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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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魔族と人間

 俺は叫んでいた。

 あらんかぎりの声で。


「何が共存できるだぁ!? てめえが知った口を利くな! 分かってもいないのに魔族の理解者ぶるな偽善者! ピストルかピストンかは知らねえがそれはお前が作ったんだろ!? 魔族を殺すために!」

「違う! そんなつもりじゃ」

「黙れ! じゃあその金属の塊はなんだ!? 命を奪うためのものだろ!? そんなやつが共存だのなんだの言うな! お前の言うことは結果的にあってるさ! 魔族と人間は根本は変わらない!喜ぶし怒るし悲しむし楽しむ! だが、お前は間違っている! 自分が魔族を理解して、自分ならわだかまりを解消できると思い込んでいる! 甘いんだよ! そんなトントン拍子にことが進んでたまるか! 魔族はな……人間(てめぇら)より何倍も命を大事にするんだよ! 自分の家族を大切にするんだよ! どんなに苦しくても必死で助け合うんだよ!! ただ相手が気にくわないという理由だけで戦争を起こす人間とは違ってなぁ!!!」


 自分でもビックリするほどの声量と言葉が口から出た。

 いや、この場合は漏れ出たという表現のほうがいいだろうか。


 静寂が辺りを包む。

 カムリはもちろんヒルダやミルダ、レヴィ、そしてローランドやその他の取り巻きでさえ唖然としていた。


 ……ちょっとやりすぎたか。少し冷静になる。


「……俺は勇者だ。魔族に育てられた勇者、グレイだ」

「魔族に……育てられた?」


 俺の言葉にカムリが呟く。


「お前らが生まれるちょっと前にな、選ばれし勇者っつーゴタゴタがあったんだよ」

「……それなら聞いたことがある。世界のどこかに神が魔王に対抗しうる勇者を遣わすというものだと父上が言っていた。探しても見つからなかったと聞いていたが」


 ローランドが俺に向かって言った。


「ああそうだ。それが俺だ。その話は続きがあってな。実はその勇者は生まれてすぐに母親が死んで、魔族に保護されたんだよ」

『は!?』


 勇者達がどよめく。まあそうなるよな。

 俺は己に渦巻く殺意を紛らわすために、そのまま話を続ける。


「そもそも俺の父さんは戦争に動員されて死んだらしい。母さんも逼迫する戦況で病気にかかり、俺を生んだと同時に死んだ。どこの誰とも知らない奴らの勝手な私情のせいでな」


 ひた隠しにしていた憎悪があふれる。

 ───だから。

 俺は人間が嫌いなんだ。

 自分の事しか考えない。

 自分さえ良ければいい。

 自分だけ生き残ればいい。

 他のやつなんて知ったことか。


「そんな思考が大っ嫌いだ。自己中心的な行動が嫌いだ。目が嫌いだ。言葉が嫌いだ。存在が嫌いだ。俺は自分が魔族に生まれればどれだけ良かったかと常々思う。俺が人間、ましてや勇者ということでどれだけのヒルダやミルダ、先代魔王やお義母さんに迷惑をかけたか。……どれだけの他の魔族から反感を買ったか」


 俺が人間だから。

 俺が勇者だから。

 ──俺が、選ばれたから。


「ただの個人で変えられると思ったか? 甘い。魔族が人間を許すと思ったか? 甘い。お前達が魔族を許せるのか? ……甘いんだよ」


 そんなこと───できるわけがない。

 いつだって人間と魔族の共存を望んできた俺だから言える。

 理論上は可能だ。

 だが──


「理論でできても、現実ではできないんだよ。共存なんて」


 もう遅すぎる。何もかも。

 この長年続く負の連鎖(しきたり)はそう簡単にひっくり返せない。


「甘ったれるなよ勇者カムリ。お前が作ったのは紛れもない凶器だ。殺すためのものだ」

「う、うう……」

「お前らは俺の家族を傷つけた。本当は穏便に済ませたかったんだがな……もう限界だ」


 我慢できずに俺は最大最強の奥の手を出すことにした。

 剣が光輝き、熱を帯びる。


「おい相棒! それは!」

「わりぃなレヴィ。俺、ちょっと本気出すわ」


 さすがは俺の相棒、この技が何か知っているようだ。

 すうっと深呼吸して息を整える。

 直撃すればヒルダの第二形態ですら吹っ飛ばす、選ばれし勇者が放つ全力の一撃だ。

 だが、強力な力に代償は付き物。

 だけどな、俺はこいつらを守れるなら喜んで片腕くらいくれてやる。

 俺は足を踏み込んで目を見開く。この一撃に、力を捧げる。


「『セイント──」

「───なにやってんのよバカァァァア!!」


 いつの間にか第二形態に移行していたヒルダが結界を突き破り俺の腕を掴む。

 魔族にとって毒である光が剣から放たれているというのに、ヒルダは腕の力を緩めない。


「お、お前……」


 振り返って顔を見ると、ヒルダは泣いていた。

 かつてないくらいの大泣き。

 ボロボロと流れる涙が床を濡らす。


「私達のことなんてどうだっていいのよ! 魔族は魔族! 人間は人間!お互い違ったっていいじゃない! 相いれなくてもいいじゃない! 私は……私はぁっ───」


 ヒルダはすがりつくように俺に抱きついて


「グレイがいれば……それでいいのよ……!」




「逃がしてよかったのか?」

「いいのよ、あんなやつら。当分ここには来ないでしょうしね」


 俺達は城のベランダからどこまでも広がる海を眺める。

 この海の向こうでは、きっと人間達が戦争しているんだろうなぁ。

 そしてきっと、たくさんの人間が意味もなく死んでいるんだ。


「ねえ聞いた? あの勇者カムリってやつ、まず向こうの大陸を平和にするそうよ?」

「へぇ、モンゴリアンみたいなこと言ってるな」

「なんか悪いことしてそうな気がしてきた」


 ヒルダが苦笑いをする。

 あのあと、勇者カムリが剣を投げたことによって戦いは終息した。

 そのまま殺そうか迷ったがヒルダがやめろというので大人しくやめることにした。

 つくづく俺はヒルダに甘い。自分でも痛いほど思う。

 カムリはこの件で自分の人生が好調過ぎたことに気付き、驕っていた自分を反省した。

 しかし、俺の考えが間違っていることを証明するそうだ。

 人類と魔族は絶対に共存できる、と。

 そのために、まずは向こうの大陸の全ての戦争を終結させて魔族との友好条約を結ぶそうだ。

 色々と大変だろうがカムリは「友達に頼んでみます」と笑っていた。

 素で無理だろとツッコミをいれたかったが、これまたカムリの取り巻きのよいしょがすごかったので引いた。

 お前らはカムリを神かなんかとおもっているのか?

 まあ放っておこう。どうせ無駄になるのだから。


「あとね、勇者カムリからこれ貰ったの。約束の印だって」


 ヒルダはキラリと大粒のダイヤモンドがちりばめられた指輪を見せる。


「約束を果たしたら薬指につけてくれって。マセガキよね」

「なんで薬指なんだ?」

「さあ? ローランド達も知らないって言ってたし。何か意味合いでもあるのかしら」

「婚約とかじゃねえの?」

「まさか。そんな一目惚れがあるわけないじゃない。種族が違うのよ?」


 ヒルダは軽い様子でケラケラと笑う。

 ……俺の考えすぎか。


「でもまあ、私の薬指はグレイからの誕生日プレゼントで埋まってるんだけどね」

「俺がサイズ調整をミスったやつか」

「そうね。いくら押し込んでも人差し指に入らなかったもの。……ずっと思ってたんだけど、あなた私の誕生日一週間前になるとどこか出かけるわよね? 一体どこに出かけるの?」

「秘密」


 俺は手をヒラヒラさせて話をはぐらかす。

 言える訳がない。

 わざわざ人間の大陸に買いに行ってるなんて。


「早く教えたほうがいいと思うのだけれど」

「言ってもいいが次の誕生日プレゼントはランクが下がるぞ」

「やっぱやめる」


 欲望に素直なんだよなぁ。

 扱いやすくていい。良くも悪くも真っすぐな性格はヒルダのいいところだと俺は思う。


「賢くて何より。そういやミルダの調子のほうはどうだ?」

「お兄様シックだそうよ。もっと会いたいって」

「まだ別れて三時間だろ……」

「自分のせいでグレイに迷惑かけたって。きっと慰めて欲しいのね」

「まあもうちょっとしたら怪物リンゴでも剥いてやるか」

「それはレヴィがやってるわね。あの子、意外と上手いのよ」


 最近思うのだが、アイツすごい芸達者だな。

 まぁ百年もの間ボッチだったらそうなるのか。

 その他にも色々特技を隠し持っていそうだ。


「……ねえグレイ」

「ん?」


 ヒルダが急に神妙な面持ちで俺の目を見る。


「グレイって……私達と一緒にいて楽しい?」

「どうした?いきなり」

「だってグレイは人間でしょ? お父様が連れてきたとは言えかなり窮屈だったんじゃないかって……。人間の世界に戻りたいとか思っていたり……する?」


 ヒルダが心の底から心配した声で言う。

 ……ふーん。そんなことか。


「楽しいよ。家族がいて」

「本当? 私の前だからって無理してない?」

「無理してない。こんなところで無理してどうするんだよ」


 そんな俺の返答に、ヒルダはどこかホッとした様子を見せた。

 海から届く風を楽しみながら遠くを見る。


「私ね、ずっと思ってたの。いつかはグレイがいなくなっちゃうんじゃないかって。帰るところに帰るんじゃないかって」


 そして、どこか吹っ切れた様子のヒルダはニィっと笑い俺に寄りかかった。


「ずっとここにいてくれるわよね?」

「いるよ、いつも言ってるだろ?俺はヒルダ達をおいてどこかに行ったりしないって。俺の帰る場所はいつだってここだ」


 それは変わらない。変わらせない。

 俺は目の前にいる魔王(ヒルダ)を守らなくちゃならない。

 使命や運命なんかじゃない。己の信念として。

 俺の言葉に満足したのか、ヒルダはさらに体重をかけてきた。


「いてよね。絶対」

「ハイハイ。……ヒルダ、なんか後ろが騒がしくないか?」


 何かがどんどん壊れているような……。

 俺達は恐る恐る後ろを振り向く。


「なにミルダがいない間にイチャコラしてるんですかァ? 姉様ァ……!」

「ミルダ!もっと相棒に会いたいからってベッドから抜け出して!動いちゃダメだって!」


 後ろには我を失ったミルダとそれを追うレヴィ。

 貧血故に足がおぼつかないミルダはポタリポタリと深紅の液を肩から垂らす。

 さながらホラーだ。血雨のミルダの狂乱モードは目の前の全てを壊し尽くす。

 俺に続いて振り向いたヒルダは手を前に突き出して落ち着くように諭す。


「いやミルダ、これは違うのよ!」

「姉様、今回の件でそろそろ魔王も疲れたでしょう?──世代交代といきましょう」

「やめてぇえええ!」


 暴れる二人とそれを止めようとしてとばっちりをくらうレヴィ。

 そんな様子を見ながら、俺はやっぱりこの騒がしい場所が一番だなと思った。

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