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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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適合反動 Ⅲ




「――しぃッ!」



 一息、ただそれだけの間に振るわれた7つの斬撃が、流霞の赤い風の斬撃と大鎌の攻撃を弾く。

 連続する激しい金属音が鳴り響く中、静かに流霞を見つめる〝椿〟の視線と、楽しげに歪んだ流霞の視線が交錯する。


 ――ふむ、七刃で追いつけぬか。


 一瞬で振るった〝椿〟の斬撃は、流霞の攻撃よりも遅れて出た迎撃。

 流霞の斬撃に追いつき、見事に流霞の攻撃を弾いたように思えたが、〝椿〟にとってそれは想定外な結果であった。


 今の一瞬、〝椿〟は流霞の攻撃をもっと押し込む形で止めるつもりだったのだ。

 だというのに、それができなかった。


 ――想定上に速い。それに、あの赤い風。風に斬撃を付与している力の正体が、意味が分からぬ。此方の刀がぶつかった一瞬で、何度も刀を叩かれたような感触だけが残っている。


 刀を引いて納刀しながら、鞭のように伸びながら襲いかかる赤い風を躱す。

 風の正体を探るようにギリギリのところで身体を逸らして回避するも、しかし何かが混ざっているようには見えない。


 ――ただの魔力、とは思えぬが……。分からぬ、見えぬ程に小さな何か、か? まるで大鎌による斬撃よりも軽いのは確かだが。


 迫る赤い風を抜刀して斬り裂けば、【朧帳】を使っていたのか、流霞が目の前に現れ、大鎌を振り下ろしてくる。

 即座に〝椿〟は刀を返して大鎌を弾き、その重さに小さく舌打ちしながらも対応しきる。


 速すぎる互いの斬撃の応酬、〝椿〟ですら捌ききれずに回避を織り交ぜながら、赤い風を、そして縦横無尽に行き来する流霞と刃を交え続けていた。



「――きひっ、ひひひ!」


「ふむ、そなたも楽しんでおるようだ。せめて正気であるのなら稽古をつけてやっても構わぬのだがな」



 振り下ろし、振り上げ、振り下ろし。

 薙ぎ払い、回転斬り、払い斬り。

 互いの斬撃がぶつかり合い、激しく火花を散らし合った。

 ぶつかり合い、行き場を失った衝撃が周囲を揺らし、その中心で流霞が舞い、〝椿〟がいなす。


 戦いは数秒の間に幾度となく攻めと守りが入れ替わり、余人が入り込む余地のない激しい戦いとなっていた。




 そんな激しい戦いを行う〝椿〟の後方で、〝虎〟が自分の首を揉み解しながら莉緒菜に声をかけに行きながら、ドローンをちらりと一瞥した。



「――配信は?」


「止まっているわ。あなたのお仲間に気が付いた時点でね。それより、あなたがるかちーを保護してくれていた〝虎〟ね」


「そうだ。おまえさんは、〝魔女の饗宴〟の莉緒菜だな」


「えぇ、そうよ。積もる話は後にしましょう。それより、るかちーのあれ、〝適合反動〟ね?」



 言葉少なくやり取りをしながらもあっさりと状況を理解してみせた莉緒菜に、奏星と美佳里が目を剥き、同じく知られていないものかと考えていた〝虎〟もまた驚いたように目を見開いた。



「なんか知ってんの、りおなん!?」


「〝適合反動〟。ダンジョン因子との相性が良すぎる者が、ダンジョン因子への理解を一気に進めてしまった場合に起きる一種の暴走状態よ。あの状態になると通常のレベルを無視した従来以上の力で暴れ回ることになるわ」


「……そこまでの情報が知られていたのか?」


「知っている、というよりも、経験した、というのが正しいでしょうね。私がかつて〝適合反動〟を引き起こし、それを瑛里華と聖奈、菜桜に止めてもらったのよ。だから、私だけがレベル3で他のみんなだけが一つレベルが高いの」


「あぁ、そういうことか」



 莉緒菜のいる〝魔女の饗宴〟はレベル4パーティであり、莉緒菜だけがレベル3探索者であり、他の面々はレベル4だ。

 そのレベル差の原因こそが、かつて起こった莉緒菜の〝適合反動〟だったのだ。


 そんな過去があったとは露知らず、唖然とする奏星と美佳里を他所に、〝虎〟は懐から魔法回復薬を取り出して飲み干すと、莉緒菜たち〝魔女の饗宴〟を一瞥した。



「――いいだろう。〝適合反動〟を解く方法は分かっているんだな?」


「莉緒菜ん時は飽和攻撃でとことん魔力を消耗させたったんや。あの状態、魔力を防御にも回しとるやろ?」


「そうだ。〝適合反動〟中はほぼ全てに魔力が循環している。とことん削り、気絶させるのが手っ取り早ぇんだ。だが……」



 一度言葉を区切り、〝虎〟は今もなお〝椿〟と互角に斬り結び合っている流霞を見やる。

 赤い風のような斬撃、大鎌による直接攻撃を繰り出す、おそろしく速い速度での連続攻撃。

 しかも、そこに【朧帳】と【潭月鏡身(たんげつのかがみ)】が発動しては、虚実を交えて襲いかかってくる。



「問題はあの速さとスキルだ。〝椿〟だからどうにかあそこでやり合えちゃいるが、捉えるのは至難の業っつーやつだ。残念だが、俺も〝椿〟もあれを止めようと思ったら手加減できそうにねぇ。相性の問題でな。だから、削りきるのはおまえさんたちの仕事になるだろう」



 手加減できずに止めるとは、つまりは流霞のことを気遣わずに、命を脅かす程の攻撃さえ使っても良いのなら止められる、という意味だと誰もが理解した。

 そもそも〝椿〟は速度を乗せた一撃必殺の斬撃使い、〝虎〟もまた一撃必殺の強烈な攻撃を得意とするタイプである。

 本気を出せば流霞に攻撃を当てることは可能だろうが、しかしそれをすれば流霞は命を落とすことになる。


 わざわざ中層深部からここまで連れてきたことも、ここで止めようとしていることも含めて、〝虎〟と〝椿〟が流霞を助けようとしてくれていることは明白であった。


 何故〝椿〟と〝虎〟がそこまでしてくれるのかは分からないが、今はどうでもいいと切り替えて、瑛里華が口を開いた。



「ま、ええで。言うても、あれに真正面から追いついて止めんのは無理やな。菜桜、自分はどないや?」


「……ん、無理。私が本気でもギリ負ける」


「そうなると~、先読みして攻撃を予め仕掛け、誘導するのが無難ですねぇ~」


「賛成よ、それでいきましょう」



 瑛里華、菜桜、聖奈の短いやり取りに、莉緒菜が肯定してから、奏星と美佳里へと視線を向けた。



「あなたたちは、どうする? るかちーを攻撃できる?」



 奏星の炎も、美佳里の銃撃も、威力はかなりのものである。

 それを人に向けてしまえばどうなるのか、それがあっさりと理解できてしまうからこそ、友人に向けるのは憚られるというものだろう。


 けれど、答えはあっさりと返ってきた。



「――やるに決まってんじゃん」


「……仲間を攻撃するのは、思っている以上に心が疲弊するものよ。あなたたちが無理してやらなくても、今は私たちもいる。無理をしなくてはならない場面ではないわ」


「そりゃ、るかちーにあーしの炎を向けんのは、やっぱ気が引けるってのはあんよ。けど、さ……」



 そこで一度言葉を区切って、奏星は〝椿〟と戦っている流霞をちらりと一瞥してから、改めて口を開いた。



「るかちーだって、好きでウチらを攻撃したくないはずだし、止めて欲しいって思ってると思う。だったら、それをやるのはウチらじゃん」


「それな。ウチらが止めてやんなきゃ」



 ――強い娘たちだ。


 改めて莉緒菜も、そしてそんなやり取りを聞いていた〝虎〟も、素直に感心する。

 そしてその一方で、過去に奏星や美佳里と同じ結論に達し、それを成し遂げてみせた瑛里華たちもまた、力強く頷いた。


 

「――話はまとまったな。なら、始めるぞ」


「分かったわ。菜桜、瑛里華。聖奈の支援を受けたら私が魔法で流れを断ち切るわ。そのタイミングで二人で挟撃、るかちーを止めて」


「任せとき」


「りょ」


「カナっちは隙を見て炎を使った攻撃を。直撃しなくても、熱を遮断しようとして魔力を使ってくれるはずよ。ミカミカは、動きを止めたタイミングで確実に当てるつもりで」


「りょー!」


「おけ!」


「さあ、始めましょう」



 ――待ってて、るかち。

 奏星が静かに胸の内で呟けば、流霞の目が一瞬、確かに奏星を捉えた。


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