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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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天界事変 前編

「生き返ったら使命に従い魔王を討伐しろ。それが条件だ」


 神に言われた言葉は、俺の人生をすべて否定しろと命令されたようなものだ。


 ヒルダを殺せと、俺の家族を殺せと、自分を殺せと、そう告げられているのと同じだった。

 想像してしまうだけでめまいがする。俺にはできない。できるわけがない。


「ちなみに……断るって言ったらどうなるんだよ」

「勇者とはいえ、拒否権なんてあると?」

「そりゃまた随分と悪趣味な神様もいたもんだ」


 まったく、この世界がとことん嫌になっちまうよ。


 俺だって生き返りたい。まだやり残したことがある。

 また魔王城に戻りたいし、ヒルダとバカやりたいし、ミルダを甘やかしたいし、レヴィに文句言われたいし……いけねぇ、まだ全然未練あるよ。やりたいことがいくらでも出てくる。気持ちがぐちゃぐちゃだ。


 ……でも、俺が次にすることは決まっている。


「オーケーオーケー、わかった。反抗が無駄ならいっそ、神様の命令に従うのもありかもな」

「ほう? 意外とあっさり納得したな」

「別に。あるべき姿に戻るだけだ」


 俺はヒルダを殺すためだけに作られた勇者で、ヒルダは倒すべく存在なのだから。

 それに、俺の意思に関係なく戦えと言っている時点で、もう既に運命は決まっているのだ。

 それならば、最後にもう一度くらい夢を見させてほしい。

 例え、その代償がどんなに大きくても……。


「でもよ、神様。一つ聞かせてくれ」

「なんだ?」

「俺の運命ってのは、最初から決まってたのか? それとも自分で選んだ結果なのか? 俺が死んだのもなるべくしてなったのか?」

「……面白い質問をする」

「答えてくれよ、なぁ」


 少しの間、沈黙が流れた。

 やがて、目の前にいる神はこう呟いた。


「半分半分だな。運命は貴様に魔王を殺す機会を与える、前魔王が貴様を攫ったのも、貴様が魔王と一緒に育ったのも、貴様が魔族に受け入れられたのも、全てはお前の運命だ。貴様が魔王の隣にいれば、いつでも寝首をかくことができる」

「……」

「だから貴様の使命は案外簡単なものなのだぞ。貴様の死でさえ貴様の運命のシナリオに過ぎない。運命はいつでも味方しているのだからな、後は貴様次第だ」


 神は笑う。まるで自分の手柄のように語る。

 俺がこうして悩んでいることも全部こいつの計算通りだとしたら、本当に神様っていうのはタチが悪い。


 ああ、そうだ。わかっている。

 運命はいつでも俺を呪っていて、謎の強制力で俺を縛り付けている。万雷鯨の試練でもそれを指摘されたな。


 ……ハハハッ、ハハハ!


「ハハハハハ!!!」

「っ!?」


 あーあ、笑っちゃうね。

 俺の逃げられない運命はこういう原理だったのか。把握した、神が仕組んだことだったのか。

 じゃあお手上げ? 俺は大人しく神に従うしかない? 上位存在だから仕方ない?


 ……バカ言ってんじゃねぇよ。


「神様、あんた悪手とっちまったぜ」

「なんだと?」

「俺の運命がお前によって呪われているのは分かった、舞台が整っているからあとは俺がヒルダを殺すだけってのもわかった。……だけどよ、十九年生きてて俺はヒルダを殺せていない。……よ・う・す・る・にぃ────」


 ニタニタが止まらなくなり、吹きだしてしまう。



 ────それってつまり、俺が神に勝ち続けて来たって自白しているようなものじゃね?



「おい勇者よ、何を言っている?」

「前言撤回! 俺、とことんお前に抗ってやるわ!」


 負け戦はしない主義の俺だが、勝てるのなら話は別だ。

 ここまで来たんなら死ぬまで……いや、俺もうすでに死んでるじゃん! なにこれ無敵か!?


「宣戦布告だ! テメェをぶっ倒してヒルダを救う!」

「狂ったか!」

「狂う? 宗教的な問題で俺を作り出したあなたに言われたくないですねぇ!」


 神様が俺の運命を操っていたとしたら、それは立派な狂信者だろ。

 俺の人生を勝手に決めつけて、俺の願いを叶えようとしなかった。

 そんな奴を信仰できるわけがない。


 そもそも、神が万能であると誰が決めた? 俺は神の思い通りにならなかった事象を嫌というほど知ってるぜ!


「今更後戻りなど許さん。勇者には魔王を討伐してもらう」

「もう遅いんだよ。俺は戦うと決めたんだ」

「選ばれし勇者よ、我に従え。それが世界のルールであり秩序でもある」

「世界の秩序は世界の住人が決める、部外者には黙ってもらおうか」


 神が俺を作った。俺が神に作られた。

 でも、俺の人生は俺が作ったものだ。誰にも邪魔させない。


 たとえそれが神様であろうとも。


 俺の発言に傍観を決め込んでいた天使たちが一斉に殺気立ち、どこからともなく現れた粛清の刃を向ける。丸腰相手に容赦のないことだ。


 まぁいい。腹を貫かれようが頭を吹き飛ばされようが心臓を貫かれようが、俺にはどうってことない。

 なにせ魔王城では日常茶飯事だったからな。もう見飽きた。


「最後の忠告だ。大人しく従え」

「やだね」


 そう答えた瞬間、三百六十度から無数の刃が放たれた。

 俺の身体能力をもってしても避けることはできない。剣があれば幾分か防げただろうがあいにく持ち合わせがない。


 仕方ない、少し痛いと思うが受けるとするか。


 目をつぶり、なされるがままに身をゆだねる……


「────その話、ちょっと待ったぁ!」


 ん?


 聞き覚えのある声がしたので目を開けて声のする方に目を開ける。

 ……何あれ、空間にひびが入っているんだけど。


 放射状に亀裂が入った空間は時間を追うごとに広がっていき、声も鮮明に聞こえるようになる。


「ほらバロン、頑張るのよ! この先にグレイがいるんだから!」

「ぜぇ……ぜぇ……破壊は他の方々に任せればいいじゃないか……なぜ俺が……!」

「なぁに言ってるのよ! この扉は封印がかかっていて聖属性と魔属性に耐性があるの!バロンの馬鹿力で無理やり壊さないと開かないわ!」

「でも……!」

「でもじゃないッ! 清らかな心と聖騎士の誇りを信じてファイト、オー! パパの頑張り見せちゃって!」

「ああもうっ! ソフィアはいつもそれだなッ!」


 そんな漫才のようなやり取りのあと……バコンッ!

 ついに亀裂は大きな穴へと変貌して砂煙を吹き出した。


 ちょっま……! いたッ!


 脳内処理が追い付かない情報量に思わず目を閉じる。頭に何か刺さったような気がするが、今はそれどころじゃなかった。

 やがて砂煙が晴れたころ、俺はゆっくりとまぶたを開けた。


「……母さん?」

「助けに来たわよグレイ!」


 俺の母、ソフィアは元気よくウインクした。

 母さんは速足で俺の前に立つと、キッっと怒りのこもった視線を神に向ける。


「私の息子になにしてくれてるのよ! それでも 神を名乗るつもり!?」

「貴様はソフィア! 破戒聖女が何故ここに……そうか、これで合点がいった。やはり血筋は争えんということか」

「うっさいわね! 神様の事情なんて知らないっての!」


 俺の隣に立った母さんは、拳を握りしめながら神様を睨みつける。


「大体、人様の子供に勝手なこと言ってんじゃないわよ!グレイは私の大切な子供! 神様だろうとなんだろうと……息子を傷つけるのは絶対に許せないから!!」

「ほう……ならばどうするというのだ? 聖女とはいえ、たかが人間一人に何ができる」

「誰が一人なんて言ったかしら!?」


 母さんの掛け声と同時に一部の天使たちのベールが暴かれていく。


 なっ────!


「よっす、レヴィの相棒! また会ったね!」

「ティマ!? どうして!?」

「長老たちが手引きしてくれたんだよね!私だけじゃなくて、他の神龍もいるよ!」


 ティマの言葉通り、多くの神龍が近くの天使を人質にして姿を現した。

 その間を通るようにして、赤い老人が階段を下りてくる。


「ハッハッハ、こうなるだろうとは思っておったわ。策を打っておいて正解だった」

「爺さん!?」

「話はあとじゃ。……のう、神様よ。少しばかり我等の話を聞いてくれんか」

「レッド、裏切ったか!反逆は重罪だぞ!」

「反逆? はて、掟破りの神と家族思いの勇者、どちらにつくのが正しいか天秤にかけるまでもないだろう?」


 爺さんはそう言うと怒りのこもった表情で俺の横に並んだ。


「神様。そもそもの話、魔王の件は我等天界の民が直接片付けるべき問題だった。それなのにあなた様は勇者という種を作り出し、何万、何百万の人間の人生を弄んだ。あなた様にそれだけの事をする権威があるとは思えない」

「何を言う。我は神だ」

「神だからなんだ? 神なら神らしく人の願いでも叶えてくれればよいではないか。相棒殿の願いを叶えず自分の願いだけはかなえてもらおうとする……虫のいい話だと思わんのか?」

「それが秩序である。秩序を乱すことは許されない。秩序とは神が作り出した絶対のルールなのだから」

「そのルールのせいで苦しむ者もいるということをなぜ理解しない! 秩序を守ることと個人の幸せを比べてみたことはあるのか!」


 普段温厚な爺さんが珍しく怒鳴り散らしている。

 それほどまでに怒ってくれているのだと思うと、胸の中に熱いものがこみ上げてきた。


「神龍は相棒殿の味方だ。例え神であろうと、間違った思想を持つ者の側につくことはできん」


 そう言い切ると、爺さんは俺の肩に手を乗せて優しい笑みを浮かべる。


「安心しろ、我らがついている」


 その言葉を聞いた俺は自覚する。

 ……ああ、俺は一人じゃなかった。自分に従って生きててよかった、と。

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