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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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MOFUTI- 10 ~最終決戦~

「……っ、はぁ!」

「どうした!? 顔色が悪いぞ!」


 まずい。まずいまずいまずいまずいまずい。

 手で顔をおさえ、炎分身で最後に見た情景を反芻する。


「何が起こったのだ!」

「分からない……分からないけど、アレだけは外に出してはいけないのだけは分かっている。勇者なんかよりも凶悪だ」


 思い返すだけで冷や汗が出る。

 理解の範疇を超えた存在に変貌したフランチェスカは、明らかにこの世に存在してはいけないものになっていた。

 止めなければ!


「モフちぃ、私はフランチェスカを止めに行く」

「無謀だ! 今の貴様にはもう魔力が残されていない! 炎分身を消されたのだろう!?」

「分かってるよッ! でも私が行かなくちゃいけないんだ! 私が行かなければ誰が行くんだよ!」


 焦りで頭がいっぱいの私はその場に立ち上がり炎分身のいたところへと走る。

 残りの魔力は三割ほど、到底私が勝てる相手ではない。

 ……でも、せめて差し違えることぐらいはできるはずだ。私の命を燃やせば。


「私が今ここで立ち向かわなければ相棒たちが危ないんだよ! 私がフランチェスカを止めなければ、みんなが危険なんだ!」

「ならばなおさら冷静になれッ! 勇気と無謀をはき違えるなッ!」


 モフちぃのビーズ玉が私を見据える。

 それは無機質な物であったが、生きているような感覚を覚えた。


「いいか? こういう時こそ目の前のことに囚われてはいかん。それこそ無駄死になり、最悪の結果を招きかねない」

「じゃあどうすればいいんだよッ!」

「……我も連れていけ。一人では無謀だが、二人なら何とかなるかも知れない」


 モフちぃが地面を蹴り私の肩に飛び乗る。

 ぬいぐるみの癖にずっしり重い。


「やめた方がいい。アレはモフちぃが思っている以上に危険だ」

「だからと言って行かないわけにはいかないだろう。我はこの下水路を任された身だ、この魂朽ちるまで戦い続けないといけぬ。それが主との約束、『モフちぃ、死んでも私をずっと守っててね』と言われたその日から、我は全てを主に捧げると決めたのだ」

「……なんかそれ違うんじゃない?」


 多分魔王はモフちぃに本当に守ってほしいと思っていったんじゃないよ、それ。絶対に社交辞令だよ。

 でもまぁ、ここはモフちぃが空気を軽くするためのジョークを思ってとらえておこう。


「我は引かぬぞ。貴様に止められようとな」

「……はぁ、分かった。でも身の安全は保障できない。私だって玉砕覚悟で行くんだから」

「フハハ、幽霊に身の安全を心配するか。……承知の上だ」


 まったく、どうなっても知らないよ?

 深いため息をついて、私はまた駆け出す。

 もしかしたら、最期になるかも知れない戦いに。



「イヒヒヒ「イヒヒヒヒ「イヒヒヒヒ」


 人の形をしたモノの声が下水路に木霊する。


「ば、化け物め!」

「イヒヒヒヒ「あなただって「いくつもの命を殺して来たでしょう?「奪って「刺して「嬲ってきたでしょう?「それなのにあなただけが例外というのは「少々虫が良すぎる話だとは思いませんかねぇ?」


 怯えた勇者の声、それは沼に溺れるような声を発して消えた。


「神はいつも平等。「全てを等しく罰する。「最高に尊い行いですねぇ。「イヒヒヒヒ」


 うすら明かりにうごめく影を見て、私たちは覚悟を決める。

 もうアレは人間じゃない。ましてや神でもない。

 ただの、狂った者のなれの果てだ。


「フランチェスカ、君を外には出させないよ」

「イヒヒヒ、「来ると思っていましたよぉ」


 黒く染まったフランチェスカの眼が私を覗く。

 体のいたるところに、余すところなく口が出来ており、フランチェスカの意思に応じて開いたり閉じたりを繰り返していた。


「化け物だな、貴様の相手していた者は」

「ああ、私が見た時はここまでひどくはなかったけどね。もっと異形になってる」


 モフちぃがぎゅっと私の肩を掴んだ。


 かつて、私はここまで禍々しい存在を見たことがない。間違いなく闇の生き物だ。

 体に刻まれた呪言が脈動し、フランチェスカの体を溶かし、固めている。


「フランチェスカ、君は一体何者なんだい。 それ程の力を一体どこで手に入れた」

「それを知って何になるんですかぁ?「強いて言えば人間のエゴですかねぇ。「ありゃりゃ、他の口が言ってしまいましたか。「言わなくていいのに。「でもまぁ、どうせ取り込みますから。「問題はありません。「そうですよね私たち。「ええ、そうです。「全ては神の御心のままに」


 フランチェスカが支離滅裂な言葉を発する。

 ある口は笑い、ある口は怒り、ある口は閉じたままだ。


「まさか、意識が混濁しているのか?」

「……いいや違う、我らの目の前にいる存在(アレ)からは複数の魂が見える。おそらくそれぞれの口が完全な意思を持っているのだろう。それも人為的に母体の女に縫い付けられている」

「そんなことができるのかい?」

「できない……と言えば嘘になるな。ただ、鬼畜の所業だな。魂の本質を知るネクロマンサーですらこのようなことをしようとは思わない」

「何をごちゃごちゃと話しているんですかぁ?「おままごとは他所でやって下さいよぉ。「……おや。そのぬいぐるみ、意思を持っていますねぇ。「お仲間ですか。「でも、無駄ですよぉ?「私の中で無に還るのですから。「残念ですね。「そういや私の中に入れば私と一緒におままごとできるじゃないですか。「それは朗報です。私、おままごとが大好きなんですよぉ。「遊びましょう。「きっと楽しいですよぉ」


 口が一斉に笑い出す。耳障りのする声に、鳥肌が立った。

 どうやら、一刻も早く私たちはフランチェスカを倒さないといけないらしい。


 炎を最大限に纏い、全力を捧げる。


「モフちぃ、行くよ」

「承知した」

「イヒヒヒヒ。「一つになりましょう?」


 フランチェスカが作り出した大きなあごが私を砕かんと迫る。

 私はそれをすんでのところで回避、そのままフランチェスカの元へと走った。


「すばしっこいですねぇ。「でもそれで私に勝てると思いなんですかぁ?「愚かですねぇ」

「……時にフランチェスカ。イフリートの戦い方って知っているかい?」

「いきなり何を言い出すんですかぁ?「トチ狂ったんですかぁ?」


 フランチェスカがけらけらと私をあざ笑う。


「イフリートは周りの火の海にして戦うそうなんだ」

「へぇ、無駄知識ですねぇ。「そんなに喋りながら戦っていると舌を噛みますよぉ?「私としては噛んでもらった都合が方がいいんですが」

「でも、私はイフリートじゃないし、炎分身も三体が限界だ。イフリートほどは環境を変えることはできない」

「一体何が言いたいんですかぁ────」

「レヴィ! 用意できたぞ!」


 モフちぃが叫ぶと同時に、下水路の配管から大量のネズミのゾンビがわらわらと飛び出してくる。

 この下水路全体からかき集めてくれたのだ。


「皆のもの、かかれぇ!」

「チィっ!「小癪な!」


 自身にまとわりつくネズミにフランチェスカは渋面を作る。

 しかし、これも時間稼ぎにしかならない。フランチェスカにダメージを与えるには至らないだろう。


 バラバラにされたネズミの死体が下水路に積み重なる。


「嫌がらせですかぁ?「ついに観念したようですねぇ」


 大半のネズミを駆逐したフランチェスカが私にニンマリと笑顔を向けた。


「フランチェスカ」

「何ですかぁ?「命乞いならもう聞きませんよぉ?」

「……薪が、いっぱいだね」


 私は環境をイフリートほどは利用できない。

 アニマみたいに百体も炎分身を作ることはできないし、それほど器用なことも多分できない。

 ……けれど、私には私なりの長所がある。

 ()()としての長所が。


「『神炎』ッ!」

「イヒヒ「ネズミに撃ってどうするんですかぁ?「無駄な足掻き……「……ッ!?」


 フランチェスカの口が一斉に黙った。


 私の放った深淵がネズミに燃え移る。

 それは、他のネズミに燃え移り、ゾンビに移れば駆け回り他の可燃物を燃やし、死体に移ればその場に留まり延々と燃え続けた。

 そして、下水路は火の海になる。


 かつて、カーラが言っていた。自分の長所を自覚しろ、と。

 神龍は、周りからエネルギーを供給することが得意だ。そして火の扱いに関してはこの世界の誰よりも得意である自信がある。


 ……じゃあ、この周りに広がる炎を()()フランチェスカにぶつければ?


 拳に力を入れ、周りから魔力を供給し、目の前に広がる炎をこの一撃に収束させる。


「あなた、初めからこれを狙って……!」

「さぁね、実をいうとぶっつけ本番だよ。私だってこれだけの量の炎を操るのは初めてさ。……だけど、できる自信がある。火山に突き落とされて、炎の扱いの精密さは格段に上がったから」


 これも、修行の成果だ。

 相棒から学んだ無鉄砲さと、ここ最近で培った経験と技術で、私は敵を倒す。

 これぞ、正統派じゃないかな?


 私の一撃を防ぐためにフランチェスカが肉の盾を作る。

 ところどころ苦痛にうめくような顔の形があるのは勇者がフランチェスカに取り込まれたからだろうか。

 ……だけど残念。私はこれしきの事で立ち止まるわけにはいかないんだ。


 大きく踏み込んで、今持てる全身全霊をかける────!


「『神炎爆拳(オーバーブロー)』!!!!」


 相棒、私は君の相棒で本当によかったよ。

読んでいただきありがとうございます!

もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。

ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。

気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を

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