MOFUTI- 12 ~エピローグ~
まぁ、こうして私に起った大事件は終息した。
幸いにも、勇者はフランチェスカに取り込まれるか逃げるかして下水路からはいなくなっていた。……幸いなの……かな?
そして、私とモフちぃはそれぞれのエピローグを迎える。
事件の終わり方というのはそれぞれ違うものだ。人が歩む人生がそれぞれ違うように。
まずはモフちぃのエピローグだ。
* * *
「レヴィよ、大儀であった。おかげで下水路を守れたぞ」
「なんか納得いかない……」
私とモフちぃはあの花畑で話し合っていた。
今度はまた何かをお願いされたとかいうものじゃない。普通に喋りに来たのだ。
それで、なぜ私が不服そうな言葉を吐いているのかというと
「なんでモフちぃだけ逃げてるのさ。本気で心配したんだからね」
「ハハハ、あの人形は貴様が用意した仮初の肉体にすぎぬ」
モフちぃがあの場をとっさに離脱していたという事実を知らされたからだ。
よくよく考えると、モフちぃはぬいぐるみに憑りついているだけの亡霊だ。その気になればいつでも離れられる。
このっ……。
「だがまぁ、終わりよければ全てよしだ。レヴィがいなければこの下水路を守りぬくことはできなかっただろう。感謝する」
「そりゃどうも……」
ぺこりと頭を下げられる。なんか釈然としない。
「それじゃあ、ミルクちゃんを返してよ。これはミルダのものなんだ。いつまでも借りていると私が怒られるんだよ」
手を差し出し、モフちぃにミルクちゃんを返すように促す。
流石に長く借り過ぎた。もうそろそろ返さないといけない。
そう言うと、モフちぃは
「……レヴィ、最期の頼みだ」
「え? まだ何か頼むの?」
「そんなに嫌な顔をするな。図々しいのは分かっている。しかし、我の一生のお願いだ」
一生のお願いと言われ、断りにくくなる。
そもそも、幽霊が一生なんて言葉を使っていいのか。
「はぁ……言うだけ言ってみてよ。そのお願いを聞くかはその次だ」
「かたじけない。我は最後に……魔王の姿を見てみたい」
「魔王の?」
首をかしげると、モフちぃが頷く。
「我はこの前の戦いで多くのエネルギーを消費してしまった。故にいつ消えてもおかしくないような状態なのだ。……だから、最期に主の成長した姿を一目見ておきたいのだ。主の姿を見ることさえできれば、もう悔いはない。安らかに成仏できる」
「……」
それは、モフちぃ心からのお願いだった。
……はぁ、私もお人好しだね。自分でも嫌気がする。
「分かったよ。魔王のところまで案内してあげる」
「本当か!?」
「一生のお願いって言われたら断れないし……何より、どうせ成仏するなら安らかに成仏してもらいたいし、ね」
二度と「私は不幸せでした」なんて言葉を聞かないために。
はぁ、とため息をついてモフちぃを拾い上げ、私は魔王城へと向かった。
「あそこのドアの先に魔王がいるんだ」
「おお、あそこか!」
私の腕の中でモフちぃが暴れる。
モフちぃにとっては、何年も待ちわびた瞬間なのだろう。
私も待つ時間の辛さは分かっているつもりだ。なにせ百年も相棒を待ちわびたのだから。
「早速行くぞ!」
「ああっ! ちょっと!」
モフちぃが腕を抜け出し廊下を走る。
慌てて追いかけるも、モフちぃがすばしっこくてなかなか掴まえれない。
「主様! 今行きますぞ!」
ああっこのッ! ぬいぐるみの癖に速いッ!
床に手をつく私を置いて、モフちぃがドアノブに飛び掛かる。
そして────
「あーっ! ミルクちゃんが汚れてるじゃないですかぁ!」
「あっ」
「ムギュ」
モフちぃはミルダに捕獲された。
ミルダの馬鹿力で、モフちぃの顔が潰れる。
「レヴィさん! どういうことですか!? 私はミルクちゃんを直してほしいと頼みましたけど、汚せなんてことは一言も言ってませんよ!?」
「あ、ああ……」
「ああもうっ! 土までついてるじゃないですか。洗濯機行きですね」
「み、ミルダ、それは違っ……」
ミルダはそのまま城の洗濯室に向かい、魔導洗濯機にモフちぃを投げ入れる。
「スイッチオンっ!」
「モフちぃいいいい!」
アンデッドにとって水は弱点である。
よって
「ひでぶぅ……!?」
激流に呑まれたモフちぃの魂はそのままミルクちゃんから剥がされ、どこかへ飛んで行ってしまった。
「このまま成仏できるかぁ!」
「あ、ああ……恨みで負のエネルギーが復活してよかったね」
ちなみに、これの影響でモフちぃが完全復活していたりする。
モフちぃが魔王との約束を違うにはまだまだ早かったらしい。
* * *
────っていうのがモフちぃのエピローグだ。モフちぃは今でも下水路の番人として勇者を迎撃している。
そして、私のエピローグだ。
私のエピローグは相棒の説教から始まる。
* * *
「ったくお前は一人で突っ走りやがって。アニマの遺伝子でも受け継いだか? ああ? なんか言ってみやがれ」
「はいっ……はいっ……滅相もございません」
相棒の部屋で正座させられ、足がしびれる。
そんな私の頭をペシペシと叩く相棒は、私が作ったシュークリームを頬張りながら頬杖をつく。
「いいか? 報告、連絡、相談は社会常識だぞ? それは百年間ボッチだったお前でも流石に分かるよな? というかレヴィ、お前は良識ある大人だよな? 俺よりも年くってるからそれぐらいわかるよな?」
「はいっ……はいっ……私が間違っていました」
「じゃあ何で俺に言わなかった」
「そ、それは……」
「なんだよ、この期におよんで『ハイハイ言っていれば終わるでしょ』なんて思ってるのか。 そんなガキみたいな発想で俺を出し抜けると思ってんのか」
「違っ……!」
相棒がネチっこ過ぎて泣きそう。どうでもいいことまで追求してくる。
しかも、ところどころ誘導尋問まで仕掛けてくる始末だ。相棒の嫌な性格がこの説教に詰まっている。
「お前はお前が思っている以上に無能なんだ。だから失敗もするし後悔もする。頭の中で想像することは全て己の理想で、それが全部自分ができることとは限らない。お前、自分が腕を構えればビームを出せるとでも思っているか?」
「ね、熱線は出せます」
「そういうことじゃねぇんだよ!」
大きな声に「ひっ」と声が漏れる。
あ、相棒が理不尽だ……!
「俺が言いたいのは、自惚れんなってことだ。全部自分で背負おうとするな、俺は無能だからヒルダ達みたいに念話ができるわけじゃない。だから口で言え。わかったか」
「は、はいっ……むぐっ」
呆れのようなため息をついた相棒にシュークリームを突っ込まれる。ほんのり甘い。
これで許された……のかな?
本当に天邪鬼な性格だなぁ、相棒は。
相棒は説教に飽きたのか、おもむろに立ち上がるとベッドに寝転がり漫画を読み始める。
そして、独り言のようにつぶやき始めた。
「……そういやさぁ、前にあの女と同じようなやつを見たことがあるって言ったよな」
「フランチェスカのこと?」
「ああ、そいつそいつ」
しびれる足をさすりながら相棒の言葉を思い出す。
確かに、相棒はフランチェスカと同じ『黒猫』を見たことがあるって言っていた。
どこを見ているか分からない相棒はそのまま話を続ける。
「んで、だ。そのフランチェスカの同族だが、そいつが俺に言ったんだ。『私は誰かを救えるようになりたかった』って」
「へぇ……」
「そん時にさ、俺は思ったんだ。俺は無力だって。実際、俺はそいつを生きた状態で救うことはできなかった。選ばれし勇者の力を持っていても、目の前のやつを救うにはあまりにも無力だ」
相棒が珍しく、悔しさ混じりの言葉を発する。
「だからさ、みんなを助けられるような勇者がいたらなぁって思ったんだ。人間も魔族も分け隔てなく救ってくれる、それこそ漫画の主人公のような、な」
相棒が漫画のページをめくる。
「でも、俺は人間を嫌いになり過ぎた。どうあがいても、決してそんなヒーローにはなれない。だから、せめて俺と同じくらい強くて、無垢な勇者がいないかなって願ったんだ」
「へぇ、相棒にも人間を救いたいって思ったことがあるんだね。私、うれしいよ」
「……で、失敗した」
「……は?」
相棒の言葉に素っ頓狂な声を上げる。
どこに失敗する要素があるの? すごくいい話じゃん。
「正確には、相談する相手を間違えた」
「どどどどういうこと? 相棒、一体何をしたの?」
「俺は何もしてないが、そいつは何をトチ狂ったのか話を聞くなり『ふぅん、面白い発想だ。勇者を一から作るなんて普通は考えられない発想、君には本当に感服するよ』って言い始めてな。そいつ、『そういう勇者がいたらなぁ→そういう勇者を作ってくれ』って解釈しやがったんだ」
「……」
その発想に、素直にドン引きする。
勇者を作るって何? っていうかそんなことできるの?
顔を引きつらせる私を尻目に、相棒はまだまだ話す。
「それで、そのマッドサイエンティストが何をしたかって言うと、俺が殺した黒猫を母体に勇者の体をつなぎ合わせて、一から勇者を作りやがったんだ」
「つ、つまり人造勇者ってこと?」
私の問いに、相棒が頷く。
「結果、試みは成功し、俺は失敗した。出来上がったのは無垢過ぎて善悪の判断もつかない勇者。それでも完璧な勇者じゃないから、本人はさらに勇者に近づくために他の勇者のパーツを自身に取り込む悲しきモンスターになってしまったんだ」
「ダメじゃん!」
床を叩き、相棒にツッコミを入れる。
最悪の結果招いてるよ、それ。悪化してるって。
「どうしてそんなことになるの……」
「知らねぇよ、それはレンバル先生っつーマッドサイエンティストに言ってくれ。……だがまぁ、最終的にはあの黒猫の望みは叶えられたのかも知れねぇ」
「どういうこと? 聞いた感じ、被害しか生んでいないような気がするんだけど……」
「いいや、そいつは今現在多くの人を救ってるからな。医者の助手として」
そう言って、相棒は漫画をパタンと閉じた。
「ちなみに、そいつは母体の黒猫の名前をとってソーニャと呼ばれている。気になったなら会いに行ってみるといい」
これにてモフちぃ編はお終いになります。
この作品はレヴィの成長に焦点をあてて書いてみました。彼女はこの作品ではかなり優しめの性格に書いているつもりなので少し洗礼を受けてもらおうと思いまして。
……ですが、作品の醍醐味であるギャグ成分を控えめにして作風に合わないダーク成分マシマシにしてしまったことは本当に申し訳ございません。特にフランチェスカなんてこの作品で一番の鬱要素だと思います。少なからず引いたでしょう。(実際、作者もフランチェスカの書き方でスランプに陥りました。フランチェスカ、恐ろしい子……!)
ですが、そんな中でも読んでくださった皆様には本当に感謝しております。もうここまで登場人物がひどい目に会うことはありません。戒めも込めて断言しておきます。安心してください。
とにもかくにも、ここまで書き続けられたのもひとえに読者様のおかげでございます。心からの感謝を。
では、恒例の催促(以下略。
読んでいただきありがとうございます!
もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。
ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を




