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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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おお魔王よ、一乙するとは情けない

「ゴメンネ、ヨワクッテ……」

「まあ……なんだ。ちょっとあれじゃな」


 ベッドの上で包帯が至るところに巻かれたヒルダはか細く呟いた。

 これはちょっとヒドイ。目が死んでいる。


「姉様、元気をだしてください。いくら勇者が魔力ポーションがぶ飲みブッパ戦法をとってきたからってそんなへこたれることはないですよ」

「魔法……コワイ……」


 そう、ミルダの言う通り次に来た勇者パーティーは魔力の全てを消費して放つ広範囲魔法をポーションを飲みまくり連発というなかなかにふざけたことをしてきたのだ。

 魔王の間には逃げ場なんて無いし防ぐなんてできるはずもない。


 なんとかヒルダは隙をみて勇者パーティーを全滅させることができたが、第二形態でもない状態で受けた傷はただではすまない。

 で、この通りだ。


「レンバル先生からは全治3日だとよ。幸い骨が折れたとか内臓が壊れたとかはないからしっかり休んで傷の回復に集中しろ」

「……ワカッタ」

「ったく感謝しろよ? 俺秘蔵の完全回復ポーションを使ってやるんだから。魔族だから効き目は薄いが無いよりかはマシだろ」


 俺はいつまでも下を向いているヒルダの頭をくしゃくしゃっとするとミルダとレヴィと一緒に部屋の外に出た。

 早く治ってくれよ。


「大丈夫でしょうか姉様。ああ見えてかなり繊細ですからね」

「確かに魔王はそんな性格してそうだ。……そういえば相棒、魔王がいなかったら魔王城は誰が守るんだい?」

「んあ?」


 これからのことを考えていた俺に素朴な疑問を呟くレヴィ。

 ……あーあ、そうだったそうだった。忘れてた。

 俺は今後のことを憂い、舌打ちする。


「チッ。めんどくせぇがやるしかない。ミルダ、魔王城の人員に緊急事態だと通達しろ。アレをやる」

「お兄様、本当にやるんですか?」

「じゃあこの流れでおまえがやるか?」

「嫌です」

「あ、相棒? 一体何が始まるんだい?」


 レヴィが少し不安気な顔つきで俺の顔を伺う。

 いい機会だ。レヴィにも少し手伝って貰おう。


「何がって臨時態勢だよ」

「臨時態勢?」

「魔族の掟第二十七条。もし魔王が崩御、又は戦闘不能になり子息や跡継ぎが不確定、もしくは未熟だった場合その権限は一時その魔王の腹心に委譲される」

「……つまり?」

「お兄様。持って参りました」


 ミルダが持ってきたのは赤く禍々しいマント。

 俺はそれを翻しながら羽織る。


「いきなりなんだい?それじゃあまるで相棒が魔王みたいじゃないか」

「そうだよ?」

「へ?」


 訳が分からないような顔をするレヴィの横でミルダはさっとひざまずく。


「ご命令を魔王グレイ様」

「は? どういうこと?」

「だからミルダが言ったろ?」


 俺はため息をつくとレヴィに向かって一言。


()()()()、グレイ様とは俺のことだ」





 俺は身の丈にあわない玉座にふんぞり返り、勇者を迎え撃つ準備をしていた。

 顔には出していないが、結構恥ずかしい。


「相棒? なんとなく状況は分かったんだけどその立場はミルダでもいいんじゃないか?」

「俺もそう説明したんだがなあ。ヒルダはなにがなんでも俺にやらせたかったらしい。ほんと面倒な役回りだよ」


 ヒルダが用意した俺に対しての最高の嫌がらせだ。

 まがまがしい衣装に身を包んでいるものの、人間味はどうあがいても出るしぶっちゃけ魔王とは思えない。

 それでも規則は規則なのでやるしかないのだ。


「今まで人間が魔王をするなんて前例がないしな。俺がルールだ」

「私はやりたくないんだけど。魔王の護衛なんて勇者の相棒と真逆じゃないか」


 レヴィが納得がいかないな顔をする。

 「なぜ私が……」と呟きつつ何度も自分の不憫さを呪っていた。


「恨むなら俺を選んだ自分を恨め。……でもまあ戦闘は極力避ける方針でいくぞ。魔王城の警備も最高まで引き上げられているしここまで来る勇者も少ないだろう」

「万が一勇者が来たときは?」

「おまえも腹をくくれ。あんなキルマシーンに『魔王が怪我したんで代理してます。魔王ならあと3日後に復活するから今日のところは帰ってちょ』だなんて言えるわけがない」

「それもそうだけどさ……」


 そもそも勇者相手に会話が成立するかも怪しい。

 ドア開ける、突っ込む、切るしか考えてないやつらだ。

 しかもここは魔王城、最高にバーサーカーな思考になっているはず。


「安心しろ。一応戦闘を回避する手立てはうってある」


 俺はレヴィを安心させるために罠の起動スイッチを見せる。

 この時のために考えた仕掛けだ。

 ちゃんと機能するといいんだが……。

 そんなことを思っているとミルダから念話が頭に響く。


『お兄様。覚醒勇者が現れました。精霊持ちの剣士です。』

「うッわマジか。足止めの方は?」

『現在ローレライに遅延行為をさせていますが頂上に来るのは時間の問題かと』


 うーむ。それは不味いな。


「ミルダは勝てそうか?」

『場所にもよりますが第二形態でも完全勝利は難しいと思います。お兄様のためなら行きますがどういたしますか?』

「ならいい。そのまま頂上に行かせろ」


 心配そうに聞いてくるミルダを俺は制止する。


『お兄様が相手されるのですか!? いくらなんでも危険じゃ……』

「大丈夫。ちゃんと策はとあるしレヴィもいる。それにその勇者に人員を割いたら後の勇者の対応が難しくなる。ヒルダのためにもそれは出来ない」

『……そうですか。それならミルダはなにも言いません。お兄様、御武運を』


 ミルダの念話が途絶えた。


「レヴィ。早速仕事だ」

「え!? 私は何をすれば?」

「そうだな……とにかく腹をくくれ。人間を殺す覚悟をもて」

「そ、そんな……私には無理だ」

「ちなみにその勇者は精霊持ちだぞ」

「よし。ぶっ殺してやる。精霊に現を抜かす勇者などこんがりと焼いて精霊より私達の方が優秀だと証明してやる」

「よし、その調子だ」


 目から光を失ったレヴィがやる気になったところで俺は剣の手入れをする。

 俺は勇者と違って伝説の聖剣や魔道具なんて高価なものは持っていない。

 人間の大陸に行った時に古市で変な光り方をしていたこの剣だけが頼りなのだ。

「あ、掘り出し物っぽそう」と思って買ったのだが後でよく似た剣を持つ勇者が以前来たのでおそらくそれの習作である。


 でもまあ、今まで折れてないのでこのように使っている。銘はいれてないがあともう少ししたらいれてやろう。

 名剣がないのならば俺が作るまで。

 この剣に逸話を残して後世の凄腕達が歓喜しながら使う姿を想像すると笑いが止まらない。


「後は迎え撃つのみ。気合いいれていくぞ」

「おう!」


 気炎万丈。俺達はさっと身構える。

 そして


「魔王! 今日がおまえの命日だ!」


 勇者パーティーが入ってきた。

 ──来たか……。

 俺はこの時のために用意していた台詞を言う。


「魔王はこちらにいらっしゃいません。お引き取りを」

「え?」


 やる気満々だったレヴィが「え!? 聞いてないよ!?」と言いたげな視線を向ける。

 言っただろ戦わないは避けるって。


「魔王は今出張中だ。扉にも張り紙をしてあっただろ」


 俺は勇者パーティーに向かってやれやれとため息をつく。

 そんな俺に勇者は近づき剣を向けた。


「ふざけてるのか? 魔王はどこにいる」

「いやだから出張中って。北にいるよ。俺も討伐に来たんだけどさ、いなかったんだよ。しょうがないじゃん」


 これが俺の作戦。

 題して『いないもんはしょうがない。後日来ましょう』作戦だ。


「だって向こうも王様だよ? 国事行為をしないといけないじゃん。あ、どうする? ゲームする? 俺、暇だったんだよね。相棒のレヴィとじゃんけんしてたんだけど飽きちゃってさ。さ、座って座って」

「お、おう」


 俺は勇者にとりあえず座るように勧める。

 しかし


「そんなわけないじゃん!! どっからどう見てもそいつが魔王じゃん!」


 ふわふわとした発光体が勇者の顔を飛び回り勇者の行く手を遮る。

 ピカピカと光る邪魔な存在、精霊がツッコミをいれてきた。

 これだから精霊は厄介なのだ。余計なことばかりする。


「何を言ってるんだ? 俺は人間だぞ?」

「嘘だ! 変な薬とか飲んで擬態しているんだ!」

「そうだったのか!」


 立ち上がった勇者はまた俺に剣を向ける。

 雲行きが怪しいな。このままなぁなぁでバレたら対応が面倒だ。


「おいおい待てよ! 何でそんなことしないといけないんだ!? なあレヴィ」

「お、おう。そうだね」


 俺とレヴィは手を上げて無害であることを強調する。

 だが精霊の追及は止まらない。


「怪しいよ! 神龍をつれている時点でおかしいもん! 今どき精霊じゃなくて神龍をつれている奴なんていないもん! 時代錯誤も甚だしいよ!」

「ぶっ殺すぞこの蛍光灯」

「イッタァ!? あっ! ぶったね! この僕をぶったね! 精霊王様にもぶたれたこと無いのに!」


 精霊は憤慨し点滅する。

 早速バチバチなレヴィと精霊、互いに毛嫌いしているようだ。


「ねえやっちまおうよ! 僕にビンタしたんだよ!? 死刑だ死刑!」

「たかが蛍モドキをつぶして何が悪い! おい勇者!良いことを教えてやる! コイツらっておまえらのことゴミのようにしか思ってないんだよ! おまえらが死んだらポイだぞポイ! すぐに忘れるんだ!」

「ち、ちがわい! ちゃんと覚えてるよ! 多分!」


 神龍と精霊の醜い争いが繰り広げられる。

 おまえら本当に神聖な生き物なんだよな?

 俺はここにいる二人が高尚な生き物だとは思えないね。


「もういい、ぶっ殺してやる! 羽虫に何を言っても無駄だった!」

「ふざけるなトカゲ風情が! 君たちは神域で永遠に冬眠してればいいんだよ変温動物!」


 これまでに無いくらいの灼熱と暴風が部屋を二分する。

 流石にまずいか。

 これには俺達も止めに入らないとただではすまない。

 俺は火の粉を払いながらレヴィに近づく。


「おいレヴィ。落ち着け」

「私を止めるな相棒。ここで退けば神龍の立場がなくなる」


 文字通りさらに熱くなるレヴィを止めようとするが


「あれ? もともと神龍(トカゲ)に立場なんてありましたっけ?」

「殺す」


 精霊の挑発に目の光を失ったレヴィがさらに暴れだす。

 とっさに羽交い締めにするが、俺の拘束を離れるのも時間の問題だ。


「落ち着けって! おいおまえも何ぽけーってしてるんだよ! 早く止めやがれ!」

「止めるって……他人事に首を突っ込むのは野暮じゃないか?」


 俺が呼びかけるも、勇者は一向に精霊を止めようともしない。

 コイツ……!なにも分かっちゃいない!

 俺はため息をついて一言。


「あのなぁ──ペットの後始末は飼い主の義務だろうが!」

「「おいコラ誰がペットだ」」


 レヴィと精霊の声が見事にハモった。


「ペットの後始末は飼い主の役目。おまえがちゃんとしつけないからこんなワガママになるんだ」

「そ、そうなのか。セルシオ、メッ」

「勇者君はなんでそんなバカみたいなこと聞くの!?」

「レヴィもダメだぞ。そんなことしていたら周りに迷惑がかかるじゃないか」

「ねえそれペットとしての言い方だよね? 言い方がすごく優しいんだけど?」


 俺達飼い主は躾という義務を負っている。

 間違いは随時正してやるのだ。


「もうやだッこんなとこ! 帰る!」


 いきなりそんなことを言い出したワガママ精霊は勇者から逃げるようにドアに手をかけた。

 ガチャガチャ。


「……あれ? 開かないんだけど」


 何度やっても鍵がかかった音が響く。

 精霊が首をかしげるとそれを不審に思って勇者達が近づいた。


 ……かかったなアホがァ!

 俺が玉座に取り付けたボタンを押すとガチャンという音とともに一気に床が開く。

 精霊と勇者が断末魔をあげて奈落の下に落ちた。

 計画とは多少違ったがこれでよし。


「ええええええ!?」


 これにはレヴィもビックリして目を見開く。。

 大丈夫、ちゃんと滑り台式に外に放逐されるようになっている。死にはしない。


「ったく手間取らせやがって。精霊がバカだったからよかったよ」

「ちょちょちょっと!? いくら私でも同情したよ!?」

「魔王とは卑怯なものなんだよ。レヴィ」


 俺は足を組んで愉悦に浸る。

 やはり成功するとスカッとするものだ。


 レヴィは目を覆って上を見上げる。


「今、一番相棒が魔王らしいと思ったよ」

「褒め言葉をありがとう」


 当然も当然、今の俺は魔王グレイ。

 魔王のしきたりに囚われない最恐最悪の魔王だ。

 気分がいい。少し魔王笑いというものをして見よう

 フハッフハハハハ!!


「お兄様……」

「へあっ!?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 伊○助化したヒルダ可愛い( *´艸`) 蛍光灯からのア○ロは笑いました(笑) センスありすぎますね。
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