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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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第百回記念特別閑話 突撃。勇者の部屋探検隊

 今、私はグレイの部屋の前に立っていた。


 その理由はグレイとレヴィが帝国でヒーヒー言っている間にグレイの部屋のものを断捨離するため。だから私はマスクや手袋、汚れてもいい服に着替えている。


 グレイには勇者の遺品を集めるという謎の収集癖がある。本人曰く「何かが起こった時に勇者の遺品を使ってなんとかできるかもしれない」から集めているのだそうだ。

 しかし、私達からしたら無用の長物。ゴミでしかない。

 大体人間大陸産の武器や防具なんてイマイチ使いどころが分からないのよ。ビキニアーマーなんて男のいやらしい欲望がつまっただけのロマン防具でしょうが。


「さてと……いざ尋常に突っ込みますか」

「姉様、やめておいた方がいいと思いますよ? お兄様は何か罠を仕込んでいる可能性もありますし」

「はぁ、まったく。我らが魔王の趣味がまさかの物色とは。いくらヒルダさんの奇行になれている私達と言えど呆れますわ」

「まーた何かバカなことをやってるよ……」


 私の後ろにはミルダ、シルフィーナ、アニマが並んでいる。まるでひと昔前に流行った勇者パーティーの陣形の組み方のように。

 これ、実は一番強い人を盾にするかなりゲスな陣形なのよね。だから大抵勇者が前に立つ。

 勇者が率先して前に出るってどうなのかしら……。


 咳払いをして、後ろでビクビクとする三人に命令する。


「とりあえず、まずは私がいくからみんなはフォローお願いね?」

「ミルダは止めました。お兄様に怒られるのは姉様です」「了解ですわ。真っ先にグレイに突き出します」「アタシは知らねぇからな」


 そして扉に手をかける。そのままゆっくりと開くとそこには―――――


「あれ? 思ったよりもきれい」


 部屋を見渡すもきっちりと整頓された綺麗な部屋だった。

 散らかっているどころか埃一つない。まるで誰かがつい最近掃除をしたかのように。

 おかしいわね……グレイは整理整頓はできないタイプなのに。誰が掃除したのかしら。


「あ、姉様! 見てください!」

「ん?…………こ、これは!?」


 部屋の中央にあるテーブルの上に一冊の日記帳が置かれていた。

 表紙には『日記』と書かれている。


 ……んー、流石私の妹。いいものを見つけてくれるじゃない。


「文字のきれいさから察するにレヴィの日記帳ね」

「なんだと?」


 レヴィの名前を聞いてアニマが反応する。


「あの子、几帳面な性格だから。きっと一日の出来事を刻細やかに書いているはずよ」

「シルフィーナ、読み上げろ」

「えぇ? なんで私ですの? ……まぁ、いいですけれど」


 そう言って彼女はパラパラとページをめくる。そしてとある日のページを開いた。


「えっと、『〇月×日。今日は魔王城のメイドさん達がお茶会を開いてくれた。私がお茶菓子を持って行ったらとても喜んでくれて嬉しかった』ですって」

「つまんな」

「読ませておいてなんて言い草ですの!? 大抵の日記なんてそんなものですわ」


 再びシルフィーナがページをめくるとまた違うことが書かれていた。


「『△月□日。今日は久しぶりに魔王城の外に出た。なんでも、相棒がケーキを奢ってくれるらしい。だからチーズケーキをお腹いっぱい食べた。とてもおいしかった』…………です」

「やっぱくだらない。な、シルフィーナ」

「……嫌なことを思い出しましたわ」


 シルフィーナが青ざめて日記帳をそっと閉じる。

 そういえばシルフィーナ、まだグレイに借りたお金を返していないのよね。踏み倒す気なのかしら。


「別の日にいきますわよ……」

「お、おう」

「『☆月〇日。今日は相棒と一緒に魔王の誕生日プレゼントを選んだ」


 ああ、私の誕生日の時のお話ね。

 あの時は本当にびっくりしたわ。いきなりボロボロの状態で空から降ってくるんだもの、驚かない方が無理って話だわ。


 シルフィーナがその後を読む。


「今回は私達がとても頑張ったので素材と大金を支払って装飾品をオーダーメイドすることにした。出来上がりが楽しみだなぁ』」

「それで、出来上がったのが今姉様がつけているイヤリングですね」


 私の耳元で揺れるピアス。レヴィが書いていることはこのピアスの誕生秘話らしい。

 もしかしたら、グレイが私の誕生前日にどこに行っているのかがわかるかもしれない。


 私達が期待を膨らませる中、シルフィーナが続きを読み上げる。


「『△月■日。頼んでいた誕生日プレゼントが完成した。よし、これで魔王も喜んでくれ……あれ? なんで受注先が武器工房なの? 私達、装飾品を作ってくれって頼んだよね? なんか剣が送られてきたんだけど?』」

「「「……」」」


 私達は黙り込む。まさか、このイヤリングが剣から作られたとは思わなかったわね。

 いや、別にいいのよ。ただの贈り物だし。でも、ねぇ……。


 シルフィーナがさらに日記を読み進める。


「『◎月×日。どうやら委託した人物が悪かったらしい。さらに他の装飾工房に依頼したせいで誕生日プレゼントの費用が倍プッシュになった。でも、なんやかんやあって雷無効の付与は消えなかった。……なにが「これも全て私の計算通りです。いい思い出になったでしょう?」だ。全ての原因はこの人のせいなのに』」

「『この人』って誰なのかしら?」

「さぁ? 分かりませんわね」


 その後も日記を読んでいくが『この人』についての情報は特にこれといった情報はなかった。

 むぅ、残念ね。


 そして時が進み、カーラが現れた時の時系列になる。


「『★月×日。相棒に緋色の魔女を監視するように言われた。話している感じ、彼女はそんなに悪い人ではないと思う。でも相棒はかたくなに彼女を信じようとしなかった。どうしてだろう? 』」

「ああ、あの時のことですか。ミルダも言われましたよ。……まぁ、ミルダは最初っからあの魔女を敵だと確信していましたからね! 優秀なので!」


 シルフィーナは胸を張ってドヤ顔を決める。

 でもあなた、結局油断したじゃない。提出されたコキュートスの報告書でバッチリ書かれているわよ。


「『☆月○日。私達の船が海賊に襲われた……と思ったら、ミルダが率先して逆に海賊を襲った。なんでだろう、すっごく私達の方が海賊らしい気がする。特に相棒、沈没した海賊船から引き上げた金貨の山にダイブするんじゃない。海水がついて汚いでしょ!』」

「……ミルダ、聞いてないわよ。金貨を手に入れたなんてこと報告書に書かれていなかったわ」

「あ、姉様。急用を思い出しま────」


 私は素早く立ち上がると逃げようとしたミルダの首根っこを掴む。


「逃がさないわよ。詳しく聞かせてもらおうかしら」

「い、嫌ですぅう!! 離してください!!」


 脱税疑惑がかかるミルダに尋問をした結果、やはり海賊から奪った金貨は全てコキュートス討伐隊の懐に入っていた。

 ……えぇ、確かにこれは横領よね。差し押さえ対象だわ。利子付きでこってり搾り取って私の懐……ンン゛ッ国庫に入れないと。


「く、苦しいです姉様……ぎぶ、ギブッ!?」

「あら、ごめんなさい。つい力が入ってしまったわ。シルフィーナ、次を読みなさい」

「え、えぇ……」


 シルフィーナが日記をパラパラめくる。


「『☆月△日。相棒が庭にある一番大きな木に何かを埋めていた。何を埋めたのかをチラッとみたら、相棒にお菓子を渡されて「いいかレヴィ、世の中には知らない方がいいことだってあるんだ」と口止めされた。一体何を隠そうとしているのだろうか?』」

「お! これは当たりっぽい!」


 ついに来た! なんか隠してそうなムード!

 これよこれ、私が求めていたのはこういうものよ!


 レヴィが書いた『何か』は他の三人も気になるようで、それぞれが目配せを行う。

 気になったら……魔族はどうするか、分かるわよね?


「「「「行きましょう」」」」



 私達は一斉に庭の一番大きな木である槍杉の木へ向かった。


 ***


「なんか俺の部屋がヒルダに物色されているような気がする」

「何そのピンポイントな直感」

「ついでにミルダやシルフィーナ、アニマにも」

「なんであの三人もメンバーに入ってるの……。っていうか、前にもそんな勘があったよね」


 レヴィと道を歩いていると、不意にそんな気がした。


 時々、魔族というものは俺を下に見る節がある。おそらく「グレイがいない今がチャンス!」なんてことを思っているのだろう。


 ……でも、どこか嫌な予感がするんだよねー。取返しのつかないようなことになるような……。


「んまあ別にいいんだけど」

「何でさ」

「だって、俺、アイツらに対して恥ずかしい隠し事なんてしてないもん。むしろ堂々と言えるくらいだし」

「そ、それはそれでどうかと思うけど……」


 俺は自分の部屋を思い浮かべる。

 レヴィに口うるさく言われるから綺麗に整理整頓され、もちろん、クローゼットの中も掃除済みだ。

 うん、完璧。……あれ?


「レヴィ、お前日記帳はどうした」

「え? ちゃんと持ってきて……あ」

「どうした」

「一冊目の日記帳、相棒の部屋に置き忘れちゃった。かなりまずそう」


 レヴィが顔を青ざめる。

 日記帳ってそんなに大事なものだったっけ。でも、そんなに慌てるようなことか?

 別にいいじゃん、見られたところで。


「いや、違うんだ。あの日記帳には……いや、幸いあの四人だ。大丈夫……なはず」

「おい、一人でブツクサ言うのをやめろ。何が書いてあるんだよ」

「だってあの日記帳には相棒が庭に埋めていたアレが……」

「あー、アレか……」


 顔を引きつらせるレヴィに俺は頭を掻いた。


 ***


「……さ、掘るわよ」


 槍杉の木の前にやってきた私達。


 コユミちゃんから借りたシャベルを手に取り、四人で穴を掘り始める。

 すると


『カンッ』

「来た来た来たぁ!」


 掘り始めた途端、すぐに固いものが当たる。

 そして、私はそれを引っ張り上げた!


「……こ、これは」


 金属製の箱、それもなかなかに頑丈なやつ。

 もしかしたら、グレイが海賊から奪った金貨が入ってるかもしれないわね。差し押さえがスムーズになって助かるわ。


 期待を胸に蓋を開ける。中には──


「……これ、私がグレイに預けた赤点のテスト……」

「ああああ! お兄様に処分を頼んだはずの夢小説ぅううううう!!!?」

「アタシが焦がしたゲヘナ様の肖像画……!」

「お久しぶりですわね……昔割った家宝のお皿。十年ぶりでしょうか」


 四人それぞれの汚点がぎっしり詰まっていた。

 どうやら、それぞれが別々の理由でグレイに預け、事実を隠蔽していたらしい。


 つまり、この箱は文字通りパンドラの箱だったのだ。

 ……誰がわかるかってんだァ!


 四人が己の汚点を隠し、背を向ける。


 ………………。


「……急に焼き芋が食べたくなったわね」

「ワタクシも少々小腹が。燃やすものがあればよろしいのですけれど……」

「姉様、それならここにちょうどいいものがありますよ。いろんな意味でよく燃えると思います」

「も、燃やすのはアタシに任せろ。これでも焼き芋を作る腕前はグレイから太鼓判を貰っているんだ」


 ……これからやることは決まったようね。

 私達は互いに視線を交わし、うなずき合う。


「皆、準備はいいわね?」

「「「……(コク)」」」


 この日、魔王城の庭で緊急のお茶会が開かれた。

 そのお茶会で出てきた焼き芋は、それはそれは甘くて、ある意味苦くて美味しかったそうな。

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