大地の恵みと神龍の本気
大質量の熱湯、それはコキュートスの体を溶かすには十分だった。
「そして、それで水の檻をを作れば……」
カーラが杖を振り、コキュートスを温泉の中に閉じ込める。
温泉が循環し、コキュートスの体をボロボロにしていった。
しかし、水は水だ。凍らされるのは目に見えている。これも時間稼ぎにしかならないだろう。
「でもここからどうするんだよ……。状況が打開できるわけじゃないぞ」
「あら、言わなかったかしら? 温泉は魔力をふんだんに含むのよ。あれだけの量があれば人ひとりの魔力を底上げすることぐらいは造作もないわ」
「……あ」
次の瞬間、コキュートスの中で炎が乱舞する。
「でりゃあああ!!!!」
その正体は出力を最大にしたレヴィだった。
氷を溶かし、さらに魔力を吸収した後の温泉で水蒸気爆発を起こしながらコキュートスを破壊していく。
目の前で起こる爆発ショーに、俺は思わず息をのむ。
「すげぇ……あんなレヴィ見たことがねぇ」
「あれが彼女の本当の力ってことね。私の想像以上だけれど」
「でも……すごいまぶしいですね。まさかここで船旅用に持ってきていた遮光グラスが役に立つとは思いませんでした」
「あ、ミルダ。俺にも貸してくれ。純粋に見たい」
「私にもお願いね」
「えー、ミルダにもっと見せてくださいよぉ」
コキュートスの体からところどころ火柱が噴出したところで、神龍の格をバリバリに出したレヴィが目をカッと開く。
「『神炎爆』!!」
氷の鳥のを囲むように炎の鳥かごが出現し、収縮する。
────そして、大気も音も雪も吹き飛ばして爆散した。
……ついでに、俺たちは半分溶かされた雪を全身に浴びビチョビチョになる。
これさえなければ百点満点だったんだけどなぁ……!
「ハァ……ハァ……これで……最後ッ!」
『パキン』
息絶え絶えになったレヴィが核を砕く。
かかった時間は三十分、前回の八時間を大幅更新。
結果的にはニッコリだ。
「レヴィ! その核を持ったまま無理せずにゆっくりこっちに来い! 封印してやるから」
「わ、わかった……」
魔力を出し過ぎたのか、ふらつきながらもレヴィは砕かれたコキュートスの核を俺に渡す。
今回のMVPは間違いなくお前……いや、俺たちをびしょ濡れにした分を減点してMVPはカーラだな。
「みんなご苦労。これから封印の儀に取り掛かる。ミルダ、例のものは持ってきているな?」
「はい! これですね!」
待ってましたと言わんばかりにミルダが黒い紐を懐から取り出す。
俺もよくわからない品なのだが、とりあえず魔王家に伝わる超強力な封印道具だ。以前リゼが万雷鯨に用いた命封の箱とは比べ物にならないぐらいの封印力を持つ。
これを核に巻いて、またあの洞窟に放り込んで鍵を閉めれば封印完了だ
俺は落とさないように気を付けながら核をぐるぐる巻きにして────
「ちょっと待って勇者さん」
「んあ?」
と、いきなりカーラがストップをかけた。
なんだよいきなり、コキュートスの核なんて封印するのが一番だ。止める必要がどこにある。
「それはそうだけれど、どうせ一年後にコキュートスは復活しちゃうんでしょ? それなら私にいい考えがあるわ」
「はい? 歴代魔王がハゲるほど考えても答えが出なかった答えだぜ?」
俺が「はぁ? 何言ってんのお前」という顔をすると、カーラはおかしそうに笑った。
「ハッハハハ。それは『魔族』の中で言ったらの話でしょう? 『人間』の中で限った話ではない。あるのよ、コキュートスレベルの強大な存在をを隷属させる方法が」
「「「ッ!?」」」
マジですかいカーラさん!? 魔族の抱えた爆弾に終止符を打ってくれるんですかい!?
俺たち三人が目を見開く中、カーラは
「……でも、そのためには少し準備がいるわ」
「お、おう。俺たちは具体的に何をすればいい」
「簡単よ。あの……その……後ろを向いてうずくまって耳をふさいで来ればいいわ」
「……なんだか急によそよそしくなったな。そんな俺たちに見られちゃいけないくらいのやましいことをするのか?」
「い、いや、私の秘匿技術だからよ。安心して、絶対に悪い結果にはさせないから」
いきなり挙動不審になったカーラが無理やり俺たちに後ろを向かせる。
……怪しい。とてつもなく怪しい。
俺は隣にしゃがむミルダに小さな声で
「おいミルダ、鏡持ってるか?」
「一応身だしなみ用に常備してますけど」
「それを前に置いて、鏡の反射でカーラの姿が見れるように傾けろ」
「……わかりましたぁ!」
「しっ、声が大きい」
鏡の中にカーラが収まったのを確認し、耳の抑えを緩くして聴き耳をたてた。
俺たち三人が鏡で覗き見しているとはつゆ知らず、カーラは魔導書片手に独り言をしゃべりながらその場をぐるぐると回る。
「……何回見てもこの奏上ね。ほんとバカげてるわ。しかも振りつけ付きだし。確かに大掛かりな魔法には振り付けも必要とは言うけれど……。やるしか……ない……わね」
そしてピタリと立ち止まったかと思うと、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「やるのよ、カーラ。これは必要経費よ。私は魔法を唱えるだけ……うん」
覚悟を決めた様子のカーラは杖を前に突き出して────声を半音高めた。
「きらりん☆きらりん☆レボリューション! お願いコキュートスちゃん! 私の可愛さと魔法でメロメロになっちゃえー! ラブラブショットばっきゅーん!」
「「「ブフォッ!?」」」
そこには二百歳を超えた女が尊厳破壊ダンスを真面目に踊る姿があった。
可愛さを少しでも出して詠唱口上をマシにしようとハイトーンボイスを出しているのが、逆にカーラの尊厳をさらに崩壊させている。
魔法少女カーラというにはあまりにも時代が遅すぎだ。
俺たちが吹き出したことに気づいたカーラは、全てを悟った顔をして言う。
「……終わったわよ」
「ああ……お疲れ。辛い魔法だったな」
「……一応言い訳をさせてもらうわ。これははるか昔に異界から来た天才魔術師が弱った魔物をロリ奴隷にするために考え出した魔法。使用者のプライドと引き換えに対象を隷属化させる禁忌の魔法よ」
「ああ、これはぜひとも封印しておくべき魔法だな。……きらり」
「やめなさいッ」
目に光を無くし、やつれた顔のカーラが俺に殺意の目を向ける。
ちなみにそのあとにやった右目にブイサインをあててウィンクもアウト判定だった。
しかし効果はあったようで、コキュートスの核が白い光放ち融合する。
そして、人の形をとって可愛らしい青い少女の姿をとった
まぶたが開き、コキュートスの氷と同じ蒼白の眼がのぞく。
「ん……」
「おはよう、コキュートス。私は誰かわかる?」
「……ん、ご主人様」
「うん、いい子ね。……勇者さん。これでコキュートスにビクビクする必要はなくなったわよ」
カーラはコキュートスに自身の上着をかけて満足げにうなずく。
はぁ……こんなにもあっけなくコキュートスが無力化されるとはな。
歴代の魔王が聞いたらどんな顔をするだろうか。
さて、とにもかくにも目的は無事に終わったわけだ。
あとは帰るだけ────
「────コキュートス、そこにいる三人を氷漬けにしなさい」
「はい、ご主人様」
無防備な背後から極寒の冷気が俺たちを襲う。
たちまち体に霜が張り、身動きが取れなくなった。
「……なんの真似だ、カーラ」
「ようやく名前で呼んでくれたわね、勇者さん。文字通り目的が済んだから行動に移しただけよ」
カーラの眼が赤く輝く。
眉間にしわをよせる俺をあざ笑うように、カーラは懐から水晶を取り出した。
「思わぬ収穫だったわ。魔王城から少しでもいい魔道具を盗み出せればと淡い期待で潜入してみたけれど、まさかコキュートスが手に入るなんて。帝国の軍に見つかった時はどうなるかと思ったわ。でも結果オーライね。これであの国に決定打がうてる」
水晶の中で砂嵐が舞い、一人の人間が映し出される。
黄金の装飾を身にまとい、尊大にふるまう男だ。
『緋色の魔女よ。何か収穫はあったか?』
「ええ、国王陛下。陛下の期待以上のものを手に入れました。コキュートスです。魔王大陸で封印されていたところを隷属化させました。偽の情報に踊らされているため帝国側には悟られていません」
『コキュートス……!』
通信相手が伝説の存在の名前に驚く中、カーラは嬉しそうに言葉をつづける。
「これで帝国の万雷鯨に対抗できるでしょう。この戦争、我が国の一人勝ちです」
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ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
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