第2話:一見さんお断りの頑固親父、スキル【アイスブレイク】で最高のビジネスパートナーになる
いつも読んでいただきありがとうございます!
今回は、マコトたちが異世界で初めての「商談」を行い、美味すぎる異世界グルメに出会うお話です。
深夜に読むとお腹が空くかもしれませんのでご注意ください!
あの後、消滅したブラッドウルフの跡地には何も残らなかった。
「異世界のホログラム技術、なかなかリアルでしたね」と感心する俺の横で、シオリは「せんぱい、それ絶対ホログラムじゃないです……」と顔を引きつらせていたが、飛び込み営業で犬に吠えられるのはよくあることだ。
数時間歩き、俺たちは巨大な城壁に囲まれた商業都市『交易街ルイーダ』に到着した。
石畳のメインストリートには多種多様な種族が行き交い、活気にあふれている。
「さて、シオリ。まずは市場調査と、当面の活動資金の確保だ。事業の立ち上げには、良質な情報網となる『拠点』が必要になる」
「はいっ! でも先輩、私たち一文無しですよ?」
「問題ない。まずは『伸びしろ』のある優良物件を探すぞ」
大通りから一本外れた、薄暗い路地裏。
そこに、俺の営業マンとしての嗅覚に強烈に引っかかる一軒の店があった。
看板の文字は掠れて読めないが、店外まで漏れ出す炭火の燻香と、食欲を暴力的に刺激する醤油の焦げる匂い。
間違いない。ここは「美味い」店だ。
しかし、外観の導線設計が最悪すぎる。照明は暗く、扉は重く、新規顧客を全力で拒絶するような威圧感があった。
案の定、店内を覗くと客はゼロ。
「先輩、ここ……やってるんですか?」
「ああ、最高のブルーオーシャンだ」
カラン、と古びたベルを鳴らして重い木の扉を開ける。
「いらっしゃいませー」という活気ある挨拶を期待したが、カウンターの奥から現れたのは、筋骨隆々で髭もじゃのドワーフの親父だった。
彼は俺たちを一瞥するなり、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「チッ、見ねえ顔だな。うちは一見さんお断りだ。さっさと帰んな」
丸太のような腕を組み、明確な拒絶の意思を示す親父。
シオリがビクッと肩を揺らす。だが、飛び込み営業において「門前払い」は日常茶飯事、むしろここからが本番だ。
「お忙しいところ恐縮です。本日はご挨拶だけでもと思いまして。――まずは【アイスブレイク】といきましょう」
俺はとびきりの営業スマイルを浮かべ、親父の目を見て、右手をスッと差し出した。
ただの挨拶。世間話の入り口だ。
異世界の住人相手に、俺のトーク術がどこまで通用するか試す絶好の機会である。
ピシッ……!
空間に、ガラスにヒビが入るような幻聴が響いた。
直後、ドワーフの親父の顔から「険しさ」という概念が物理的に崩れ落ちた。
「お……おおおっ!? よく来たな若いの! まあ座れ座れ! 腹減ってんだろ!!」
親父は満面の笑みでカウンターをバンバンと叩き、先ほどの威圧感が嘘のように俺たちを特等席へと案内した。
(なるほど。ドワーフという種族は、ハキハキとした挨拶を好む文化なんだな。コミュニケーション能力さえあれば、異世界でも十分やっていける)
俺は自分の営業スキルに満足し、カウンターに腰を下ろした。
隣ではシオリが「先輩……今、親父さんの目から光が消えて、強制的に人格が上書きされたように見えたんですけど……」と震えているが、気のせいだろう。
「ほらよ! うちの特製、ドワーフの火酒だ! サービスしとくぜ!」
ドンッ、と置かれた木の実のジョッキ。
一口飲むと、ガツンとしたアルコールの強い蹴り上げの後、サツマイモのような豊潤な甘みと、深いコクが喉の奥で爆発した。現代の極上な芋焼酎の原酒にも匹敵する、荒々しくも完璧な味わいだ。
「こいつは美味い……!」
「へへっ、だろ? 料理もすぐ出すぜ!」
親父がカウンター越しにある囲炉裏に炭をくべる。
串に刺した巨大な猪の肉と、新鮮な川魚が、赤々と燃える炭火の周りに突き刺されるように配置された。
「おお、これは『原始焼き』のスタイルですね」
遠赤外線でじっくりと焼き上げられる肉。
表面から滴り落ちた脂が炭に触れ、ジュワァァッ!という爆音と共に香ばしい煙となって肉を包み込む。
焼き上がった串にかぶりつくと、外側はパリッと香ばしく、内側からは熱々の肉汁が滝のように溢れ出した。
塩だけのシンプルな味付けが、素材の暴力的なまでの旨味を引き出している。
「美味ひぃです先輩! なんですかこれ、ほっぺた落ちますぅ!」
「ふはは! 食いっぷりがいいな嬢ちゃん。よし、特別に『裏メニュー』も出してやる!」
親父がニヤリと笑い、取り出したのは真っ白な団子の串だった。
それを原始焼きの火のそばで炙り、こんがりと焼き目がついたところで、壺に入った黄金色のタレ――醤油と砂糖を煮詰めたような、みたらしのタレにドボンとくぐらせる。
再び火に近づけると、タレがブクブクと泡立ち、カラメル状に焦げる極上の甘じょっぱい香りが店内に充満した。
「……原始焼きのみたらし団子。こんなの、美味いに決まっている」
熱々の団子を口に運ぶ。
カリッとした外側の食感と、炭火の香りを纏った濃厚な甘じょっぱさ。そして、中はとろけるように柔らかいモチモチの食感。完璧なプロダクト(商品)だ。
これほどのクオリティの料理と酒を出しながら、客がゼロだなんて信じられない。
「親父さん。料理は間違いなく最高(Sランク)だ。だが……この店のUI/UX(顧客体験)と、カスタマーサクセスに向けた導線設計は、控えめに言って『最悪』ですね」
「ゆ、ゆーあい……? なんだそりゃ?」
「要するに、見せ方と集客が下手すぎるということです」
俺はジョッキを置き、真剣なビジネスの顔で親父と向き合った。
「親父さん、俺と『業務提携』を結びませんか。俺がこの店のコンサルティング……いや、宣伝と集客を引き受けましょう。売上を、今の3倍にして見せます。報酬は利益の2割、それとここを俺たちの当面の拠点とさせてほしい」
「3倍だと!? ……お前さん、ただの客じゃねえな。その自信、嫌いじゃねえぜ。乗った!」
【アイスブレイク】の効果も手伝ってか、交渉は即座に妥結した。
「よし。そうと決まれば、まずは現状のデータ化だ。シオリ、いけるか?」
「はい、先輩! お任せください!」
シオリがキリッと表情を引き締め、両手を顔の前に掲げる。
「スキル――【議事録】!」
シオリの瞳の奥で無数の文字列が滝のように流れ始めた。
「仕入れルート、メニューの価格帯、店内レイアウト、親父さんの調理手順……すべて私の頭の中にデータ化して記憶しました! いつでも引き出せます!」
「素晴らしいアシストだ、シオリ」
「えへへ……先輩の役、やっと立てました!」
俺のコンサルティング能力、シオリの完璧なデータ管理、そして親父の極上メニュー。
異世界を舞台にした、最強のマーケティング戦略が今、幕を開けた。
今回もお読みいただきありがとうございました!
(作者も書きながら、原始焼きのみたらし団子が無性に食べたくなりました……笑)
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