廃人向け勇者ガチャ ほど良い骨が集まるまで終われません
「……」
「どうしたんだ? そんな陰険な顔をして。食あたりにでもなったのか?」
玉座で足を組んで珍しく考えごとをしているらしいヒルダに、俺は何気なく声をかける。
基本ヒルダは楽観的だ。何があったのだろうか?
「……足りない」
「え?」
「あと背骨が足りない」
口を開いたヒルダはため息をつく。
「ねぇグレイ。七十五センチくらいの背骨持ってない?」
「いきなりなんだよ。まずその目的を言え。いきなり骨を持ってないかって言われても俺があげられるのは勇者の頭蓋骨ぐらいだぞ」
「頭蓋骨はもう持ってるのよ。実はね……」
ヒルダは一冊の雑誌を取り出して俺に差し出す。
付箋の個所を内容を確認。
えーっと、なになに?
「幸運になるためのマジックアイテム……全て違う人間の骨を組み合わせた骨格標本?」
「そう。どうせ勇者なんて腐るほど来るからいっそのこと作ってやろうと思ってね。最近はもっぱら骨格標本を作るために勇者を殺していたようなものよ」
「へー」
疲れた顔のヒルダが「あーあ、いい勇者が来ないかなー」と天井にぶら下がっているシャンデリアに向かってぼやく。
そうだなぁ……俺もいくらかその骨格標本には興味がある。
というのも、先日のプレゼントを探す旅ではかなりの不運が降りかかってきたので運勢に関しては敏感なってきているのだ。
自分の身を守るためにも、城に一個は幸運のアイテムをおきたいものである。
「私が作ってるのは身長百七十五センチの骨格標本なんだけど、勇者って体格バラバラじゃない? だからなかなか集まらなくてね。魔王が出張して百七十五センチの勇者を片っ端から間引くってのも変な話だし、どうしたものかって……」
「闇だな。扉を開けるまで分からないのは闇ガチャのそれだな」
「あー、確定演出ほしー! あと背骨! 背骨だけ揃えばコンプリートなのよっ!」
頭をくしゃくしゃとかき乱して魔王様が叫ぶ。
確かに、完成を目前にしている分背骨が手に入らないのがじれったく思うのだろう。
ヒルダの気持ちは俺もよくわかる。俺だって小さな頃は食玩のおまけをコンプリートするために大陸に上陸した勇者パーティーから装備を盗んで売っていた。あれはいい金になるんだ。
「グレイ、今日は何人の勇者が来る?」
「七組」
「よっしゃぁ! 七回引ける!」
ついに勇者を人ではなく回で数えるようになってしまったヒルダ。命を冒涜し過ぎている。
本来の目的と手段が逆転しているように思えるのだが、ヒルダがそれでやる気が出ているなら俺は何も言うまい。ぜひ頑張ってほしいものだ。
扉を開き入ってくる勇者パーティーに、ヒルダが尊大にふるまう。
「クハハハハハ! よく来たな勇者よ。我の相手は貴様では役不そ……いや尺不足だ! とっとと失せろチビ!」
「が、ガチャが爆死ンオー……」
「まぁ……乙です」
大小さまざまな骨を砕いて、放心状態のヒルダが独り言をつぶやく。
さすがに七人も来れば一人くらいは百七十五センチの勇者がいてもおかしくないとは思うのだが……。
これも巷で話題の物欲センサーというものだろうか。
コユミに渡す用の骨粉袋を包みながら、ヒルダの運のなさにドン引きする。
「爆死ン爆死ン爆死ーン」
「やめろ。ある意味危ないからその呪詛じみた言葉を吐くな」
「そういわれても呪詛を吐いてないとやってられないわよ。なに? なんか人間大陸で何かあってるの? 人間が総出で『集まれ!百七十五センチ祭り!』でもやってるわけ?」
「そんなピンポイントな祭りが開催されてたまるか。誰がその祭りをやって得するんだよ。今日は運が悪かったと思って明日頑張れ」
「うぅー」
こうして、ヒルダのいつ終わるやもしれないガチャマラソンが始まった。
「人間にカルシウムの重要性を説きたい……」
二日目も爆死。魔王様は今日も放心。
「姉様は何をしているんですか? 死んだ魚のような目をしていますが……」
「なんか幸運のアイテムだとか何とかで骨格標本を作りたいらしいよ」
「ああ、『月刊カース』に掲載されていたおまじないですか。確かにあの記事は国でも有数の呪術師が言ってましたから信憑性がありますね。いつかミルダも作ってみたいものです」
俺の答えにミルダがポンと手を打つ。
「ミルダ、牛乳って大切だと思わない? チーズ、バター、ヨーグルト。どれもおいしいし」
「姉様、いくらお目当ての勇者が来ないからって牛乳の宣教師になるのはやめてください。牛乳の嫌いなミルダに刺さるものがあります」
「勇者は牛乳を飲んでいないからあんなにキレっぽいのよ。すぐ私に斬りかかってくるし」
「それは勇者だからでしょうに……。あとカルシウムがイライラの軽減にに影響するっていうのは少しの関連性しか無いらしいですよ。カルシウムは神経物質の伝達を助ける役割があるんですがそれが脳と筋肉の働きを助けて精神のバランスがたもたれるって感じらしいです。でもカルシウムは骨として普通に体の中にあるわけですし、必要以上に摂取してもあんまり意味がないそうです。医学書からの受け売りですけど。そもそも食べ物に精神操作の効能があってたまるかって話ですね」
「うっそマジで?」
ミルダの頭のいい発言に意図せず魔王様の無知が発覚する。
ヒルダの驚愕した顔に呆れたミルダはため息をついて
「姉様、熱心に打ち込めるものがあるのは感心しますがほどほどにしてくださいよ」
「わかってるわよ。すぐにそろえてこの魔王城をハッピーにしてあげるから」
そして一週間後
「もう百七十センチ以下と百八十センチ以上の人間を滅ぼしたほうがいいんじゃないかしら」
「身長差別過激派」
お目当ての身長の勇者が来なさ過ぎてついに魔王様が人間滅亡へ前向きに考え始めた。
こんなくだらないことで揺らがされる人間の運命よ。
「おしい勇者は来るのよ、おしい勇者は。百七十センチ代は許すわ。でも全然かすっていない勇者は魔王城に来ないでほしいの。時間の無駄よ」
「なんというワガママ」
俺は百七十八センチで生存範囲内だからいいが、そうなると多分全人間の七割が死ぬぞ。
完全にガチャ廃人になってしまったヒルダはやつれた顔で膝を抱える。
「別に珍しい勇者の骨が欲しいっていうわけじゃないの。私はただ単に百七十五センチの勇者の骨が欲しいの。それ以外の勇者の骨なんていらないの」
と、ションボリ魔王様モードでうじうじしているヒルダが急に背筋をピンと張る。
「……来た!」
「え?」
次の瞬間、ヒルダの目の前に勇者が落ちてくる。
「くっ……転送罠かッ」
「フハハハハハ! 待ちわびたぞ身長が百七十五センチの勇者! どのくらい待ちわびたと言えば一か月くらいだ! 普通ならうっとおしいだけのゴミムシだが今回ばかりは本当に歓迎する!」
「なっ……! 魔王」
「さっさと背骨だけになれ勇者ァアア!!」
「オグッ?」
血気迫る勢いでヒルダが魔法を発動、勇者が骨だけを残して蒸発する。
歓喜に震えるヒルダは勇者の骸骨から背骨を拾いあげて天に掲げた。
「やった! やったわよグレイ! アホな勇者が罠にかかったわ!」
「あーなるほどね。罠システムをいじって転送罠を仕掛けたのか。考えたな」
「アッハハハ!! 最高よ! 近年まれにみる幸運だわ!」
高笑いするヒルダに、俺は素直に拍手する。
珍しく頭脳プレーをしたヒルダだ。それを見れた俺も十分に幸運かもしれない。
よくやったと褒めておこう。
ヒルダはこの時のために玉座裏に隠していた未完成の人体骨格を取り出す。
「私はこの時を待ってたのよ! この人体骨格が完成する時を────」
「邪魔するぜヒルダ」
と、ヒルダの言葉を遮って何かを引きずる音が聞こえる。
息を吸うと、ほのかに嫌なタバコの匂いがした。
俺とヒルダはさびたブリキのように振り返る。
「「せ、先生……」」
「あーそうだよ。みんな大好きアゼル先生だよ」
タバコをふかしながら、アゼル先生は鋭い目を俺たちに向ける。
運がいいと思った矢先に……!
と、ヒルダがアゼル先生が持ってるものに気が付いた。
「あ……アゼル先生? その手に持ってるのは?」
「んあ? 見りゃわかるだろ。百七十五センチサイズの人体骨格だ。私、今年が厄年だからよ。恋愛運の向上もかねて一週間前から魔王城の前で勇者狩りしてたんだ。そしたら私が狙ってた勇者が突然消えてさ。多分転送罠にかかったんだろうと思って私はお前のところに来たってわけだ」
「え……」
先生の言葉を聞いてヒルダが青ざめた。
全てのつじつまが合い、汗が噴き出る。
先生はにこやかに笑いながら血まみれの手をヒルダに向けた。
「と、いうわけだヒルダ。私が最初に狙っていたんだから、背骨は私のものだ。くれ」
「え……いやでもこれは私の」
「くれっていってんだよ。二度も言わせんな」
「……はい」
ヒルダが圧力に屈し背骨を先生に渡す。
そういうところがあるからモテないんだよ先生……。
「やったぜ。これで私は最強だ」と背骨を自分の人体骨格にはめて颯爽と帰っていく先生の後姿をみて、ヒルダは呟く。
「グレイ……私の運勢についてどう思う?」
「安心しろ。先生がこの先結婚することはないだろうから、あの人体骨格に運勢を上げる効果はない。それが知れただけでもお前は幸運だ」
「……そうね」




