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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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作戦開始!

「ゴォオオオオオォォ」

「万雷鯨が私達を捕捉しましたよ! やっておしまいなさい!」

「何をだよ! 早くその手に持っている箱を開けろよ! お飾りなんですかぁ!?」

「甘いですね勇者グレイ。こういうリーダーアピールが後の戦果に響いてくるのです。私なりの処世術ですよ」

「リーダーお前じゃねぇからぁ!」


 俺に向かって降り注ぐ無数の雷、一つ一つが致死級の威力を持っている。

 余裕で死ねる死線をくぐり抜けてできるだけ時間稼ぎをする。


「フハハハハ! いい電気マッサージだな! ほどよい痺れが筋肉を活性化させる!」

「そしてなんでモンゴリアンは直撃しても無傷なんだよ! ほどよく痺れる!? ほどよく焼けるの間違いだろ!」


 モンゴリアンに至っては人間じゃねぇ!

 稲妻のなかでポージングをする変態はそれはもう眩しかった。

 そして


「カームーリー! 働け避雷針係! お前のお友達はポンコツだらけなのか!?」

「全力でやってますよ! いまサンダーバードのサンちゃんが雷を誘導してくれますから!」


 雷鳴が轟くなか、フェンリルに乗ったカムリが声を張り上げる。

 空を見ると確かにサンダーバードがいたが、それでもサンダーバードの許容量の数倍は雷が降っていた。

 ギルドの討伐ランクAクラスの魔獣を使っても俺達に攻撃が向かうとは……!

 向かってくる雷を魔王家秘伝の雷属性遮断魔法で打ち消しながら


「レヴィー! そっちは!?」

「こっちも精一杯だ! サラマンダー達からもう少しで合図が来るはずなんだけど……」


 戦術級の設置型雷結界をサラマンダー達に張らせているレヴィもリゼを守るので手一杯だった。

 今回の作戦はこの結界が鍵を握る。むしろ、この結界がないとなにも始まらないのだ。

 ──と


「あっ……きた!」


 レヴィが破顔して叫ぶ。

 雨の中に灯る赤い炎。サラマンダーの合図だ。

 よし!

 淡い黄色ベールが上空をおおい遺跡全体を包む。


「ゴォオオオオオォォ!」


 万雷鯨も異変に気づいたが、もう遅い。

 この結界はあらゆる電気を霧散させる。値段は目が飛び出るほど高額だが万雷鯨相手では安いものだ。


 万全の状態が整ったところで、リゼが命封の箱(切り札)に手をかける。


「さぁいきますよ! 開け絶望(ディストピア)!」


 解錠の合言葉に呼応し、命封の箱(パンドラボックス)のふたが開かれる。

 解き放たれた渦は確実に万雷鯨を取り込み侵食していく──が


「……命封の箱(パンドラボックス)が引きずり込む力よりも万雷鯨の浮力のほうが勝ってね?」

「そんなこと言わないでくださいよ、グレイさん。なんだか僕もそんな気がしてくるじゃないですか……」

「フハハハハ! 鯨のパワーはすごいな! あれだけの奔流にも抗うとは!」

「あああ相棒!? やっぱりモンゴリアンの言うとおり全然落ちてくる気配がないよ!」


 やばい。ほとんど、いやまったく効いてない。

 俺はジーっとリゼの方をみると


「……誰が百パーセント成功すると言いましたか」

「開き直んな! どうすんだよ! どうやって引きずりおろすんだよ! このままだとジリ貧で万雷鯨が自由になっちまうぞ!」

「それをどうにかするのがあなた達でしょう?人間よりも優れているのだから一つや二ついい方法が考え付くと思います」


 このボンボン使えねぇぇえ!!

 ヒルダもそうだが、なぜ王族はどこの国も他力本願なのだろうか。

 俺がそう悩んでいる間にも、万雷鯨の高度がどんどん上昇していく。


 ……仕方ねぇ。俺のとっておきを決めてやるか。

 成功確率は半々ぐらいだが、やらないよりかはマシだ。

 覚悟を決めた俺はすぅっと息を吸って頭のなかで文字を思い浮かべる。

 流れるように、循環するように、魔力を自然と同化させる。


「──我、世の(ことわり)に力を求む。原初なる炎、天より降りし救済、全てに富と災いを与えん」

「ちょちょちょ相棒!? なんでそれを知ってるんだい!?」


 俺の紡ぐ詠唱にレヴィが震える。

 これは俺が魔王城の書庫をひっくり返して見つけた呪文の一節だ。

 まぁ、端的に大がかりな超特大魔法とでも思ってもらってかまわない。


「いやいやいや! なにさらっと唱えてんの!? ダメだって! 私がダメになるって!」


 レヴィが泣きそうになりながら俺を揺さぶる。

 やめろよ。詠唱が難しいんだから。


「踊れよ熱波、狂えよ閃光──」

「あーあーあー! もう知ーらない! どうにでもなれっ!」

「──神龍の主の名において命ず。放て、『炎熱星墜(オーバーエクリプス)』」


 俺が詠唱を終えると、レヴィがまるで貧血にでもなったかのようにぶっ倒れる。

 あー、いい忘れていた。

 この魔法の正式名称は『神炎魔法』という。

 ようするに、レヴィの力を無理やり吸いとって敵にぶつけちゃう魔法だ。

 ……お茶目な相棒を許してね☆


「ゆ、許さん……」


 レヴィが珍しく恨み言を呟く。

 しかし、効果はあったようだ。

 万雷鯨の背中に紅い花が咲き、雲が晴れる。

 爆発の推進力により空を覆う影がより黒く濃いものとなった。


「よくやりましたっ! 流石は私が見込んだ勇者です!」

「リンゼッタ様、悪いことは言いませんからあの者から距離をおいたほうがいいと思います」


 爆風に髪をなびかせながらリゼが手をたたく。だが、そのとなりにいるライラは白目向けていた。

 正常者と異常者の違いはこういうところだ。どっちが異常でどっちが正常かは言うまでもない。


「さて行きますよ! カムリ、捕獲用シバリグモ用意!」

「は、はいっ!」


 リゼの合図でカムリは首にかけた小さな笛を鳴らすと、どっからともなくワラワラと蜘蛛の大群が現れる。

 うっわキッモ。間違いなく子供に見せちゃいけないやつだ。


 その蜘蛛たちは大量の糸を吐きあの万雷鯨を数の暴力で拘束していく。

 万雷鯨も必死にもがくが、蜘蛛糸が絡み付く速度のほうが完全に上回っていた。

 よしこれで……!


 ──と、俺たちが最高に高ぶっていた瞬間


「ゴギャァアアアアア!!」


 万雷鯨が光り輝いた。


 その咆哮は容易にシバリグモの糸を吹き飛ばす。

 吹き荒れる暴風。いななく雷鳴。

 俺たちは万雷鯨の異常な姿にただ茫然とするだけだった。

 そんな中、頭の中にフラッシュバックした概念があった。

 俺はこの現象と似たものを知っている。

 ──第二形態だ。


「ゴァアアアア!!」

「ッ! 総員退避! 遺跡の中に逃げ込むのです!」


 突然の非常事態にいち早く反応したのはリゼだった。

 即座に避難命令を出す。持ち前のカリスマゆえの行動だ。


 リゼの指示に、俺たちはバラバラに近くにある

 遺跡の内部へとる。

 幸い、遺跡の劣化が激しかったので壁の亀裂から逃げ込むのは容易。

 それぞれが違った亀裂に飛び込む。


「うっ!?」


 俺が入った亀裂の上を万雷鯨の雷が直撃し、入り口が瓦礫で埋まった。

 外の光がなくなり、暗闇だけが残る。


 間一髪助かった俺は、へなへなとその場でへたりこんだ。

 もう少し逃げるのが遅れていたら黒くなったのはこの空間ではなく俺の方だっただろう。


「あぶねぇ……まさか万雷鯨に第二形態があるとは思わなんだ。……それはそうと、とりあえずレヴィ達と合流だな。遺跡に入るのは確認したし、内部を走り回れば見つかるだろ。よっこいせ」


 気力を振り絞り立ち上がる。

 作戦の練り直しをしなくちゃいけねぇ。止まるべきではない。

 魔法で火を灯し、遺跡の奥へと進む。


 ……一人が寂しくなったわけじゃないが、どうも不安が残る。

 アイツらは無事なのだろうか。生きているだろうか。


 ……いや、生きているはずだ。あの化け物スペック達がこんなことでくたばるか。

 そんなことを思いつつ、壁をつたって歩いてると


『よくぞ来た。資格のあるものよ』


 不意に頭に声が響く。

 ……たしか、託宣だっけか? レヴィが言っていた面倒な世界のシステムだ。

 聞きたくもないのに聞かされる不快感に顔をしかめるが、声はやまない。


『勇者、希望を背負いし者よ。力が欲しいか?』


 うるせぇ。希望なんて背負いたくて背負ってるわけねえだろ。

 売れるなら速攻で売却してるよ。多分値段は二束三文だな。


 ……しかし、力は欲しいな。

 万雷鯨をどうにかできる力が。

 このままだと万雷鯨に遺跡を破壊される。もしかしたら、それでも万雷鯨の怒りが収まらず近くの村を襲いに行くかもしれない。

 俺たちだけならともかく、第三者が被害を被るのは避けたいところだ。


 ふとそう考えた時、また声は響く。


『承諾した。ならこの(うつろ)の試練、突破できるか? ──己に勝ってみせよ』


 声が途絶える。

 顔を上げると、いつのまにか俺の前には大きな門がそびえたっていた。

 その門からは本能的に惹きつけられるような雰囲気が感じられる。

 心の深くに衝動がうちつけられる。

 行きたい、この先に。


 俺はこの時悟った。

 俺は勇者の宿命に導かれたんだ、この場所に。

 この先に行く宿命を背負っているんだ。これは、俺が力を手に入れるための試練なんだ。


 俺はゆっくりと進み、門に手を伸ばす。


 俺はこの試練を突破して力を手にいれる。

 そして世界を平和に──

 ……。


「……戻ろ」


 バカなことを思うんじゃない。そこら辺のド素人勇者か。

 俺はひどく活性化した理性でその門に背をむけた。

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