MOFUTI- ~THE biginning~
今回からレヴィ視点の長篇です。最近出番がなかったのはここの帳尻合わせです。……あと、ちょこっと伏線回収も孕んでいるんですよね。
では、どうぞ!
優しい朝日が、私の家庭菜園を照らす。
育てたトマトは、鮮やかな赤みをもって自身のコンディションを示してくれた。
うんうん、みずみずしくていい仕上がりだ。
いつか相棒に見せたあげたい。いったいどんな顔をするのだろうか。
「んー、肥料もコユミちゃんが補給してくれるし。意外とこの魔王城は野菜の栽培に適しているのかもしれない」
額の汗を手ぬぐいで拭いながら、私は壁に立てかけてある肥料袋を開ける。
(ゴロン)
「……見なかったことにしよう」
私は知らない。その肥料が純勇者製だなんて知らない。
コユミちゃんが砕き忘れた頭蓋骨が袋から出てきたなんてことはなかった。今日はいい朝だ、何もない平和ないい朝だよ。
こぼれた不純物をとっさに袋にしまい込む。
……ああ、肥料がダマになっていたようだ。今のうちに袋を振ってほぐしておこう。
袋の中から乾いた音を確認して、花壇に散布する。
いい野菜に育てよ~っと。
「よし! これで今日もいい一日が過ごせるぞ!」
そう自分自身に宣言して、私は相棒のところへ戻ろうと花壇に背を向ける。
これが私の朝のルーティーンだ。
この魔王城に来てからというもの、日々が刺激的……というか狂気的なのでこういった静かな楽しみをしないと気が狂う。
まぁ、やってみると意外と楽しいんだけどね。
「次は何を育てようかなー……あっ」
つい手を滑らせ、スコップを側溝に落としてしまった。
「わっわわわ! ……あちゃー」
慌てて追いかけるも、スコップはルートにそって滑り、ついにカランと音をたてて下水路の方に落ちていった。
とんでもないことをしてしまったと私は頭を抱える。
「どうしよう……相棒に買ってもらった大切なスコップなのに」
私が落としたスコップは普段滅多にプレゼントなんてしない相棒が「……あんま手を汚すなよ」となんの前ぶりもなくくれたスコップなのだ。
そこら辺のスコップとは比べ物にならないほど価値がある。
……拾いに行くかぁ。
ため息をついて、コユミちゃんのもとへと向かう。
あの子、私にはあんまり心を開いてくれないんだよねぇ……。相棒曰く、昔辛い目にあってから他人を信用しないんだとか。
孤独歴はおそらく私の方が長いと思うんだけど。
コユミちゃんの家である小屋、暗黒庵の前に立ち扉を叩く。
「コユミちゃーん、いるー?」
すると扉が少し開いて、警戒心を孕んだ黒い目がのぞく。
「……レヴィさん、何?」
「実は相棒から貰ったスコップを下水路に落としちゃって……」
「……大体わかった。それをとりに行きたいと。……ちょっと待ってて」
私の心を読み、コユミちゃんが無表情のまま頷く。
この子、ほんと何を考えているのか分からないんだよね……。もっと笑顔でいれば年頃らしく友達も増えるだろうに。
「……不愛想でごめんなさい」
「あっ!? ……いやっ、違っ!」
「はい、鍵。行ってらっしゃい」
扉の隙間から鍵が投げられ、バタンと締められる。
……しまったなぁ、完全にやらかした。信用落としちゃった。
しょうがない、後であった時に謝ろう。
鍵を拾い、憂鬱な足取りで下水路へと向かう。
「……待って」
「あ……」
また小屋の扉がかすかに開き、コユミちゃんの目がのぞく。
突然のことに口をぽかんと開けた私を無視して、コユミちゃんは独り言のようにつぶやく。
「……下水路には野良の幽霊がいるから気を付けて」
「え? 野良?」
「それじゃ」
「待って、なんのこと────」
私が問いを発する前に扉が閉まる。
野良の幽霊? この魔王城に魔王の支配下にいない幽霊がいるのかい?
……ふむ、分からないな。
まぁ、あった時はあった時だ。
私の神炎が幽霊に聞かないと思ったら大間違いだぞ。何しろ聖属性も含んでいるから、むしろアンデッドにとっては弱点だ。
そんなことを思いつつ、私は下水路へと向かった。
「ま……迷った……」
ヤバい……完全にやらかした……。
自分が城の構造を把握していなかったのを忘れてた……。
神域での孤独を思い出し、なんとか見つけた大切なスコップを握りしめる。
「うう……一体どこなのぉ……。助けてよ相棒ぉ……」
薄暗くじめじめした道を神炎で照らしながら先に進む。
どこに何があるかも分からない。今歩いている道も、もしかしたらすでに私が通った道かも知れない。
こうなるならあらかじめ通った道に目印をたてておくべきだった……。
(ぴちょん)
「ひっ!?」
天井から垂れた水滴に体をびくりと震わせる。
うぅ……怖いよぉ……。昔からこういう暗いところは嫌いなんだよぉ……。
「誰ッ……!? ……気のせい?」
何もないところでさえ、体が過剰に反応してしまう。
もうやだよぉ……外に出たいよぉ……。
……いや、落ち着け。私は神龍だ。
昔の「弱虫レヴィ」じゃないんだ。あの頃の私はもういなくなった。今は相棒の隣にいて、相棒の背中を守る立派な神龍。だからこんなことでへこたれちゃいけない。
自分自身にそう言い聞かせ、勇気の一歩を踏み出す。
(ぱきっ)
「え……?」
湿ったような、乾いたような音。
恐る恐る足元を見る。
「ギィャアアアアアアア!!!?」
そこには白骨化したネズミの骨。そしてその頭蓋骨にはムカデが通っていた。
「やだぁああああ! 帰りたいぃいいいい!!」
脳裏に焼き付いた光景に絶叫をまき散らし、訳も分からず下水路を疾走する。
だってムカデの顔がこっちに向いたもん! 「キシャッ」ってこっちに牙をむいたもん! 怖い顔してたもん!
息をつぐ暇もなく、己の体力に限界があることも忘れ、私は足を動かす。
……ん?
「やった! 光!」
と、神様がこんな私を哀れにお思いになったのか。下水路の先に光が差す。
光、すなわち外。つまり帰れる。
胆略的に自分の置かれた状況を理解し、私は喜んだ。
「やった! 外────じゃ、ない!?」
が、それはぬか喜びだった。
私が足を踏み入れた先は全く外なんかではなく、壁で囲まれた空き地であった。
……しかし、私がそこにたどり着いたのはあんまりぬか喜びでもなかったようで
「へぇ……なんか綺麗」
空き地の景色に、私はおもわず感嘆を漏らした。
天井の隙間からは日の光が差し、天然の照明となって空き地を照らしている。
下は土、生命の息吹を強く感じさせる色とりどりの花が絨毯のように咲き誇っていた。
そして、その中央には小柄な木。
「こんなところが城にあったなんて……、ん? 木の幹に何かあるぞ」
花をむやみに潰さないよう細心の配慮をとりつつ、木の幹へとたどり着く。
「これは……墓?」
目の前の十字架に、私は首を傾げた。
私の膝下ぐらいしかない手作り感あふれる十字架が、人為的な土のふくらみの上に刺さっている。
……あ、十字架になにか書いてある。え~っと何々?
幼い子供が描いたのだろうか、ミミズがのったくったような汚い文字に苦戦しつつ解読する。
「……『モフちぃ、ここに眠る』? 『モフちぃ』って誰?」
「……呼んだか、侵入者よ」
不意に後ろから声がする。
それと同時に、空き地の気温がぐっと下がるのが分かった。
背後にただならぬ気配を感じ、とっさに振りむく。
「誰だッ!」
臨戦態勢になった私の視線の先、そこには……
「我が名はモフちぃ! 魔王の第一眷属にしてこの城の守護を任せられた偉大なるゴーストよ!」
「……」
手のひらサイズのハムスターの幽霊がふわふわと浮かんでいた。
読んでいただきありがとうございます!
もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。
ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を




