聖剣ドローレスク
『キモとはなんだキモとは! 我輩を愚弄するとは無礼な!』
「アホか! しゃべる剣を気持ち悪くないと思うやつがどこにいる! 普通じゃねえ物体をキモイと思うのが生物の性だ!」
なんとまぁ、奇怪なことがあるものだ。
しゃべる剣、それがこの遺跡に眠るものだったとは。
苛立ちながら影と対話した時間を返してくれ。
剣は広間の角で縮こまる俺に語りかける。
『我輩の名はドローレスク。魔を滅する最強の聖剣よ。初代勇者との盟約により長き眠りについていたがよくぞ我輩の目を覚ましてくれた。礼を言うぞ』
「長き眠りじゃなくて封印だろ。というかお前に目はないだろ」
謎の変な剣、ドローレスクは目が覚めたばっかりなのに饒舌にしゃべる。
しゃべんな気持ち悪い。動く鎧さんを見習ってせいぜい動く程度にしとけ。
『それでは勇者よ。我輩を抜け。さすれば聖なる力と永久の栄光を与えん』
「いらん」
俺がドローレスクの頼みを即刻断ると、ドローレスクは驚愕する。
『貴様、力が欲しくないのか!? 魔王も倒す力だぞ!?』
「そんなものとうの昔に間に合ってるわ。俺は外の万雷鯨をどうにかするためにここに来たんだよ」
『むむむ……現代の勇者はここまで腑抜けてしまったのか。初代勇者が見たら泣くぞ』
ドローレスクは悲壮感を感じさせる声を出す。
はいはい、アストレイルとか知らねぇから……ん? アストレイル?
「おいそこの聖剣。アストレイルって最初の勇者のアストレイルか?」
『そうだ。元我輩の使い手にして魔王を倒した勇者だ。それ以外にアストレイルはおらんだろう?』
「いや、バチクソにいるぞ。子供につけたい名前ランキングでブッチギリの一位だ」
『ええ……』
しかし、多分この聖剣が言っているのは存在にあやかってつける名前の元ネタさんの方だ。
始まりの勇者アストレイル。ヒルダとミルダのご先祖様である初代魔王を瀕死にまで追い詰めた、俺やモンゴリアンなどの例外を除けば最強と名高い勇者。
アストレイルは初代魔王の派手な演出に騙されて人間大陸に戻り、どっかのお姫様と幸せに暮らしたと聞いていたが……。
「その勇者アストレイルが、お前の元主ってことか?」
『左様。アストレイルは我輩の朋友よ。かの魔王戦が終わったあと、アストレイルは後の勇者のために我輩をこの聖域に残したのだ。魔王の意思を継ぐものはいずれ現れるとあやつは見越していたゆえにな』
ドローレスクは誇るように言う。
そうか。じゃあお前が──
「あの自動体力回復の聖剣か」
『なんだその言い方は!?』
「勇者が聖剣の力で不死身のごとく復活するからつけられた別名だよ。しぶといからって」
主に魔族が使っている単語だ。他にも魔族特効の効果がある聖女神の涙や魔法弾きの鎧などがある。
どれもこれもふざけた効果をしているのでつけられた名だ。
『ぐぬぬ……、どうやらアストレイルの伝説は薄れてきてしまっているようだな。我輩の名も語り継がれておらぬとなるとますます三千年の時を感じる』
「まぁ三千年もたてばそうなるだろ。むしろよく語り継がれた方だとおもうぜ」
俺が嘆息しながらに言うと、ドローレスクは
『それもそうだな。それだけ世界も平和になったということだ。喜ぶべきかもしれない。……だが、いまだ魔王によって人々の生活は脅かされている。……勇者よ。やはり我輩と共に新たな伝説を』
「却下」
即座に拒絶。誰が神話になるかバカタレ。
そもそも人も魔族も新しい伝説なんて求めていない。欲しいのは遊んで暮らせる金だ。
『何ぃ!? 貴様、本当に勇者か!?』
「レヴィもそうなんだが、おまえら神話級の産物は俺を見るとまずそう言うよな」
『我輩を手に取れ! 取ってくれ! 貴様にはアストレイルと同等の素質を感じる。貴様と我輩が組めば魔王など容易く屠れるだろう』
「あとでモンゴリアンって俺よりも強い勇者を紹介してやるからそれでなんとか──」
手にとって欲しい聖剣と手に取りたくない勇者。主張は平行線。
そのまま長時間の押し問答が続くかと思われた。
────そのときだった。
「ゴギャアアアア!!」
「『っ……!』」
天井が割れた。
天井のひびに気づいた俺はとっさに転がり落ちてくる瓦礫を回避する。
「相棒! 大丈夫かい!?」
「こんなところにいたのですか! まったく探しましたよ! 早くこの邪魔な化け物を黙らせるのです!」
「万雷鯨に遺跡を壊させれば壁がなくなってグレイさんを探しやすくなるっておびき寄せたのはリンゼッタ様じゃないですか……」
さっきの衝撃で壊れた壁の向こうから現れたのはレヴィ達、どうやら俺が最後のようだ。全員集合している。
しかし、厄介なものまで連れてきてくれたなこのやろう……!
天井から覗く万雷鯨の姿に思わず舌打ちが出る。
『……ほう、万雷鯨とな』
俺が苦い顔をしていると、ドローレスクが少し驚いた声を出す。
「ドローレスク、知っているのか?」
『いかにも。元々こやつは我輩を邪悪なものから守るためにアストレイルが放った聖なる獣だ。……だが不運なことにとある魔術師の罠にかかり、現在では全てを破壊する狂った魔獣と化している。忌々しいものよ』
……ふーん。万雷鯨にもそんな過去があったなんてな。
実にかわいそうな話である。涙はもちろん出ないが。
『……そこで、だ』
と、ここでドローレスクが万雷鯨を眺める俺に提案を持ちかける。
『聖剣である我輩なら万雷鯨を支配している邪法を切ることができる。そして我輩を抜けるのは虚ろの試練を突破した貴様だけ。……意味は分かるな?』
……何てやつだ。俺が言える立場じゃないのは重々承知しているが、それをふまえて言わせてもらう。
おまえ、それでも聖剣か。
『だが勇者である以上、この状況で我輩を抜かない貴様ではない。よく耳をすませてみよ』
ドローレスクにうながされ俺が耳をすますと、仲間達の叫ぶ声が聞こえる。
「わわわ相棒! なんかモンゴリアンがすごいことになってるよ! 雷に撃たれても笑っているしなんか筋肉が自家発電し始めたとか訳の分からないことを言ってる!」
「姫様、やはりこの者達を置いて逃げましょう! 姫様の命とこの者らの命なら断然姫様の命の方が価値がございます!」
「何を言っているのですライラ! ここで逃げたら万雷鯨の利権が取れないでしょう!?」
「万雷鯨さーん! 止まってくださーい! 話せば分かりますってー!」
それぞれが万雷鯨に…………うんごめん、やっぱ余裕がありそうだ。
少しでも助けを求めているかと思った俺がバカだった。
……しかし、今の状態が非常にまずいのは事実だ。このままだと全員死んでしまう。
どんな生き物も、命あっての物種だ。
…………。
しばらく考えた末に、俺は静かに口を開く。
「おいドローレスク。俺がおまえを使えば、絶対に万雷鯨に勝てるんだろうな」
『ああ、約束しよう』
ドローレスクが強く肯定する。
……チッ、仕方ねぇな。
俺の頭に作戦前のレヴィが言っていた『勇者っぽいことしてみれば?』という言葉が浮かぶ。
────上等だ。やってやるよ。
「今から始めてやるよ! 勇者グレイの万雷鯨討伐伝説をな!」
そう言いながら、俺はドローレスクに手をかけた。




