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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 閑話

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閑話 裏方組のおしゃべり




「んーー……」


「どしたー?」


「いやさー、スキルは自分の中に答えがある、的な? そんなことるかちーが言われたって言ってたじゃん? んでさ、【魔導裁縫】のあーしん中でのイメージってどんなだろって」


「裁縫かぁ……。やっぱ縫うとか、じゃね?」


「それな」



 夏休みの終盤。

 装備製作のために〝がちけん〟のオフィスとして利用している、『明鏡止水』のビルの地下の一室へとやってきた雪乃が、同じく作業に明け暮れていた雅に声をかけられて答えつつ、雅を見やる。


 雅の目の前には、『魔力水の水差し』が置かれ、フラスコやガスコンロ、すり鉢などから、スポイトなど、雪乃も学校の授業の実験で見たことのあるものから、全く見覚えのない機材、蒸留器などが置かれた一角だ。

 そんな一角の前で佇み、マスクにARメガネ、白衣を着ている雅は、研究者さながらといった様相である。


 とは言え、雪乃もそんな雅を揶揄できるような状態ではない。

 ダンジョン素材、『魔力水の水差し』から出した魔力水を使った染料、多種多様の裁縫道具など、自分の机の一角は所狭しと生地が溢れており、その横の棚には型紙から何から、作業に没頭するがあまりに乱雑に色々なものが突っ込まれていたりもする。


 せめて【魔導裁縫】が通常のミシンで縫ったものにもスキルが反映されるのであればともかく、スキルを反映した『魔導防具(マギア・ギア)』を製作するには、必ず手縫いなどの手作業で行わなければならないため、用意するものが何しろ多い。

 加えてダンジョン素材、普通の素材を掛け合わせて裏地にダンジョン素材を縫い付けたりもするために切り取ってみたりもするため、何しろスペースが足りない。



「雅ぃ……、そろそろ引っ越さん?」


「今セキュリティの強いとことか含めて新しく入ってくれた人に選定頼んでるとこ。早ければ秋から初冬ぐらいにかけて引っ越せるかも。それまでがんば」


「……がんばる」



 すでに『魔力水の水差し』以外のアーティファクトやスキル持ちによって、【魔力操作】を覚える者は増えてきており、『魔力水の水差し』への注目度は日に日に下がっている。

 今のタイミングならば移動しても問題ないだろう、というのが傑や雅の出した結論ではあった。


 そんな会話をしながら雅が机の上に出していたダンジョン素材を、ケース付きの棚の中へとしまい込んで鍵をかけてから、一息つくようにマスクを外して雪乃へと顔を向けた。



「話戻すけど、ゆっきーもやっぱそこで詰まってるん?」


「んぁ? うん。って、その言い方ってことは、雅も?」


「うん。あーしもここ数日、スキルの奥っていうか、理解を深めるために色々なイメージを強く持ってテストしてるとこ。ま、今んとこ空振りではあるけど」


「それなー。雅の家族とかに話してみた?」


「うん、一応ね。できたら試行錯誤してほしかったし。今は『明鏡止水』の一部っつか、あーしの家族だけでスキルの拡張実験って形で色々試してもらってるとこ」


「成果は?」


「簡単じゃないっぽい」


「あー……、ね」


「でも、多分そういうところを突き詰めた人たちだけが、中層を突破して下層に行っているんだと思う」



 雅もまた〝虎〟と〝椿〟が暴走状態の流霞と戦っている姿を見たが、あの強さは世間に知られた最高レベルの6ではなく、7以上だと考えている。


 レベル6。

 死線を潜り抜け、行き着いた強者の境地。

 しかしそこからはどう頑張ってもレベルが上がらないのだ。


 下層への扉を守るフロアボスはレベル6でも太刀打ちできない強さを有している。

 故に、中層の突破は難しいと世間では認識されているし、公式にはそこが限界だと言われている。


 だが、〝虎〟と〝椿〟の強さは、明らかに群を抜いていた。

 しかも〝虎〟は中層深部をたった一人、散歩するような気軽さで行動していたという流霞の証言からも、その実力はもはや想像もつかない。



「まだ確証はないけど、レベル6から7への壁は、因子への理解度の低さのせい、なんじゃないかなって」


「……マ?」


「ここ数日、レベル6の探索者の戦いの映像とか確認してたんだけど、確かに強いんだよ、そりゃもう意味わかんねってぐらい。でも、言っちゃえば速い、強い、だけなんだよね。そりゃすごいけど、なんつーか、〝あぁ、そのダンジョン因子だからそういうことできるよね〟って納得できちゃうレベルみたいな。けど、暴走状態のるかちー、ヤバかったじゃん?」


「それな。意味分からんぐらい強かったわ。つか目も赤くなっててヤバかったわ」



 重力操作については以前から〝独自魔法〟の中に組み込んでいたが、暴走状態の流霞の力は、重力を利用して分子への影響を与えるという、はっきりと言って規格外な力を発揮していた。

 分子破壊を引き起こす見えない刃もそうだが、それに加えて手加減されていたとは言え、〝虎〟と〝椿〟の攻撃、それに〝魔女の饗宴〟の面々の力すらも一切通用しない、絶対防御とも言えるような代物も含めて、尋常ではない強さである。



「ああいう、もう常識じゃ測れないようなことができるぐらい因子に適合してないと、レベルが7には上がらないんじゃないかなって」


「あー……、ありそー……」


「でしょ? 〝虎〟さんと〝椿〟さんの強さ、知識、理解度を考えると、多分そういう壁があるんだと思う」


「……え、じゃあ下層とかレベル7とかって、実はもう行ってる人がいるってこと?」


「まず間違いなく、あの二人とその仲間たちはそのレベルだと思う」


「……ガチ?」


「ガチ」



 まだ確証はない。ただの与太話だと切って捨ててもいい。

 だと言うのに、雅の推測を聞いた雪乃には、それが間違っているとは一切考えられない程に《《しっくり》》ときた。



「だから、レベル6のお父さんにはちょっとそっち集中してもらってんだよね」


「え、雅のお父さん、レベル6なの?」


「うん。去年、東北の『魔物氾濫(スタンピード)』対策で無茶して、そこでレベル6になった」


「すげー、世界最強かよー」


「……表では、だろうけどね」


「……それな」



 裏側――つまり〝不法探索者(アビューザー)〟側であるはずの〝虎〟と〝椿〟がああいった知識と実力を有しているということは、つまり、表には出ていない真実というものが存在しているということだ。

 確かに傑の実力は日本でも最強格の一角であろうが、今はどうしても、レベル6というだけで「とてつもなく凄い」と手放しに称賛しにくい気分になっている雅たちであった。



「まあそれはともかくさ、るかちーも奏星も、なんかそれっぽいの使えるようになったから、改めてちょっと色々聞いてみよーよ」


「お、いいじゃん。そーしよ。あ、りおなんも確か〝適合反動〟とかいうのなったことあったんっしょ? りおなんも呼ぼ」


「だったら全員呼ぶ?」


「それな。その方が手っ取り早いわ」



 そんな流れで、夏休みの後半はそれぞれにそれぞれのスキルに対する研究が始まったのであった。


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