夫婦生活は楽じゃない
先代魔王、ヒルダとミルダの父親で俺を拉致らせた張本人。
俺を拉致ったことに関しては歴代の中でも一、二を争う損害を人間側に与えた魔王である。
まぁ……そこのところについては俺は何にも思っていない。むしろ、先代魔王が俺を拉致ってくれなければ俺は親無しの孤児として野たれ死んでいたか、勇者学校にぶち込まれて洗脳まがいの授業を受けさせられていただろう。
俺の力だったら無双劇のウハウハ人生だっただろうが、それは誰かのために操られて生み出される自由も何もない空虚な劇だ。この魔王城にくる勇者のように、俺の力を誰かがあてにして、善の名のもとに利用される創作物のヒーローみたいな人生になっただろう。
少なくとも、ここまで俺が自由な生き方ができるのは先代魔王のおかげと言っていい。本当に感謝しているし、尊敬もしている。
しかし、それでも俺が『お義父さん』ではなく『先代魔王』と呼んでいるのは、先代魔王曰く「勇者にそういわれるのはどこかむず痒い」からだそうだ。
やっぱり、魔王は魔王なのだ。俺になんの抵抗もなく接しているヒルダが異端なのである。
……さて、そんな先代魔王も今現在は南のリゾート島で静かに隠棲していた。趣味は釣り、現役時代を知る俺にとって、今の先代魔王は非常に丸くなったと感じている。
そして、そんなに丸くなった先代はというと
『グレイ……俺はどこで間違ったんだ……』
「お義母さんへの対応じゃないの?」
メチャクチャへこんでいた。
妻に逃げられ、すっごくショックを受けていた。
水晶玉に映る先代魔王は、笑顔のお義母さんの肖像画を見て言う。
『たかだかアイスを食べただけなのにあんなにキレるなんて……。学生時代や新婚時代は「あーん」だってしてくれていたではないか……』
「そりゃあ何十年もたったらお義母さんだって変わるって。それにお義母さんももういい歳だよ? いつまでも甘酸っぱい心でいてくれるはずがないじゃないか。そりゃあ『心は永遠の十六歳☆』とか言っているお義母さんだけどさ。二人の子供を産んで、三人も育てているんだよ? 俺はお義母さんの気持ちを見誤った先代が悪いと思うね」
『う……む……』
俺の指摘に、先代が口をつぐんで静かにうつむく。
俺も乙女心がわかるなんて一ミリも思っていないが、それでもお義母さんの性格については言えることがある。
お義母さんはそんなに寛容じゃない、絶対に。
『俺はどうしたらゲヘナに許してもらえるんだ』
「少なくとも一週間はウチにいるって言ってるよ。その間に決着をつけないといけないね。結構前にお義母さんが言ってたんだけど、この上なく怒ってる時にこそ夫に誠意を見せて欲しいって大体の既婚女性は思ってるんだって。下手に刺激しない方がいいのはもちろんだけど、だからって距離を置いちゃったら『私のことはどうでもいいのかッ!』てなってさらにブチギレるよ。これ以上お義母さんがキレたら俺たちの生活が地獄になるから早めに謝ってね」
『それはそうなのだが……』
はー、煮え切らないな。この親父。
さっさと謝って魔王の威厳を取り戻せよ。俺、現役時代の威風堂々な先代が大好きなんだけど。
逆にヘタレたただのオッサンは嫌いなんだけど。
『ゲヘナが俺の誠意を受け取ってくれると思わないんだ……。あいつ、昔から怒ると手が付けられない奴だったからな』
「だからって何もしないわけにはいかないだろ。せいぜい反省文と一緒にアイスをウチに送るぐらいはしなよ。それだけで幾分かマシになるかも知れないぜ」
『だが……「私が物につられる軽い女とでも思っているのかしら?」とさらに怒りを買うかもしれない……』
そう言って、先代魔王はああでもないこうでもないと思いついては自分で解決案を消していく。
「それでもあんたお義母さんの夫か」とツッコミたいが、お義母さんが扱いにくい性格をしているのは事実。下手に刺激したらさらに墓穴を掘る。
『やはりゲヘナが落ち着くまで待つか……』
「それは絶対に悪手、それこそ離婚騒動になりかねない。俺は親が離婚するのは絶対に嫌だぜ。せめて俺が寿命をまっとうして死ぬまで円満な夫婦でいてくれなくちゃ困る」
妻の怒りにガタガタ震える先代魔王に、俺はハァとため息をつく。
信じられるか? この人、もともと魔王だったんだぜ? 悪の象徴みたいなカッコいいカリスマだったんだぜ?
この城から送り出した時は「ささやかな余生を送ってほしい」と思っていた俺だが、せめてふるまいだけは魔王であってほしかった。
……まぁ、ヒルダも決して魔王らしい魔王ではないが。やはり血筋だろうか。
「じゃあさ、今までのお義母さんの行動を思い出してみるのはどう? あんなお義母さんでも、されたら嬉しいことぐらいあるだろ」
『ゲヘナが嬉しがる行動……』
なよなよする先代魔王を見かねて、俺は恋愛経験がないなりに提案する。
ありきたりな解決方法だが、この方法が一番シンプルで効果的だと思うのだ。
先代魔王は俺の提案に、上の天井を向いて思案する。
『そうだな……そういえばこの前ゲヘナが「あー、若返りたーい! 若返ってもっと色んなこと行きたーい! 雪山とか行って雪合戦とかしたーい!」だとか言っていたな。だが、ゲヘナはあまり体力のある方ではない。旅行するにしてもな……』
「まぁ……旅行は難しいだろうな……」
お義母さんは基本的に旅行好きだ。隠居先を南の島に決めたのも旅行がきっかけである。
しかし、お義母さんももう若くはない。若さがない状態で雪山に行こうものなら冷え性が発動して機嫌が悪くなる。
『若いときであれば少しでも機嫌をよくする方法があったのだがなぁ』
「そうだな……若さ……か」
年老いたくないものだな。俺もきっとヒルダやミルダ、レヴィに看取られるだろう。
だが、願わくば永遠に生きていたいものだ。
……いや、待て。一人だけいるじゃないか。
若さを保つ方法を知っている奴が。
そして……この季節でも雪合戦をできるだけの雪を生み出してくれる奴が。
「……いや、ある。たった一つだけ、お義母さんの機嫌を直す方法が」
『む……?』
俺は蔵書室にいるアイツ等のことを思い浮かべながらに言う。
「先代、お義母さんの機嫌は俺たちが直すから、先代は反省文を書いて死ぬほどのアイスを城に送ってくれ」
『お、おう』
俺も丁度、親孝行したい頃合いだったからな。
劣悪になった夫婦関係を直すっていうのも、立派な親孝行になると思わないか?
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