第1話:勇者パーティーからの【戦力外通告(クビ)】。トップ営業マンは未払い残業代をきっちり回収して起業する
初めまして!本作を開いていただき、誠にありがとうございます。
剣も魔法も使えない営業マンが、現代の「ビジネススキル」と「極上のホスピタリティ」で異世界を無双する物語です。
スカッとしたい方、ぜひ最後までお付き合いください!
慰安旅行で老舗の酒蔵見学に向かう途中だった、我々不動産営業部の乗るマイクロバス。
それがトンネルに入った瞬間、突如として眩い光に包まれたのが事の始まりだった。
「おお……! 見よ、あの輝きを! 勇者殿が【聖剣】のスキルを引き当てられたぞ!」
豪奢なシャンデリアが照らす、オルディア王国の謁見の間。
集められた営業部の社員15名がざわめく中、玉座にふんぞり返る国王と貴族たちの歓声が響き渡る。
視線の先では、常に俺の売上成績を下回り、万年2位に甘んじていた同期――カオルが、これ見よがしに光り輝く剣を掲げていた。
異世界に召喚されてからというもの、社員たちは順番に「鑑定の水晶」に触れさせられていた。
営業部長が【兵站管理】、若手の社員たちが【剣術】や【火魔法】といった無難なスキルを発現させ、王国軍への採用が決まっていく中での、カオルの【聖剣】発現だった。
「さすがカオルさんだ!」「俺たち、カオルさんのパーティに入りますよ!」
現代では俺にペコペコしていた後輩や同僚たちが、手のひらを返したようにカオルに群がっていく。
「よし、次はそこの男。水晶に手を触れてみよ」
国王に顎でしゃくられ、俺――トップ営業マンのマコト(30歳)は、言われた通りに水晶へと手を伸ばした。
淡い光と共に、空中に文字が浮かび上がる。
『マコト:スキル【世間話】』
「…………は?」
国王の顔が引きつった。
「せ、世間話……だと? 貴様、戦場でおしゃべりでもする気か!? まさかの非戦闘スキル……いや、それ以前にただの雑談ではないか!」
「ぷっ……あはははは!!」
王城全体が爆笑に包まれる。
「トップ営業とか言って、異世界じゃただの口先野郎っすね」と、かつての部下が嘲笑う。
続いて、俺の後ろでオドオドしていた新入社員、シオリも水晶に触れた。
『シオリ:スキル【議事録】』
「ぎ、議事録!? またしても戦闘力ゼロのゴミスキルか! ええい、我が国の魔力リソースを無駄に使いおって!」
激昂した国王は、バンッと肘掛けを叩いて立ち上がった。
「無能はいらん。今すぐこの城から失せろ! 勇者カオル殿とその仲間たちの、輝かしい門出の邪魔だ!」
怒号が飛び交い、かつての同僚たちからも冷ややかな目を向けられる完全なアウェー状態。
しかし、クレーム処理と接待で鍛え抜かれた俺の鋼のメンタルは、この程度の「理不尽な顧客」には微塵も揺るがない。
俺はゆっくりと姿勢を正し、完璧な角度(45度)で深々と一礼した。
「左様でございますか。ご期待に沿えず誠に申し訳ございません」
透き通るような営業スマイルを浮かべ、俺は国王を真っ直ぐに見据える。
「しかしながら、初期投資(召喚)を行っておきながら即時契約解除とは、少々コンプライアンスに欠けるかと存じます。……とはいえ、御社――失礼、貴国との今後のリレーションシップは期待できそうにありませんね。では、貴国との『専属契約』はここで破棄させていただきます。短い間でしたが、お世話になりました」
「な、何を言っているんだ貴様は……?」
ポカンとする国王を尻目に、俺はきびすを返した。
すかさずシオリが小走りで俺の背中についてくる。
「先輩! 私も行きます! あんなブラック企業みたいな国、こっちから願い下げです!」
「おいおいマコトぉ、現実を見ろよ負け犬。異世界でも俺の引き立て役ご苦労さん!」
背後からカオルの下品な煽りが飛んでくる。
俺は立ち止まることなく、肩越しに爽やかに手を振った。
「カオル君も、新しい赴任先で頑張れよ。既存顧客のフォローも忘れずにな」
「チッ、負け惜しみを……!」
王城の重厚な扉が閉まる音と共に、俺たちは無一文で異世界の荒野へと放り出された。
◆ ◆ ◆
「さて、シオリ。とりあえず現状分析と、今後の事業計画(生き残り戦略)を立てたいんだが……」
「先輩、その前に……あ、あれ!」
城下町を抜け、荒野を少し歩いたところで、シオリが震える指で前方を指差した。
そこには、体長3メートルはあろうかという巨大な漆黒の狼――ブラッドウルフが、涎を垂らしながらこちらを睨んでいた。
その巨体から放たれる濃密な殺気に、シオリは腰を抜かして座り込んでしまう。
「ひぃっ!? む、無理です先輩! 私たち、初期装備のスーツですよ!?」
「落ち着けシオリ。飛び込み営業でも、まずは相手の懐に入ることが重要だ」
俺はネクタイを少し緩め、ゆっくりとブラッドウルフの前に進み出た。
『ガアアアアッ!!』
魔狼が鼓膜を裂くような咆哮と共に、目にも留まらぬ速度で飛びかかってくる。同時に、その口から高熱の『炎弾』が放たれた。
「アポイント無しの訪問は感心しませんね。まずは――【名刺交換】」
俺が空中に向かって手を差し出すと、光り輝く一枚の「名刺」が具現化し、魔狼の額にペタリと貼り付いた。
その瞬間、俺の脳内に魔狼の詳細なデータ(HP、攻撃パターン、弱点:光属性)がエクセルデータのように流れ込んでくる。
「なるほど、火力が自慢と。では――【相見積もり】」
迫り来る巨大な炎弾に向かって指を鳴らす。
すると、炎弾は空中で「ポンッ」という軽い音と共に3つに分裂し、そのままシュウゥと音を立てて消滅してしまった。
敵の攻撃力を複数の業者(空間)に分散・比較させ、威力を限りなくゼロにする防御スキルだ。
「なっ……!?」
驚愕に見開かれる魔狼の目。
「自社(自分)の火力を過信しすぎです。コストパフォーマンスが最悪ですね」
俺は魔狼の鼻先まで歩み寄り、とびきりの営業スマイルを向けた。
「さて、現状の課題は共有できました。ここからが本題ですが……その前に、少し場を和ませましょうか」
自然と口から出たのは、営業マン最強の武器【世間話】の定型句だった。
「――今日は、本当にいいお天気ですね」
直後だった。
ゴオオオォォォォォッ!!!
突然、空を覆っていた分厚い雲が物理法則を完全に無視して吹き飛び、雲一つない超快晴の空が現れた。
それだけではない。太陽から降り注ぐ異常なほど眩い「陽光」が、まるで天の裁きのごとく、極太のレーザーとなってブラッドウルフ一点に集中して降り注いだのだ。
「キャウンッ!?」
断末魔すら上げる暇もなく、強力な光属性の浄化を浴びた魔狼は一瞬にして光の粒子となり、跡形もなく消え去ってしまった。
「え……?」
「ええっ!?」
俺とシオリは顔を見合わせた。
「あ、これ……ただのお喋りじゃない。俺の言葉、世界のルールそのものを強制的に書き換えてないか?」
「せ、先輩の世間話が、気候変動を引き起こしました……! す、すごいです! さすが営業成績トップ!」
目を輝かせるシオリ。
どうやら俺の【世間話】は、言葉にした事象を現実に強制適用する、とんでもない言霊のスキルだったらしい。
(このスキルがあれば、この世界でトップシェアを狙えるぞ……)
俺が新たな市場開拓の予感に口角を上げた、まさにその時。
遥か遠くの崖の上から、その一部始終を興味深そうに観察している影があった。
金糸の髪を持つ美しいエルフの女性――シエラである。
「ふふっ……面白いわね。ただの人間が、あんな『強引な商談』で世界の理を書き換えるなんて。……さあ、次はどんな営業を見せてくれるのかしら、マコト?」
異世界に降り立った最強の営業マンによる、世界規模の「新規開拓」が、今まさに始まろうとしていた。
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異世界の市場を開拓していくマコトたちの物語、次回もよろしくお願いいたします!




