紡ぐは勇者 語るは雷鳴
俺がドローレスクを引き抜くと、まばゆい光が一帯を満たす。
それは聖なる光、癒しの力である。
『フフフ。勇者よ、我輩を扱えることを光栄に思うがいい』
「うるせぇ、質屋に売り飛ばすぞ」
あわよくば抜けないで欲しいと思っていた自分もいたが、ドローレスクはいとも簡単に抜けてしまった。
自分でも気持ち悪いほどに手に馴染んでしまう。
しかも引き抜くまえは重かった癖に今は非常に軽い。
まったく、最高に訳の分からない聖剣だぜ。
と、俺が聖剣を引き抜く姿を目を丸くして見ていたレヴィが
「相棒!? 見てよみんな! 今の相棒がすごい勇者っぽいよ! 相棒のこんな姿が見れるなんて私、今日で死んじゃうのかな!?」
「黙れレヴィ、おまえも万雷鯨を倒すのを手伝え。少しは魔力が回復してるだろ」
「ひゃぁああ! 私もようやく勇者のサポートができるんだぁ! パパ、ママ、私やりましたよ! 娘が紅神龍一族の誉れになりますよ!」
テンションがぶち上がったレヴィはものすごいスピードで俺の隣に駆け寄る。
いやいやそんなことで震えんなし。泣くなし。
『ほう、神龍か。これは心強い。神龍は攻守共に万能であるからな』
「あーはいはい、そんなことはどうでもよくてさ。レヴィ、さっさと万雷鯨を引きずり下ろすぞ」
「オッケー! 今の相棒ならじゃんじゃん使うよ! 『パワー』『クイック』『龍の強翼』『火龍の加護』『エンチャントフレイム』『火事場の逆鱗』『癒しの炎』!』
ノリノリのレヴィが尋常じゃないほどのバフを俺にかけていく。
なんかもう身体中の力がみなぎりすぎてヤバい(語彙力死亡)。
一通り魔法をかけ終わったレヴィが肩で息をする。
「相棒、今の私がはこれが限界。本当は万雷鯨のところまで私が乗せていきたかったんだけど……」」
「もう十分だ。あとは任せろ」
「うん任せた!」
魔力をだいぶ使ったのに元気そうだな、おまえ。
魔力を消費して疲れるどころか、むしろスッキリしているレヴィはニッコリ笑顔で俺に親指をたてる。
──と
「グレイさーん、こっちですー!」
声のする方を見ると、カムリが傍らにとまるサンダーバードの手綱を掴まえて俺に手を振っていた。
近づいて話を聞いてみる。
俺が来たことに破顔したカムリは、俺に対して懇願する。
「グレイさん、万雷鯨は何者かに操られているんです! 悲しいことに僕にはそれを解決する方法が思い付かなくて……」
「お、おう。……どうして万雷鯨が操られれいる事を知っているんだおまえ」
「そ、それ何となくですよ……ってそんなことはどうでもいいんです! グレイさんはあの万雷鯨のところにいきたいんでしょう?」
「まぁな。万雷鯨に一撃重いやつをかますつもりだ」
「なら、話は早いです。このサンちゃんがグレイさんを万雷鯨のそばまで運びます。グレイさんはそこから万雷鯨に一撃をいれる作戦を練ってください。……サンちゃん、わかった?」
『クエー!』
カムリの言葉に、サンダーバードが鳴き声をあげる。
どうやら自分がすべきことを理解しているようだ。
「ではグレイさん。サンちゃんの背中に乗ってください」
「それはいいんだが、なんでおまえは万雷鯨が操ら」
「乗ってください!」
急に焦り始めたカムリによって俺は無理やりサンダーバードの背中に乗せられる。
解せぬ。好奇心が罪と申すか。
サンダーバードをに乗る俺にカムリは少し悲しげな表情で
「いつも迷惑ばかりかけてすみません。僕にはこれが精一杯です。……あと、これは僕個人のたのみなのですが、できれば万雷鯨を助けてあげてください。彼は元々は優しい性格なんです」
「おいカムリ、なんで万雷鯨の性格を」
「それではいってらっしゃい!」
『クエー!!』
話を急に区切り、カムリは合図でサンダーバードを飛び立たせる。
いったいなんなんだよアイツ。急に話をはぐらかしやがって。
カムリの態度にモヤモヤとしている俺をのせたサンダーバードは稲妻とも見間違うスピードで上昇していく。
「ゴギャアアアア!」
「フハハハハ! 痺れるほど高まるエネルギー! 私はこれを『ライトニングマッスル』と名付けよう! 万雷鯨よ、もっともっと我が筋肉を活性化させよ!」
うっわなんだあれ。
万雷鯨まであと半分といったところで地上を見下ろすと、モンゴリアンがものすごく雷を纏っていた。
変態がものすごく変態性を増して輝いている。
万雷鯨はモンゴリアンを脅威に感じ雷を放ちまくるが、モンゴリアンは動じずに生身で全ての雷撃を受ける。
……いや、あれはもしかして雷を吸収しているのか? 本当にヤベーヤツだな。
だが、そのおかげもあってか万雷鯨は俺が近づいていることに気づいていない。
本来ならモンゴリアンにドン引きしているところだが、今だけはナイスだとして目をつぶっておこう。
…………そして、俺達はついに万雷鯨の真上に着いた。
俺は風で乱れる髪を押さえながらドローレスクに問う。
「ドローレスク、万雷鯨の弱点は?」
『あの万雷鯨の頭にある魔方陣だ。あれが万雷鯨を狂わせている元凶よ』
「ああ、あれか。あの紫色に光る円に攻撃を当てればいいんだな?」
『そうだ。力加減をする必要はない。万雷鯨は聖獣ゆえに勇者の扱う属性には耐性がある。固い装甲を突破するためにも全力でいけ』
「了解ッ!」
俺は魔方陣がちょうど下にきたときを見計らい、サンダーバードから飛び降りる。
レヴィのかけた魔法もあってか、空中での姿勢はとりやすかった。
全身が凄まじい風圧を受けながら急転直下。
「ゴガアアアア!」
「のわっ!?」
と、ようやく万雷鯨が俺を捕捉。無数の雷を飛ばしてくる。
これまでの比じゃない、目の前を多い尽くすほどの雷だ。
『たじろぐな!』
「わかってるよっ!」
ドローレスクの言葉に叫びつつ、向かってくる稲妻を弾きさばく。さすがは聖剣、雷をも切れるとは。
等加速で降下する俺は、勢いが十分になったところでドローレスクを大きく振りかぶった。
聖剣が光輝き、熱を帯びる。
──今だ!
「『セイント──!」
俺が技を発動させると、レヴィが付与した神炎が俺の魔力に反応し、ドローレスクから深紅の炎が噴出。
周囲にふる雨雫をすぐさま蒸発させ、軌跡となって橙色の線を空中に描く。
「ノヴァ──!!」
そして炎は────途中で色が反転し煌めく青に変わった。
火花が散り、まるで流星をそのまま剣に写し取ったかのようだ。
莫大な力の反動で俺の腕に亀裂が走り、血が裂け目からにじみ出るが、ドローレスクの体力回復の力ですぐに塞がれる。
繰り返される破壊と再生。それを耐えぬいた末に、最高速度に達した俺は──
一気に剣を振り抜く!
「ネビュラ』ァァアアア!!!」
俺の全力が魔方陣とかち合う。
膨大な魔力のぶつかり合いで視界が点滅する中、俺が力をさらに込めると魔方陣が徐々にヒビ割れていく。
「いけぇえええええ!」
そして、万雷鯨を狂わせていた魔方陣は俺の全力の一撃に耐えきれず、テーブルから落ちたガラス細工のように木っ端微塵に砕かれて───
「ゴギャアアアア!?」
万雷鯨は三千年ぶりの地上に叩き落とされることとなった。




