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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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若さって偉大ね!

 俺の呼び掛けで、広場に大勢の人が集まってくれた。

 各々が何が起こるのかとそわそわしている中、今回の集まりの主役、お義母さんはというと


「見て! この肌つや! この潤い! 痛まない節々と潤沢なグルコサミン! いったいここまで体を動かせるのは何年ぶりかしら!」

「や、やめろよお義母さん……。実年齢を知っている息子と娘のことを考えろよ……」


 二十代前半に戻った己の若さを満喫していた。

 年齢を考えずに無邪気さ前回の走りを見せる母親に、俺たち子ども三人は残念な顔をする。

 俺、不老不死がなぜ禁呪なのかが分かった気がする。こういうことがあるから老化はあまり抑えるべきじゃないんだ。


「すごいわね……あなた達のお母様。私は少し手を加えただけなのだけれども。それも三時間だけの時間制限付きだし」

「うちのお義母さんがすみません。お見苦しいところをお見せしてすみません」


 本当にやめてほしい。一挙一動のフレッシュさが心にグサグサ刺さる。


「いやー本当にすごいわね! えーっと、カーラさんだっけ?」

「は、はい。奥様」

「ほんっとありがとう! あなたは私に夢を与えてくれたわ!」

「もったいなきお言葉です……」


 お義母さんは引き気味のカーラの手を掴んで上下に揺さぶる。

 実は本日二回目、一回目はカーラが星見の一族の末裔であることを説明したら興奮してカーラの肩を外しかけた。

 子供過ぎるよお義母さん。


「気分はチョベリグ。魔法さまさまサマーね」

「「「ウッ!」」」

「なによ、若者言葉を使っただけじゃない。大げさね」


 化石のごとく古臭い言葉に心臓がキュッとなった。

 軽く致命傷である。


 俺たちが家族サービスを開始する前に精神がボロボロになる中、お義母さんは入念にストレッチをしながら言う。


「んで、グレイ。これだけじゃないんでしょう?」

「ああ、その通り。……おいクソ鳥、出番だぞ」

「そんな接待まがいの出番はいらん。母親のいたわりなど貴様が死んだ後にあの世でやってろ」

「このメスガキッ……!」


 シェリルが下卑た笑顔で俺の命令を拒否。

 お義母さんの前だが一発ぶん殴ってやろうかと思ってしまう。


「お? できるのか? 我が砕けたら誰が雪を降らせる? 少なくとも今後五時間は復元せんぞ? その間に貴様の母親は魔法が解けて老いてしまうだろうなぁ?」

「シェリル、降らせなさい」

「ハイ、ゴシュジンサマ」


 しかしカーラの命令には逆らえない体なので、シェリルは機械的な声を発したあとに氷の翼を生やす。

 広場の気温が急激に下がり、城の周り一体に雪雲が発生した。


「わぁ……! まさかこの季節に雪がふるなんて夢みたい! ねぇ、もっと降らせて頂戴」

「いいぞ、雪の大きさと位置は保証しないがな」

「わぶっ」

「おっと、手が滑った。そこの勇者に雪を集めてしまった。すまないことをしたなぁ……!」


 雪の塊が俺の頭上に降り注ぎ、俺は雪に埋もれた。

 雪の隙間からはシェリルのムカつく顔が見える。


「アハハハ! グレイ、今の状態面白いわよ! アハハハハ!」

「よかったな勇者、貴様の醜態に母君はご満悦らしい。もっと母君を笑わせたいのならさらに雪を降らせてやるが、どうだ?」

「……それよりも雪の中でもがくメスガキを見る方が俺は好きだがな!」

「やめろ! 放っ────」

「放せと言って誰が放すか!」


 シェリルを雪の山に引きずり込み,、雪で固めてガチガチにする。

 幼女虐待とか世界中のロリコン共に言われそうだが、そもそもこいつはコキュートスという古の化け物だ。こいつを幼女と錯覚している奴は早めの通院をオススメする。


「貴様ぁ……! 我をことごとくコケにしおって! この雲を張った瞬間からこの城は我が支配下にはいったということに気づいていないようだな! 即刻叩きつぶしてくれる!」

「おいやめっ! それは致死量の重さの雪だろッ!」


 怒ったシェリルが雪の塊を俺に向かって降らしてくる。

 しかもかなりホーミング性が高い、腐ってもコキュートスと言ったところか。


「わぁすごい! どんどん雪が積もっていくわ! グレイ、もっと右側に雪を降らせなさい」

「お義母さん、雪と引き換えに俺の落命のリスクが高まってるの分かってる!?」

「大丈夫よ、私の子供たちはみんな頑丈なんだから。大抵のことでは死なないわ」

「すっごい信頼してくれてる! 母親の鏡だね!」


 感動の親子愛に涙が出るよ。


 でもまぁ……相当雪が積もってきたな。シェリルがふざけているせいで偏りが激しいが。


「ハハハハハ! 逃げ惑え勇者、積年の恨みっ!」

「知ってるか? 化け物は最終的には勇者に退治されるものなんだぜ? っつーわけで今からお前は狩られる側になるんだよッ!」


 回避がてら雪をすくい上げぎゅっと固める。

 そして


「『セイントヴァーチェ』雪玉バージョン!」

「なっ!?」


 バスッとしゃっこい音と共に、俺の一撃がシェリルの顔にクリーンヒットする。

 俺の代名詞であるセイントヴァーチェにはこんな使い方もあるのだ。


「お、おのれぇええ!!」


 顔面がひび割れたシェリルが激昂。

 自身の周りに雪玉を構築して俺に向かって発射する。

 まぁ当然、弱体化したコキュートスに俺に当たる速度は出せるはずもな────あっ、すまん。流れ弾にレヴィが当たった。


「あら、レヴィちゃんに当たっちゃったわね」

「シェリル! いい加減しな」

「いいのよ、カーラさん。こっちのほうが断然面白いじゃない」

「……え?」


 俺が雪の弾幕から逃げている傍らで、お義母さんがカーラを制止する。

 そして、指の関節を鳴らすと


「まぁ見てなさい。……ヒルダ!」

「ハイッ?」

「これでも食らいなさいッ!」


 お義母さんの投球がヒルダの顔面に吸い込まれる。


「アッハハハハ! 引っ掛かったー!」

「お母様……?」

「文句があるならかかって来なさい。魔王(笑)」


 そう言って、お義母さんはヒルダに舌を出したあと、ヒルダに背を向けて脱兎の如く走り出す。


 それに対し、ヒルダは全てを悟った顔で立ち上がった。


「上等じゃない……! 皆のもの、あの不届き者を捕らえよ! ただし生け捕り、武器は雪玉のみとする! 分かったか!」

『了解ッ!』

「そうそう、それでいいの」


 ヒルダの一声で、城の従業員達が雪玉を手に取りお義母さんを追いかける。

 なんだかんだ言って城のみんなはノリがいいのだ。しっかり訓練されている。


「それじゃあ始めますか。雪合戦開始ぃ!」


 お義母さんの宣言と共に、城前の広場は楽しい戦場と化した。




「あーあ、楽しかった。子供達と遊んだのも久しぶりね」


 地面に仰向けになって雪まみれになりながらも、お義母さんは疲れを感じさせない顔ではにかむ。

 そりゃあ楽しかっただろうな。敵の大将(ヒルダ)の顔面に三回も雪玉をぶち当てたんだから。


 先代とは違いただの魔族のはずなのに運動神経が良すぎる。


「楽しんでくれて何より」

「まったく、誰の入れ知恵でこんなイベントを企画したんだか……。まぁ、及第点でしょう」


 そう言って、お義母さんは俺の手をとって立ち上がる。


 幸い、あれだけ派手に雪合戦をしたのに、目立った怪我人はいなかった。

 ……いや、正確には一羽のロリガキがどこかの勇者のせいで英霊になったな。

 あれは尊い犠牲だった。二度と戻って来るな。


「これで満足した?」

「ええ、とっても満足したわ。十分よ。……ねぇ、グレイ」

「ん?」


 俺が首をかしげると、こころなしかお義母さんの声が弱々しくなった。


「私がなんで雪合戦をしたかったのか、あなたにはわかるかしら」

「そりゃあ……若い自分を満喫したかったからじゃないの?」

「……それもあるけど、正確には違うわ」

「え? じゃあなんで?」


 俺が聞くと、お義母さんは少し言い淀みながらも答える。


「……私、あなた達の母親であれたかなって、ずっと思っていたの。ある日、旅行雑誌を見てたらね、子供達が親と楽しそうに雪合戦をしている絵がのっててさ。その時、ふと思ったの。……私、あなた達と遊んであげたことがほとんどないなって。王妃としての公務ばかりで、あなた達とまともに遊んであげた記憶がなかった。……ごめんなさい。もっとあなた達に構ってあげればよかった」


「ごめんなさい、ごめんなさい」とお義母さんは何度も謝る。


 確かに、俺たちはお義母さんに遊んでもらったことがなかった。

 構ってもらえなくて、癇癪も起こした覚えがある。それで怒られて、ぶすくれたこともある。


 ────でも、俺たちは知っている。


「いや、そんなことないよ。お義母さんはお義母さんだ」

「……え?」


 お義母さんが今にも泣きそうな顔を上げる。


 だってさ


「だって、お義母さんはどんなに忙しくても、いつも食卓の場にはちゃんと出席していたじゃないか。確かに、俺達に構ってあげられなかったのかもしれない。普通の人並みに、母親であれなかったのかもしれない。でも、俺たちはお義母さんが俺たちを愛してることぐらい、とっくの昔に知ってるよ」


 良くも悪くも、注いだ愛情は決して時間と比例するものじゃない。

 それぐらいは分かってるつもりだ。


「俺たちはお義母さんが……ゲヘナという魔族が俺たちの母親であったことを恨んだことなんて一度もない。だから、謝るのをやめてほしい。もしお義母さんに謝られたら、俺はお義母さんの息子であることに自信が持てなくなる。最高の家族を持ったということに自信が持てなくなるからさ」


 本来いえば、孤児の俺に母親の愛情なんて与えられるはずのものではなかった。

 でも、俺は母親がいるという幸福を知ることができた。十八年前、俺を育てると決心してくれたお義母さんのおかげで。


「さ、帰ろう」

「……はぁ、私ってほんと幸せ者ね」


 ため息をついて、お義母さんは歩き出す。

 その顔は、幾分か晴れやかなものになっていた。


「……ゲヘナ様、グリモア様カラ」

「ん……?」


 前からお義母さんの様子を伺っていたスケさんが大きめの箱と一通の手紙を渡す。

 お義母さんは無言でスケさんから手紙を受け取ると、雑に封を開けて中身を読んだ。


「……ふーん、アイツにしてはなかなか思い切ったことを書くじゃない」

「なんて書いてあったの?」

「『いつか旅行に行こう』だって。家族みんなで」


 そう言うと、お義母さんは手紙を丁寧に折りたたんで懐にしまう。

 先代の誠意が伝わり、幾分か溜飲が下がったようだ。


「じゃあ、帰るの?」

「……いつかね。その前に色々やりたいことがあるから」


 お義母さんは再び歩き出す。

 先代が手紙を送ってきたことに、意外とまんざらでもない様子で。


 その様子を見て、俺は安堵のため息をついた。

 どうやら、俺の親孝行は無事成功に終わったらしい。


 やはり、家族回が収まるべきはハッピーエンドだ。

 これにて、おしまい────


「でも、流石に今回の出来事はお義母様に連絡しないと気が済まないわね。親の責任をとって、グリモアのやつを叱ってもらわなくちゃ」


 ……否、先代だけはもうちょっと苦難が続きそうであった。

誠に勝手ながらではありますが、これから一週間投稿を休止させていただきます。理由は休養兼修行です。楽しみにしていただいている方には申し訳ありませんが、ご理解の方をよろしくお願いいたします。


では恒例のを。

読んでいただきありがとうございます!

もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。

ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。

気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を

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