グレイとレヴィの珍道中
「レヴィ、やっぱりおまえはめっちゃ有能だな」
「へへ、そうかな」
そんな軽い話をしながら、俺は目下に広がる雄大な海を風を浴びながら眺める。
俺は今、全身竜化したレヴィの背中に乗って海を渡っていた。
目指すは人間の大陸。
そこへ行く目的は一週間後に迫ったヒルダの誕生日のプレゼントだ。
いつも俺はヒルダへの誕生日プレゼントを人間の大陸で調達している。
魔族にとって、人間の大陸の物は滅多に手に入らない貴重品なのだ。
ついでに今回はレヴィも一緒に着いてきて貰っている。
空を飛ぶことができるレヴィのお陰で移動時間が大幅に短縮され、いつもよりも長い時間でプレゼントを選ぶことができそうだ。
ほんとレヴィを相棒にして良かった。
レヴィは翼を力強く羽ばたかせながら、普段と変わらない赤い眼を俺に向ける。
「相棒、そういえば相棒は人間のお金なんて持っているのかい?」
「んー、持っているのは持っているんだけどちょっと心もとないかな」
俺は昨年に調達した、銀貨が入った袋を見つめる。
人間のお金って色々とめんどくさいんだよね。
国ごとでお金の価値が違うし。
それにお金を見つけられてヒルダ達に人間の大陸に行っていることがバレたら厄介だ。
だから俺は人間のお金をあまり残さないようにしている。
「じゃあどうするのさ。プレゼントを買おうにもお金がなくて買えなかったら意味がないよ」
「頑張って稼ぐんだよ。その都度その都度」
「どうやって?」
「魔物退治」
人間の大陸にはギルドというたいへん便利な組合がある。
手頃な仕事を紹介してくれていらない魔物の皮などの素材も買い取ってくれるのだ。
しかも食事ができる。
そしてなにより、討伐することで注目を集めると色々な人脈も手に入ってヒルダが喜ぶような商品を見つけやすくなる可能性があるのだ。
この点から俺はこの期間はギルドからの報酬で生計をたてるようにしている。
その事を説明すると、レヴィは目をキラキラと輝かせて
「ようやく相棒も勇者っぽいことをする気になったんだね!強い魔物を倒して英雄に! そして相棒の武勇伝が吟遊詩人とかに語り継がれるんだ!」
相棒の夢を壊すようで悪いが正確には魔物を崖から落として英雄に、だ。
そこそこ強い魔物を誘い出して崖から落とすだけでギルドではスゲーと称賛を浴びる。
簡単なんだぜ? 前日のうちに崖にひびを入れるだけだもの。
そんなことは露知らず、相棒は上機嫌に
「それなら早く行かなくちゃ! 相棒が長く大陸にいれば魔物を多く狩ってくれる!」
「おい、金が貯まったら直ぐにプレゼント買って魔族の大陸に帰るに決まってるだろ! そんなに飛ばすなぁ!」
俺は急加速したレヴィに必死でしがみつきながら大声で叫んだ。
「レヴィ、ここで降りよう。近くに国がある。その姿を見られて騒動になったら面倒だ」
「わかった」
俺は着地したレヴィの背中から滑るように地面に降り立つ。
レヴィはそれを見届けると首をもたげて人間の姿をとった。
「やっぱり魔族の大陸とは違うね」
「魔族の大陸はこんな緑は生えていないからな。魔物もそんなに強くないし、生き物が生きやすい環境だ」
まわりを見渡しながら、一年ぶりの風景を楽しむ。
草原が風に揺れ、魔大陸とはまた違った自然の雄大さを感じさせる。
「相棒。私、この風景に立つことに憧れていたんだよね。神域でずっと見てたから」
レヴィは感慨深そうに深呼吸する。
レヴィにとって、人間の大陸は百年間待っても届かなかった夢の場所だったのだろう。
だが、俺はそこまでの思い入れはない。
人間の大陸は俺の生まれの土地と言えるが、俺が生まれた国はもう他の国に統合されて生まれ故郷と言えるものはもう無いからだ。
……母さんの墓参りもしなくちゃな。
「きゃあああああ!」
俺が複雑な思いを抱いていると、道の先から女と思わしき甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「相棒! 今の聞いた!?」
レヴィは俺に意味深な目線を送る。
……やだよ?動かないよ?
しかし、ここで行動を起こしてしまうのが俺の相棒。
「行くよ! 勇者でしょ! 役目でしょ!」
「好きで勇者やってる訳じゃないんだけど」
「いいからっ!」
俺はレヴィに押されて嫌々ながらに道を駆け抜ける。
道の先では剣を構えた少女がゴブリンに囲まれていた。
少女は恐怖故に腕が震えている。構えもろくに剣を振ったことがないド素人の構え方だ。
「あれ、絶対自業自得だって。一人でいるのが悪いって。俺が今助けてもすぐに死ぬって」
「だからって放っておくの!?」
「……まあ魔物の掃除くらいはするけどさ。道の邪魔だし」
「もう、相棒は素直じゃないなぁ!」
レヴィは嬉しそうにそう言いつつ、手から火を飛ばして少女を囲むように炎壁を張った。
助けられた少女は突然のことに唖然とする。
「そこのお嬢さん! 助太刀しましょうか?」
レヴィは気取った言葉をノリノリで言い放つと、さらに炎を撃ってゴブリンを吹き飛ばす。
おい、草原に燃え広がったらどうするんだよ。
被害が大きくなる。。
このままだと放火魔の疑いがかけられそうなので俺も参戦することにした。
ゴブリンは素材の価値がしょっぱいわりに後始末が面倒だからあまり相手にしたくないんだけどなぁ。
「『セイントヴァーチェ』」
ゴブリンの頭が切り飛ばされて綺麗な断面がこんにちわ。
よく見ると勇者を切った時の断面とよく似てるな。新しい発見だ。
俺達が圧倒的な戦力を見せつけると、ゴブリンは蜘蛛の子を散らすように草原の奥へと逃げていった。
残ったのは満足したレヴィとゴブリンの死骸をどうしようかと悩む俺、そして安堵してへなへなと座り込む少女と煙と血が混ざった匂い。
「た、助かった……」
「うん、助かったね。良かったね。次はもうちょっといい死に場所を見つけようね」
「相棒、そんな意地悪な言い方は無いんじゃないか!? ……お嬢さん、相棒はちょっとシャイなんだよ。あまり気にしないでくれ」
レヴィは少女の前に座り込んで「大丈夫?」と声をかけた。
それに対し少女は
「あ、ありがとうございます。あの……お二人のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「レヴィだ。相棒の名前は」
「名乗るほどでもない、ただの旅人だよ」
「タビビトさんと言うのですね」
「おいそれは無いだろ。常識というものがないのかおまえは」
「グレイだよ、グ・レ・イ。相棒の名前はグレイって言うんだ」
レヴィのせいで少女に俺の名前が知られてしまった。
俺とレヴィの名前を知った少女は手をあわせて感謝の意を示す。
「グレイさん、レヴィさん。本当にありがとうございます! お二人がいなかったら私は……」
「いいって。こう見えても相棒はとっても強い勇者なんだから!」
「おいこら」
「ゆ、勇者!?」
少女は驚愕の声をあげる。
レヴィは俺の情報をいったいいくつ流せば気が済むんだ?
「驚いたかい?」
「え、まあ。ここら一帯の勇者は戦争で国に徴兵されていたはずでしたので……」
「あっ」
「レヴィ! テメッこの野郎!」
そんなに俺を戦場に行かせたいのかコイツは!
もう二度と口が効けない身体にしてやろうか。
俺は全力でレヴィの頬っぺたを引っ張る。
「てめえの軽い口はどこがどうなってるんだぁ? ああん!?」
「ひらいひらい!頬ほ引っはふは!ほへんっへ!」
「あ、あのっ! この事は他言無用にしますのでどうかここで喧嘩はしないでください!」
少女が慌てて俺とレヴィの間にはいってきた。
こうなってはレヴィに手を出すことができない。
「チッ」
「さっきの反応を見て大体分かりました。グレイさんは戦争に参加するのが嫌でレヴィさんと一緒に身元を隠して逃げていたわけですね?」
「まあそんなところだ」
少女が都合のいい解釈をしてくれたのでありがたくのっからせてもらう。
俺が何も考えずに首を縦に振ると少女は感激したように喜んだ。
「そうなんですね! 実は私も他の国に逃げる途中だったのですよ!」
「一人で、か?」
「ま、そこは色々と」
俺のツッコミを少女は笑いながらはぐらかす。
とてつもなく怪しいが、俺たちも言えた義理ではないので見逃してやろう。
すると少女は一時何か思案顔をして──何かを思いついたように顔を明るくする。
これは面倒ごとが来る予感。
「グレイさん。一つ提案があるんですけど、あなたが勇者であることを黙ってあげる代わりにこの先の国まで私を護衛してくれません?」
「やだ、めっちゃやだ」
ほらきた。
少女は可愛くない笑顔で提案を持ちかける。
「私と一緒にいると色々と好都合ですよ?」
「具体的には」
「まぁ、そこはいいじゃないですか」
少女は笑顔のまま話をはぐらかした。
俺の直感が言っている。コイツ、ただ者ではない。
こういうやつは関わらないに限る。
「断る。冷たいとかそういう以前におまえからは闇を感じる」
「断るんですか? この幼気な少女の頼みを?」
少女は遂に泣き脅しを決行。
目を潤ませて俺の目を見る。
効かないな。その目はヒルダがしているものを死ぬほど見た。
「それでもダメだ」
「相棒? 別に連れて行ってもいいんじゃないか? この少女がまた魔物に襲われるかもしれない」
「いや、これを受けると面倒なことになりそうだ。それに俺たちにはコイツの通行料を払うだけの金がない」
「お金なら自分で出しますよ? なんなら貴方達の分も出しましょうか?」
俺が渋ると少女はキラリと光る金貨を見せてきた。
怪しい! 少女が金貨を持っているとか絶対怪しい!
流石のレヴィも怪しさに気づいたようで少し少女から距離をおく。
「そんなに邪険にしなくていいんですよ。貴方達は黙って私の回りを歩いているだけでいいんです。犬でも出来ます」
「国ならあと少しだろ。一人で行けるんじゃないか?」
「もし私の身に何かがあったら……果たして貴方達は無事に関所を通過できるんですかね?」
逆におまえの身に何かあったら俺達は関所を通過できないの!?
何があるんだ!?
「さあ、どうです?どちらが面倒か、聡い貴方なら分かると思うんですが」
少女は強気な態度で俺に問う。
この謎の少女は何者なのか。
よく分からない……が、俺の勘が言っている。
あまり突っ込んではいけないと。
「……一応、名前を聞こうか」
「名前ですか───ひとまずリゼとでも名乗っておきましょう。ただの少女、リゼです」
どう見てもただ者ではない少女、リゼは不敵に名乗った。




