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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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強制イベント

 俺はどうも釈然としないので、急に現れた扉に背を向けた。


 なにが世界の平和に、だ。馬鹿馬鹿しい。

 確かに暴力は全てを解決するが、それで手に入れたものは大体空虚なものだ。

 俺は万雷鯨を倒せる力が欲しいんだ。世界平和を達成できるほどの力はいらない。

 ヒルダを見てみろ、腕っぷしはあるのにとんでもなく苦労しているだろ? そういうことだ。


 俺が手をふりながら、またレヴィ達を探しに行こうとすると


 ──突然、何者かに肩を掴まれた。


「ッ!?」

『勇者たるもの、逃げることは許されぬ』


 ものすごい力が俺の肩をきしませる。


 とっさに後ろを振り向くと、扉がひとりでに開いていた。

 中からはこの世のものとは思えない黒い腕がいくつも伸び、俺をひきずりこまんと迫る。


 おまっ!? それ完全に魔王側のシステムじゃん!


 引きはなそうと全力でもがく────が、腕、足、胴体、とどんどん掴まれてからだの動きが制限されていく。

 しまいには


「うおわっ!?」


 俺の足が地面を離れた。





『よぉ、俺』

「…………」


 扉に引きずり込まれた俺が目を覚ますと、目の前で黒い影がうすら笑みを浮かべていた。

 姿かたちがどこか俺に似ている。


 影は俺に言う。


『俺は、お前の心の闇だ』

「……」


 へぇ、俺の心の闇ですか。

 びっくりするほど、俺の反応は淡白なものだった。

 影はあぐらをかく俺の周囲をグルグルと回りながら挑発するような口調で


『おまえ、勇者なんだよな。選ばれし勇者グレイ。希望の星』

「……」

『まぁ、心の闇である俺もそうなんだけどよ。……でも、おまえは一度も勇者の責務を果たしていない』


 影はナイフを突きつけるように言葉を浴びせる。


『それどころか、同胞の勇者でさえ殺している。数えるのもやめるほど』

「……」

『選らばれし勇者なのに』

「だからどうしたんだよ」


 一瞬、手が剣に届きかけた。

 自分でも痛いほど、怒りを感じている。

 ……ダメだ。これは罠だ。

 俺が影を睨み付けると、影は『おお、こわこわ』と引き下がる。


『だからどうしたって言われればそれまでなんだがな。……なぁ俺、一つ提案があるんだよ。俺達が最高にハッピーになれる提案が』

「俺達、が?」

『そう、強いて言えば相棒もな』


 視線だけを向ける俺に、影は人差し指をたてる。


『おまえ、俺に主人格を代われよ。より勇者(本能)に近い俺に』

「ッ!!」

『気づいているんだろ? 自分が魔王(ヒルダ)を倒すように人生が動いてきているのを。普通の勇者なら馬鹿馬鹿しいと吐き捨てるだろうが、俺達は違う。神が作ったんだ、魔王を殺すように』


『もう、楽になっちまえよ。安心しろ。世界がお前に味方している』と影は俺を嘲笑うかのように揺らめいた。


 ヒルダを俺が殺す……?

 確かに、ヒルダは危機管理能力が薄い。

 勇者の前で大あくびするような性格だし、いつ死んでもおかしくない危なっかしさはある。

 特に、俺の前では無防備だ。俺に見張りを任せて寝ることも度々。

 俺がその気になれば、ヒルダの寝首をかけるだろうに。


 ────でもな。

 俺は影に向かって


「なぁ、おまえは俺なんだろ?」

『ああ、俺はおまえだ』

「……ならさ。どんなに説得しようとしても俺の心が変わらないってのも、わかるよな。俺」

『……』


 変わることはないし、代わることもない。


 俺はヒルダよりも先に死ぬことはない。

 裏の俺も表の俺も光の俺も影の俺も、勇者である以前にヒルダの護衛だ。

 大切なやつを守る者。


 影は揺らめくのを止めた。


『……一生苦しむぞ。俺達は人間。ヒルダ(あいつ)は魔族。根本から違う。この前カムリに言ったろ。人間と魔族は共存できない。それなら、自分の幸せな世界にしたくはないのか? 自分が生まれた意味を果たしたくないのか?』

「ヒルダが幸せじゃない世界が幸せな世界なんて言えるか。魔族が幸せになるなら、俺は喜んで世界に剣を向けてやる。どれだけ裏切り者と言われようとも俺は俺だ。やりたいようにやる。いつも言ってるだろ?」

『────宿命なんて知ったことか、ねぇ』


 俺の言葉を(おれ)が先行する。

 その声はどこか、楽しげだった。


 しばらく思案する様子を見せたあと、影は納得したようにまた揺らぎはじめる。


『ハッハー、さすがは俺だ。とんでもない勇者だぜ』

「憎まれ役だったな、俺。まぁ、結局は俺が俺を憎んだだけの自己嫌悪ってことか? 勇者を憎むなんて、俺もなかなか魔族の思考に近付いてきたな」

『ちがいない。魔族に育てられたらこんなにも変わるとは』


 黒い空間にヒビが入り、光が差す。

 それと同時に影が淡く消えだした。


 薄くなった影は念をおして言う。


『いいか、俺。俺は(おまえ)の中にいるんだ。それを忘れるなよ。(おまえ)はいつだって魔王を殺す力を持っている』

「ああ、そうだな。だが、勇者の衝動を押さえつけてでも俺はそれを家族を守るために使う。普通の人間がそうするように、な」


 俺がそうキッパリと断言すると、影はキレイさっぱり光に溶けた。




 ほの温かい光が頬を撫でる。

 花が咲き、かぐわしい匂いで広間を満たす。

 外は万雷鯨のせいで暴風雨だというのに、そこだけは平和そのものだった。


 俺はこの場所と同じ雰囲気を知っている。

 レヴィのいた聖域だ。


「……あれか」


 その中央にある豪華な台座に刺さる一本の剣。

 今まで見てきたどんな剣よりも神々しさを感じる。


 苔むした広間の壁画にはその剣と全く同じ形をした剣を掲げた人物が禍々しい雲を晴らす絵が描かれていた。

 壁画に描かれている剣は俺の目の前にある剣と同じとみて間違いないだろう。


 広間のあたりを一通り見回した俺は、断固たる意思を持ってその台座へと歩みを進める。

 選ばれし勇者としてはなく、グレイとして。


 そして台座の上に立ち、剣に手をかける。

 ずっしりと重い。だが手に馴染む。

 覚悟を決めた俺は、そのままひと思いに剣を──


『我輩を手に取るものがようやく現れたか』

「うわキッモ。剣が喋った」


 手放して部屋の隅に逃げ出した。

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