閑話 一方そのころ相棒は
「なぁ、レヴィを見なかったか?」
「んあ? 見てないわよ。庭の水やりでもしてるんじゃないかしら?」
「そうか……」
最近、レヴィの様子がおかしい。
アンデッドのことを知りたいと言ったかと思えば、アニマに火山に突き落とされたと言って裸同然になって帰ってきたり、そのあとも蔵書室に入り浸ったってカーラに何か教えてもらっている様子だった。
普段は努力家なレヴィだが、ここまで突拍子もなく何かに没頭するのはあまりにも不自然だ。
「なぁヒルダ、何かレヴィについて知ってることはあるか? どんな些細なことでもいいんだ」
「そうねぇ……、そういえばコユミちゃんが『レヴィさんが下水路にスコップを落として取りに行っていた。何も起こらなければいいんだけど……』なんてことを言っていたわね」
「へぇ……それは関係なさそうだな」
「なによせっかく私が情報を出してあげたって言うのに残念そうな顔して。役立たずで悪かったわね」
俺が肩を落とすとヒルダが玉座で足を組んですね始める。
まぁ、ヒルダに期待していたわけではない。だがここまで無駄な情報を出されるとは思わなかっただけだ。
「大体、なんでレヴィをそんなに心配するのよ。そりゃああんたの相棒だけど、あの子はそんなに弱くないじゃない。むしろ、私の目から見ても強い。だから心配するだけ無駄よ、きっとどこかでプラプラしているわ。アニマとなかなか仲良くなったって聞いてるし、意外とイフリートの里に行っていたりして」
「……それはないな。アイツは俺の側を離れることは滅多にしない」
「なんでそう言い切れるのよ」
「レヴィが神龍だからだ。レヴィは何よりも使命や宿命を大事にするからな」
それが、俺の相棒のいいところであり、同時に悪いところでもある。
故に、俺はレヴィを心配しているのだ。
責任感の強いレヴィだからこそ、俺に言えない何かに巻き込まれて、俺を心配させまいと一人奔走しているかもしれないと。
「そうは言ってもねぇ……そのグレイに対してレヴィが心配する要素がどこにあるのよ。あなた、何かやらかした? 例えば借金作ったり、誰かをケガさせたり……まさか、隠し子? はっ、もしかしてレヴィがグレイの責任をとってその子のお守を……!」
「アホか! なに『すべての辻褄が合った……!』みたいな顔をしてるんだよ! 妄想を拗らせんな!」
「冗談よ、話が通じない奴ねぇ」
俺が真面目な話をしているっていうのに何を言っているんだこいつは。シバくぞ。
「はぁ…とどのつまり、知らないってことでいいんだな?」
「そゆこと」
「おけ。ありがとな。自力で探す」
「いってらー」
そんな軽いことを言う魔王に舌打ちをしながら、俺は魔王の間をあとにした。
俺がまずレヴィの居場所として目星をつけたのは蔵書室だ。
ここ二週間前から、レヴィはこの蔵書室を頻繁に利用している。
最初はスイーツのレシピ本やガーデニングの本を読んでいるのだろうと思ったのだが、どうもこの様子だと違うらしい。
「なぁカーラ、ここにレヴィはいないか?」
「あいにく、レヴィさんはここにいないわよ。昨日はいたんだけど、今日は見ていないわね」
「残念だったな小童。足りぬ脳で赤トカゲの居場所を考えたようだが、結局貴様は無駄足だったというわけだ。フハッハハ」
「てめぇの足は無駄だから砕いていいよな」
「ハハハ────あだッ!?」
「ちょっとグレイ、私の使い魔を雑に扱うのはやめてくれる? これでもこの子の体は繊細なのよ。昨日は机の角に肩をぶつけて腕がとれてたんだから……」
生意気なシェリルがすっころぶ様を見てカーラがため息をつく。
ちなみに今日は右足の断裂と店頭の衝撃による後頭部陥没。でも損傷した箇所に破片を集めて一時間もすれば元通りになる。それだけコイツの命は軽いということだ。
机にも負ける存在になった伝説(笑)なんてそんなものである。
「覚えていろ小童……。必ず氷漬けにしてやる……」
「お前は一生床に這いつくばってろ、この羽も足ももがれた害鳥が。……んで、カーラ。レヴィのいる場所に心当たりはないか? 今ちょっと探しているんだが……」
「そうねぇ……でも、どこかに遠出しているということはないと思うわ」
「なぜわかるんだ?」
「普通、遠出しようと思えば少なからずその土地の情報をこの蔵書室で調べるはずでしょう? 私はレヴィさんがそんなことをしているところを見たことがない。それにレヴィさんね、この城について調べていたのよ」
「この城について?」
不思議に思い俺が首をかしげると、カーラは頷く。
「ええ、兵法を学んであなたの役に立ちたいんですって。もし勇者が城に大勢で攻めてきても自分が対応できるように」
「フン、トカゲの癖に頭のまわるやつだな。この城の戦力は個々の戦力が強いが統率に欠ける。故にいざ集団戦となった時、魔王に助言しようと考えたわけだな。我としてはそのままパニックになってさっさと死んでほしいものだが……」
「へぇ……レヴィがなぁ……」
少しうれしくなり、ついポリポリと頭をかいてしまう。
なんだかんだ、レヴィも魔王陣営の自覚を持ち始めたようだ。素晴らしい成長である。
「……ねぇグレイ。少しいいかしら」
「んあ?」
俺が照れ笑いをしていると、カーラがぼそりと呟いた。
「レヴィさんって、神龍なんでしょ?」
「ああ、そうだが……」
「……レヴィさんが、魔王を殺そうって考えている説ってないかしら」
そのことで、俺の体は止まる。
「なぜそう思うんだ?」
「だって……レヴィさん、もともと勇者側の聖獣じゃない。私もいくらか神獣についての文献を読んだことがあるわ。文献自体はすごく少ないけど、神龍はそれぞれが竜王並みの魔力を持っていて、時代によっては精霊と並べられたほどの聖なる存在よ。そんな存在が城の構造を知りたいと言っている。……もしレヴィさんがこの知識を使って────」
「ないな、絶対に」
カーラの言葉を遮り、俺は断言する。
あり得ない、絶対にない。
「カーラ、お前はレヴィという女を知らなさすぎだぜ」
「あくまでも推測として言っているだけよ」
「いいや、絶対にないね」
「どうしてそんなことを言いきれるのよ。レヴィさんって手先が器用だし、頭もなかなかにいい。あなたを今まで騙していて、何かの拍子に突然裏切る可能性も……」
「そこだ、カーラ。そこの可能性がないって言ったんだよ」
俺はカーラに指を突き付け、にやりと笑う
「アイツ、決してヒルダに忠誠を誓っているわけじゃないんだ」
「……え?」
「確かにレヴィは神龍だ。お前の言う通り、立場上はヒルダの敵だろう。だがその前に、レヴィは俺という勇者の相棒だ。……唐突だがカーラ、問題だ」
「え、ええ?」
「俺とレヴィが契約した時、レヴィは俺に対して何と言ったでしょうか?」
この言葉が、俺がレヴィを信用する気になった言葉だ。
俺がカーラに視線を向けると、カーラは即答。
「分からないわよ。私はそんなに万能じゃないの」
「まぁ、そうだろうな。じゃあ正解を言うぞ」
結構時間がたった今でも、あの時の状況は鮮明に覚えている。
色とりどりの花が咲き、雲海が広がる神域でレヴィが言った言葉。それは────
「『相棒、私は相棒についていく。神龍は勇者のお供だ。だから誰よりも勇者の幸せを願う。……だったら、私は相棒の幸せを願うよ。魔王を殺したら相棒の幸せが崩れるのなら、私も相棒の幸せを守るのに協力させてくれ。……これなら神龍の使命にも背かない……よね?』だ」
「……」
「ウケるだろ? 神龍は魔王を倒す存在じゃなくて、勇者の幸せを願う存在ってあいつは解釈したんだ。……まぁ、少なくともこんな言葉が出る奴が裏切りなんて考えるはずないよな」
俺がレヴィの口調を真似て面白おかしく言うと、カーラは
「……フッ、フフフ、まったく笑えるわ。おかしくて涙が出そう」
「あっ……これレヴィには言うなよ? この前ヒルダにこの時の話をしたらレヴィにキレられたんだ。恥ずかしいからやめてくれって」
「ええ、約束するわ。絶対に言わないでおく」
カーラは口に手を当てながら首を縦に振った。
一方、クソ鳥は腹を抱えて転げまわっている。その様は非常にイラッてくるが……今さっき机の角にぶつかった衝撃で全身に亀裂が入り、砕けた。何も言わないでおこう。
「……ああ、長話したな。仕事の邪魔をしてすまん」
「いや、全然いいわ。いい話が聞けたもの」
「それなら何より。そのままゆっくりと物語の執筆にとりかかってくれ」
カーラに頭を下げ、蔵書室のドアへと足を向ける。
でも……結局レヴィの居場所は分からずじまいだった。
一体どこに行ったんだよ相棒……
「もう、またいつの間に砕けてて……。砕けるのなら処理ができるところでっていつも言ってるでしょ────あら、どうしたのかしら」
「ん? どうした?」
カーラの声に反応し振り向く。
「いや……床が濡れるからシェリルの破片をシンクに入れたら、破片が全て溶けちゃって」
「はぁ?」
気になったのでカーラのところまで来てみるとシェリルが核だけになって転がっていた。
普通、コキュートスの氷は砕けることはあっても溶けることはない。特殊な氷だ。
もし溶けることがあるとすれば、それは……
「……そういうことかッ! ナイスだカーラ!」
「え……ど、どうも……」
蔵書室では走らないというルールを無視して俺は思い浮かんだ場所へと向かう。
それほどの熱量を出さないといけない状況なのだとしたら、それは完全な赤信号だ。ピンチである。
「あらグレイ。どうしたのよそんなに焦って。レヴィは見つかった?」
「ああ、見つけたッ! あとヒルダ、お前の情報は意外と役に立ったらしいッ!」
廊下ですれ違いざまにヒルダにお礼を言い、目的地へと駆け抜ける。
待ってろよ相棒……! てめぇはたっぷり説教してやるからな!
読んでいただきありがとうございます!
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ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
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