ウブですねぇ
面白いことになってまいりました。
まさか、あのアイラ様がグレイ様に惚れるとは。
「こっ……!? ば、馬鹿を言うんじゃない! 誰があんな奴に……!」
「あら? では、グレイ様のことが好きではないと?」
「あ、あんな男に惚れる要素がどこにある。少なくとも性格は最悪だろう」
私の言葉に対し勇者アイラは頬を赤らめながら反論する。
……やっぱり恋する乙女じゃないですか。私に目を合わせてくださいよ。
「では、なぜグレイ様と話されると嬉しくなるんですか?」
「そ、それは……人が恋しいからだ。独房生活が続けば私だって寂しくもなる」
「本当にそれだけですか?」
「ああそうだ!」
私の問いかけにアイラさんが強く答える。
……少し、ボロをはがしてみますか。
「分かりました。あなたは恋なんかしていないのですね」
「そうだ」
「……では、今この場でグレイ様をどう思っているのか、正直にお答え下さい」
「だから言っているだろう。私はあいつに好意など抱いていない」
「もしそうなら、今この場で具体的に言えるはずです。さぁ」
私は勇者アイラの目をじっと見つめ、返答を待つ。
すると彼女は私から視線を逸らし、何とも言えない表情を浮かべた。
そして、しばらく沈黙した後で口を開く。
「あの男は……不真面目だ。そして人を馬鹿にすることを生きがいとしている。さらに、自分勝手なところがある。勇者としてもそうだが、まず人間として色々と問題のある男だ」
「ふむ、他には?」
「ああ、それに口が悪い。初対面の私に敬語を使うこともなくズカズカと私の領域に入り込んでくる。しかも、それが当然のように振舞ってくるんだぞ? 信じられるか?」
「えっと、他にはありますかね」
「ある! まだまだ言い足りないくらいだ。人の感情を踏みにじって、私に堂々と『間違っている』と言ってくるような奴だ。そんなことを言われたのは初めてだった。ああ、思い出すだけで腹が立つ。私を何だと思っているのだ、アイツは。それにグレイは自堕落なくせに私に対してだけはお節介焼きで、私の行動にいちいち口を出す。昨日だってそうだ、『甘い物いるか?』とケーキを差し入れてきたり、私が寝るまでずっと話し相手をしてくれたり、私が頼んでもいないのに勝手に世話を焼いて…………あっ」
……。
「グレイ様の悪いところは考えないと出て来ないのに、良いところは考える間もなく言えるのですね」
「ち、違う!今のは……その……」
勇者アイラの顔色がみるみると変わっていく。
どうやら自分が何を言ったか理解したようですね。非常に分かりやすい惚気をありがとうございます。
「あー、はい。もう大丈夫ですよ。ご協力感謝します。あなたのグレイ様に対する甘酸っぱい気持ちはよく伝わりました」
「う、うるさい! 忘れてくれ! 私は恋心など抱いていない!」
「はいはい。そういうことにしておきましょうか」
勇者アイラが顔を真っ赤にして叫ぶ中、私は適当に返事をする。
しかし、なかなか面白いものを見せてもらいましたね。まさか、こんな展開になるとは……。これは予想外でしたが、悪くないです。
「くっ卑劣な!」
「勝手に自爆したのはあなたですよ。どちらかというと卑しいのはあなたです」
完全に墜ちた最強の勇者に私はため息をつく。
まったく、ここまでチョロいと逆に不安になりますねぇ。
まぁいいでしょう。秘めた恋心を自覚し始めたところですし、追い打ちをかけましょう。
私の後ろで冷めた目をしているライラに向かって命令する。
「ライラ」
「はい、なんでございましょう」
「最近あなた……私に黙ってお兄様陣営の中将とお付き合いし始めたようですね」
「なっ!? それをどこで……!」
「別に私は怒っているわけではありません。ライラがそそのかされなければいいだけの話ですから。……ただ、少しこのことを利用したいと思いまして」
ライラがごくりと唾を飲み込む。
はて? 私、こんなにも嫌われるようなことをしたでしょうか? まぁ、いいですけれど。
「ライラ、今この場で中将としたデートのことを全て吐き出しなさい。それでこの件は不問にしてあげます」
「え、ええ!? この場でですか!?」
「早くしなさい」
「うぐっ……わかりました」
私の命令でライラは渋々話し始める。
「この前、私と中将は仕事の合間をぬい、なんとかスケジュールを合わせました。そして、一緒に街へ出かけることに成功いたしました。場所は街のカフェです。そこで、中将は私のためにブレスレットをプレゼントしてくださいました。丁度、付き合い始めて三カ月の記念日だと覚えていてくれいたのです。とても嬉しかったです。……その後、私たちは夜景が見えるレストランで食事をとりました。その時、彼は私にこう言ってくれたんです。『派閥は違うけれど、君への思いは嘘偽りはない。これからもよろしく頼むよ』と。そして、最後の別れ際にキスをしてくださったんですよ。ああ、幸せでした。私、この日を一生忘れません」
「そうですか。よく頑張りました。下がってよろしい」
「はい! 失礼致します!!」
元気な声で挨拶をし、ライラがわざとらしく咳払いをした。きっと心の中は幸せと羞恥の中で混乱していることでしょう。
……さて、ここからが本題です。
「勇者アイラ……あなたは今、ライラの話を聞いている最中にグレイ様を思い浮かべませんでしたか?」
「なっ……!」
赤面した勇者アイラが目を見開きながら驚く。
どうやら図星みたいですね。
「し、してない」
「では、想像してみてください。……あなたは夜景の綺麗なレストランの一室でグレイ様と食事をとっています。目の前には美味しい料理が並び、目の前に座るグレイ様に優しく微笑まれている状況です」
「…………」
勇者アイラが無言になる。
私は彼女の表情を観察し、内心ほくそ笑みつつ話を続ける。
「グレイ様との食事を楽しんでいる中、ふっとあなたは考えてしまう。もっと近づきたい、目の前とは言わず、隣にいたい。グレイ様と同じ目線で、グレイ様があなたに合わせてくれる歩幅で、グレイ様の温もりを感じながら、グレイ様と一緒に歩きたいと……」
「……」
「どうです? 勇者アイラ。グレイ様の隣に立ちたくありませんか?」
「私は……そんなこと……!」
「本当に? 本当はグレイ様の横に立ってグレイ様に触れていたいのではないですか? いつものように勇者としてではなく、一人の女として」
「ッ……」
勇者アイラが黙り込む……いや、これはショートしていると言った方が言葉の意味合い的に合っていますね。
流石世間知らずの乙女、今の心臓の高鳴りはさぞかし痛いでしょう。恋の痛みとはよく言ったものです。
「アイラ様ー?」
「……すまない。今日は……帰ってくれ。しばらく一人でいたい……」
「分かりました。……ああ、言い忘れていました。聖教国との交渉の件ですが、明後日に帝国の船が聖教国にお連れします。それまでごゆるりと」
「わかった……」
「それじゃあ、また。……あっ引き続き、あなたの監視はグレイ様が務めますのでご安心ください。よかったですね」
私はにこやかな笑みを浮かべると、その場から立ち去る。
後ろからは勇者アイラの「うにゃあああああ!!」という声と簡易ベッドが軋む音が聞こえた。
さてさて、『アストレイルの直系』の恋路は、ご先祖様のようにハッピーエンドを迎えられるのでしょうか。
私としては、アストレイルのような王道恋物語よりも、勇者アイラのような初々しい恋愛の方が好感が持てるのですけどね。今後が楽しみです。




