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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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あの凶星の輝きよ

 その夜。

 俺がほてった体を冷ましに外に出ると、夕食会場からは足早に退散していたカーラが屋根の上で……というか屋根の上で、なおかつ浮かした杖の上で酒をたしなんでいた。


「雪見酒か、通だねぇ」

「あら、そうかしら。私はそんなつもりはないけれど。その場所にあった景色を見ながら飲むお酒もいいものよ。……あなたも飲む?」

「んにゃ。肝機能が魔族仕込みの俺はそんな弱いお酒じゃ酔えないんでね。……しかもそれ、どっからどう見ても人間大陸の酒だろ。どこで手に入れたんだよ」

「それは秘密……と言いたいところだけれど、今はいい気分だから教えてあげるわ。魔法よ、魔法。人間大陸には探せば都合のいい魔法はいくらでもあるのよ。保存魔法とか収納魔法とかね」

「へぇ、そりゃあ会得するのが大変そうだな。俺は手に届く範囲にある酒で十分だ」

「その意見もアリね。欲張りは身を滅ぼすもの。……そういう勇者さんはどうしてここに?」

「中が暑いから外に出た。外は寒いが中は暖炉の熱気で暑い。魔族は元々暑さには耐性があるらしいからな。人間の俺からしたら、ここぐらいしか逃げ場がないんだ……よっとッ」


 見下ろさせながらの話もアレなので、屋根に飛び乗り同じ目線に立ち空を見る。

 白い息が吐いては消えた。


「危ないわよ。雪で滑って落ちたら重症になるわ」

「いいのいいの。五回くらい落ちたことあるがピンピンしてるぜ?」

「落ちたことはあるのね……。まぁいいわ」


 カーラは一瞬残念そうな顔をしたあと、また星がきらめく空を眺める。


 北の地は夜空が綺麗だ。俺はヒルダと何回も見た。

 個人的には虹色のカーテンのようなものも見えた時が好きだ。


「……そういやさ。お前、夜は暇さえあればあの星を見てるよな」

「ん……そう?」

「そう」


 俺はそう言って、首をかしげるカーラに夜空の中でもひと際輝く星を指差す。

 その名は『シェリル』。人間側には凶星とされている縁起の悪い星だ。


 それでも、カーラは船の上でこの星をずっと見ていた。まるで何かを懐かしむように。


「たまたまよ……と言い逃れするのはもう遅いわね。そう、私はずっとあの星を見ていたわ。理由は単純、運勢を占えるからよ。私は占星術もかじってるから、あの星は重要な星なのよ」


「今日はだいぶいい運勢ね」とカーラは笑いながらに言う。


「ふぅん。そうなのか。俺は人間の事情に疎いから知らなかったぜ。……じゃあついでに、俺もお前にひとつあの星に関する伝説を教えてやるよ」


 俺は屋根の雪を下に落としてその場に座り込む。

 これはお義母さんが小さいころに読み聞かせてくれた話だ。


 呼吸を整え、盃を口に当てながらも目線はこちらに向けるカーラに口を開く。



 昔々、それも千年とちょっと前。魔王大陸のあるところに『星見の一族』という一族がいました。

 彼らは夜になるといつも星を見ていました。それはなぜかと言うと、彼らには「魔力の流れが見える」魔眼があったからです。

『星見の一族』曰く、星の流れは世界で最も美しい魔力の流れであり、いつ見ても飽きないというものでした。

 その中でも、彼らが数ある星の中でも「最もきれいな星」と決めた星がありました。

 彼らはその名前を「シェリル」と名付け、敬い、その星が最も輝く日に祭りを行いました。

 それを『星見祭り』といいます。

 星見祭りは魔王大陸中に広まり、国民が一年で最も騒ぐ楽しい祭りとなりました。

 そしてまた、シェリルもそれに呼応するように夜空で一番輝くのでした。


 しかし、ある星見祭りの夜、星見の一族の長老のもとに一人のフードをかぶった商人が現れます。

 その商人は長老に言いました。


「おお、星見の一族の長老よ。あなたはもったいない。私は世界中を旅し、シェリルよりもきれいな星を知っている。……しかし、それはこの魔王大陸では見れない。その星はこの海を越えた先、人間大陸にある」


 長老は商人の言葉に胸を躍らせました

 シェリルよりもきれいな星を、長老は知らなかったからです。


 そして一族で話し合った結果、星見の一族はその人間大陸に行ってみることにしました。

 幸い、星見の一族は人間とよく似た外見をしています。魔眼さえバレなければ人間に溶け込むのは可能でした。


 その年の星見祭りの夜、星見の一族はついに、その商人の船に乗って人間大陸に旅立ってしまいました。


 以来、魔王大陸で星見の一族を見たものはいないということです。


 死んだのか、それとも人間大陸で生きているのか、はたまた魔王大陸のどこかで細々と暮らしているのか。それは神様しか知りえません。


 しかし、星見の一族がいなくなった後も魔族は毎年星見祭りを続けるのです。

 いつでも星見の一族が帰ってきてもいいように、そして世界のどこかにいる星見の一族に星見祭りが続いているということが聞こえるように。

 それはそれは騒がしく、それはそれは楽しく、シェリルをもっともっと輝くように、と。



「────っていうお話だ。お前らのところではシェリルは凶星だろうが、魔族にしたら結構いい意味合いを持つ星なんだぜ」

「……へぇ。シェリルにそんな伝説があるのね。知らなかったわ」

「まぁ魔王大陸でしか語られていない伝説だからな。それに千年も前の話だ。向こうに伝わっていたとしても風化してさびれてるぜ」

「……そうね」


 カーラは短く相槌をうち、酒を煽る。


「さてと、俺は体が十分に冷えたから部屋に戻るとするぜ。お前はどうする?」

「いや、まだしばらく飲むとするわ。酔いが足りないから」

「そうか。でも早く戻れよ。風邪ひくからな」


 俺はそう言って屋根から雪の上に飛び降りる。

 屋根から落とした雪がいいクッションになった


「うげっ」


 ……今なんか雪の下から変な声が聞こえたんだけど。

 恐る恐る足の下を見ると


「あっ……」

「ゆ……許さない……」

「許せ!」


 俺に踏まれながら、レヴィが雪の山の中で震えていた。

 おそらく俺が屋根から雪を落とした時にたまたま下敷きになったのだろう。

 そして俺の語りが終わるまでの間、ずっと雪の下で身動きがとれずにいたわけだ。


 ……てへっ☆


「相棒も一回雪の中に埋まれ!」

「うぎゃあああ!?」


 とっさに逃げようとするもすぐさまレヴィに足を掴まれ雪の中に引きずり込まれる。

 冷たい! 冷たいからヤメロォ!


 俺とレヴィが不毛な戦いを繰り広げる中、それを屋根の上で見ていたカーラは


「フフッ。普段がこれだけ騒がしいのなら、きっと星見祭りのシェリルはもっと輝くのでしょうね」


 嬉しそうに、なみなみの酒を盃に注ぐのであった。

読んでいただきありがとうございます!

もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。

ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。

気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を

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