第6話:一過性のブームは必ず終わる。最高品質(ハイ・カジュアル)を求めて、泥臭い『飛び込み営業』を
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第6話は、事業拡大につきものの「パクリ店の乱立」による売上低下の危機。
それを乗り越えるため、マコトは【アパレル事業】の立ち上げに動きますが……今回は「魔法」を封印します!
最強の営業マンによる、泥臭い熱意の交渉劇をお楽しみください!
女神シエラとの商談から1ヶ月後。
「5年でダイヤモンドランク、年商2000万G」という途方もない目標を掲げた俺たちだったが、いきなりビジネスの『高い壁』に直面していた。
「先輩……今週の売上、ついに先週を下回りました。客足が明らかに鈍っています」
「ああ。原因は明確だ。街の広場を見てみろ」
シオリが指差す先、メインストリートには『元祖・みたらし団子!』『本家・原始焼き!』といった粗悪なコピー商品(パクリ店)の屋台がズラリと並んでいた。
「俺たちが作ったブームに乗っかった、粗製濫造のパクリ店だ。味は最悪だが、値段が安いせいで一時的に客が流れている。……一過性のブーム(トレンド)はいずれ必ず弾ける。タピオカや高級食パンと同じだ。強力な『ブランド力』という根を張らなければ、ビジネスは枯れる」
だからこそ、俺が構想した【THE HUB】が必要なのだ。
飲食だけでなく、情報、そして「ここでしか買えない圧倒的な品質の服」を提供する複合空間。それこそが、パクリ店を駆逐する唯一の手段だった。
「というわけで、アパレル部門の立ち上げだ。シオリ、例の職人の工房はここか?」
「はい! かつて勇者の防具も手掛けたという伝説の革職人、ドランさんの工房です。でも、すごく気難しい人で、最近は誰の依頼も受けていないとか……」
俺たちが訪れたのは、街の貧民街の奥にあるホコリまみれの工房だった。
中に入ると、強烈な獣の脂の匂いと、山積みにされた古びた革の山。その奥で、眼光の鋭い老人が酒瓶を片手に俺たちを睨みつけた。
「帰れ。商人の金儲けの道具(服)なんぞ、俺は作らん」
「ご挨拶に伺いました、ドラン様。私はマコトと申します。本日は、当店の新規事業【THE HUB】のメインとなるアパレルの専属契約をお願いに――」
「帰れと言っているのが聞こえんのか!!」
ドランが投げつけた酒瓶が、俺の足元でガシャンと砕け散った。
シオリが悲鳴を上げてすくみ上がる。
「いいか若造。俺が扱うのは、数十年モノの『ヴィンテージ・ドラゴンレザー』だ。お前らのようなチャラついた商人が求める『見た目だけの派手な鎧』や『貴族のドレス』なんぞに、この極上の素材は使わせん!!」
ドランの言葉には、職人としての強烈な矜持があった。
なるほど。彼は素材を愛しすぎるがゆえに、利益至上主義の商人たちに絶望しているのだ。
ここで【アイスブレイク】や【Win-Win】の魔法を使えば、彼を強制的に従わせることはできるだろう。
……だが、それは絶対にやらない。
心まで魔法で書き換えて作らせたプロダクト(服)に、本物の『魂』は宿らないからだ。
最高品質のブランドを創るには、彼自身の本気の情熱が必要不可欠だった。
「ドランさん。一つだけ訂正させてください。私が求めているのは、派手な鎧でも着飾るドレスでもありません。……『究極の普段着』です」
「あぁ? 普段着だと?」
俺は一歩踏み出し、山積みにされたヴィンテージ・レザーをそっと撫でた。
「着る者に寄り添い、どれだけ動いても疲れない機能性。そして、長く着込むほどに味が出る圧倒的な素材の良さ。日常に溶け込む上質さ……【ハイ・カジュアル】なアパレルです。あなたのその極上の革のポテンシャルを、一部の貴族や勇者だけでなく、街の人々の『日常』に落とし込みたいんです」
「……口先だけならなんとでも言える。俺の革の価値も分からん素人が、二度と敷居を跨ぐな!!」
怒鳴り声と共に、俺とシオリは工房から叩き出された。
◆ ◆ ◆
「せ、先輩……どうしますか? 魔法、使いませんでしたね」
「ああ。本気の相手には、本気の『飛び込み営業』で返すのが礼儀だ」
それから毎日、俺の泥臭い営業が始まった。
雨の日も風の日も、俺は毎日ドランの工房に通い詰めた。もちろん、ただお願いするわけではない。
「今日は工房の屋根の雨漏りを直しに来ました」「今日は、ドランさんの古い革包丁を研がせてください」
彼に一切の要求をせず、ただひたすらに『無償の貢献』を続けた。相手の懐に入り、信頼残高を貯めるためだ。
そして10日目。
俺はドランが若き日に失敗し、硬くひび割れて放置されていた『幻の飛竜の革』を見つけた。
「ドランさん。あなたは『この革はもう死んだ』と言っていましたが、本当にそうでしょうか? 私は、この素材がまだ生きたがっているように見えます」
俺はひび割れたヴィンテージ・レザーに手を触れ、静かに、そして力強く宣言した。
「私たちが立ち上げるブランドは、この革のように、決して妥協を許さない【品質保証】をお約束します」
――その言葉を発した瞬間だった。
俺の手から温かな光が溢れ出し、ひび割れ、カチカチに硬化していた飛竜の革が、まるで時間を巻き戻したかのように、しっとりと吸い付くような極上の状態(ヴィンテージの風合いを残したまま)へと蘇ったのだ。
「なっ……!? ば、馬鹿な! 死んだ革の繊維が、最高の状態に修復されただと!?」
ドランが目を剥き、震える手でその革を撫でる。
「……マコト、と言ったな」
ドランの目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちていた。
「お前さんの『素材への敬意』、そしてこの10日間の馬鹿みたいな執念……確かに受け取った。俺の持てるすべての技術を懸けて、お前さんの言う『はい・かじゅある』とやらを作らせてくれ!!」
こうして俺たちは、絶対に魔法で操作してはいけない『最高の職人』の心を、泥臭い営業魂で射止めることに成功した。
【THE HUB】設立に向けた巨大な茨の道の一つを、ついに切り拓いたのだ。
第6話もお読みいただきありがとうございました!
「魔法で相手の心を操って作った商品に、魂は宿らない」
コンプライアンスやWin-Winで敵を制圧してきたマコトですが、本当に大切な「モノづくり(プロダクト)」の場面では、決してチートに頼らない営業マンの意地を見せてくれました。
「マコトのドブ板営業に熱くなった!」「服の完成が楽しみ!」と少しでも思っていただけましたら、
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