勇者グレイと鉄のサメ
あーあ、どうしてこうなってしまったんだろうか。
毎回思うのだが、この俺の巻き込まれ体質をどうにかしてくれよ。
「あっ、ちょっとグレイ君。すこしお使いを頼まれてくれない?」というようなレベルで人々が厄介ごとを押し付けてくるんだが。
「まぁまぁ。さっき人魚族の人たちには命を助けてもらったんだし、恩返しのつもりでちゃっちゃと片づけようよ」
「レヴィ。お前、俺がこうして他人のお悩み相談に乗っている時が一番生き生きしてるよな」
「あったり前じゃん。普段だらしない相棒が重い腰を上げて勇者っぽいことをしてくれるんだよ? 神龍として、それを喜ばずにどうするのさ」
「『他人の不幸は蜜の味』とか思っていない分質が悪い」
「さぁ! 悪人たちを退治するよ!」とレヴィは息まいて船首に人差し指を向ける。
まぁ……確かに俺達国の人が対処しないといけない問題ではあるがな。
「それにしても相棒、人魚たちが言っていた『鉄のサメ』と『黄色の流星』ってなんだろう? 前者は鉄の塊が高速で水中を動いて、後者は人魚をも超えるスピードで水面付近を泳ぐんだってさ。おかしいね」
「ああ、おかしすぎてホント行きたくねぇ。しかも前者に至っては時々人魚たちに向かって突撃してくると来たじゃねぇか。絶対ろくなことにならないって」
船の周りでキラキラした目を向ける人魚たちを見ながら、俺はため息をつくのであった。
「えっと……最後に『鉄のサメ』が目撃された場所がここか?」
「はいお兄様。人魚達が言っていることが本当なら、ですが」
「でも何にもねぇぞ」
水面を目を細めて観察してみるものの、やはり海は平和だった。
視線の先ではカモメが気持ちよさそうに波に揺られている退屈な光景がただただ流される。
マジでこんなところにいるのか……?
「動く鉄の塊……」
「お、どうした? 何か知っていそうな感じだな」
「……いや、杞憂というか……、動く鉄の塊なら人間の大陸で見たことがあるのよ。魔導兵器って言う魔力を動力にするものなんだけど」
カーラが「アレは最新技術のはずよ。なにしろあの国が秘匿している技術……」と独り言をつぶやき思案する。
おいおいもったいぶるなよ。この際何でもいいから……
「大体鉄の塊が動くなんてゴーレムじゃないんだし。しかも海の中だぜ? ありえないありえない」
「ありえないなんてことはないわ。だから現実は奇妙なのよ。ありとあらゆる可能性を考慮しないと」
「だからってさ……。そんな空想みたいなものがこの世界にあるなんて────」
「ッ……! お、お兄様!」
「相棒! あれっ!」
「え?」
急にミルダとレヴィに肩を叩かれ、二人の指す先を見る。
……何もないぞ?
ただカモメが空に飛び去っただけだ。
「何だよ二人して。俺は真面目なんだ。ふざけるんならよそでやれ」
「ふざけてなんかないって! なんか望遠鏡のようなものが海から出てたんだって! こちらに近づいていたんだって! グワーッて!」
「そうですよお兄様! ミルダが嘘なんてつたいたことがありますか!?」
二人は必死で訴えるが、どうも俺にはふざけているようにしか見えない。
「あのなぁ……相棒兼お兄様はご多忙なんだよ」
「だから本当なんだって! ……あっ! 今出てきた! 相棒、後ろ後ろ!」
「あ? ……ほら、やっぱりいないじゃないか。ついに壊れたか? いい精神科教えるぜ?」
「もーなんでそこでタイミングよく沈むんですかねぇッ! 違いますお兄様! ミルダ達は無実です!」
「いい加減にしろよお前ら。そこまで俺をからかおうとしてるんなら船から降りろ」
「「違うってぇ!」」
二人して俺を揺さぶるな。首が痛い。
本気でこいつらを海に突き落とそうかな……
────そう考えていた、その時だった
閃光が俺のかすり、ちぎれた前髪がはらりと海風にのる。
「は……?」
「ほら言ったじゃんんんん!」
レヴィが叫ぶと同時に、船の横から激突音がしてぐらりと船が傾いた。
甲板にいた船員が投げ飛ばされかける。
「おい魔女! 無言で俺の首に掴まるんじゃねえ! 締まってる! 締まってるって!」
「あらごめんなさい。でも勇者さんの首が掴みやすかったから掴んだだけよ。そうしないと私、海へ真っ逆さまだもの」
カーラの手をペシペシと叩くも一向に放そうとしない。
さっき海の中で窒息死しかけたのに船の上で窒息死してたまるかぁ!
「レヴィ! お前一回太れ!」
「こんな非常事態に何言ってんの相棒!?」
「龍化して太れ! 船のバランスを立て直すぞ!」
「は、はぁ!? 龍化は太ってるわけじゃない! 形態変化! もう一回言ったら燃やすからねッ!」
自分の体重を気にしつつ、レヴィはとっさに完全龍化。
勢いよく甲板に着地してなんとか船を水平に戻す。
「ナイス龍化だレヴィ。もう解除していいぞ」
「ダイエット言うな!」
涙目で殴りかかってくるレヴィを軽くいなす。
だが、レヴィのおかげでなんとか船が転覆する可能性と俺が窒息する可能性は防がれた。
これで一安心……
「そこの者達、この女の命が惜しければ動くな」
「……あらあら、私、人質になっちゃった」
かと思いきや、ふとカーラの方を見ると
「この船、我が帝国軍の支配下にさせてもらう」
「そーゆーことだお前ら。おとなしく提督様の言うことを聞きな」
鞭をもった女が鞘に入った刀を支えにして仁王立ちし、キザな男がカーラの頭にいつぞやのカムリ達が持っていた拳銃とやらを突き付けていた。
軍人なのだろうか……それにしては鎧を着ずに緑っぽいまだらのような服をきているが……
「丁度、皇帝陛下への献上品に困っていたところだ。魔王軍の船を持ちかえれば話の種は尽きん。それにたまたま居合わせていた緋色の魔女、これもいい土産だ」
「あんまり私に利用価値はないと思うわよ。帝国特別艦隊のヴィリジアン提督。今の私は人間の大陸には全く関係ない立場だから」
「だからどうした。貴様は我が帝国の覇道を示すためのいいプロパガンダになってくれる。それだけでも十分な利用価値だ」
どうやら、カーラと知り合いのようである。見た感じ仲がよさそうではないのは残念だ。
「ということで、この船を引き渡してもらおうか。そうすればお前たちを殺さずに捕虜としてこき使ってやる。命あっての物種だぞ?」
「そーだそーだ。俺たちの魔導潜水艦の餌食になりたくなかったら提督様の言うことを聞いたほうがいいぞー」
提督様とその部下らしき人が俺たちに降伏するよう促す。
んー、ぶっちゃけカーラを見捨てて物理戦に持ち込めば個の暴力で勝てる気がする。むしろ負けるビジョンが見えない。
こいつらの言う『マドウセンスイカン』とやらが何かは分からないが、どうせ人間が作るものだから大したことはないだろう。
「さぁ、どうする?」
「……どうしますお兄様。私、あの男が持っている物を見ていると非常にむかつきます。一発殴ってきていいですか?」
「……いや、いい。ここで無駄な体力を使うのは持ったいない。幸い安全策が一つだけある」
「何ですかそれは?」
ミルダが不思議そうな顔で俺を見る。
まぁ……相手が帝国軍でよかったよ。他の軍ならできなかった交渉だ。
ミルダ達にはわからないだろうが、こいつらに対しては抜群だろう。
「じゃあ提督様……あんたは本当に帝国の提督様なんだよな?」
「フッ……それを疑うか。ああ、偉大なる皇帝陛下から承ったこの胸の勲章に誓う」
「そうかそうか、それを聞いて安心した」
すぅっと息を吐く。
そして────俺は帝国に対する最高の切り札を切り出した。
「じゃあ偉大なる提督様……向こうの国でリゼ様はご健勝であられますか?」
「ああ? リゼさ……マッ!?」
帝国軍の二人が腰を抜かし、レヴィが白目をむいた。
読んでいただきありがとうございます!
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ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を




