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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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違うんだ、これは──

今回はお留守番だったレヴィ視点のお話です。

 一方魔王城では。


「そーれもういっぱーつ!」

「ぐえっ」


 その身に浴びるは生臭い血と臓物。視界に映るは一方的過ぎる惨劇。

 ああ相棒、私はもう手遅れだ。

 もう既に胃の中のありとあらゆるものはトイレに吐き出した。


「ふう、ひとまず片付きましたね。やっぱりミルダは最強なのです」

「この子には情操教育がなされていないのかなぁ……。あ、スケルトンさん。肉片はここに集めておきますね」

「どうも親切にありがとうございマス」


 私が死んだ顔で勇者の肉片をモップで集めるとスケルトンさんがカラカラと音をならして腰を曲げる。


 私はなぜアンデッドの彼らがここの掃除当番なのかこの時初めてわかった。

 そうか、アンデッドはこの惨状を見ても嘔吐する心配がないからだ。


「ミルダ、もうちょっと視界に優しい殺し方は出来ないのかい?」

「え? 勇者は苦痛を与えてなんぼですよ?」


 血まみれの体を気にもせず、ミルダはキョトンとした顔で私を見る。


 私の本能が言っている。ミルダに魔王の代打をさせてはいけないと。

 私の前でどれだけの勇者がミルダに挑み、悲惨な最期を遂げたか。

 何度私が嗚咽(おえつ)に体を震わせたか。


 相棒、魔王、早く帰ってきてくれ。

 このままだと気が狂いそうだ。


「あ、また来ました。次は四肢から断裂させましょう。いい声で鳴くと思うんですよ」


 ミルダは壮絶な最期を遂げ、顔を歪ませた勇者の頭を軽くポイッと私に投げ渡す。

 勇者の顔と目があった。


 ……忘れるな。私は神龍レヴィ。

 私は断じて勇者を見殺しにしてはいない。

 そうだ、これは勇者の皮を被った一般人だ。

 本当の勇者なら魔王になんて負けない。

 バカは死ななきゃ治らない。これは治療だ。


「レヴィさん。腕追加です」

「うっ!」


 私は手が血にまみれているにもかかわらず反射的に口を押さえる。独特の匂いが鼻の奥を刺激した。


 乱雑に投げられたのは勇者の右腕。

 ほんのり暖かい血が腕から流れ、磨かれた床を汚していく。


 ……深く考えるな、レヴィ。

 これはあれだ、精巧なマネキンだ。

 少し雑に分解されたからいびつに曲がっているんだ。

 赤いのはペンキ、絶対にペンキ。


 私は自分にそう言い聞かせ、少しでも彼の供養になるようにそれらを燃やし、灰にして袋に入れる。

 後で土に埋めてお墓を作るためだ。

 来世ではもっと報われますように。


「あ、そういえばコユミ様が庭の肥料が足りないと言っていたのデシタ。その灰を貰えマスカ?」

「あ、ああ」


 手を出されたので私は勢いでスケルトンに遺灰を渡してしまった。


 ……違う、私は悪くない。

 私はただ新たな命のための手助けをしただけだ。

 きっと彼らも植物の糧になれて天国で笑っているはず。

 生命の芽吹きを祝福しよう。


「次は足です」


 また投げられてきたのは勇者の足。

 勇者を支えてきたたくましい足はミルダによって見るも無惨に引きちぎられていた。

 勇者は幾多の戦場をこの足で駆け抜けて来たのだろうか。

 それが今ではこんな仕打ちだ。

 せめて、私がきれいな状態で埋葬してあげよう。

 私は変に重く感じる勇者の足への恐怖を圧し殺し、ゆっくりと勇者の足を持ち上げた。


「あっ」

「むっしゃむっしゃ」


 私の持っていた足は無慈悲にも黒い獣の口に吸い込まれた。

 黒い獣は美味しそうに足を飲み込み大きな欠伸をする。

 もちろん口の中には何もない。


 ……違うんだ、偶然なんだ。

 そう、これはあれだ。有効活用されたのだ。

 相棒から聞いた話だが、この獣の魔力は魔王大陸の結界の維持に使われているらしい。

 つまりは黒い獣のエネルギーはこの国の国民の命を守っているわけだ。

 きっと勇者も魔族の平和に役立って喜んでいるはず。

 いかなる理由であっても、命を救うのは立派な善行だ。


「次は胴体ですー、鎧をはずして下さいね」


 ガチャンと音をたてて私の前に中身つきの鎧が悲しい音を立てて転がる。


 傷だらけだが、とても大切にされていたことが分かる逸品だ。

 もしこの鎧に意思があるのだとしたら、どれだけ後悔しているだろうか。

 今、この鎧は本来の持ち主を守れなかったという烙印(らくいん)を押されてしまった。

 チャンスがあるならまた使われたいはず。


 ……そうだ、後でこっそり宝箱の中に入れ新しい勇者に使って貰えるようにしよう。一回使ってポイなんて悲しいじゃないか。

 私は丁寧に胴体から鎧を取り外す。

 立派に見えるように磨いてあげるのも良さそうだ。


「あ、それはリサイクルできるマスのでこちらで引き取りマス。最近金属の物価が高いので勇者が壊す壁の修理費がバカにならないんデスヨ。ドロドロに溶かして再利用しマス」

「あ」


 鎧はスケルトンさんに奪われ私の手元には勇者の胴体だけが残った。


 ……違うんだ、本当に違うんだ。

 これはあれだ、エコだ。

 再利用して新たな就職先を見つけてあげるんだ。

 鎧もきっと魔王城の壁になって嬉しいはずだ。

 もう何度も刃で傷つけられる必要もなくなるのだから。

 そうだ、そうに違いない。


 ───ってなるかぁ!

 もううんざりだ!

 ここに住人は命を冒涜しすぎている!

 いくら勇者が自分達の命を狙っているからとはいえ、扱いがあまりにも酷い。


 思えば相棒もそうだ。

 相棒は勇者なのに人を殺すことに全く躊躇をしない。

 家族のために殺すなとは言わない。しかし腐っても勇者の端くれなんだからもうちょっと葛藤があっていいのではないか。

「お、俺は本当にこれでいいのか……?」と言っている相棒は想像できないが「勇者? あんなもんゴミ」と言っている相棒は容易に想像できる。


 私の感覚も大分イカれ気味になっているが私はまだ大丈夫だ。

 私は神龍としてすべきことをする!


「コイツがどうなってもいいのか!」

「あ、レヴィさん!」

「え?」


 私の首に腕が回され、勇者が私の背後をとる。

 現実に思考を戻した私は、いつの間にか勇者の人質になっていた。


「そのまま動くな! じっとしていろ!」

「『カース」

「魔法もダメだ!」


 勇者は私を盾にされて手を出せないミルダを見据えて私の喉元にナイフを当てる。

 ええ……。


 前言撤回。相棒が言っていた通り、勇者はこんなにも腐敗していたのか。


「勇者よ。その人は戦いに関係ありません。地獄をみたくなければ今すぐに拘束をときなさい。今回は見逃してあげますから」

「誰がそんなことを信じるか! 俺の仲間を皆殺しにしやがって!」


 ミルダは私の解放を促すも勇者はさらに激昂。

 このまま刺されたら怖いので、首もとだけ鱗でガードしておく。

 神龍の鱗は鋼よりも固い。

 そのなまくらじゃ刃こぼれするのが目に見えている。


「そんなにこの女の命が惜しけりゃここでおまえが死ね!」

「……」


 ミルダの目から光が消える。

 そして、しばらく熟考した後に──


「分かりました」


 ミルダは落ち着いた様子で勇者の要求を承諾した。

 死んだ勇者の仲間のそばに落ちていた短刀を拾う。

 そして喉元に突きつけて


「お兄様にレヴィを守れと言われましたからね。このようなことになったのはミルダの落ち度です」


 ミルダは私を宥めるかの如く気丈に振る舞う。

 優しい口調が私の心をより深くえぐった。


 ……違う、違うんだ。

 これは私のせいだ。

 私が無駄に葛藤して、隙を作ってしまったからだ。

 それに私はこんなことでは死なない。

 ミルダはそれが分かっていないのか?


 私はたまらず、ミルダに手を伸ばす。


「レヴィさん、お兄様にこんな不甲斐ない妹でごめんなさいと伝えてください」

「止めろ! ミル」


 私は今すぐ止めるように口を開いたが、それよりも先にミルダの首から鮮血がほとばしる。

 ああ、ああああ。


 ミルダは短刀を手放し、崩れ落ちるように倒れた。

 今まで見てきた勇者の死体と同じように、ピクリとも動かない。

 私のせいで。


「けっ……死んだか」


 勇者がミルダの死体を見て、そう短く吐き捨てた。


 ──ああ、最初からこうすればよかったんだ。

 こういう決断をするのは相棒と出会った時以来だな。

 フツフツと、メラメラと、怒りがあふれる。

 そうだ、これが私のすべきことだ。


「……さない。認めない」

「あ?」

「……断言する。おまえは相棒の言う通り悪だ。神龍の名において、そして我が友のミルダのために、おまえを殺す」


 自重なんて知らない。

 使命なんて関係ない。

 私の後ろにいるのは肉塊だ。


 私は神龍レヴィ。

 いにしえからの盟約により、悪を滅ぼす神の代行者だ。

 ……でも今は───私の意思で行動する。


 私は覚悟を決めて、静かに勇者の手に触れた。


「うわっ、うわあああああ!!」


 火はいつ見てもきれいだ。

 こんなに血塗られた勇者の腕がまるで教会の蝋燭のよう。


「神の炎は一旦ともれば対象を燃やし尽くすまで消えない。命の続く限り、じっくりとその痛みが全身を駆け巡る」

「俺の! 俺の腕が!」

「……だが、私にとってはおまえにそんな時間をかけるのももったいない」

「や、やめろっ! やめてくれ!」


 怯えた勇者の目から涙が溢れる。懇願し、頼み込んでくる。


 ……だからどうした。

 私は勇者の懐に素早く入り込み腕だけを龍化させて胸を貫く。

 躊躇はせずに思いっきり。


 胴体に穴が空いた勇者は口から空気を微かに漏らすとそのまま力が抜けて動かなくなった。

 私の手をあの生暖かい血が深紅に染める。

 しかし、ついさっきまで感じていた嫌悪感はない。

 むしろスッキリしていた。

 ミルダ、仇はとったぞ。


 そう心の中で思っ──


「えっレヴィさん、本当にやるなんて……」

「えっ」

「嫌ですねー。ミルダがこれくらいで死ぬわけがないじゃないですか。もしかして本当に死んだと思ったんですか?」


 死んだはずのミルダがムクリと起き上がる。

 右手には握りつぶされた勇者の心臓。

 唖然とする私とは裏腹に、ミルダはニコニコと面白そうに笑っていた。


「手短かなところに新鮮な死体があったのでレヴィさんにイタズラしてみようと思ったんですよ。迫力ありました? 隙をみて首を刈り取ろうと死体の振りをして機を伺っていたんですけど先にレヴィさんが倒しちゃったじゃないですか。真面目なレヴィさんが勇者を殺めるなんて正直こっちがビックリです。晴れてレヴィさんもこちら側ですね」


 ……違う、違うんだよ。

 今回は……そう、あれだ。

 正当防衛だ。

 ナイフを突きつけられたら誰だって反撃する。それの延長線がこの件だ。

 故意じゃない、決して。


「ただいまー。──あ……」


 ズルズルと魔王を引きずってドアを開けた相棒と目が合う。

 私の腕には、まだ勇者の死体が刺さっていた。

 それを見た相棒は力なく魔王の襟首を離したあとに、そっと悲しく目をふせて


「相棒、おまえだけはこのメンバー唯一の良心だと思っていたよ……」

「違うって! 本当に違うからぁあああ!!」

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