱群にカムリが感嘆する。


 触れば即死、発する瘴気は肺を溶かすでお馴染みの懐毒結晶だ。古来より対勇者の決戦兵器として用いられてきた由緒正しきイカレ物質である。

 人間側が国全体で魔王大陸を侵略しない理由に、初代魔王がこの結晶を戦争を仕掛けてきた人間の国に置いて民を皆殺しにしたというものがある。魔王が恐れられているのは大抵初代魔王の暴虐のせいだ。


「好きなだけ採っていっていいぞ。人間がいくら戦争しようか俺たちには関係ないからな。それにこの懐毒結晶の解毒薬はウチのマッドサイエンティストがすでに開発済みだ。帝国側が魔王側に攻めてこようが返り討ちにできる」

「別にリンゼッタ様にそんなつもりはないと思うんですけどね……」


 カムリが苦笑しつつ、毒に侵されないようにガスマスクをつけて壊毒結晶を特殊な袋に入れる。

 ……これ一つで大金が手に入るんだよな。すっごくもったいない気がする。


「そういえばカムリ、なんでリゼはそんなものを手に入れたがるんだ? わざわざ懐毒結晶なんてS級危険物質なんて必要になるなんて。そんなに帝国側はピンチなのか?」

「いえ、そんなことはありませんよ。リンゼッタ様曰く『もしもの時の保険で、お父様に借りを作れるようにする』とのことです」

「リゼの父親……たしか帝国の皇帝だったよな。身内でも容赦ねぇな、アイツ」

「それはそうですね……でも、仕方ないという面もあるというか……。帝国は完全実力主義ですから、リンゼッタ様といえども皇帝陛下に気に入られようと必死なんですよ」


 そうリゼを擁護するような言葉を言ったカムリは袋をぎゅっと縛る。


「グレイさん、ありがとうございました。これで大丈夫です」

「お、おう」


 意外とあっさり終わった。労力がわざわざ湿地帯に行くぐらいで運がよかった。


 個人的には、SSS級レベルの魔獣を討伐してこいとか言われると思っていた。そんなものはどこかのイキり勇者にでもやらせておけ。


 自身の幸運に感謝しつつ、城へと戻る。


「……そういやカムリ」

「ん? なんですか?」

「あ、いや、少し気になったんだけどさ。魔導潜水艦って知ってるか? この前大陸近海に出てきたから追い返したんだが」

「魔導潜水艦? ……ああ、そういや帝国が潜水艦を作っていましたね。この世界の技術でも作れるんですねぇ……」

「あ? どういうことだ?」

「あっ……いや、帝国の技術力はすごいってことですよ! で、話を戻しますが、帝国は独自に機械を作ってそれを兵器として使用しているんです。以前ローランド君が持ってるのを見たと思いますが、ピストルも帝国では戦争の主力兵器として使われています。僕が作ったものの方が高性能ですが、規格とか生産性の面では帝国のピストルの方に軍配が上がります」


 ああ、そういやあのヴィリジアン提督とかいうやつの部下がそんなもの持っていたな。ミルダが思いっきり嫌な顔をしていたからよく覚えている。


「へぇ、それは普通にえげつないな。……いや、待てよ? 逆になんでそれほどの技術力を持っていても戦争が長引いているんだ?」


 ふと、そんな疑問が俺の中に浮かぶ。

 油断していたとはいえ、ミルダが常時張っている結界を貫通して傷つけるほどの威力をもつ武器だ。普通の兵士では歯が立たないだろう。


 俺が首をかしげていると、カムリが察したのか苦笑いしながら言う。


「それはですねぇ……そんな武器よりも、勇者の方が非常に使い勝手がいいからですよ。そんなピストルを手に入れたぐらいで勇者には勝てませんって」

「それもそうか。納得した」


 確かに勇者は単純でバカである。そして無駄に強い。

 わざわざ武器の開発を急がずとも腐るほどいる勇者を大量投入すれば勝てる。


「だから帝国側も必死なんですよ。質のいい勇者を雇い入れたり逆にいい待遇で敵国から勇者を引き抜いたり、僕も一回リンゼッタ様からスカウトされましたよ。世はまさに大勇者時代、勇者には勇者をぶつけ、勇者を多く雇い入れたほうが勝つ時代です。そういう点で言えばグレイさんはリンゼッタ様からすれば最高の人材に見えると思います。……だがまぁ、グレイさんは魔王側ですし、人間側がどんなに頑張ろうとも魔王大陸に勝つほどの戦力は得られないでしょう。安心してください」

「ふーん」


 そう、魔王側の俺は興味なさそうに返事をする。

 勇者が殺しあう時代、か。初代魔王が見たら腹を抱えて笑うだろうな。勇者として複雑な気持ちだが。


「あとですねぇ……意外と帝国側もピンチなんですよ」

「ん? なんでだ?」


 急に不穏なことを言うカムリ。

 帝国側がピンチ? 人間大陸では敵なしなのに?


「最近の侵略行為が活発なせいで、聖教会に目をつけられているんですよ。ほら、勇者の保有数で言えば聖教会が最強じゃないですか。それに聖女様もいますし。多分リンゼッタ様もそれを見越して懐毒結晶を手に入れたいんだと思います」

「ああ、それは盲点だった。そう考えると聖教会率いる聖教国が最強だな」


 聖女、俺は見たことはないが聖属性の扱いに関しては追随を許さないレベルで強いらしい。それに聖女を崇拝する勇者も多くいる。一声かければ世界中から勇者が集うだろう。


「聖女かぁ……、きっと陰湿な性格しているんだろうなぁ。海の魔物を魔王大陸に押し入れている元凶だし」

「それはすごいド偏見ですね……。もっと神々しい存在だと思いますよ? 知りませんけど」

「そりゃあカムリの偏見だ。俺は聖女はリゼレベルのドス黒い性格をしていると思うぜ。誰が聖女は可愛くて、純粋で、神のごとく優しいって決めたんだ? 俺の知っている女は全員暴言を吐くぜ」

「でも、聖女だからそういうもので……あっ、すみません。訂正します。そうかもしれません」

「おい、待て。なんで俺を見て意見を変えた」


 なんて失礼な奴だ。『そういえば目の前に一番勇者らしくしないといけないのに勇者の対義語みたいな性格をしている人がいましたね』って顔をしやがった。

 俺だって勇者なんだよ! しかも選ばれてるんだよ! 自覚ないけど!

 お前よりも格上だからな!


「そんな顔をするなら懐毒結晶返せ」

「や、やめてくださいよ! これを無くせば僕も前線に駆り出されるんですから! 聖女様を相手するのはごめんなんです! 無意識に気が引けるじゃないですか!」


 カムリが懐毒結晶を死守する構えをする。

 そんなに聖女を敵に回したくないのか。


 はぁ、とため息をつき手を下げる。


「冗談だ、冗談」

「もう、心臓に悪い。グレイさんは聖女と敵対したくないと思わないんですか?」


 カムリがそんなことを聞いてくる。

 はぁ?


「思わないな。敵に回したくないって言うか、どうでもいい」

「だって聖女様ですよ? 勇者の光的な存在ですよ?」

「知らん。聖女が俺かヒルダの敵になったのなら、俺は聖女を絶対に殺す。そんなことでビクビクして魔王直属護衛勇者なんて勤まるか」

「……」


 俺の言葉にカムリがぽかんと口を開ける。


 大体、俺はそういう勇者だの魔王だの聖女だの大っ嫌いなんだ。形式染みていて堅苦しい。

 そんな関係性が無くても、俺とヒルダと聖属性が使えるらしい他人の関係性で十分だ。


「……フフッ、いかにもグレイさんらしい考え方ですね。それでこそグレイさんです」


「本当はそうであるべきなのかもしれませんね」とカムリは笑う。

 チッ、なんかバカにされた気分だ。


「うるせぇ、置いていくぞ」

「あっ! 速いですって! 僕はグレイさんみたいに武闘派勇者じゃないですから体力ないんですよぉ!」


 この後、俺はカムリから逃げ切り、帰り道が分からなくなったカムリを泣かせた。

読んでいただきありがとうございます!

もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。

ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。

気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を

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