誰も知らない物語
してやられた。この時ばかりはうまく騙され過ぎて笑いが出るほどだった。
俺はカムリの情報を信じ込み……いや、俺が勝手に勘違いしていただけなのだろうが、カーラの目的は元々「万雷鯨への対抗札を魔王大陸で調達する」ことだったというわけだ。
そもそもの話、カーラは追放なんてされていなかったのである。リゼの策略に便乗する形で単独行動をとっていただけだ。
それなのに俺はカムリの情報でてっきり「魔王陣営を復讐に利用するのでは」と信じ込み、自身を利用されまいと立ちまわっていた。
それがこの結末である。
「結果的には私を警戒していたことは正解だわ、勇者さん。でも最後の詰めが甘かったわね。コキュートスは私がしっかりと管理してあげるから安心しなさい」
「……一つ言っておくが、コキュートスは軍事力の強化には向かないぜ。その絶対零度に耐えれる仲間が何人いる。戦略級にはなるだろうが損害が大きい」
「だからこうして『人型』にしたわけでしょう? 損害が出ないように教育するために」
一応止めてはみるものの、効果は無し。
このままでは人間の大陸で大怪獣バトルが起きてしまう。そうなればリゼの身が危なくなる。
知らない仲ではないので死んでしまうのは惜しい。
『緋色の魔女、用が済んだのならすぐに帰るがよい。久しぶりに余は機嫌がよい。好きな褒美をとらすぞ』
「ありがたき幸せでございます、国王陛下。……では一つ、私の質問に答えてはいただけないでしょうか? それが私の褒美になります」
『なぬ?』
カーラは水晶玉の中に映る人物に頭を垂れて奏上する。
「簡単な質問です。その気になれば『はい』か『いいえ』で答えられます」
『う……む。まぁよい。申してみよ』
「……陛下は『星見の一族』という存在をご存じでしょうか?」
『知らん。なんだそれは』
カーラの言葉に、不思議そうに国王は即答した。
しかし、なおもカーラは奏上する。
「その昔、魔王大陸にいた伝説の一族です。しかし今は魔王大陸におらず、いたとされるのが千年も前ですが」
『ふむ。それを聞いてなんの意味があるのだ?』
「それを話すと長いのですが……いいでしょう。それを知るためにはまず星見の一族の伝説を説明する必要があります。陛下にお時間をとらせることになることを先にお詫びいたします」
カーラはそう言って、俺の話した星見の一族の伝説を話し始める。
「その昔、星見の一族という一族がいました。なんでも魔力の流れが読める種族だそうです。その種族は星の魔力の流れが綺麗なのでずっと空を眺めていました。しかしある日、その者たちはとある商人に教えられた『最もきれいな星』を求めて人間大陸に向かいました」
『なんと、魔族が人間大陸に紛れ込んだというのか?』
「結果的にはそう言えますね。彼らは人間によく似た外見をしていたという話ですから。」
ここまでが、俺がカーラに教えた伝説だ。
レヴィは「へぇ」とうなずいているが、ミルダは「魔族の常識です」とつまらなさそうな顔をする。
かなり過程を省いているが、大体はそんな話だ。それ以上でもそれ以下でもない。
────だが、カーラの口はまだ動いていた。
「しかし、結局のところ星見の一族たちはその星を見ることができませんでした」
『ほう? なぜだ?』
「……その魔力の流れを読む魔眼をくりぬかれたからですよ。その『最もきれいな星を知る商人』に」
「「「『ッ!?』」」」
カーラの言葉に俺たち三人と国王が驚愕する。
その時、カーラの眼がさらに赤く輝いた。
「その商人は彼らの魔眼で作った魔道具を元に巨額の富を得ました。欲しいものはすべて手に入れました。土地、名声、権力。国さえも彼は手に入れました。……ここからはもうお分かりですよね? 陛下」
『……』
国王の顔が青ざめる。
まさか……
カーラは口調を変えることなく話を続ける。
「そして、その子孫は商業と魔道具を使い小さな国を大国にしました。……それから八百年後、国は魔道具と同じ働きをする目を持つ少女を見つけます。その少女は赤く変わる目を持ち、人間としては考えられないほどの魔力を持っていました。国はその少女に『カーラ』という名前を与え、国の駒としました。少女は国の命令に従い数々の国難を救いました。少女が働けば働くほど、国は比例してさらに大きくなっていきました。……しかし、国は気づかなかったのです。その少女こそが星見の一族の末裔であり、人間ではなかったことに」
「さぁ、国王陛下。この物語の続き、気になりませんか?」と、カーラがあの気味の悪い笑みで問う。
それに対し国王は恐る恐る首を縦に振る。
『し……しかし、それは千年も前の話だろう? 貴様にはなんの関係もないはずだ。しかもそれは貴様の推測に過ぎないではないか……』
「ええ、心得ております。過去は過去、今は今ですから。私も状況証拠をもとにお話しているだけです。でもまぁ、私が『星見の一族』の末裔であるというのはほぼ確実と言っていいでしょう」
『それなら……』
「ですがね、陛下。私にもワガママ言いたい時があるのですよ。非常に私らしくない、感情的なことですけどね。私だけではなく、先祖もいいように利用されたという事実は復讐するの十分な理由だと陛下は思いませんか?」
『ま、待て。何が望みだ。金か? 身分か? 待遇か?』
国王が手をわなつかせて交渉を持ちかける。
しかしカーラは申し訳なさそうに首を振った。
「残念ながら陛下。私は先祖のためにもこれ以上陛下の温情を受けることはできません。……ですが、私は幼少のころに国に拾われ生かされてきた身。国を滅茶苦茶にしようだなんて残酷なことは毛頭考えておりません」
そういい終ると同時に、カーラは先ほどとうってかわってニッコリと笑顔を作る。
「だからせめて、このまま故郷に帰らせてください。この私に流れる『星見の一族』という魔族の血を魔王大陸に帰らせてください」
『カーラ! 何を言う! 貴様がいなくなれば帝国はどうするのだ!? 多くの血が流れるぞ!』
「さぁ? ……と言いきるのは薄情過ぎますね。そこは私の友達の友達の友達に穏便に済ませられるように頼んでみることにしましょう。それでも良くて属国でしょうがね」
そう言って、カーラは俺に目を向けた。
お前なぁ……!
リゼ、そしてその経由ルートであるカムリに貸しを作ることは相当リスキーな手段だ。最悪の場合俺が過労死してしまう。
……だが、それを甘んじて受けねば事が丸く収まりそうにない。なにせカーラはコキュートスを御しているのだから。
俺は渋々うなずく。こりゃあ後始末が大変だぞ。
「……ああ、そういえば陛下に伝説の終わりを教えてあげなければなりませんでしたね。私が紡ぐ物語の終わりはこうです。
『少女は二百年生き、魔女と呼ばれるようになりました。
そして時が過ぎるにつれて、魔女は自身の出生に疑問を抱くようになりました。
魔道具と同じ能力を持つ目がある自分はいったい何者なのか、それが人間大陸の全てを知ったと思った魔女に残った最後の謎でした。
しかし突然、海を渡った先にある地にて、魔女は自身の真実を知ります。
自分が人間ではないこと、魔族であること、そして一族の故郷である魔王大陸で皆が帰りを待っていることを。
人間大陸に生まれながら一度も共感を得られず、孤独と共に生きてきた魔女は衝撃を受け、同時に願いました。
世界一きれいな星が一番きれいに見える場所で仲間と楽しく、騒がしく過ごしたい。
なので、魔女は国と縁を切り、自由に生きることにしました。
以降、人間大陸で魔女の行方を知る者はいません。
しかし、魔女は今日もどこかで星を眺めているという話です。
先祖が愛したその星を、先祖がずっとそうしてきたように』」
カーラが水晶玉を天に放り投げる。
水晶玉は光を受けて星のようにきらめき、そして────
「めでたしめでたし」
カーラが杖で思いっきり叩いたことで、バラバラに砕けた。
ガラスの破片が雪に混じる。
カーラは杖の先についたかけらを振り払い、清々しく顔を上げて腰に手を当てた。
「はぁ、スッキリした。まぁ、これで私に頼りっきりだった陛下の頭も冷えたでしょう。いい機会ね。……どう? 勇者さん。これで信用する気になったかしら?」
「……この選択でいいのか? お前の育ちは向こうだろ」
「いいのよ、これで。勇者さんが魔王側についたのは勇者さんの決めたことでしょ? それと同じように、これは私が決めたこと。『人間大陸で生まれた魔族』としての私のケジメ。おそらくあなたと同じくらい決意は固いと思うわよ」
カーラは俺の目を見て迷いなく断言する。
……けっ、俺には到底真似できないことだな。ある意味尊敬するぜ。
だが、『魔王大陸で育った勇者』としてカーラの決意が並々ならぬ意味を示していることは分かった。
────信用に値するほどに。
俺は深い深いため息をついて、日の光で薄くなった氷を砕いてカーラに手を伸ばす。
「それじゃあカーラ、改めて。……魔王側にようこそ」
「どうもありがとう、グレイ」
俺の言葉にカーラは俺の手を掴み、これまでで一番気持ちのいい笑顔を見せる。
それは、千年も続いたおとぎ話の終わりにふさわしい、素敵な笑顔だった。
めでたしめでたし────
「……チッ、ご主人様がこのまま人間側についてくれればこの憎き勇者共を凍死させることができたものを。甘ったるいハッピーエンドに反吐が出る」
「「「「!?」」」」
とはいかず、その空気はコキュートスの外見とは不釣り合いな言葉で凍り付いた。
読んでいただきありがとうございます!
もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。
ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を




