とっても素敵ですよ?
翌日の早朝、俺はレヴィと共にリゼの招集を受けていた。
俺たちの前にはリゼとライラ、そして、なぜか俺に目を合わせようとしないアイラがいる。
「さて、今日は集まってもらってありがとうございます」
「それで、何の用だ? 確かに今日は聖教国へと出発する予定だったが、朝早く出発することもないだろ。聞いたぞ? 意外と聖教国は近いらしいじゃねぇか」
「えぇ、実はグレイ様には少しばかりやってもらいたいことがありまして」
「なんだ?」
目をこすりながら欠伸をする俺に、リゼが告げる。
「実を言うと、聖女様がおわす本教会は一部の聖職者を除き男子禁制なのです。おそらく交渉の場も例外なく男子禁制になるでしょう」
「おい、俺は男だぞ? もしかして『ついさっきまで気づきませんでした』なんて言うつもりじゃないだろうな。この野郎」
俺が睨むと、リゼは余裕綽々に笑う。
その態度はまるで、問題ないとでも思っているようだ。
「安心してください。何もかも計画通りです」
「いやいやいや、聞いているかぎり重大な欠陥だろ。どう考えても俺が入る余地がないじゃないか!」
「大丈夫ですよ。私に任せてください」
自信満々で胸を張るリゼ。
すると、懐から三本の薬ビンを取り出した。
中には紫色のドロドロの液体が入っている。
────おい、この流れはデジャヴを感じるぞ。
「グレイ様、これを飲んでみてください」
「やだ」
そんな提案は即答で却下だ。こんなもの飲んだらダメに決まっている。
むしろ、この状況でこの暗黒物資を飲むやつがどこにいる。
首をぶんぶんと振り、拒絶の意志を全力で示す。
「グレイ様がぐびっと飲むだけで問題は解決するのですよ。どうか私を助けると思って……」
「やだ! 絶対に嫌だ! 俺知ってるぞ! それは性転換薬だ! 泥水に池の水を混ぜて一週間煮詰めたぐらい不味いんだぞ!」
「チッ」
リゼが露骨に舌打ち。やっぱりかお前ぇええええ!!!
忘れもしない、魔王城でヒルダが興味本位で飲ませてきたレンバル先生謹製の性転換薬。勇者の弱体化と共に羞恥心を煽ることができる悪魔の薬だ。
これを飲んだことにより、俺は悲劇のお姫様ごっこという罰ゲーム兼勇者処理を行う羽目になった。あの時は本当に地獄だった……思い出したくもない。
「どうして……どうしてお前はそれを持っているんだ……」
「魔王大陸からの帰り際にソーニャ様から頂きました。お土産です」
「ソーニャぁああああ!!!」
あの人造勇者、最後にとんでもない物をリゼに渡しやがったな! どれだけのミラクルを起こしてるんだよ!
「いいですか? これを飲めば、グレイ様は合法的に教会の中に入ることができるのです」
「俺の尊厳が破壊されるんだけどぉ!? というか一回破壊されてるんだけどぉ!?」
「大丈夫ですって。ほら、グイッといってくださいよ」
「ちょっ、待て、待ってくれ! 話せばわかる!」
「問答無用です」
「ぎゃあぁあああああっ!!!」
リゼの手によって無理やり口に瓶を押し込まれる。
抵抗するも虚しく、口の中に邪悪な劇物が流し込まれた。
吐き出そうとするも、もう遅い。喉の奥へと押し込まれてしまう。
体温が急に高くなった。
体から蒸気が吹き出し、意識が朦朧とする。
全身に力が入らない。立っていられないほど膝が震えている。
「うぅ……」
「ふむ、成功ですね」
リゼの声を聞きながら、俺はその場に倒れ込んだ。
薄れゆく視界の中で見たものは、満足そうに微笑むリゼの姿だった。
****
「……──棒!」
どこからか、声が聞こえる。
「──相棒!」
どこからか、体が揺さぶられる。
「相ぼ──」
「グレイ様、今すぐ起きないとその不相応の体に「流石に起きるわボケェ!」
目を覚ますと、そこには見慣れた顔があった。
リゼだ。相変わらず腹立たしい笑みを浮かべていやがる。
「テメェ、よくも性転換薬をこの俺に飲ませやがったな」
「お似合いですよ。特にその整った顔立ちにイラって来ます。なんで面白い顔をしていないんですか」
「クール系美人で悪かったな」
「ケンカ売っているんですか?」
リゼが睨んでくる。煽るようなことを言った覚えはないんだが……。
「いいです。展開に失望しましたが、作戦自体には影響がありませんので」
「おいこら、勝手にトランスフォームさせた挙句に『展開に失望』とか言うんじゃねぇ。……おいレヴィ。お前も俺の方をを見ろ」
「いや……またグレア姫を見ることになるとは思わなくてね……。ごめん、今日一日中直視できないかも」
「…………」
レヴィに謝られた。解せぬ。
……まあいい。それよりもリゼの話を聞くとしよう。
「これで文句はねぇだろ」
「はい。ご協力感謝します。……んで、この後の予定ですが────」
リゼが俺達に聖教会での行動を説明する。
まず、帝国最新の船で聖教国へ行き、アイラの身柄を聖教国に引き渡す。
ちなみに、その時に聖教の枢機卿や聖教のお偉いさんが来る手はずになっているので全力で媚を売っておくこと、だそうだ。
特に俺は顔がいいので、そこを存分に活かしてほしいとのことだった。俺のことを娼婦か何かと思っているのかこいつは
そして本番、聖女とのタイマン交渉であるが、これは我らがリゼが担当するらしい。
なんでも、当代の聖女は損得勘定に関してとんでもなく頭が回るらしく、リゼが出張らないと足元をすくわれるという。
そういや、以前カーラが「聖女様はクラーケンを追い払う際、魔王側に被害が出るように追いやってるらしいわよ」なんて言っていたな。どうやら噂通りの人物のようだ。
「この時、絶対に口を開かないで下さい。話を振られても、発言を最小限に抑えていただきたいのです」
リゼが真剣な表情で言う。
「理由を聞いてもいいか? 」
「はい。理由は二つあります。一つは、聖女様に付け込む隙を与えさせないため。聖女様はそこら辺の貴族よりも場数を踏んでいます。舐めてかかったら痛い目を見ますよ」
「なるほど、そりゃあ様々な要人と会談するからな」
確かに、聖女の肩書を持つ以上は、それ相応の場数をこなしていることだろう。交渉力は嫌でも磨かれる。
……だが、もう一つの方はどういうことだ?
「もう一つは……その……」
「なんだよ、早く言えよ」
「…………いや、ごめんなさい。不確定要素なのでグレイ様にお伝えすることはできません。忘れてくれても構いませんよ」
「えぇ……」
なんだそれは。気になるじゃねえか。
「大丈夫ですよ。いざとなったら私が何とかします」
「本当か?」
「もちろんですとも。私を信じてください」
リゼが胸を張って答える。
……嫌な予感がするんだがなぁ。
「ならいいけど……」
不安を無理やり押し殺し、リゼに返事をする。
まぁ、俺は今女になってるわけだしな……。こんなに身を削って、何もしないんじゃもったいない。
「では、早速準備に取り掛かりましょう。……グレイ様は引き続きアイラ様の監視を。レヴィ様はグレイ様の補助を行ってください」
「了解」
「わかった」
「それと、グレイ様。先程お渡しした薬ですが、定期的に摂取してください。効果は一日続きます」
「……分かった」
リゼの指示に従い、それぞれ行動を開始する。
「……というわけだ、アイラ。逃げようと思うなよ」
「……」
俺の言葉に、アイラは無反応だった。
「どうかしたか?」
「……グレイ。胸は……大きい方がいいか?」
「はぁ?」
突然何を言い出すんだこのバカ勇者は。
その目はどこか遠くを見ていて、心ここに在らずといった感じである。
そして、そのまま自分の胸に手を当てながら呟くように言った。
「……お前の方が、大きい」
「…………」
アイラの言葉で、俺は自分の胸を見る。
案の定つま先は見えず、深い谷がそこにはあった。
「……別に、大きさは気にしてないぞ」
「そうか……。……男に……負けた」
アイラはそう呟くと、その場でうずくまってぐずり始める。
何とも言えない雰囲気がその場を包んだ。
……なんか、ごめんな。




