第15話:大型コンペの鉄則は【事前の根回し】。キーマンの心を撃ち抜く30秒の絶対プレゼン(エレベーター・ピッチ)
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第15話は、いよいよ迫る王立品評会(大型コンペ)を前にした緊密な心理戦。
裏工作が横行する出来レースを打破するため、マコトは最高責任者である「帝国の第一皇女」への接触を試みます。
最強のアポ取り魔法【エレベーター・ピッチ】による、息を呑む30秒の絶対プレゼンをお楽しみください!
ロマーナ帝国の帝都。
王立品評会を3日後に控え、街は金羊毛商会が仕掛ける「最高級ドレスと幻のワイン」の宣伝一色に染まっていた。
「先輩……完全にアウェーですね。審査員は帝国の貴族ばかりですし、金羊毛商会がすでに裏でワイロを配って『出来レース』にしているという噂で持ちきりです」
帝都の安宿で、シオリが不安そうに【議事録(市場調査データ)】を宙に浮かべる。
「ああ、まともに戦えば100%負けるコンペ(出来レース)だ。だが、シオリ。BtoBの大型営業において、当日のプレゼンだけで勝敗が決まると思ったら大間違いだ」
俺はネクタイを締め直し、シオリに向かってとびきりの営業スマイルを向けた。
「勝負は、コンペの前に決まっている。これより我々は、審査員の最高責任者に直接接触し、【事前の根回し】を行う」
「ね、根回しって……相手は帝国の第一皇女、レオノーラ殿下ですよ!? 凄まじい権力者で、護衛もガチガチなのに、どうやって会うんですか!」
「今夜、帝都の迎賓館で品評会の『前夜祭』が開かれる。そこに潜入する」
◆ ◆ ◆
夜の迎賓館。
煌びやかなシャンデリアの下、過剰なフリルや宝石で着飾った貴族たちが、甘ったるい香水の匂いを漂わせながら談笑していた。
その中心で、一際豪奢で、同時に息苦しそうなドレスを着せられている美しい女性がいた。
今回の品評会の審査委員長を務める、帝国の第一皇女・レオノーラだ。
俺たちは招待状など持っていなかったが、入り口で堂々と【顔パス(という名の認識阻害魔法)】を使い、会場に紛れ込んでいた。
「ふぅ……」
レオノーラ皇女が、貴族たちの愛想笑いから逃れるように、一人で夜風に当たるためバルコニーへ出た。その手には、金羊毛商会が自慢する『幻の赤ワイン』が入ったグラスが握られている。
(……今だ。決裁者が一人になる、この数十秒が勝負だ)
俺は音もなくバルコニーへ歩み出た。
「お疲れのようですね、レオノーラ殿下。その過剰な装飾のドレス(コルセット)では、呼吸もままならないでしょう」
「なっ……!? 誰よ、あなた!」
突然現れた不審者に、レオノーラが警戒して後退る。護衛を呼ぼうと息を吸い込んだ彼女に向けて、俺はすかさず右手を差し出した。
「怪しい者ではありません。――【エレベーター・ピッチ】」
ピキィィィンッ!
言霊が発動し、バルコニーの空間が「絶対的な静寂」に包まれた。
これは、シリコンバレーの起業家などが投資家に向けて行う『短時間プレゼン』を具現化した魔法。
**『対象者は、俺の提案に対して強制的に30秒間だけ最大の興味を抱き、絶対に途中で話を遮らない』**という、究極のアポ取りスキルだ。
「……な、何これ。体が動かない……でも、あなたの話を聞かなきゃいけない気がする……!」
戸惑う皇女に対し、俺は静かに、しかし熱を込めて語りかけた。残り時間は25秒。
「殿下。あなたの飲んでいるそのワインは、甘すぎて料理の味を殺す。そしてそのドレスは、権力の象徴であっても『着る人の快適さ』を完全に無視している。……あなたは、そんな古臭い常識(ロマーナ帝国の現状)に、退屈し、息苦しさを感じているはずだ」
「っ……!」
図星を突かれたのか、皇女の目が大きく見開かれる。残り15秒。
「我々THE HUBが提供するのは、無駄を削ぎ落とした【究極の日常】です。これをお試しください」
俺は、自分の着ていた黒竜の鱗とミスリル糸で編まれたジャケット――【エグゼクティブ・モデル】を脱ぎ、夜風に震える彼女の肩にふわりと掛けた。
そして、銀のスキットル(携帯用水筒)を取り出し、琥珀色の液体を彼女のグラスに数滴だけ注いだ。
「残り5秒。……その軽さと、香りを。ぜひご堪能ください」
30秒が経過し、【エレベーター・ピッチ】の強制拘束が解けた。
護衛を呼ぼうと思えば呼べたはずだ。だが、レオノーラは声を上げなかった。
彼女は、自分の肩に掛けられたジャケットの『異常なまでの軽さと、温かさ』に完全に心を奪われていたのだ。
「何、これ……。信じられないくらい軽くて、肌に吸い付くように滑らか……。それに、全然窮屈じゃないのに、シルエットが完璧に計算されている……」
過剰なフリルや重い宝石で着飾るのが常識だった彼女にとって、極限まで無駄を削ぎ落とした【ハイ・カジュアル】の美学は、文字通り「革命的」な体験だった。
そして彼女は、グラスから立ち上る『香り』にハッとして顔を上げた。
「この香り……! さっきまでの甘ったるいワインの匂いが、完全に消し飛んで……森の奥深くのような、スモーキーで甘い香りが……!」
レオノーラが、誘惑されるようにグラスに口をつける。
ドワーフの火酒をベースにし、神木の樽で『12年(数秒)』熟成された異世界初のウイスキー。
それが喉を通った瞬間、彼女の瞳からポロリと一筋の涙がこぼれ落ちた。
「美味しい……! アルコールは強いのに、喉の奥で複雑な香りが弾けて、どこまでも心地いい余韻が続くわ……。こんなお酒、今まで一度も飲んだことがない……!」
完全に落ちた(クロージング成功)。
最高品質のプロダクトは、言葉による過剰な説明を必要としない。
「お気に召して光栄です、殿下」
「あ、あなた……一体何者なの? どこの商会の人!?」
興奮冷めやらぬ皇女が、俺の袖を強く掴む。
「THE HUBの責任者、マコトと申します。3日後の王立品評会にエントリーしております」
「THE HUB……! まさか、金羊毛商会が目の敵にしているという、あの新興商会……!?」
俺は一歩下がり、完璧な営業スマイルで一礼した。
「殿下。我々は『贔屓』や『出来レース』をお願いしに来たわけではありません。ただ一つ……コンペの当日、金羊毛商会の圧力に屈することなく、【公平な審査】をしていただきたい。ただそれだけを、お願いに上がりました」
レオノーラ皇女は、肩に掛けられた最高級のジャケットをギュッと握りしめ、そして……この帝国の古臭いしがらみを吹き飛ばすような、挑戦的な笑みを浮かべた。
「……ええ、約束するわ、THE HUBのマコト。私が審査委員長である限り、最高の品質には、最高の評価を与えると誓うわ」
「ありがとうございます。それでは、当日をお楽しみに」
俺は踵を返し、夜の闇へと溶け込むようにバルコニーから姿を消した。
(……完璧な【根回し】が完了した。さあ、金羊毛商会。お前たちがいくら裏工作をしようが、決定権を持つトップ(キーマン)の心は、すでに我々が握っているぞ)
最強の武器、そして最強の味方(第一皇女)を手に入れたマコト。
異世界の経済を揺るがす王立品評会の幕が、いよいよ開こうとしていた。
第15話もお読みいただきありがとうございました!
コンペ当日のプレゼンではなく、事前の「根回し(体験の提供)」で勝負を決めてしまうのがマコトの営業センス。30秒で皇女の心を完全にロックしてしまいましたね!
「30秒のプレゼンが熱すぎる!」「皇女様がウイスキーに落ちるシーン最高!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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