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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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腹黒少女は顧みず

 はあ、何で人間の大陸で買い物をするはずが腹黒い少女の護衛をしないといけなくなったのか。

 何度思い返してみても、俺のミスと思えるものはない。

 理不尽ここに極まれり。

 自分の不運さを呪いながら俺は魔物がいないか辺りを気にして道に沿って歩く。

 今のところ障害という障害はない。


「いやー実にいい拾い物をしました。神様って本当にいるんですねぇ」


 俺達を雇った張本人、リゼは非常に上機嫌だ。

 レヴィのせいで勇者ということが知られてしまった俺はリゼにこの道の先にある国までの護衛をお願いされた。

 受けなければ俺が勇者であることを世間にばらす、という脅し付きで。

 もし勇者であることが知れたら、俺は国の強権により他の国との戦争の最前線に向かわされるため、仕方なく受けることにして今に至る。


「レヴィさんはどこの出身何ですか? 赤い目なんて私、見たことがありません」


 リゼは無邪気を装いレヴィに質問する。

 人間の姿をしているとはいえレヴィの赤い瞳はやはり珍しく、人の目を引くものであった。


「ここからずっと遠くの国だよ。この赤い目は私の一族の遺伝なんだ」

「そうなんですか。じゃあどうして旅をしているんですか? もしかして何か問題ごとでも起こしたんですか?」

「違う違う。私は自分から国を出たんだよ。私の国はとても綺麗なところではあるんだけど退屈なんだ」


 レヴィは「久しぶりに帰ってはみたいと思うけどね」と懐かしむように言う。

 それに対してリゼは「帰れるといいですね」とにこやかに笑った。

 ──どことなく面白く無さそうな感じで。

 コイツ、レヴィの弱みまで握ろうとしてたんじゃないだろうな?


「では、その国でレヴィさんは「レヴィ、関所が見えたぞ。準備をしろ」


 俺はレヴィに声をかけて話を中断させる。

 するとリゼはキッと俺を睨み付けた。

 コイツ、本当にかわいくねえな。


「んじゃあ金を払ってぱぱっと通り抜けようぜ」

「……すみません、ちょっとの間ここで待っていてください。直ぐに終わりますから」


 普通の手順で通り抜けようとした俺達をリゼが止めた。

 いったい何があるというのだろうか。

 リゼは可愛らしい少女のふりをして駐屯していた兵士に声をかける。


「すみません。ちょっとここを通りたいのですが」


 声をかけられた兵士が何気なくリゼに目を向けた。


「ん? ……んんッ!?」


 そして二度見。

 さらには手元に持っていた書類もめくる。

 もう一度リゼの顔をみた兵士は驚愕の顔で


「ど、どうしてあなた様が」

「人違いでは?」

「いやその目と髪の色はまさしく──!」

「嫌ですねえ。きっと見間違いですよ」


 リゼは臆することなく大胆にも書類の上に手を置いて兵士に書類を見せないようにする。

 わあ凄い。やりなれている動作だ。

 しかしその行動で確信したのか、兵士は上司を呼ぼうと後ろを向いた。


「た、たいちょ」


 リゼは慌てて兵士を引き留める。


「何を思っているかは知りませんが私はリゼです」

「い、いや、あなた様は」

「リゼです」


 リゼは凄みのある笑顔のまま兵士の手のひらに自分の手のひらをおいた。

 すると兵士は一瞬身体をこわばらせて、恐る恐る手の中にある何かを確認するような仕草をとる。

 ──兵士の顔色が悪くなった。


「……ま、まさかこれは」

「いいですか? その手の中にあるものは偶々拾ったもの、今朝あなたの机の引き出しの奥に挟まっていたものです。こんな幸運は二度とありません。……その二度とない幸運のついでに、私達を通したっていいじゃないですか。これは事故です。貴方に責任はありません」

「……」


 リゼが諭すように言うと兵士はしばらくの葛藤の後、リゼに置かれた方の手でゆっくりと握りこぶしを作る。

 そして、そのまま回りに見えないようにズボンのポケットに突っ込んだ。

 マジかよ……


「……お待たせしました。三人ともお通りください」


 目を伏せた兵士が門をあける。

 リゼはなにかに警戒するように辺りを見回し、自分達の他に誰もいないことを確認するとそそくさと門を潜り抜けた。


「一時はどうなることかと思いましたがなんとかなりましたね!さっさと先に行きましょう!」

「なあ、今やったの完全にアレだよなぁ!? しかもあの手際は常習犯だろ! 流石の俺でも引くぞ!」

「私と一緒にいたあなた達も私と運命共同体ですよ? 落ちることはないと思いますが、落ちるときは一緒です」


 なんということだ。とんだ泥舟に乗せられてしまった。


「どどどどうしよう相棒。私たち、一週間で帰れないかもしれない」

「落ち着け。いいか、俺達はなにも知らなかった。護衛に雇われた一般人だ。俺達はリゼに騙されていた、だ。俺達は、被害者だ」

「わ、わかった」

「じゃあ私は取り調べの時にそこの勇者に脅されたって言いますね。筋書きは……そう、金貨を渡されてこれで交渉してこいって言われたんです。そうしないと殺されてたんです。それが怖くて仕方なく……」

「おまえこういう時だけめっちゃ頭がまわるなぁ!」


 俺達はリゼに勇者の素行の悪さを逆手にとったデマを流すと再度脅される。

 とんでもねえ腹黒さだ。


「穏便に済ませたいなら私に楯突かないことです。無事に王都についたらちゃんと報酬は渡しますから」

「おい待てよ、俺達は国までって言ったよな」

「いまここで痴漢されたって叫んでもいいんですよ?」

「痴漢冤罪ダメ絶対!」


 コイツはいったいどれだけ場数を踏んでいるのだろうか。

 リゼは俺達を解放する気は更々ないようである。

 俺達は凶悪な地雷を踏んでしまったと改めて後悔した。


「分かったら黙って着いてきてください」

「「は、はあ……」」


 俺達は仕方なくリゼに着いていくのであった。




「お疲れ様です。では報酬を」


 活気溢れる王都の門前で、リゼは俺の手のひらに一枚の金貨を乗せる。

 犯罪の片棒をかつがされたのにこれだけとは割に合わない。


「ちなみに口止め料も込みです。チクったら……分かりますよね?」

「おまえ、本当にいい性格してるよ」

「お褒めに与り光栄です」

「褒めてねえし」


 俺のツッコミをリゼはクスクスと笑うと「では~」とフードを深くかぶって走っていった。


「相棒、リゼって何者なんだろう?」

「さあな。だが将来大物になるな。いい意味でも悪い意味でも」


 少なくとも人生に置いて退屈はしないだろう。

 俺は自分の手のなかに小さく収まっている金貨を眺める。

 いつもは輝いて見えるのに、このときだけはくすんで見えた。


「……しかし、金貨一枚は大きいな」

「相棒はいつもプレゼントにはどのくらい使っていたんだい?」

「ざっと平均して金貨十五枚だ」

「それって魔族の大陸でどのくらいの価値なの?」

「そうだな……百五十万ラピスぐらいかな」

「高っ!」

「あいつは腐っても魔王だからな。魔王へのプレゼントならそのぐらいじゃないと」


 口をあんぐりとあけるレヴィをよそに俺はギルドへと向かう。

 ギルドはどの国においても城の近くにあるものだ。

 これにはちゃんとした理由がある。

 が、これは後で話そう。


「そっちに行ったぞ!」

「ああくそっ!」


 人混みの奥から叫ぶ声。

 突如としてガヤガヤと人の流れが激しくなる。

 なにか大捕物でもあったのだろうか。


「レヴィ、ちょっと端によろう。これだと先に進めない」

「わ、わかった。わわっ、すみません。ちょっとそこを通ります」


 俺達は邪魔にならないよう端を通って進んでいく。

 人に波を掻き分けて、ようやくギルドが見えた。

 すると


「あっ! いいところに来ました!」


 グイッと服を引っ張られ誰かに盾にされる。

 いつの間にか、俺達はぐるりと兵士に囲まれていた。


「助けてください! 私はなにもしていないんです!」

「いや完全にばれたクチだろ! 離せ!」


 俺を盾にした人物は勿論リゼだった。

 兵士に輪になるように囲まれる。袋の中のネズミ状態だ。

 俺の背中越しですごい形相をしているリゼに、この兵士の隊長格が


「リンゼッタ様! もう観念して下さい! 私達とて本望ではないのです!」

「それならいつも通り門の前に立っているのです! あなた達が軍事強化費と偽って給料を底上げしているのを言いふらしますよ!」

『ッ!!』


 リゼの脅しに兵士団が思わずたじろぐ。

 いやたじろぐなよ。普通に汚職じゃねえか。


「私を見逃せばあなた達は給料が下がらなくてハッピー、私も自由でハッピー。さあ、どうです? 悪い話じゃありませんよ?」


 腹黒いリゼが悪魔のような取引を持ちかけると兵士たちは長い葛藤の末


「……ですが今回はボーナスがかかっています!減俸はされるかもしれませんが生きていければ問題ありません!」

「チッ! 小癪な!」


 兵士の予想外の反応にリゼは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 あのー、帰っていいですか?

 俺はどさくさに紛れてリゼを引き剥がそうとするがリゼはしっかりと服の裾を掴む。


「諦めろよ。もうおまえはおしまいだ」

「いいやまだです! まだ終わりません! 私には貴方達という最後の切り札があります! あの件で道連れにされたくなければあの兵士を蹴散らしなさい!」


 凄く痛いところを突いてくるリゼ。

 しかし、ここで大暴れしたら確実にブタ箱行きだ。ヒルダのプレゼントどころではない。

 レヴィは「やるの? ねえやっちゃうの?」と心配そうな目で俺を見る。

 どうすれば……。


「あれ? グレイさんじゃないですか。どうしてここに?」


 不意に名前を呼ばれて、俺ははっと顔を上げる。


「忘れたんですか? カムリですよ。カムリ。リンゼッタ様が現れたと聞いてまた駆り出されたんですが」


 そこには真っ白なペガサスに乗った少年、カムリがまるで白馬の王子のようにいた。

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