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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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伝説が終わったらなにが起こると思う?

「相棒ぉおー!!」


 俺が地面で気絶している万雷鯨の背中から飛び降りるやいなや、レヴィが俺に抱きついてくる。


「かっこよかったよ相棒! 火が赤から青に変わるところなんか最高! でもやっぱり一番すごかったのは万雷鯨を打ち落とした瞬間だったね! あんなに分厚かった雲が相棒を中心にして割れてさ、同時に後光が相棒を照らしてなんかもう神龍として感動したよ!」

「やめろ、畳み掛けるな。恥ずかしい」


 すすり泣きする相棒に呆れ、快晴となった空をあおぐ。

 天を晴らした時の俺は、きっと壁画に描かれた初代勇者のように映ったのだろう。


『よくやったな、勇者よ』

「まぁな」


 愉快そうな声色でドローレスクが言う。


 今回、俺があの自傷技を五体満足で放てたのは間違いなくこいつのおかげだ。

 初代勇者が使う理由も今なら分かる気がする。


 さて、万雷鯨を倒すという用件もすんだことだし、これからは王都に戻って……


『これで魔王討伐の旅に出かけられるな』

「……」


 おーっと忘れてタナー。借りたものは元に戻さないトナー。


『行くぞ、栄光の旅路が……おい貴様、なに勝手に我輩を戻そうとしている!』

「勇者グレイさんはとーってもいい子なので、お義母さんの言いつけは絶対にまもります。取り出したものはきちんともとの場所に戻します」

『我輩をオモチャ扱いするな!』


 俺はギャーギャーわめくドローレスクを台座のひずみに差し込み、この力を次世代に託す。


 これでよし。そろそろヒルダのプレゼントを探さないとな。


『逃がすか!』


 すべき事を全て終わらせた俺はドローレスクを手放し──んんッ!?


「……ドローレスク、俺の手が離れないんだが?」

『当たり前だ。我輩が貴様の手を固定しているからな』

「へぇー、そんなこともできるのか……って、はぁ!?」


 俺は全力で引っ張るが、まだまだ右手は離れません。

 呪いの装備だ! こいつ、間違いなく呪いの装備だよ!


 腰を低くしてあらゆる方向に力をいれる。


「はぁーなぁーせぇええ!」

『無駄だ。これは勇者の力に引かれる我が性質を利用している。離れはせんよ』


 最悪だ! だから勇者なんかに生まれたくなかったんだよ!


 俺が一向に剣を手放さないので、レヴィ達が駆け寄ってくる。


「どうしたんだい相棒。パントマイムを覚えたのかい?」

「レヴィ! 助けてくれ! 俺、呪いにかかったらしい!」

「こんな聖域にそんなものあるわけないでしょ……ん? 相棒、もしかしてこれ聖剣?」

『おお神龍よ! このたわけを説得してくれ! こやつは勇者の癖に魔王を倒したがらないのだ!』

「……あー、大体話が分かった」


 全てを察したレヴィが気まずそうに頬をかく。


「レヴィさん。どういうことですか?」

「とどのつまりね、この聖剣は相棒の手を離れたがらないんだよ。自我をもつ聖遺物や聖獣はより強い勇者に惹かれる性質があるんだ。特に相棒は素質だけは全勇者の中でもトップだからね……」


 カムリ達に説明するレヴィは「多分無理だよ、コレ」と苦笑いをする。


 いや笑い事じゃねぇし! 俺の人生においてかなりのピンチなんだけど!?


 俺が叫びを助けを求めるなか、リゼが俺の醜態を見てほくそ笑む。


「それなら右腕を切り離せばいいじゃないですか。腕一本ですむなら安いものです」

「リゼ!? お前本当に人間か!?」

「安心してください、グレイが近衛騎士になれば私がお父様に掛け合って帝国で最先端の義手を作らせます。いい話でしょう?」

「俺、右手の感覚がほしいなー」


 ふざけたことを言いやがるリゼに泣きそうになる。


 まずいぞ。このままだと人間大陸で骨を埋めてしまうことになるぞ。


「ふぎぎぎぎ」

『無駄だと言っているだろう』

「なんか大きなかぶを引っこ抜いてるみたいですね……。こういうのはみんなで引っ張れば大抵友情パワーでなんとかなるんですけど」

「お前らの怪物パワーで俺の腕が引っこ抜けるわ! エンディングが隻腕の近衛騎士グレイルートだわ!」

「それか……油で滑らせるとかですかね。僕は持っていませんが」

「もーちょっと実用的な解決策を出してくれよ……」


 もう引っ張るのも疲れた。ため息しかでない。


 万雷鯨を倒すという山場は越えたはずなのにこんなはめになるなんて、俺はつくづく運がねぇな。


 俺がそんなことをぼやきながら諦めムードを漂わせていると


「フハハハハ! ただいま戻ったぞ!」


 瓦礫の中を突き進みながら、モンゴリアンが帰ってきた。

 ああ、おかえり。


「ついにスピードに特化した新しい形態の筋肉を手に入れてな……おや? グレイよ。剣を掴んでなにをしているのだ?」

「俺の腕が超絶ピンチなんだよ。この剣に引っ付いて離れねぇんだ」


 俺が手が接着剤をつけたかのようにくっついているのをモンゴリアンに見せると、モンゴリアンから「剣なんて貧弱なものを使うからそうなるのだ」と呆れられる。


 なんかすげぇ腹立つな。モンゴリアンに呆れられると他の人に呆れられるよりも腹立つ。


「くそが。これだから勇者に生まれたくなかったんだ」

「……グレイよ。少しその右手を見せてくれぬか?」

「んあ? ……別にいいけど」


 俺が返事をすると、モンゴリアンは俺のがっちりくっついている右手の指に触れる。

 そして


「ヌンッ!」


 野太い声を発し、俺の指を引っ張る。

 無駄だって、そんな頭の悪い方法じゃとれるわけがな──


「………とれたぞ」

「うはー! 最高だぜモンゴリアン!」

『なんだと!? そんな簡単にとれるはずが!?』


 モンゴリアンはいとも容易く俺の手をドローレスクから引き剥がした。

 やはり筋肉、筋肉は全てを解決する……!


 俺とモンゴリアンの高笑いとドローレスクの悔しがる声が遺跡に響きわたる。


「フハハハハ! 純然たるパワーに勝るものなし!」

「見ろよレヴィ! 動くぞ! 俺の手が自由だ!」

「えぇ……ああ、うん。よかったね」


 俺、今までこんなに手が自由であることが幸せなんて気づかなかったよ。

 みんな、手はもうちょっと大事にしよう。グレイさんとの約束だよ。


 ──と


『まだだ……まだこんなものではない!』


 ドローレスクが何かを叫んだかと思うと、あの忌々しい引力が俺の体にかかる。


 ……(いな)、正確には俺達だ。


 俺の他にカムリとモンゴリアンもドローレスクが放つ引っ張られていた。


 そして、ドローレスクに一番近かった者がドローレスクを掴む。


「……む? なぜ私はこの剣に引き付けられるのだ?」

『な……違っ!?』


 選ばれたのはモンゴリアンだった。

 そういやコイツも勇者なんだよな。にわかには信じがたいが。


 俺が珍しく武器を持っているモンゴリアンをまじまじと見つめていると


「おお、この剣、なかなか重いではないか」

『やめろ! 我輩を抜くな! 我輩はそこの勇者に抜かれたいのであって貴様には抜かれたくない! というか貴様だけには抜かれたくない!』


 モンゴリアンがなにを思ったかは知らないが、力を剣を抜こうとし始めた。


 ドローレスクが刺さっている台座のひずみから誰も得しない光が漏れ出る。


 なぜだろう。勇者が聖剣をひき抜くときってもっと神々しい光景だと思うんだけど。

 今、俺の目の前にいるのは、変態に抜かれまいともがく聖剣と聖剣の抵抗を楽しむ変態だ。


『抜かれるかぁぁあ!』


 突如、ドローレスクを引き抜こうとしているモンゴリアンの足が地面に沈んだ。

 ドローレスクを中心として台座がひび割れ、誰の目から見てもドローレスクが相当重くなっているのが分かる。


 ……俺達はなにを見せられているのだろうか。


「ふんぬぅうううう!」


 そしてなぜ抜こうとしているモンゴリアン。

 しかもなぜか聖剣よりも力が強いぞこのオッサン。


 モンゴリアンは腰に力を入れ、腕に血管を浮かび上がらせる。


『ば、バカな!? 我輩が力負けしているだと!?』

「この剣、上腕二頭筋を鍛えるのに最高ではないか! 気に入ったぞ! この剣を私のトレーニングアイテムにしよう! 最近程よい重さの鉄アレイがなくて困っていたのだ」

『だれが貴様の筋トレアイテムになるか! ぐぬぬぐぬぁああ!?』


 ドローレスクが悲痛な叫びをあげる。

 モンゴリアンがドローレスクをついに引き抜いたのだ。


 新たな伝説の始まりである(白目)。


「素晴らしい。この上ない鉄アレイだ」

「相棒。私、聖剣をこんな使い方する人初めて見たよ」

「まぁいいんじゃねぇの? ヒルダの懸念点になりうるものだったんだし」

「モンゴリアンさん……」

「ライラ、この男もなかなかの強者ね。うちで雇え」

「姫様、ダメです。我が国に変態はいりません」


 モンゴリアンの鉄アレイとして就職したあわれな聖剣を見ながら、俺達はモンゴリアンが異常だということを再確認するのであった。

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