第3章 エピローグ
「――はい、では手続きは以上です。お気をつけてお帰りくださいね、八咫島さん」
「っす、ども……。ぉ世話んりっした」
「うける。るかちー何言ってんのかわかんないし」
お世話になりました、ありがとうございました、などなどが混ざって異常な変化を遂げた流霞の挨拶に、思わず奏星がツッコミを入れる。
さらさらと流れる白銀の髪に、灰色の瞳。
先日の〝適合反動〟から、髪全体が白くなり、もはや隠しようのない程に髪と瞳の色が分かりやすく変化した流霞。
黙っていれば人形然としている彼女だが、その服装は黒いパーカーにジャージの七分丈パンツという、ズボラ代表のような服装で看護師の女性に無駄に何度も会釈をして、バッグを抱えて小走りで近づいてくる。
そんな流霞に周囲の患者から不躾な視線が飛んでくるが、無理もない。
白銀の髪というのはどうしようもなく目立つ。
そんな髪に目の色まで同じように白が目立つ灰色ともなれば、視線が集まるのも当たり前と言えば当たり前であった。
流霞にとってはいい迷惑でしかない。
そうしてやってきた流霞が、奏星の服の裾を引っ張った。
「あ、ああ、あの、ぼ、ぼぼ、帽子とか、サングラスとか……」
「あ、持ってきたよー。ほい、るかち」
「っ、ありがと……! ……っ!? な、なんで野球帽……しかも星型サングラス……!?」
「ミカミカのセンスそっちかぁー」
「かーっ、あかん! 被ってしもた!」
「っ!?」
入院時から髪と目の色で色々と目立っていた流霞だが、これから街中を移動するとなればなおさら目立つというもの。
そこで、帽子やサングラスでとりあえず隠そう、という話になり、今日はそれを用意してくるという話にはなっていた。
だが、そこでボケグッズを持ってくるのは何人かいるのも、やはり当然と言えば当然の流れである。
ちなみに瑛里華が用意していたサングラスはハート型である。
ネタとして被ったことが気に喰わなかったようであった。
早速とばかりに美佳里に渡されたものを見て、流霞がツッコミの声をあげ、同じく瑛里華が被ったと嘆いた。
「はいはい、冗談はそこまでね。るかちー、はいこれ」
「あ、まとも……! ありがと、奏星……」
目深に被れるタイプのキャップに、少しレンズの大きなサングラス。
いそいそとキャップを被り、サングラスをつけて、フードを被り――暑くてフードを脱いだ。
何をしているのかと周りから目を向けられ、恥ずかしくて消えたい気分になる流霞であった。
早速とばかりに一行は駐車場へと向かい、真鶴ダンジョン遠征時に利用したマイクロバスを改造した車へと乗り込んだ。
今回流霞が入院していた病院は、流霞たちが住んでいる地域からは少し離れた病院だ。
というのも、因子適応による髪色、瞳の色の変化が一気に出たため、何か異変はないかを診断する必要があったこと。
また、因子影響による身体変化として髪色、瞳の色が変わったことを証明する、証明書の発行などもついでに行われている正式なダンジョン関連の検査などを行う専門病院である必要があり、最寄りの病院で、とはいかなかったのだ。
首都高速に乗って自動運転モードに切り替えた後、バス内では雅によって、改めて流霞への状況説明や共有を開始していた。
「――あ、そっか。あのお兄さんたちはさっさと消えちゃったんだっけ?」
「そそ。るかちーが戻ってくるまでは同行してくれてたんだけど、外に出た途端、あの〝椿〟って人とね。それよりるかちーこそ、中層深部、大変だったんでしょ?」
「確か、中層深部で少し魔物と戦ったりした後で〝虎〟って人と会ったんっしょ?」
「うん、そうだね。あの時、突然足元にトラップが発動して――」
改めて流霞が当時を思い出す。
最初に出会った魔物がレッドスケルトンという魔物であったこと。
複数いては絶対に勝てず、一対一で戦うのも負ける可能性の方が高い、あまりに格上過ぎる魔物との戦闘を、魔法回復薬ありきで辛くも勝利を収め、レベル3になったこと。
「お、るかちーやっぱレベル上がってたん?」
「うん」
「あーしとミカミカも上がったー」
「え、そうなの?」
「うん。ボスるかちーとの戦いで」
「ボス私……!?」
そして、上層に向かって隠れながら進んでいたところで出会った3頭のブリッツウルフに襲われ、崖から落ちたこと。
その崖から、重力操作を利用して下を流れた川に向かって飛ぶように進み、着水し、どうにか生き延びたことなどを語っていく。
入院中の流霞からは詳細には聞いていなかったが、まさかそこまでの死地をどうにか潜り抜けていたのだとは露知らず、一行は言葉を失っていた。
奏星や美佳里、そして聖奈は、自分だったら生き残れなかっただろうな、と感じた。
そもそも転移時はレベル2。
そんなレベルでは身体能力がかけ離れ過ぎて、反応すらできないだろう。
莉緒菜や瑛里華、菜桜はレベル4ではあるが、きっとブリッツウルフに会って崖から落ちた時点で、自分たちでも命を落としてもおかしくないだろうな、とも思う。
だが、それでも流霞は生き残った。
「――川から上がって、あぁ生きてるんだって思ったら、身体がすっごく震えて。でも、生き残るためにどうするかを考えなきゃって思って、行動方針をどうにかまとめようとしてたら、あのお兄さんに会ったんだよね」
まさか出会うとも思わなかった相手だ。
とは言え、『指定ダンジョン』の奥深くで、死と隣り合わせの場所で出会えたことは、流霞にとっては奇跡とも言えるようなものだった。
もっとも、流霞はそんなことで胸を高鳴らせるようなタイプではないが。
「で、戦い方を教わりながら、スキルについて聞いたんだ」
「スキルについて?」
あの絶望的な状況の中で、流霞が聞かされたレベル、そしてスキルの本質。
それらの話を聞かされた全員の反応は様々だった。
「――汚染レベル、かぁ。確かに、〝何もない一般人〟を健康と定義したのであれば、ダンジョン因子は異物による汚染、とも言えなくはない、かも」
雅が気にしたのは、流霞が〝虎〟から伝えられた、〝鴉〟なる人物の見解と説明について。
流霞が聞いたという、「スキルとは汚染度の上昇によって表出したダンジョン因子の力の一部を自覚したに過ぎない」という考え方は、確かにスキルという存在を表すには相応しい。
今後の研究アプローチとして、母や姉にも伝えようとしっかりとメモを残していた。
他の面々も、改めて己のスキルについて考える。
スキルがそういった力であるのなら、答えは自分の中にすでにあるとも言える。
そうであるのなら、自分はもっと色々なことができるのではないか、と。
お互いにそのスキルならこういうことは、ああいうのは、と意見を出し合いながら、車の中でもできるものを試しながら会話が盛り上がる。
そうした話し合いが一段落ついたところで、雅がパンパンと手を叩いて注目を集めた。
「実は、探索者協会の方でも動きがあったみたい」
そんな風に切り出されたのは、今朝がた傑から聞かされた探索者協会側の動きと、大手クラン側の決定などに関するものだ。
「――で、探索者協会としては更迭した面々に罪を被せて、〝金銀花〟を闇に葬り去ろうとしたこと。それに、テレビを使って世論を動かそうとしたことなんかに関する非を認めて謝罪するって流れになったらしいんよね」
「うわあ、なんかすごいことになりそ……」
「間違いなく荒れると思うけれど、ウチらは被害者だし。むしろそーゆー発表聞いて手のひらくるくるさせるようなヤツの方がムカつかん?」
「それな」
雅の説明を聞いて美佳里がげんなりした表情を浮かべて呟けば、奏星がぶすっとして呟き、雪乃が同意する。
「ま、SNSで酷いのは開示請求に回したし、あとはテレビとかだけど、そっちはちょっと意趣返しの案があるんよね」
「お?」
「〝金銀花〟でさ、これ、エントリーしない?」
雅がモニターに映し出したのは、〝第23回 全国新人探索者パーティ対抗戦のお知らせ〟というものであった。
「これで活躍しまくって、〝金銀花〟下げしまくった局のインタビューはガン無視するとか、ちょっとスッキリしそうじゃね?」
第3章 〈了〉
◆――――あとがき――――◆
いつもお読みくださりありがとうございます。
また、いいねや評価、レビューなどもありがとうございます。
大変励みになっております。
第3章はここまでとなります。
カクヨムの方ではすでに第6章が完結したところなので、半分ほどに到達というところでしょうか。
向こうは毎日1話投稿しているので、おそらくこちらが投稿された頃には第7章の序章を書き終えたぐらいかと思います。
こちらもある程度は追い付くまで、今までのように一日に数話ずつ投稿していきます。
引き続き評価なども含めて応援いただけますと幸いです!




