あるプロデューサーの依頼 ~ 衝撃の問題作を追跡 ~
今夜の客は、TVドラマのプロデューサー。
路地裏のバーのドアが重々しく開き、疲労困憊の顔をしたTVドラマプロデューサーが転がり込んできた。彼はスーツの襟を正す余裕もなく、震える手でタブレットを差し出した。
「上司から今夜、『あと出しジャンケンのミステリーは、見飽きた。もっと気の利いたもの、つくれねぇのか!』と、喝を入れられたという。
「『これでも見て、テレ東のドラマでも参考にしろ。それで、明日の朝一で、案の二つ、三つでも持って来い!』ってUSBメモリーを放り投げられたけど、部下と居酒屋で飲んでいるうち、そのメモリーを紛失してしまって、…… 上司が言ってた、そのドラマの感想を頼りに、スマホで検索してみたんだけど、見つからなくて、……」
麻雀卓の空気が、一瞬でピリついた。スーパー・シンクロ(ゴージャス)が、深々とソファに沈んだ身体を揺らし、ジロリと訪問者を射抜くような視線を向けた。
「あんたねぇ……。上司が何を『面白い』と感じたのかを解釈できてない時点で、あんたの負けよ。テメェ、そんな頭でよく今までプロデューサーなんてやってられたわね。あん! おかげでこっちは麻雀が中断よ!」
ハイ・ボルテージ(美鈴)は、手元にあったピーラーで豪快にニンジンを剥きながら、勢いよく言った。
「そんなの簡単だよ! テレ東のドラマはさ、予算がないならその分、愛と狂気で埋めればいいの! 脳みそを溶かして、スパイスをぶち込むみたいな企画がないからつまんないのよ! 私なら、全編調理シーンのミステリーにするけどね!」
ミステリアス・ノイズ(野原)は、訪問者の顔を無表情で見つめ、首を少しだけ傾げた。
「……その上司、たぶん、何が尖ってるか分かってないよ。ただ『なんか凄そうなもの』を求めてるだけ。……あんたが一生懸命探せば探すほど、その上司は『これじゃない』って言う。……壊れてるね、その関係性。」
ビッグ・レジリエンス(姲)は、立ち上がると、プロデューサーの肩をポンと力強く叩いた。
「あらあら、そんなに暗い顔してたら運気も逃げちゃうわよ! 大丈夫! テレ東のドラマっていうのはね、制約を制約と思わず、ピンチを最高のスパイスに変える『生きる姿勢』のことなの。予算がなくても、演出がぶっ飛んでいても、そこに確固たる愛と哲学があれば、それは輝くの! 調査開始よ! 私たちが、その『上司が見た幻のドラマ』の正体、突き止めてあげるわ!」
シンクロが、冷ややかにプロデューサーの持参したタブレットを取り上げた。
「とりあえず、あんたが今まで作ったドラマの履歴と、その上司が最近こぼした『ため息』の回数をデータ化しなさい。……ボロが出るわよ、人間の好みなんて、所詮はそんなもんなんだから」
スーパー・シンクロ(ゴージャス)が、深々とソファに沈んだ巨体を揺らし、プロデューサーの前に座り直した。その瞳は、獲物を狙う猛禽類のように鋭い。
「いい? プロデューサーさん。アンタの脳内にあるモヤモヤした霧を、私たちが言語化してやるわ。記憶なんて曖昧なものよ。でも、言葉の端々には『本音』と『執着』がこびりついてる。……さあ、吐きなさいよ。どんな些細なことでもいいわ。その上司が言ってた『テレ東の匂い』のヒントを、一つ残らず全部。」
ミステリアス・ノイズ(野原)が、床に置いてあった使い古されたノートPCを膝に乗せ、キーボードを叩き始めた。その指先は驚くほど速い。
「……断片でいい。音でも、色でも、誰が喋ってたかでも、食べたものとか……何でもいいから。今のアンタの脳内から、全部外に出して。」
ハイ・ボルテージ(美鈴)は、プロデューサーの目の前で、冷蔵庫から取り出した謎の大きな塊肉を豪快にまな板に叩きつけた。
「ほら、思い出しな! 煮詰まってる頭をガツンと刺激してあげる! 誰が出てた? 女の人? それとも変な喋り方の人? 内容よりも、見てて『えっ、マジで!?』って思った瞬間はどんな感じだった!?」
ビッグ・レジリエンス(姲)が、プロデューサーの横に立ち、その背中を優しく、しかし逃げ場がないほど強く支える。
「大丈夫よ! 忘れていることは、まだ『あなたの心の中に大切にしまわれている』ってことだから! どんな小さなピースだって、組み合わされば必ず一つの景色になる。さあ、どんな些細なことでもいいわ、あなたの記憶の扉、全部開けちゃいましょう!」
プロデューサーは、4人の圧に押され、汗を拭いながら記憶を絞り出し始めた。
「……とにかく、予算がなさそうだった」と客。続けて、
「主役が、普通じゃない……何か、執着してる感じ? …… 深夜の飯テロとかじゃないんだ。もっと……不気味で、でも目が離せない。最後に、なぜか『あ、これ終わっちゃうんだ』って喪失感がある…… そんな感じのこと、言ってた気が。……」
シンクロ(ゴージャス)が、煙草の火を消し、冷徹に言い放った。
「予算がなくて、執着が強くて、深夜で、喪失感……。あんた、それ……。テメェ、それ、本当にテレ東のドラマか? それとも、誰かの夢でも見たの? ……いいわ、その『断片』、データベースにぶち込んでやるわよ。」
シンクロが、テレ東の過去30年の深夜ドラマリストを脳内検索(データベース化)し、条件に合致する「狂気的ドラマ」を絞り込み始めた。
「ドラマが放映された翌年には、そのドラマが示唆した事件そっくりの大事件が、日本を震撼させた、らしい」と、客。
その一言が放たれた瞬間、個室の空気が氷点下まで冷え込んだ。
それまで気だるげに麻雀牌を弄んでいたスーパー・シンクロ(ゴージャス)の手が止まる。彼女は分厚いファンデーションの奥から、獲物を射抜くような眼光を放ち、プロデューサーの喉元に詰め寄った。
「あんた……今、なんて言ったの? 『示唆した事件そっくりの大事件』? それ、ただの偶然じゃないわよね。テメェ、とんでもない地雷を踏み抜こうとしてるって自覚ある?」
ミステリアス・ノイズ(野原)は、モニターの明かりで青白く照らされた顔を上げ、不気味なほど静かに笑った。
「……面白い。フィクションが現実を追い抜くなんてよくあるけど、現実に『追い付かれた』ドラマってことか。そのドラマ、放送コードのギリギリじゃなくて、最初からコードなんて存在しない世界で生きてたんだね。」
ハイ・ボルテージ(美鈴)は、ニンジンを切り刻む包丁を止め、空中で大きく振り回した。
「そんな危ないドラマ、テレ東以外で作れるわけないじゃない! 大体、そんな事件とリンクしてるなら、世間が放っておくわけないでしょ! まさか、そのドラマの内容を上司が『自分の企画の教科書にしろ』なんて言ってるわけじゃないでしょうね? だったらその上司、頭のネジが全部抜けてるよ!」
ビッグ・レジリエンス(姲)は、プロデューサーの手を力強く握りしめ、その瞳に強い光を宿した。
「……これは単なるドラマ探しの依頼じゃないわね。私たちが引き受けたのは、放送業界の闇と、現実とフィクションの境界線を探る『禁断の調査』よ。でもね、大丈夫! どんなに深い闇でも、光を当てれば影の形がはっきりする。そのドラマを特定して、その事件の真相とどう繋がっているのか、私たちが全部洗いざらいにしてやるわ!」




