持つ者、持たざる者
扉が開かれ、勇者とその仲間が魔王の間に訪れる。
「魔王! 貴様の命……あれ?」
勇者が首をかしげる。
息巻いて扉を開けたものの、そこには誰もいなかったのだ。
────いや、誰もいないという表現は少し違う。
「ああっ勇者様! お助けください!」
「なっ……」
鳥かごのような檻に閉じ込められたあわれな姫が、そこにはいた。
宝石が散りばめられたティアラが頭の上で光る。
どこからどう見ても、美しい姫君だった。
姫は心地よい声で勇者に訴える。
「し、失礼いたしました。私の名前はグレアと申します。暴虐無慈悲な魔王にさらわれ、このような辱しめを受けており……」
そう言って、グレア姫は伏せてむせび泣く。
戸惑う勇者は姫君の美貌に見惚れつつ
「あの……お助けしましょうか? グレア姫」
「……本当ですか?」
勇者の提案にグレア姫が反応し、破顔する。
「この恩は必ずあなたのお望みの形で報います!本当にありがとうございます!」
「まぁ、勇者ですから。困った人がいたら放って置けません。」
「まぁ! なんと頼もしいお言葉でしょうか! 確か、先ほど魔王がこの部屋からでていきました。しばらくは戻って来ないでしょう。……しかし時間をかけるのは得策ではありません。さぁ、早く! 今のうちです!」
「そ、そうですね」
勇者達はグレア姫の言葉に急かされ、鳥かごへと近づく。
そして姫を助けようと鳥かごに触れると──
『ぎゃあああ!!』
勇者達は天井から落ちてきた鉄球に押し潰され、ぺちゃんこになって死んだ。
なんと、鳥かごは罠のスイッチになっていたのである。
目の前で肉片になった勇者を見て、姫は口に手を当てて思った。
……バカじゃねぇの?
「よくやったわグレイ……いや、今はグレア姫って言った方がいいかしら? これで死んだ勇者は五人目よ。圧倒的なコスパだわ」
全ての元凶である魔王様が手を叩きながら部屋に入ってくる。
俺は顔に飛び散った勇者の血をレヴィ謹製なんちゃってフワフワドレスでぬぐいながら
「これで勇者は全員バカだってハッキリ分かったわ。しかもじろじろと俺の胸を見てくるし。俺の顔に鼻の下を伸ばすし。きもっ、きっしょ」
「そう、それは災難だったわね。でも今日はこれで終わりよ。おつかれさん」
ヒルダが鍵を使って俺を檻から出す。
ここで一発本気でぶん殴ってやりたいところだが、今の力関係では俺が圧倒的に不利だ。
そもそも、俺がヒルダよりも強かったならこんな鳥かごモドキにぶちこまれて悲運の姫君ごっこなんてやらされていない。
俺が不機嫌きわまりない感情の中、ヒルダは俺の顔をペタペタと触る。
「それにしてもほんと女バージョンのグレイってお人形さんみたいな顔をしてるわね。女ウケ良さそう」
「そんなウケいらねぇよ」
ほんと、この弱々しい自分の体に腹が立つ。
一日中このままだよ。うんざりだ。
俺がそんなため息をついて今後どうしようか悩んでいると
「ヒルダちゃん、勇者の肉片余ってない?」
庭から直通の隠し扉からコユミが袋を持って現れた。
するとコユミはドレス姿の俺を見て
「誰……グレイ?」
「お前の能力って本当に便利だよな」
コユミは俺の心を読んですぐに目の前の女がグレイだということを看破した。
すげぇ、城の従者も全く分からなかったのに。
そのまま、コユミは俺を見つめて心を読み続ける。
「ヒルダちゃんの……罠の実験台……女の子になって弱体化……そのドレスはヒルダちゃんに無理やり着せられた……」
「ん、大体合ってる」
俺がうなずくと、コユミは「そう……」と淡白ながらも残念そうな返事をする。
そして悲しそうに────自分の胸元を見て手を当てた。
服にシワがよる。
ああ……うん。今の俺よりも慎ましいな。
「……今私のこと貧乳だって思った」
「っ!? いや、そういうやましいことじゃなくて」
「薬で女の子になったのに自分の方があるって思った」
「あっ、違っ」
「胸元がさみしいって思った……!」
怒りに応じてコユミの目が渦巻いていく。
まずい、コユミを怒らせるのはナイトメアへの直行便だ。
自分の身に大きな危機を感じた俺は、夢の世界にとらわれないようにコユミから目をそらす。
「最低ねグレイ。女の世界じゃそういう言葉は禁句よ」
「ヒルダちゃんが『でもまぁ、私は勝ってるけどね』って思った……!」
「ち、違うのよコユミちゃん! これは遺伝的なものだから……」
そんなことを思うなんてヒルダも最低だな。
さらにコユミの目が渦巻く。
コユミは目をぎゅっと閉じる俺たちの耳元で、吐息を混じらせながらささやいた。
「目を開けて。夢の中で話をつける」
「だってお前夢の中じゃ最強じゃん! 武力行使に出るアウトローじゃん!」
「そーよ! コユミちゃん、無駄な怒りはやめなさい!」
「余裕がある人はいつもそう言う。持たざる者の気持ちが全く分かっていない。……今グレイが『コユミだって胸のスペースに余裕持ってるじゃん』って思った……!」
「すまーん!」
コユミに頬をつねられ涙が出る。
もっと純粋に生きていればよかった! 薄汚れた心ですみません! 次から気を付けます!
「許さない。いいものを食べてぬくぬく育ってきたグレイ達には路地裏生まれの私の気持ちなんてわからない。一次成長期の栄養素さえ足りていれば私だって……!」
「そりゃあ同情してやりたいところだが、それとこれは話が別だと思うぞぃイダダダッ!」
コユミがそのあとも俺をつねりながら負の感情を垂れ流す。
後半の方にいたってはほぼ俺たちは関係ない。理不尽きわまりない暴力だ。
「目を開けて。今開けたら幾分か情状酌量してあげる」
「のぉー! のぉー!」
「……あ、ヒルダちゃんのお母さん。お久しぶりです」
「「ええっ!?」」
「かかった」
俺とヒルダがとっさに目を開けると、そこには渦巻く瞳が。
あっ、お義母さんを使うとかてめえ卑怯だぞ!
「さっきまで勇者に色仕掛けをしていたグレイに言われたくない。────じゃあ夢の中で。静かにお休み」
紫色の瞳が俺たちの眠気を誘う。
ぼやける視界の中で俺は思う。
ああもうっ! このパターンは……このパターンはもう二度と食らわないと誓ったのにぃいい!!
「あー死にたい。もーれつに死にたい」
「うえっ……ひっく……」
俺が膝を抱えて床に転がり、ヒルダは嗚咽を漏らしながらうずくまる。
なんかもうすごいです。すごくすごいです。
具体的な単語は俺たちの尊厳のために控えさせてもらうが、語彙力がなくなるほどすごかった。
またひとつ、大切なものを失った気がする。
「分かった? あなた達はあくまでも少数派」
「「シンデレラバストは動きによる空気抵抗と動作の制限を極限までになくし、運動力学の機能美を追求した至高の体型です。生き物の進化の先にあるもっとも進化が進んだ体型です。私たちのような劣った人種がシンデレラバスト様に思い上がっていてすみませんでした」」
「分かればよし」
コユミが腰に手を当て鼻をならす。
それから一日中、俺とヒルダは己の胸についた駄肉を虚ろな目で見つめるのだった。
読んでいただきありがとうございます!
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ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を




