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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第1章 〝金銀花〟結成!

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9/88

ぎゃるずこみゅにてぃ




 ――な、なんか見られてるような……。


 明けて翌日。

 登校中は特に問題なかったというのに、昇降口から教室に来るまでの間、流霞は奇妙な視線を感じて困惑していた。


 他人の視線に敏感であるとは到底言えないが、それでも自分を見るなり目を見開き、何故かちょっと目を輝せたり、逆にちょっと怖がられて距離を取られたりという対応をされていれば、いくらなんでも気が付くというものだ。


 ――はっ、もしかして私が可愛くなっちゃった、とか……――ぷふっ、ないない。ダンジョンのおかげでいい運動になって引き締まったのは事実だけど。あ、スタイルの良さに目を輝かせてる? なんか怖がられているのは、ジム通いストイック過ぎて近寄らんとこ、みたいな?


 流霞がどれだけ明後日の方向に物事を解釈し、どれだけ意味の分からないことを考えていても、それが脳内の独り言ではツッコミを入れるのは難しいというものである。


 ましてや、流霞はそんなくだらないことを考えたり、自分で自分に笑ったりもしている癖に、表情筋は死んでいるのかと言いたくなる程度には無表情を取り繕っているのだ。


 擬態だけは完璧な残念少女、それが流霞であった。


 そんな残念少女が教室に到着する。

 閉まっていた教室のドアをガラガラと音を立てて開けた瞬間、友人が、想い人が到着したのかとそちらに視線を向ける生徒は多い。


 しかし、友達ゼロ人系一級ぼっち検定持ちの残念少女である流霞は、このようにドアを開けるタイミングで集まる注目なんてものは自分には無関係なものだと割り切っている。


 流霞には、ラノベやアニメの自称ぼっちという名の主人公に対し、無駄に仲のいい一人だけの理解者的友人がいたりして「おまえぼっちじゃないじゃん」と言いたくなるような、そんな都合のいいフレンズはいないのだ。

 ちなみに流霞曰く、「自分はぼっちだけど友達の多いヤツに付き合わされ、やれやれ言いながら付き合うムーブ」をするなんざ、ぼっちの風上にも置けないヤツだ、とのことである。


 一流のぼっちらしく、見事に自分のぼっち論を完成させている残念少女の心構えは、ぼっちという概念に対して無駄に本気であった。


 ともあれ、そんな流霞がいつものように視線を無視して教室内に入った瞬間、思わず流霞は動きを止めた。

 いつもなら一瞬で「なんだアイツかよ、どうでもいいわ」とでも言いたげに切られるはずの視線が、何故かいつまでも切れないのだ。


 一体何が、と思いつつ流霞が顔をあげると、目の前に小走りでやってきていた、同じクラスの陽キャ女子の姿があった。


 先日ダンジョンで出会った奏星ともよく話しているギャル、矢ノ沢(やのさわ) (みやび)――即ち、流霞とは対極にいる存在の一人である。



「え、あ、その、何……?」


「はいはーい、ちょいとしつれー!」



 ネイルがしっかりと施された細い指、ふわりと香る香水。


 ――これが、女子力……ッ!

 そんなどうでもいいことに意識を持っていかれた流霞の、目を隠すぐらいに長い前髪が捲りあげられた。



「のわーっっ!? やっぱ八咫島さん!? やっべ! きひ子ちゃんじゃん!?」


「――は? え?」



 ――な、なんで私につけてもらった愛称が……流出!? はっ、カナっちの構築するギャルコミュニティ!?


 明後日の方向に納得しかけた流霞だったが、瞬間、流霞に雅が抱き着き、ぴょんぴょんと跳ね始めた。



「きひ子ちゃん! 奏星のこと助けてくれてありがとう!」


「へ?」


「あーし観てたし! 奏星がヤバかったとこに颯爽と現れたきひ子ちゃんマジヤバ! 横から現れたきひ子ちゃんの〝きひ笑い〟見た時、めっちゃアガった!」


「は? え?」


「めっっっっちゃカッコよかったよ、きひ子ちゃん! マジ神ってたって! ミカミカ、ゆっきー! ほら、やっぱ八咫島さん! きひ子ちゃん!」



 キャーキャー言っている雅の言葉も、そんな雅の言葉と一緒になって盛り上がっている他の生徒たちの声を、流霞にはいまいち理解できていなかった。

 何せこのぼっち、ギャルに抱き締められるとか無縁である。ハッキリ言ってキャパオーバーも甚だしいところであった。


 ――なんで知ってんの!? というか昨日、みんないたっけ!? え、私の意識の外に排除してたっけ!?


 と、困惑しているようではあるのだが、ただただ奏星が配信していただけであり、それを友人たちが見ていた、という話でしかない。

 ともあれ、そんな仲間たちの一人である雅こと、流霞的スクールカーストトップ勢のオシャレ仲間たちを呼んだ。


 ギャル は なかま を よんだ!

 ぼっち は にげられなかった!


 前髪を人質に取られている流霞の脳内にそんな文字が思い浮かんでいた。




「おー、え、マ? うわ、マジじゃん、ヤバ」


「八咫島さん、ウチもきひ子ちゃんって呼んでいい? あ、ウチは川邊(かわべ) 美佳里(みかり)ね。よろー」


「あ、そうじゃん。話すの初だったわー。あーしは(あづま) 雪乃(ゆきの)。よろしくね、きひ子ちゃん」


「え、あ、えっと、八咫島 流霞……です」


「知ってるし」


「ウチのクラスで知らねーのいないっしょ。昨日の配信、バズってたしさー」


「はい、しん……?」



 ――い、いくらいつもの私の「きひっ」って笑っちゃうのが邪悪だからって、別に背信行為(・・・・)に手を染めたりなんてしな……はい、しん……――ぇ゛?


 はいしんって、つまり……。



「え、えぇええぇぇ、えと、はい、はいしん、とは……その……?」


「配信だよ、配信! 奏星の配信!」


「ぇ」


「なんかメッチャバズってたじゃん、ウケる」


「ば、ず?」


「奏星ときひ子ちゃんが保護された後さぁ、なんかきひ子ちゃんの因子を推測するとかって動画出たり、結構話題になってたじゃん? ほらほら、これ」



 実は昨日、グレーホブゴブリンを倒しきった流霞であったが、傷だらけの奏星がまだ動けないとのことで、回復までしばらくはその場で待機することになった。

 奏星が配信コメントを頼りにそのような指示を出し、一流ぼっちの流霞は言われるがまま待ての姿勢を崩さなかった。よく分からないが、きっとギャルの言うことは正しいはずだ、と。


 そうして、数分後にはイレギュラー対策としてやってきた探索者に見つけてもらい、無事に外まで保護、救出されたのである。ギャルの言うことは正しかった。


 その際に奏星は魔法回復薬――いわゆるポーションを使って回復するか悩んでいたようだが、魔法回復薬はかなり高額だ。そのため、一旦は病院で診てもらい、治療を受けるということで、そのまま救急車で病院へ運ばれていった。 


 その行く末を見送り、流霞はしれっと気配を消して溶けるように帰っていた。

 一流のぼっちが得意とする秘技、3人以上人がいたら会話からすっと脱却し、しれっと気配を消すという技を繰り出したのだ。


 さて、そんな流霞はオタクではある。

 が、SNSやパソコンには疎い。


 あくまでもアニメ、漫画、ラノベなどの2次元コンテンツが好きなだけで、いちいちSNSで呟いてみたり、バズりを狙ったりなんてこともない。

 昨日は家に帰ってシャワーを浴びるなり、読みかけのラノベを読んでご飯を食べ、そのまま寝落ちしたレベルである。


 だから、理解していなかったのだ。


 流霞がやらかしたことを生配信されていたとか、それを同じ学校の、しかも同じクラスの生徒が見ているだとか。

 イレギュラーに対応してみた姿と「きひっ」という笑い方のせいで、妙な注目を集めることになっただとか。

 そんな流霞の因子は今、【狂化】の説が濃厚、とかいう、全く知らない人間が自分のことを勝手に濃厚だのなんだのだと熱く語っていることとか。


 そんなことは、まったく、これっぽっちも理解していなかったのである。


 なお、雅に見せられた動画で好き勝手自分を考察だとかどうのこうの言ってるヤツの顔は覚えておいた。気持ち悪いヤベーヤツ判定だ。もしもダンジョンにまで追いかけてきたりしたら、魔装で殴ろうと固く誓った。

 考察系配信者が迷惑系になった瞬間、命の危機が訪れることが決定した。



「すげー、きひ子ちゃんかよ! ちょっとサインくれよ、サイン」


「はー? クソ男子はすっ込んどけよ三田ぁ!」


「ちょ、当たりキッツ」


「アンタそっちの三枝の仲間じゃん。きひ子ちゃんに話しかけんなし」


「えぇー!? ちょっ、三枝のせいで俺まで!? 三枝、俺は関係ないって言って……――って、なんでおまえそんなブルってんの?」


「ばっ、おまっ、やめろよ……! 俺、きひ子ちゃんに嫌われてんだよ……! きひられる……!」


「きひられるってなんだよ」


「おう、てめーはきひられとけー」


「いや、きひられるってごめんけどちょっと面白いわ」


「ほんそれ、きひられるはちょっとおもろい」


「それな。きひ子ちゃん、きひっちゃう?」


「ぁ、え?」



 何が起こっているのかもいまいち理解していないが、ともかく、流霞はこの状況があまりにも想定外過ぎて、すっかり固まっていたのである。


 元々、興奮すると「きひっ」と喉を鳴らすように笑ってしまい、ほんの少し(・・・・・)暴走してしまうという悪癖のせいで、ダンジョン孤児向けの施設では〝魔物に呪われてる〟だのなんだの言われ、避けられてきたのだ。


 だというのに、そんな自分が受け入れられていることが、あまりにも予想外過ぎた。

 ずっとそれを隠して生きてきたのに、それが知られてしまったかと思えば、そんな自分が認められているのだから。


 嬉しくて、泣きそうで、けれど、暖かくて……。



「――きひっ」


「ひ……っ!?」



 その小さな笑いと三枝の大きな反応のせいで、教室内は何故かやたらと盛り上がり、流霞は人気者気分を味わうのであった。


 そうして、お昼前。

 ついに奏星が登校してきた。


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