何事もラストには魔物が住んでいる
「さーてグレイ?何か言うことはないかしら?」
「俺のせいじゃない。全ては争いを求む世界が悪いんだ」
「へえ、まだ余裕がありそうね」
余裕? ないよそんなもの。
簀巻きで吊るされている状況のどこが余裕に見えるんだ。頭悪いな。
「俺は悪くない」
「はあ!?あんたのせいで私にしわ寄せがめちゃくちゃきたんだけど!?やっと傷がなおったと思って来てみれば行列のできる魔王城になってたんだけど!?」
「仕方ないじゃん。俺って平和主義者だし」
「鬼畜!ゲス!病み上がりを気遣って!」
ヒルダが語彙力ゼロの単語と唾を俺に飛ばす。
病み上がりなのに元気なやつだ。
ヒルダはグチグチ文句を言っているが、そもそもヒルダの仕事だ。
立場上魔王の代理として代わってやっただけで勇者退治なんてもってのほか。
それに来た勇者を片っ端からボコボコにしたんだからいいじゃないか。結果オーライだ。
「それなのにヒルダはこの俺を吊し上げるとは。恩を仇で返すとはまさにこの事。慰謝料を請求する」
「それとこれは話が別よ。少しは勇者を減らしてくれるかと思ったのに」
「勇者のモチベは減らしたぞ」
「誰が上手いこと言えって言った」
ついにヒルダが手を出し始めた。
俺は執拗なヒルダの攻撃を振り子の原理で器用に避けながらレヴィに助けを求める。
あっ、そろそろ限界。主に頭が。
「相棒、助けてくれ」
「これはまあしょうがないんじゃないかな。あとその動きを止めてくれ、ビヨンビヨンしてなんかツボにくる」
この人でなし!こちとら必死なんだぞ!?
一発どついてやろうと踠くがレヴィの口角がどんどん上がっていく。
……コイツついに顔を背けやがった。
本当にペット待遇にしてやろうかな。
「隙あり!!」
「うおあっぶねえ!?」
体を曲げて緊急回避。今のはガチだった!ヒルダがガチで殴ってきた!!
「よそ見してる間に殴ろうとするのは卑怯だぞ!魔王の恥さらし!」
「知るか!日頃の恨み!」
「だからあぶねえって言ってるだろ!憂さ晴らしなら勇者にやれ!」
「あんたも勇者でしょ!」
「そうだ!忘れてた!」
ヒルダの攻撃は激しさを増す。パンチの速さに頭に血が上っていることもあいまって拳が何重にも見える。
いやもうきついから!流石に!
「アガッ!?」
「あーあ、ロープ切れちゃった」
ヒルダの攻撃にロープに掠り切れ、俺は顔から床に落ちる。あかん、首がヤバい。
「首が……オワタ……」
「繋がってるなら大丈夫ね」
といいながらヒルダは俺を引きずり玉座裏に投げ入れる。
段差に顔面を強打。俺の扱いが雑すぎやしないか?
「だ、大丈夫か?相棒」
「お前、今日の昼飯はケルベロスフードな」
「なんでっ!?」
駆け寄ってきて早々レヴィが涙目で俺を揺さぶる。首が凄く痛いから止めてくれ。
「相棒。お前はなんで俺を助けなかった」
「あれは自業自得ってものじゃ……」
「ワラッテイタノハミスゴサナカッタゾー」
「すんません。まじですんません」
レヴィに頭を下げさせ少し溜飲が下がる。
ちゃんと上下関係はハッキリさせておかなければならない。
「なあ相棒。それはそうと今日はあのカムリとか言う勇者が来るんだろ?」
「ああそうだ。少なくともモンゴリアン級だ。覚悟していけ」
そう、今日はあの勇者カムリが来る日だ。
アイツはモンゴリアン並みにやばい。
神に愛されたかのごとき幸運で罠にかからず突破。
スケルトンに物怖じせず道を聞く。
モフモフの魔獣を見つけると魔獣も引くレベルでもふり倒す。
そして度重なる仲間のカムリよいしょ。
なんだそのご都合展開!?総じてヘドが出るぜっ!魔王城は観光地じゃねぇんだよ!
『お兄様。もうすぐ勇者カムリが到着するようです。ヘラヘラしているのが物凄く頭にきます』
「オッケー、こちらもサポートする。ヒルダがピンチになったらこちらも出張るから。イラってきたら三秒で殴りにいこう」
「二人とも私怨マシマシじゃないか」
レヴィは知らないが、今回の魔王城内の罠は俺たちが考え抜いた最高傑作だ。
罠に気づかれ、どう対処しようか考えた末に突破されるならまだしも笑いながら気づかれずに突破されたというのは屈辱的だ。
モンゴリアンもその類いだがあれはなんかベクトルが違う。
アイツは罠にかかっても正面突破する。
『お兄様、来ました』
「レヴィ、準備はいいか?」
「おう」
扉がギギギと開かれる。
現れたのは金髪碧眼。これまでの奴らより大分幼い。ミルダの一個下ぐらいだろうか。
ヒルダは内心驚きつつも、表情を変えずに淡々といい放つ。
「良くきたな勇者カムリ。私が魔王ミルダだ」
見た目が幼いので威圧はあまりしない方向でいくようだ。
それに対しカムリは
「かわいい……」
「「「『へ?』」」」
ヒルダは勿論俺とレヴィ、そして壁裏の隠し通路でこの部屋の様子を見ているミルダまでもがすっとんきょうな声を出す。
「かわいい……魔王めっちゃかわいいんだけど」
「え、いやっ、あ」
「「「身内セキュリティィイ!!」」」
「あべし!?」
俺とレヴィとミルダはそれぞれの立ち位置を飛び出しカムリの顔面に蹴りを放った。
俺の本能が警笛をならしている。
コイツはヒルダと戦わせてはならないと。
「ヒルダ!耳を塞げ!絶対にコイツの声を聞くな!!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
顔を真っ赤にしたヒルダは耳を塞いで踞る。
コイツは基本乙女脳だ。
しかも彼氏も出来たことがない恋愛弱者だからかわいいと言われただけでも有頂天になる。
俺は頬を腫らすカムリの胸ぐらを掴み
「オイオイオイカムリさんよぉ。どこでそんな大層な口を聞くようになったんだ?ああん?」
「だ、誰?」
「魔王の保護者兼専属護衛勇者のグレイさんだよ。うちの魔王になんつー言葉かけてんだよ」
俺はドスの聞いた声でこの身の程をわきまえないガキに言う。
「何故あんなことを言った。吐け」
「だってかわいいんだもん」
「何がかわいいんだもんだクソガキ。てめえ時と場合と立場って言葉知ってるか?」
俺の言葉にはあっとカムリはため息をつく。
「あ!?てめえ何ため」
「スタングレネード」
目をギュッと閉じたカムリはいつの間にか手に持っていた玉からはえている糸を引き抜いた。
その瞬間、白い閃光が俺の目を覆う。
「なああああ!?」
眩い光に耐えきれずカムリから手を離してしまった。
「相棒!手を離すなっ!」
「あっわりぃ!」
レヴィの指摘にようやく俺はカムリを逃がしたことに気づいた。
視界が回復しない中カムリの駆けていく音だけが聞こえる。
「ああくそっ!ミルダっ!」
「了解です!」
ミルダは姉の前に立ちふさがり
「勇者カムリ、何をしたいのかは知りませんがそこから動かないことをお勧めします。姉様はこう見えても一目惚れなんかに流されませんよ」
「君もかわいいね。名前は?」
「ッ!?みっミルダです……」
何お前もときめいてんだよ!
というかアイツ何!?
かわいいを安売りしすぎなんだけど!?
俺は喉がはち切れんばかりに叫ぶ。
「ミルダ!そいつの言うことを聞くな!お前がかわいいのは認めるがカムリが言っているかわいいの価値はお前が友達が自慢してきたキーホルダーに言うかわいいの価値と同じだ!」
「ッ!そ、そうです。しっかりするのですミルダ。ミルダはお兄様一筋。私の夢はお兄様の隣。勇者になんかトキメキませんッ!」
ミルダは魔法でヒルダを囲むように結界をはる。
それを見たヒルダが顔を上げた。
「ミ、ミルダ?」
「今のミルダは最強無敵!恋する乙女は強いんですよ!」
「ねえ今なんて言った?夢はグレイの隣とかなんとか」
「姉様は黙ってくださいっ!」
ミルダが必死の形相で姉の口を塞ぐ。
なんか俺について重要なことを話してなかった?
「い、いやただ単にかわいいなと」
「騙されません!あなたごとき、ここで消し去ってくれます!」
ミルダが魔弾を乱射してカムリに牽制をかける。
魔王の系譜なだけ一つ一つの威力は絶大だ。
しかし
「カムリ君、君はいつも変なことをするんだから」
「ローランド君……」
取り巻き第一号の優男がカムリを抱えて距離を取る。
───そして
「カムリ君に攻撃した罪、償え」
優男がいきなり珍妙な物を取り出したかと思うとパンッと乾いた音がなった。
どこからか硝煙の臭いがする。
「ミルダッ!?」
「お、お兄様……」
何が起こったか分からないミルダの肩口には人差し指がそのまま入りそうな穴が穿たれていた。
ミルダは流れる血を押さえて力なく膝をつく。
あまりのことに視界が淀んだが、やることは分かっていた。
「レヴィ!ミルダを!」
「わ、わかった!」
レヴィは俺が持ってきていた回復ポーションを受け取るとミルダに駆け寄る。
「ミルダ、ちょっとごめんね……ッ!?なんだこれは!?こんなものをどうやって!?」
レヴィの右手には不可思議な刻印が施された金属の塊が収まっていた。
今までこんな代物を持っていた勇者はいない。
素人目からもわかるほど、その塊は異質であった。
「驚いたかい?これはカムリ君がつくったピストルという武器だそうだ。今回は特殊な聖弾というものを使わせてもらった。呪いで強化された魔獣でさえも浄化できる威力を持つ」
「そ、そんなローランド君!」
勇者カムリが優男に叫ぶ。
「ひどい!相手は言葉も通じるんだよ!?」
「あのままだと逆にカムリ君が殺されていた。君は優しいのは分かっているがあれは人間を害する者だ。カムリ君がやらなかったら誰がやるんだい?世界を平和にしようと言ったのは君じゃないか」
「うう……」
この時、俺は真っ白の頭で理解した。
──ああそうか。
全てはこの勇者が悪いのか。
ミルダ達を傷つける目的で、それを作ったのか。
「こんな!こんなはずじゃなかった!」
もうカムリの言葉は聞こえない。
こんなはずじゃないのに?
こんな目的以外の目的があるのか?それに。
「僕は!みんなを守りたくて!それを」
「魔王を倒せば世界が平和になる。どうせカムリ君はきっと全部を救いたいんでしょう?でも、さすがに危険すぎるね」
「いいや、共存できるはずだよ!」
共存?
共存はできる。
事実、俺とヒルダは仲がいい。
どんなときだって一緒にいた。
ミルダだってそうだ。
スケさんだってカクさんだってシルフィーナだってコユミだって。
人間と遜色なかった。
だから共存できるはずだ。
「きっと仲良くできるはずだよ!」
だがな……勇者カムリ。
お前はわかっちゃあいない。
「魔族だって───!」
「うるせえ!わかった風にそんな口をきくな!それはな!──それは本当に『魔族』を理解しているやつだけが言っていい言葉なんだよ!」
俺の心の何かがきれた。




