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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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四天王という響きのカッコ良さよ

「……みんな、よく集まってくれたわね」

「「「「……」」」」


 尊大な態度で、ヒルダは重々しく話を切り出す。

 ディナーテーブルの上にある燭台の炎が呼応して妖しく揺れた。


「私は今、重大な危機に瀕している。この問題を乗り越えるためにはあなたたちの助けが必要なの」


 ヒルダは足を組み、同じテーブルに座る四人を見回した。


「いい? これは誉ある仕事。だからみんなから色よい返事が聞けることを期待してるわ」


 そして、ヒルダは息を深く吐いて言う。


「……西の滝に行って勇者殺してきてくれる人ぉー!」

「「「「ヒルダが行けぇ!!」」」」


 四人が一斉にヒルダにツッコミをいれた。


 町で買ってきたマンドラチップスの袋に手を突っ込みながら、俺はヒルダの後ろでこの茶番劇を見守る。


「大体なにが『西の滝に行って勇者殺してきてくれる人ぉー!』だよ! 昔っから思うんだが、ヒルダはアタシ達を便利屋か何かと勘違いしてないかい? 確かに名目上はあんたの部下さ。四天王さ。だが自分でもできることをアタシに押し付けるのは少し違うと思うね」


 炎を纏う少女がヒルダをにらみつける。


 コイツの名前はアニマ。四大最上位魔族、イフリートの族長の娘だ。

 もともと気象の荒いイフリートのなかでもひときわ気性が荒く、一度怒ったら何でも燃やし尽くす。

 ついたあだ名が『獄炎の暴君』。ヒルダ四天王の火属性担当である。


「オラも魔王(ざま)が行くのがいいと思うべ。雪男の領地は今霜降りドクダミの収穫期なんだべ。オラも帰ったらみんなと一緒に収穫作業をしないといけないだ」


 柔和な顔をした大男が申し訳なさそうな目を向ける。


 この男はブリザド。四大最上位魔族、雪男の長である。

 五年前に亡くなった父親の跡を継ぐ形で族長と共に四天王を併任しているヒルダ四天王唯一の良心。

 戦いを好まず温厚な性格ですごくいい人だが苦労人だ。

 できればヒルダにはブリザドに仕事を押し付けてほしくない。そうされるくらいなら俺が行く。

 四天王の氷属性担当だ。


「そんなみみっちいこと、ワタクシ達がすることではありませんわ。ヒルダがやればいいとワタクシは思いますの。四天王に雑用を任せようとするなんて、あなたも落ちたものですわね」


 口元に手を当てながら、吸血姫がヒルダを煽る。


 言わずと知れた残念吸血姫、シルフィーナだ。ちゃっかりこいつも四天王の風属性担当なのである。

 まぁそもそも、四天王は四大最上位魔族の名誉職のようなものなのでシルフィーナが入るのは当然と言えば当然なのだ。

 心配せずとも種族が種族なので、四天王に選ばれるだけの実力はある。よく自爆するが。


「……素直にヤダ」


 影の薄い男がボソッと反抗の意思を示す。


 同じく四大最上位魔族、エルダーリッチのマサク。イロモノが多い四天王の中で不遇枠に収まってしまった悲しき地属性担当である。


 そもそもリッチーという種族自体アンデットを召喚して戦うため自分が表舞台に出ることが少ない。

 なので、影が激薄で勇者に侮られているのだ。


 ずいぶん前に調子に乗ったシルフィーナが勇者に「フフフ、マサクからは逃げ切ったようですわね……。でもあの男は四天王の中でも最弱(以下略」と言ったのが勇者の間で広まってしまったのもマサク四天王最弱説に拍車をかけている。

 もちろんシルフィーナは怒ったマサクにこってり絞られた。


 ちなみに、マサクはうちの庭師であるコユミのことが好きである。幸いコユミと話そうものなら興奮で気絶してしまうため恋心がばれていない。

 現在、自分が唯一心を読めない相手としてをコユミが心を読もうと熱意を燃やしている。なかなかに面白い状況だ。


 そんなことを思っていると、苦言を呈する四人にヒルダが


「口を開けばしゃあしゃあと……! あんた等忠誠心ってものを忘れてるんじゃないの?」

「だってワタクシたちがするメリットがありませんもの。拠点をつぶすだけならミルダだけでもいいと思いますわ」

「あの子はこの前潰してもらったから頼もうにも頼めないのよ。……というかあの件だってあんた達がごねたから仕方なくミルダが行ったのよ? そろそろ四天王としての自覚をもったら?」


 ヒルダが目じりをぴくつかせる。


 と、机に足をのっけたアニマが


「そんなこと言うぐらいならそこの腰巾着勇者にやらせろよ。こいつも働いてないだろ」

「え? 俺?」


 俺を指差すアニマがうなずく。


「アタシらは少なくとも領地の運営を手伝っているが、グレイは城でグータラしてるだけだろ。働けニート勇者」

「……ふーん、俺にそんなにケンカを売りたいか。てめぇ俺に勝ったこと一度もねぇだろ。また暖炉にぶち込まれたいか?」

「ストーップストーップ。こんなところでケンカしないで」


 ヒルダになだめられ、俺は剣を抜く手を止める。


 「べー、宿敵にあやされてやんの。勇者のくせに」


 こんのクソアマぁ……! 

 皆さん、何かと突っかかってくる生意気イフリートにグレイさんの堪忍袋が切れましたよ。


 俺は自分をバカにされるのは慣れているが、「勇者だから」という理由でバカにされるのは許さないようにしている。

 舐められると俺の立場が危ないからだ。


「お? なにも言うことがないのか? お前はガキの頃から勇者のことを言われるとブチギレてたよなぁ?」


 アニマが挑発に手をクイックイッと動かす。


 ……決めた。今からこいつのアイデンティティーを崩壊させてやる。


「アニマ、お前今の立場に甘えすぎてんじゃねぇか?」

「はぁ?」

「ここらで一つ手柄をたてておかないと、お前、立場失うぞ」

「はん、なにを言ってるんだ。アタシを超える炎使いなんているわけ……」

「レヴィー! 出番だぞー!」


 俺がそう言って叫ぶとしばらくして


「何だい相棒。今ミルダの服の手袋を直してるんだけど……」


 相棒が針と糸と服を持ちながら何気ない表情で出てくる。

 お前、歩きながら服を直せるのかよ。我が相棒ながら芸が多すぎだ。


「誰だ? その女」

「俺の相棒にして俺が知る最高の炎使い、レヴィだ」

「相棒、私の紹介はちょっとだけ待ってくれない? ここを玉止めしたら終わりだからさ」

「ああいいぞ。でもその前にこの部屋暗いからシャンデリアと壁のランプに火をともしてくれないか?」

「いいよ、ほい」


 糸を口にくわえたレヴィが返事をして指を鳴らす。

 すると広間の壁にかかっている数十個のランプとシャンデリアに明かりがともった。


 その場にいたアニマ以外の者が感嘆符を発っし、アニマが驚愕の顔を浮かべる。


「な……!」

「これがうちのレヴィだ。片手間でこんなことができる。お前のようにただ燃やすだけという芸のないやつじゃないんだよ。それに比べてお前はどうだ? レヴィに勝てるところが一つでもあるのか? 無いよな。さらにレヴィはリンゴの皮むきに洗濯、服の補修、頼めばおやつにエクレアを作ってくれるし、毎回夏休み課題の妖朝顔を枯らしていたアニマとは違って庭の一部を使って家庭菜園もしている。あ? なんか言ってみればどうだ? 最強の炎使い(笑)さんよぉ!」

((((大人げない……))))

「相棒、それは私をほめてくれているのかい?」


 アニマが頭から湯気を出して震え、ヒルダ達が顔を引きつらせ、レヴィが微妙な顔で苦笑する。


 これが俺の相棒だ。何でもできる超万能神龍、どこぞの情緒不安定イフリートとは格が違うんだよ。


「ば、バカな! イフリートはこの世界で最も炎の扱いに長けた一族だ! こんくらいアタシにだって……!」

「おうおう、焦ってんねぇ、アニマ。────レヴィ先生、ここで炎の扱いについて一言」

「あ、相棒? 先生って……ああ、うん。火の扱いはとっても重要だよ。火は主の行く先を照らす光になれるし、仲間を温めるぬくもりにもなれるし、敵を焼き尽くす武器にもなるんだ。でも、使い手が少しでも油断すれば我が身を傷つけることになる。……いや、それだけで済めばいいけど、もしかしたらその火が守りたい人に向かうことがあるかも知れない。だから使い手は驕ることなく、火と真剣に向き合うことが大切なんだ。自分に火が効かないからと言って、むやみに火を使うものじゃないんだよ、相棒」


 俺のお願いに、レヴィが百点満点の回答を示す。


 聞いたかアニマ、火に対しては謙虚であるべきなんだってよ。気に食わないことがあればすぐに火の粉をまき散らしていたお前とは大違いだな。


 レヴィの言葉を聞いたアニマは感情の高ぶりに合わせて体の火を大きく揺らめかせる。


「へぇ……いってくれるじゃねぇか。……レヴィっつったか?」

「ええ……ああ、うん」

「イフリートであるアタシの前で炎に関して偉そうなことを言いやがって……」

「だって私は原初の炎を宿す紅神龍だし……。私の神炎はみんなを守るためにあるから」


 頬を照れくさそうに掻くレヴィに、アニマがとうとう机を叩いた。


 目が血走り、橙色の瞳の中でレヴィに対する憎悪の炎が揺らめく。


「────おいヒルダ」

「ん?」

「その西の滝はどのくらいの距離があるんだ?」

「えーっと、ここから半日くらい……」


 ヒルダが鋭い目を向けるアニマに言うと、アニマが犬歯をぎらつかせて笑った。

 獲物を狙う猛禽類のような雰囲気が感じられる。


 そしてアニマはレヴィに指を突き付けた。


「その宣戦布告、受け取った」

「……は?」


 とぼけるレヴィにアニマが言う。


「明日、どちらが拠点の勇者を燃やせるか勝負だ」

「ええ!?」

「グレイ、てめぇの相棒がアタシの火力にビビッて逃げねぇように見張っとけよ」

「お、おう」


 なんか俺も巻き込まれたんだが、西の滝に出張することになったんだが。


 突然のことにイマイチ状況が呑み込めないレヴィと明日の予定が崩壊して絶望する俺を無視して、アニマが闘争心をたぎらせる。


 この火を消火するのは、もう燃え尽きるのを待つしかない。


 ……まぁ、レヴィなら何とかしてくれるだろう。知らんけど。


「アタシがそんな甘い考えも全て焼き尽くしてイフリートの炎が最強だってことを証明してやんよ!」

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