MOFUTI- 8 ~神龍カルマ~
基本的に、神龍は使命の名もとに動く。
なぜなら、そういう生き物だからだ。
勇者が魔王を殺すために動くように、神龍もまた正義のために行動する。
私は相棒に出会うまでその使命に疑問を持つことはなかったし、持とうとも思わなかった。
なぜなら、それが神龍というものだから。犬が肉を見たらかぶりつきたくなるように、猫が猫じゃらしを前にだされたらつい遊んでしまうように、神龍は本能的に使命を果たそうという思考が働いてしまう。
……だから、私は相棒がすごいと思うんだ。
使命にそって生きたほうが生きやすいだろうに、相棒はそれに全力で抗う。まるで激流に逆らう魚のように。
フランチェスカの召喚した黒い手を燃やしながら、ふとそんなことを思う。
……ああ、楽だ。私の行動が全て肯定されているよう。
私は今、正しい行動をしているんだという感覚が心に満たされる。
つい、気が大きくなってしまう。
「イヒヒヒヒ、まだまだですよぉ?」
フランチェスカが勇者の骨を拾い、虚空へと消す。
今度は大きな虫が現れた。
だが、それも無意味。私の炎の前では等しく消し炭になる。
「無駄だ、君が闇属性のものを召喚し続けるかぎり君に勝ち目はない」
「眩しいですねぇ、自分を正義の使者とでも勘違いなされているんですかぁ?」
「ああ、している。この炎が絶えない限り、ここでは私が正義だ。神龍の炎はそういうものだから」
「そういうもの……ですか。イヒヒヒ、愚かですねぇ。深く考えずに自己肯定することを人は『自惚れ』と言うのですよぉ?」
薄気味悪く笑いながら、フランチェスカは勇者やその仲間の骨を拾っては代償魔法を発動していく。
この魔法の利点は術者の魔力を一切消費しないことだ。
生物の体の一部が必要とはいえ、それに見合ったモノが召喚される。いわばガチャみたいなものだ。
実際、フランチェスカが召喚しているのも大小さまざま。強さもまちまち。
しかし、数が数だ。このままいけば私の魔力が尽きるのは目に見えていた。
「おやおやおやぁ? 火の勢いが弱くなっていますねぇ。終わりも近いのでしょうかぁ?」
「ハァ……ハァ……、でも君の贄ももうすぐなくなる。そっちが尽きる方が先だ」
「イヒヒヒヒ、それはそうですねぇ。あなたの言う通りです」
フランチェスカが最後の骨を消し、手の平をぱぁっと私に見せつける。
これが最後ということを言いたいのだろう……しかし、その顔は余裕に満ちていた。
「なぜ笑っていられる。次の瞬間には君がこの消し炭と同じようになっているかもしれないんだよ?」
「あら、すみませんねぇ。私、笑顔でいることが癖なので。だって、そっちの方が楽しいでしょう? 神は言っていました。人間は常に幸福であるべき、幸福は義務でありノルマです。ですからもっと私を笑わせてくださいよ、正義の使者さん」
「ッ……!」
フランチェスカを燃やしたい衝動を抑え、私は深呼吸する。
ダメだ、煽り文句にのせられちゃ相手の思うツボだ。
こういう時こそ怒りに流されず冷静さを保って更生を促す時。
「……その手には乗らない。あんまり私をからかわない方がいいよ」
「イヒヒヒ、大人みたいなことを言いますねぇ……。私の周りはそんなことを言う大人ばかりでした。自身は嘘に嘘を重ね、純粋な私を裏切って来たのに」
「なにを言って……」
「失礼、あなたには関係ない話でしたねぇ。だがまぁ、あなたのありがたいご忠告に従ってここは一時引かせていただきます。贄を集めないといけないので」
「あっ! 待て!」
「それではまた……ああ、最後に置き土産の一つでも置いていきましょうか」
そういうとフランチェスカは己の耳を塞ぎ息を吸う。
そして
「キャアアアアア!! 誰か助けてくださいいいい!!」
「っ!?」
「イヒヒヒヒ、これでもうすぐここに勇者の大群が来ますねぇ。今のあなたに、勇者相手に戦う体力は残されているのでしょうか? それでは改めて、また会いましょう。あなたが生きていればの話ですけど」
急に背を向け、フランチェスカは私とは反対側の道へ走る。
しまった、逃げられた……が、さほど問題ではないかもしれない。
この炎分身に残された魔力も少ししかない、それならこの分身を消して他の炎分身でフランチェスカを探したほうが効率的だ。
耳を澄ますと大勢がこちらに向かってくるのがわかる。フランチェスカの声に急いで駆け付けたのだろう。
……仕方ない。ここは一旦消えよう。
私はゆっくりと目を閉じ、本体に意識を戻した。
「……どうだった」
「ダメ、逃げられたよ。だけど相当厄介なことになったね……」
額に滲む汗を拭きつつ、私はモフちぃに結果を報告する。
フランチェスカは勇者の死体を使ってどんどん自身の手駒を召喚するのだろう。つまり、私たちが奮闘すればするほどフランチェスカの手駒が増えていくというわけだ。
「うーむ、それは困ったな。勇者を倒そうにも倒せないというわけか」
「そうなんだよね……。一応闇属性だから私の炎は弱点だけど、私の魔力だって無尽蔵じゃない。今だって人一人に炎分身を一つ消費した時点でかなりまずい状況なんだ」
「だが、だからと言って勇者を野放しにするわけにはいかないだろう」
攻めようにも攻めれない状況に私とモフちぃは頭を抱えた。
僧侶という特性上、モフちぃが操るアンデッドは浄化されるし私が相手をすればジリ貧。継戦能力に欠ける。
……ああ、こういう時に相棒がいてくれればなぁ。
相棒なら、この状況を打開するだけの力を持っている。それだけ選ばれし勇者とは強大な存在なのだ。
いいや、無いものねだりをしても仕方ない。今やるべきことをするだけだ。
「まぁ、今打てる対策としては勇者の死体を燃やすか代償魔法の贄にならないほどすりつぶすしかないだろうね」
「そうだな。今は僧侶個人よりも勇者全体の方が脅威だ。まずは数を減らして、それから僧侶の対策を考えよう」
「うん」
とりあえず勇者を減らす。願わくば下水路から出て逃げて欲しいものだ。
私とモフちぃは認識を共有し、防衛線へと神経を集中させるのであった。
読んでいただきありがとうございます!
もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。
ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を




