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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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ハッピーバースデイ

「姉様。時間です」

「……もうちょっとだけ待ってみない?」

「姉様、その気持ちも分かりますが国民が待っています。こればかりはミルダにもどうこうできません」


 バッチリ礼服に身を包んだミルダが私をなだめる。

 いつもは見ないロングドレス姿のミルダ、それが今日が特別な日だということを実感させる。


 ああ、今日は私の誕生日なんだな、と。

 ……去年よりも、いつもよりも足りないけど、今日が私の誕生日なんだなって。


「そんな悲しそうな顔をしないでくださいよ姉様。確かにお兄様がいないのは悲しいですけれど、姉様は魔王であり国王なのです。見てくださいこのドレス。久しぶりの出番というわけですごくオシャレにしてみました」

「文面上だからわからないわよ。あといくら一か月ぶりの出番だからって急なメタ発言はやめなさい」

「いいですよねー姉様は。閑話に主役回を貰って。コユミもちゃっかり出番をもらってますし」


 どす黒い心を垂れ流しにしながらミルダが「どうせミルダは脇役なんですよ」ぼやく。

 言って私も二週間ぶりなのよ。タイトルに出てきてるのにこんなに欠番が続いてるのよ。


 ……ってダメダメ。今日は私の誕生日、しっかりしないと。

 姉妹揃って気持ちを沈めちゃダメ。


「ミルダ、この話はおしまい。スピーチの原稿とってきて」

「いやですよ。とってきたら姉様のスピーチで私の出番が削れるじゃないですか。もっとセリフ数が欲しいです。具体的には一か月分」

「……ミルダ?」

「すみません。分かりました」


 私が鋭い視線を送ると、ミルダは従順になり原稿をとりにいった。

 まったく、いつまでも子供なんだから。


 ……まぁ、あの子も大好きなお兄様がいなくてストレスが溜まっていたものね。


 グレイ欠乏症の時のミルダは飢えたケルベロスの五倍ぐらい残虐だ。片っ端から勇者を屠る。

 おかげで今年も庭の魔薔薇と血吸い桜が鮮やかだわ。ほんときれいね。


 窓から見える赤に微笑みつつ、二つの意味でため息をつく。


「姉様、とってきました。……どうか国民の前で悲しい顔はされませんように」

「言われなくてもわかってるわよ」


 私はミルダの言葉にうなずき席を立つ。


 私には魔王ヒルダ。私には愛すべき国民がいる。

 そこに私情をはさんではいけない。魔王は国民にとって絶対の象徴だから。

 そう言い聞かせて、顔に笑顔を張り付ける。


 ────ミルダがバルコニーの扉を開けた。


「魔王さまー!」

「お誕生日おめでとうございます!」

「見てお母さん! 魔王様きれい!」


 扉の向こうから、光と共に国民の歓声が聞こえる。

 老弱男女、種族もバラバラ。でも、魔王(わたし)という存在でつながり、こうして笑顔を見せてくれる。

 ほんと、感謝しかない。


 私は城前の広場で国旗を振る国民たちに手を振りながら、拡声器の前に立つ。

 そして、震える心を隠して声を出す。


「親愛なる我が国民たちよ」


 そう口火を切ったものの、つい言葉が止まりそうになった。

 しかし、国民たちの輝く目を見て、私はスピーチを続ける。


「今日という日を迎えられたことを、父、母、そして国民に心から感謝します。私が生まれて十八年、そして今日で十九年。私の十九年はこの国と歩んだ十九年です。私がこうして……魔王として幸せな生活を過ごせているのも、国民ひとりひとりが私を愛してくれたからです。皆様がいたからこそ、私は今日という日を迎えられました」


 私の言葉に、国民は無垢な笑顔でこたえる。

 それが、私に元気をくれる。


「私は魔王です。勇者には毎日手を焼かされますし、赤い血に濡れてくじけそうにもなります。泣きたいとき、すべてを投げだしたいとき、もちろんあります。私だって生き物です。最初は赤子で、今でも子供です。……でも、そんな私を皆様は頼りにしてくれます。応援してくれます。私が皆様がいることでどれだけ救われたか。本当に、感謝しています。皆様がいるからこそ、私は頑張れるのです」


 贅沢だ。こんなにも愛されているのだから。

 誰よりも幸せだ。世界中の誰よりも、私は幸せだ。

 欲しいものは何にもない。


「私にとって、国民が幸せでいてくれるということが最高のプレゼントです。こんな私には贅沢過ぎるほどのプレゼントです」


 これ以上を望むのは……贅沢だ。


「私は、これ以上のプレゼントを望みません」


 望まない。これ以上を望んだら、私は悲しくなってしまう。

 だから……これでいいんだ。

 そう自分に言い聞かせながら、私が原稿用紙に書いてある文を全て言い切った────その時だった。


「へぇ、じゃあ俺が必死こいて手に入れたおまえの誕生日プレゼントはいらないってことか?」





「レヴィ。なんとか間に合ったな」

「間に合ってないよ! スピーチ始まってるじゃん!」


 魔王城はるか上空にて、俺とレヴィは広場に集まる群衆と城のバルコニーでスピーチをするヒルダを見下ろしていた。

 完全龍化しているレヴィが首をぶんぶんと振る。


「相棒がお母さんの墓参りに行くって言うからついていったら雪山の頂上だったんだけど!? どんなところにたてられてるの!? グレイのお母さんって何者!?」

「知らねぇよ。五年くらい前に俺が遺灰を教会から強奪してあそこに埋めたんだ。いつも日の光を拝める、絶対に戦争が起こらない、静かな場所にな」

「感動的な話だね、私はもう色々な意味で泣きそうだよ」


 レヴィが目をゴシゴシとこする。

 ……母さんには静かに眠っててほしいんだ。息子として何もしてやれなかったから。


 俺は感傷的になる心を切り替え、レヴィに言う。


「レヴィ、始まってしまったものは仕方がないからプランSだ」

「プランSって何? プランSどころかプランAもプランBもプランCも知らないよ」

「それなら今教えてやるよ。surprise(サプライズ)のSだ」

「え……じゃあつまり?」


 首をかしげるレヴィに俺は背中の上で立ち上がる。


「ヒルダのところに突っ込むぞ!」

「えっ……あっ! ちょっと相棒!」


 俺はレヴィの背中を蹴って空中に身を放り投げる。

 俺の急な行動に、レヴィは龍化をといて俺の横につきながら


「いきなり何するのさ!? この高度じゃ龍化できないよ!? 地面に激突しちゃうって!」

「そこで激突しないのが俺の相棒だ。信じてるぜ」

「あーもう変な信頼を寄せないでぇー!」


 高度が下がるにつき、ヒルダのスピーチが聞こえる。

 なかなか感動的なフレーズを吐いてるじゃないか。昔から取り繕うのだけはうまい。

 ……だが、その愛すべき国民に作り笑いという嘘をつくのはいけないな。


「私にとって、国民が幸せでいてくれるということが最高のプレゼントです。私には贅沢過ぎるほどのプレゼントです」


 ヒルダがそんな上っ面だけなことを言う。

 なにが私には贅沢過ぎる、だ。おまえは魔王なんだぜ?

 望めよ、自分に素直になれよ。ヒルダ。

 「もっと欲しいです! 何もかも! みんなが許してくれるなら世界が欲しいです!」ぐらい言えよ。


「私は、これ以上のプレゼントを望みません」


 この素直になれない魔王の姿がくっきり見える。

 ……ったく、ここは勇者として魔王の闇の衣(ばけのかわ)をはがしてやらねぇとな。

 でないと、魔王様にダメージ(プレゼント)が与えられねぇ。


「へぇ、じゃあ俺が必死こいて手に入れたおまえの誕生日プレゼントはいらないってことか?」

「ッ!?」


 上空から降ってきた俺の声に、スピーチを締めくくったヒルダがビクリと体を震わせた。


 俺とレヴィはそのままヒルダの前に着地する。


 ヒルダやヒルダを奥から見守るミルダを含めたこの場にいる全員が驚く。


「いった……足くじいた……」

「ダセーこというなよレヴィ」


 足を抱えるレヴィにドン引きしつつ、俺は目をぱちくりさせるヒルダに向き直り


「待たせたな。なんとか誕生日に間に合ったぞ」

「バカッ! なんで今なのよ! というかボロボロじゃない! いったい今までどこにいたのよ!」


 服がところどころ擦り切れ、満身創痍になった俺たちにヒルダが突っ込みをいれる。

 まぁ、急ピッチで来たからな。それはご愛嬌というものだ。


「うるせぇ。プレゼントの調達だよ。今回はいつもより遅れたがなんとかギリギリセーフだぞ。誕生日パーティーはまだらしいからな」

「そうじゃなくて! 私がどれだけ心配したかわかってるの!?」

「いいから黙って受け取れ、魔王様」

「ッ?」


 詰め寄るヒルダに向かって例年よりも豪華にしたラッピングをしたプレゼントを投げる。


 ヒルダは手を滑らせ箱を空中に浮かばせながらも、最後はしっかり掴まえた。


「なによいきなり!」

「開けてみな」

「……え?」

「開けてみなっていってんだよ。そんなに嫌なら俺が開けるぞ」

「わっ、バカ! そんなことなら私が開けるわよ! 私のものだから触るな!」


 ヒルダが手を伸ばす俺からプレゼントを遠ざけて、箱の中身を封じるリボンを紐解く。


「……わぁ。きれい」


 ヒルダは箱の中を見て驚きの感嘆符を発した。


 箱の中にあったのは淡いレモン色の宝石がはめ込まれた一対のイヤリング。

 角の生えた鯨の意匠が施されている。


「どうしたのこれ……。絶対に高いでしょ……」

「秘密だ。でもまぁ、言わせてもらうなら歴代のプレゼントの中で一番の最高級品だぜ」


 このイヤリングは万雷鯨の剥がれ落ちた甲殻を使ったイヤリングで、人間大陸ではファッションに厳しいことに定評があるリゼに頼んでデザインしてもらったものだ。


 しかも、素材が素材な故に装備者に雷攻撃無効を付与する効果までついた最高級魔道具である。

 世界にただ一つだけのプレゼント。俺はこれを作るために旅に出たと言っていい。


「つけてみろよ」

「う、うん……」


 ヒルダは俺に促され、恐る恐るイヤリングを装着する。

 イヤリングをつけたヒルダは雷のように輝いて見えた。


「似合ってるぜ、ヒルダ。……おまえらもそう思うだろ!?」

『わぁあああああ!!』


 俺が振り返り広場にあつまる人々に手をあげると、国民たちが大歓声で肯定する。

 これがみんなに愛される魔王様だ。


 俺はそんな大歓声の中、その声に負けないくらいの声で言う。


 この一週間、犯罪の片棒をかつがされそうになったり、何十人もの兵士に囲まれたり、ついでに伝説を作ったりしたけれど、もとはと言えばこの言葉を言うための旅だ。

 すぅっと息を吸い、目の奥に出来事を思い浮かべながら、心からの言葉を吐き出す。


「ヒルダ! 誕生日おめでとう!」


 サプライズ、大成功だぜ。

魔王様へのプレゼント編はこれで完結です。

皆様の応援ありがとうございました。

よければブクマ、感想、評価などをよろしくお願いします。

……あっ、これからも「魔王が勇者を拉致った結果」を精一杯書き続けますので。最終回じゃありませんのでご心配なく。

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