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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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MOFUTI- 9 ~希望転じて絶望と成す~

 残り残機2。勇者を足止めするには心元のない数だ。

 それに、私は勇者になるべく会わずフランチェスカを見つけなければならない。それはこの炎分身の輝く体ではかなり難易度の高いことである。


 私はできるだけ物陰に身を隠しながらフランチェスカを探す。


「あのイフリートはいたか!?」

「いいや、見ていない!」

「……いや、イフリートじゃないんだけど」


 ふと、勇者たちの会話が聞こえた。

 完全にイフリートと勘違いされ、少し心が沈む。神龍とバレたいわけじゃないが魔族と勘違いされるのはなんか気にくわない。

……が、ここはぐっと我慢だ。気をおさえろ。


 勇者の捜索を息をひそめて回避し、神経を張り巡らせたながら下水路を進んでいると


「イヒヒヒヒ、いっぱい救われましたねぇ」

「っ……見つけたッ!」

「あらら、見つかっちゃいましたか。まだまだ代価を集めたかったのですが。これは予想外です」


 そう言う割には余裕がありそうな表情でフランチェスカが振り返る。

 その周りにはどす黒い生き物か生き物じゃないかすらも分からないようなものが、主人を守るかのように徘徊していた。


「どうです? 可愛いでしょう? 私に従順な、私だけの言うことを聞いて、私に嘘をつかない清く正しい神の使い達です」

「く、狂ってる……」


 異形の存在を優しくなでながらフランチェスカは微笑む。

 常人だったら嫌悪し忌み嫌うものを、彼女は平然と触り愛でている。それが何よりも恐怖だった。


「狂っているというのは心外ですねぇ。感性の違いですよ」

「感性というか闇に魅入られている感じがするんだけど……」


 キチキチと耳障りな音を出す異形に顔をしかめる。

 おぞましい。本能が拒絶してしまう。


「魅入られている……ですか、イヒヒヒヒ。まぁ、あなたに理解されようとは思っていません。私があなたの気持ちがわからないように、あなたに私の気持ちがわかるわけがありませんから」


 また薄気味悪い笑みを浮かべたフランチェスカが代償魔法を発動させて私に指を突き付ける。


「第二ラウンド、開始です」


 フランチェスカの合図で、黒いモノが一斉に私にとびかかってきた。

 一回目とは違い、何匹か厄介そうなモノもいる。いったいこれらを生み出すのに何人の勇者が犠牲になったのだろうか。


 鋭い牙に身震いしつつ、一匹一匹丁寧に対処していく。

 しかし、数が数だ。


「イヒヒヒ、あなたはバカなんですかぁ? このままでは最初にあった時の焼き直しですよぉ?」

「くっ……」


 止まることのない猛襲に思わず歯噛みする。

 私一人では目の前の敵を捌くので精一杯。またじり貧になるのは目に見えていた。


「とっとと救われればどうです? きっと楽ですよぉ?」

「……そうかもね。君の言うとおり、私だけなら君に攻撃を加えることはできない」

「おおっと、ものわかりがよくなりましたねぇ。そう言う人、私は好きですよぉ? それではとっとと抵抗をやめて────」

「……でも、「「()()なら十分に手が届く」」

「ッ!?」


 下水路に響く私の声に違和感を感じ、フランチェスカはとっさに振り向く。

 そこにはもう一人の私、もうひとつの炎分身だ。


 普通に戦えば私の魔力が尽きることになるのは分かっていた。だからフランチェスカを見つけた時点でここにくるように仕向けておいたのだ。


「あちっ……!」


 フランチェスカを守るように黒いモノが攻撃を遮る。

 だが、神炎は簡単には消えない。飛び散った黒いモノの体の炎片がフランチェスカの肌を焦がした。


「やってくれましたね……。まぐれですか?」

「「違う。もともとこういう作戦だ」」


 フランチェスカが忌々し気な視線を向ける。

 これで挟み撃ち、フランチェスカに逃げ場はない。

 チェックメイトというやつだ。


「「選べ。ここで自身の罪を悔い改めこの地に足を踏み入れないことを誓うか、それともここで神罰の炎に抱かれるかを」」

「イヒヒ、それは少しまずい選択肢ですねぇ。私がこの時を何年待ち望んできたと思っているんですかぁ?」

「「君がどれだけの準備をしてこの城に来たかは分からない。君がどれだけ魔王を憎んでいるかも知らない。……でも、私には守るべきものがある。私を憎みたければ憎め。とっくに覚悟はできている」」


 私が炎を揺らめかせながらフランチェスカに問うと、フランチェスカはまた「イヒヒヒ」と笑った。


「覚悟ですかぁ? ……そんな大して苦痛も感じたことがない人が軽々しく言うものじゃありませんよ」


 その瞬間、フランチェスカは自身の袖を破った。

 裏地が赤く染まった布の切れ端が、下水路の湿った床に落ちる。


「あなたは三つの時に体に呪言を刻まれたことはありますか?」

「っ……!」


 そこには、赤黒い文字が長々と書き連ねられていた。

 それらは一つや二つではない。痛々しいまでに刻印され、それは彼女の体へと伸びていた。

 それはまるで蛇のように巻き付いており、文字が生きているかのような錯覚を覚えさせる。

 おそらく、彼女のシスター服の下はこの禍々しい呪言の類いが無数に刻まれているのだろう。


 絶句する私を無視して、フランチェスカは己の過去を告白した。


「五つの時、黒魔術の生贄にされかけたことは? 七つの時、用済みだとして聖教会から湖に七日間も沈められたことは? それでもこの体に刻まれた呪言のせいで死ねずに、口封じのために舌を切られたことは? かろうじて逃げ出し、やっとできた仲間に体のヒミツを見られるのではとビクビクしながら夜を過ごしたことは? ヒミツがばれ、昨日まで笑顔で接してくれた勇者が自分に剣を向けてきたことは? ……生きるために、仲間だった者たちを泣きながら殺したことは?」


 それは、祈りのような、懺悔のような、悲痛な声だった


「……覚悟ってそういうものですよ? 神が代価を求めるように、覚悟もそれに値する理由が必要です。私はこの手を血で染めたその日から神にすがり、一人で生きる覚悟をもちました。私の神こそ、私の生きる唯一の支えなのです。……さて、そんなあなたは私の覚悟を否定する資格はあるんですかねぇ?」


 フランチェスカに刻まれた文字から血がにじみ出る。

 それに呼応するように、フランチェスカの体が黒いモヤに包まれた。

 それは周りの勇者の死体を取り込み肥大化していく。


 少女をつたう赤い雫は霧散し真紅の衣を作った。

 肌が漆黒に染まり、流動した。


「そういえばあなた、恨みたければ恨めと言いましたねぇ。……じゃあ、お望み通りに、私はあなたを恨みます。この私に宿る神の一端を行使させたこと、希望なんてとっくの昔に捨てた私の前で希望に満ちた言葉を吐いたこと。……全てあなたのせいです。死んで償ってください」


 フランチェスカの魔力の奔流に耐えきれず、下水路の天井が崩落する。

 そんな中、天井の瓦礫に押し潰されつつ私が見たのは


「イヒヒヒ。この憎き世界に救済を」


 人の形をした邪悪な()()()だった。

読んでいただきありがとうございます!

もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。

ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。

気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を

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