悪人たるもの
「お兄様、日焼け止めを塗ってくださいまし」
「だとさ、レヴィ。やってやれ」
「それは……まぁ、健全じゃないし。私がやるよ」
「……レヴィさん? あなたは味方じゃないんですか?」
「ミルダ、君は自分が乙女だということを自覚したほうがいいと思うよ。いや、自覚してフル活用しようとしてるんだろうけどダメだからね? 相棒は男だからね?」
レヴィの言葉に、ミルダが俺に後ろを向いて舌打ちをする。
時々思うのだが、ミルダはよく自分が女だということを忘れていると思う。
ついこの前だって自分の友達に「むふー。それでね、勇者をぶちころがしたの」と笑顔で言っていた。到底乙女が言っていい言葉ではない。
そんな倫理観もない言葉をさらりと言うなんてお兄様悲しいよ。
「そういう問題じゃないんだけどなぁ……」
「何だレヴィ、文句あるのか?」
「い、いや無いよ。相棒はそのままでいてほしいと思うな、私は。むしろ変わったらこの海に突き落とす」
「えぇ……」
レヴィもレヴィで大概だな。神域にいた時よりもバイオレンスな思考になっている。誰のせいだろうか。
俺はこんな調子で大丈夫かとため息をついて、甲板の手すりに手をかける。
視線の先には大きく広い海、永遠に続いているかのような印象を受けた。
「……勇者さん。それで、この船はどこへ行くのかしら?」
景色を眺める俺の後ろから、『緋色の魔女』ことカーラが地図を見ながら問う。
「北の領地、霊峰サヴァランってところだ。雪男や雪女が管理する極寒の土地だよ」
「ここはこんなに暑いのにこれから極寒の地に行くなんてね。それと雪男……確か魔王大陸固有の種族だったわね。書物でしか読んだことがないけれど」
「そう、雪男はこの大陸にしかいない種族だ。基本的には温厚な性格をしているが普通に強いぞ」
「戦うわけでもないのにそんなことを言うのね。腐っても勇者ということかしら」
そう言って、海風に水色の髪をなびかせるカーラはクスクスと笑う。
気づいている人もいると思うが、今俺たちは船の上にいる。船旅だ。
勿論、慰安目的の遊覧旅ではなく立派なお勤めで船に乗っている。
というのもこの季節は北で厄介なモノが眠りから覚める。それを静めるのが俺たちの仕事だ。
通常なら魔王のお勤めなのだが、当代には俺という魔王代行が務まる人材がいるため俺が出向くことになっている。
あーあ、まったくメンドくせ。
「雪男、雪男ねぇ……。やっぱり長生きはしてみるものね。案外大陸を飛び出して来て正解だったかもしれないわ」
……それと、今回だけは別の目的がある。
それは俺の後ろで薄ら笑みを浮かべながらブツブツと独り言をつぶやくカーラの監視兼真意の調査だ。
この前カムリに「気を付けてください」と言われた手前、どうもこの魔女を信用できない。
それに、もしかしたら俺たちを利用しようとしている可能性もあるとくれば、それ相応の疑いがかかる。
それを見極めるための旅でもあるのだ。
まぁ、この女が人間最強の最前線を走っていようが俺とミルダとレヴィが一斉にかかれば一時間以内には終わる。魔王大陸の上澄みも上澄み、国盗りなんて片手間で終わらせてしまうような奴らだからな。
「勇者さん、それともう一つ質問なんだけれど、大体私たちは何日海の上にいればいいのかしら?」
「大体三日間だな。……もしかしたらもっと遅くなるかもしれないが」
「もっと遅くなる?」
「ああ、ついでにヒルダに頼まれていることがあるんだよ。……ほら来た」
俺は首をほぐして振り返る。
そして
「各員準備! ここら海域の海賊どもを根絶やしにするぞ!」
『了解!』
「……ああ、そういうことね。なら私も出番ということかしら」
俺の号令で船内が騒がしくなり、物資と人員が甲板を行きかう。
そう、ついでの仕事というのは海賊退治である。
この海域はサンゴや真珠などがよく取れ、それを狙い人間どもが押し寄せるのだ。
しかも最近になって行動が活発化し始めたので海を通るついでに潰してこいというのがヒルダからの依頼。ホント、自分で片付ければいいのに。
右に見える海賊船を補足し
「ミルダ、頼めるか?」
「お兄様のご命令とあらばあんな社会不適合者は海の藻屑にしてあげますぅ!」
俺の言葉にミルダは即答、手すりを蹴って轟音と共に空を飛んで海賊船へと向かった。
ミルダの通った後にしぶきが上がり、海に白い線を描く。
「すごいわね、さすが魔王の妹と言ったところかしら」
「驚くのはまだ早いぞ。双眼鏡をやるから敵船の中を見てな。面白いぞ」
「私は遠視魔法が使えるから別に双眼鏡はいらないけれど……っ、確かに面白いわね」
瞳に魔法陣を移したカーラがニンマリと笑う。
こいつもなかなか狂ってんな。
……すると、ミルダが大砲をかわして敵船に乗り込んだかと思うと、船底から赤い液体がにじみだす。そろそろ頃合いだ。
────それでは皆さん一緒にご斉唱
「たーまやー」
俺の声に呼応するように、赤い柱が敵船を割った。
そのあと、柱は水しぶきを上げて海を赤く染め上げる。
「なるほど……、あれが噂の『血雨』。勇者に恐れられるのも納得だわ」
降りしきる海水と血の中で、体を真っ赤に濡らしたミルダにカーラが拍手を送る。
「お兄様、やりましたよ! 今のミルダはカッコよかったですか!? それともかわいかったですか!?」
「お、おう。どっちもだぞ。だからその血まみれの体を洗ってこい」
「分かりましたー! やったぁー!」
ミルダはルンルンな足取りで船のシャワールームに向かう。
踏み出すたびに残される深紅の足跡が犠牲になった人数を物語っていた。
……ああ、すまんなレヴィ。血の跡を雑巾で拭いてもらって。でもこの調子だと一日中その作業をする羽目になるぞ。
「……?」
すると、カーラが首を傾げた。
「ねぇ勇者さん」
「んあ?」
「さっきあなたが言っていた『準備』って結局どういう意味だったの? さっきの船は魔王の妹が沈めちゃったじゃない。それならこの船の全員が動く意味がないわ。わざわざ無駄なことをしたっていうの?」
「なに言ってんだお前」
とぼけたことを言うカーラに、俺は眉間にしわを寄せる。
目の前で船が沈んだんだ。やることは一つ。
「緋色の魔女さんよ。あんたが向こうでどれだけブイブイ言わせてたかは知らないが、魔王側につきたいんならそれ相応の頭の作りをしてもらわないといけない」
「うん……?」
「とどのつまり、悪役なら悪役らしく自分たちの最大のメリットを考えろってことさ。……船員、準備できたか!?」
「万全であります、グレイ様!」
「……へぇ、なかなか悪人してるじゃない」
カーラは目の前の機械────『魔導式サルベージマシン』を見てにやりと笑う。
「襲った後は略奪ってわけね」
「その通り。そもそもこの海域は俺たち魔王陣営のものだ。この海域に入ったからには部外者に人権なんてものはねぇよ。よし、引き上げろ! 金貨一枚も残すな!」
『了解!』
こうして、俺たちは臨時ボーナスを獲得した。もちろんヒルダには秘密である。
アイツに教えたら「それは全部私のものよ。あんた達にはびた一文もやらないわ」とか言い出すからな。
……そんな中、カーラは海賊船から引き上げた自分の取り分である金貨を手で弄びながら
「ふふっ、人間大陸にいた時よりも楽しいわね。全てが刺激的で」
不気味にほほ笑んだ。
読んでいただきありがとうございます!
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ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を




