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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第1章 〝金銀花〟結成!

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イレギュラー Ⅱ




 奏星の存在を気にも留めていない様子で喉を鳴らした流霞の動きは、最短を最速で詰めるというものだった。


 バランスを崩して座り込み、頭を押さえているグレーホブゴブリンへと間合いを詰めながら、魔装である銀色の棒を振りかぶる。

 しかしグレーホブゴブリンも追撃に気が付いて、倒れたまま長剣を流霞へと右手で斜め上に斬り上げるように振るってきた。


 たった一瞬で反撃に動いてみせたグレーホブゴブリンの反射神経に目を見開く奏星の視線の先で、それに対して流霞が選んだ行動は、銀の棒を長剣に真正面からぶつかるように叩きつけるという、躊躇のないフルスイングだ。


 ギャリリリッ、と耳障りな音を立てながら両者の一撃が火花を散らして激しくぶつかり合う。

 腕力や膂力が上昇していなくとも、速度と重量で威力が底上げされているからこそできる芸当だ。


 ――ちょ……っ、あの重い一撃を、受け止めるどころか……!?



『はあ!?』

『え、あの子どうなってんの』

『実はレベルアップ済みの探索者か!?』

『なのにジャージ?w』

『いや、マジで意味わからん』

『押し返した……?』



 奏星の心境は流れるコメントの数々とまったくもって同じであった。

 彼女の視線の先では流霞の一撃が結果として打ち勝ち、グレーホブゴブリンの腕ごと弾かれ、胸元が空いた瞬間が映った。


 流霞がニヤリと口角をつり上げ、目を輝かせた。



「――きひっ! がら空きいいぃぃぃっ!」



 フルスイングしたまま左手だけで持っていた銀の棒を背中を通して右腕に持ち替えて、身体を回転させて遠心力を乗せるように突き出された突きが、グレーホブゴブリンの喉にズドン、と直撃し、その衝撃が周囲に響く。


 堪らずに喉を引いて唾を吐きながら咳き込むグレーホブゴブリンだが、しかしその時にはすでに流霞が銀の棒を引いてくるくると回しながら身体もろとも一回転し、グレーホブゴブリンが俯くその顔面に、掬い上げるような一撃が打ち込まれた。



『すご』

『てか一発一発の音がやべー』

『ブオン、ズドンッ、ギィンッ、ってそれあんな棒から鳴るん?』

『意味分からんwwww』

『どうなってんだよ、あの子wwww』

『あの笑い方がちょっと癖になってきた』



 人間が受ければ、まず間違いなく粉砕骨折やら何やらに陥りそうな、凄まじい音を奏でながら打ち込まれる一撃ばかり。

 しかしグレーホブゴブリンというレベル2以上が推奨となる魔物のタフ(・・)さは、そもそもレベルの上がっていない一般人が想定するそれとは全く異なる。


 激痛や意識を刈り取るには値しそうだが、それでもグレーホブゴブリンは確かに意識をしっかりと保っていて、流霞に反撃すべく長剣を振るってきた。


 だが、流霞は後方に下がりながら横合いからの一撃を地面に叩きつけるように打ち付け、火花を散らしながらも無理やりその一撃を潰すと、後方に下がって肩で息を上下させながら息を整えさせた。



「ふぅ、ふぅ……っ! あっは……! まだやるんだ、すごい。これが最上層のボス……!」


『いや違うが!?』

『ボスちゃうわ! イレギュラーやぞ!?』

『上層探索者わい、さすがにあんなん出たら上層に辿り着けなくなる』

『あれだけ攻撃入れてグレーホブゴブが生きてるってことは、やっぱこの子まだレベル1……?』

『これでレベル1……? 嘘やろ……?』

『なんか特殊な因子持ちか……?』

『ちょっとバーサーカーっぽいのも因子のせいだったり?』



 コメントが騒ぎ立てているものの、しかしそれは違う。


 実際、これは流霞の素である。

 別に因子を手に入れたからこうなったという訳ではなく、もともと小さい頃から派手に暴れるとこうなる(・・・・)のだ。

 その姿が周りから怖がられ、避けられ、結果として素の自分を隠すようになり、そのままコミュ障に陥ることになったのであって、【月】の因子から見れば冤罪も甚だしいところであった。


 もっとも、今は見事に全世界に発信されており、なんなら視聴者数ももうすぐ2千人程度にはなろうとしているため、誤解を招くことはもう避けられそうにないのだが。



『立ち上がる前にやれって!』

『何してんだよ!』

『素人コメはやめとけ。レベル1のきひ子ちゃんじゃ、息が上がってるのに無理したら反撃喰らうだけ。一瞬で形勢逆転するだろうが』

『きひ子ちゃんww』

『良識コメの中に唐突にあるきひ子ちゃん呼びよww』

『きひ子がんばれ!』

『カナっち!?』

『カナっち無理すんな!』



 息を整えながら身構える流霞を睨みながら、グレーホブゴブリンが立ち上がった。

 とは言え、流霞の謎の魔装仕様によって一撃一撃が凄まじく重いせいもあって、かなり満身創痍ではあるようで、身体の動きは幾分かぎこちない。


 その光景を映していたドローンが、奏星がゆっくりと、壁に手をついてどうにか立ち上がる姿を捉えていた。



「ぅ、ぐ……っ」


「……? え、えっ!?」



 唐突に聞こえてきた奏星の呻き声と、ずるずると地面を引きずるようにして動かした足音に流霞が顔を向け、グレーホブゴブリンを見て、今度はぎょっとした様子で再び奏星を捉えた。


 そのあまりの綺麗な二度見ぶりに奏星が痛みに喘ぎながらも苦笑する。



「ちょ、なんでそんな驚いてんの、八咫じ――あー……きひ子ちゃん」


「きひ子ちゃん……!?」


「や、ごめんて。コメントでそう呼ばれてるから、ほら」


「こめんと……? っていうか、ひ、ひひめ――」


「カナっち、ね。今はそう呼んで」


「えっ。や、い、いきなり愛称で呼び合うなんてそんな」


「や、なんか照れてっけど、ちげーから。てか愛称きひ子はありなん?」


『え、知り合い?』

『草』

『なんだきひ子ちゃん、全然さっきまでと違うじゃん』

『いや、戦いの最中に何してんwwww』

『きひ子ちゃん、気付いてなかったん?wwww』

『なんだ、この、なんだw』

『オタクとギャルっぽさがいきなりw』



 そう、視聴者たちが気が付いた通り、そもそも流霞は奏星が倒れていることも、ドローンで配信されていることも、何も気が付いていなかったのだ。

 この生粋のバーサーカー、グレーホブゴブリンが隙だらけで他所見していると思い込んで突っ込んできたのである。


 なお、未だに配信されているとか、コメントだとか、そういったものをいまいち理解していない流霞であったが、そんな彼女の目には、ぼろぼろの姿の奏星の姿をしっかりと映し出されていた。



「……ひ――あ、えっと、カナっち、さん……? その怪我、もしかして、アイツに……?」


「ん、そーだよ。手伝えなくてごめんけど、立ってるのがやっとだわ、これ……」


「……ううん、いい。でも、そっか。アイツが、やったんだね?」


「え、うん――」


「あ……ッスゥーー……」


『ひぇ』

『え、こわ』

『めっちゃ目かっ開いててこわ』

『カナっちの傷にブチギレ?』

『てぇて……いや、ちょっとこわ』



 大きく目を見開いたまま、すん、と声を落とした流霞が、ぐるりとグレーホブゴブリンへと振り返った。


 ――カナっち。なんでこんなとこにいるとか、さっきからいたのとか、私の悪癖見ちゃったとか……そんなのどうでもいい。私の推しグッズ(・・・・・)を助けてくれたカナっちに、傷を、つけた……?


 ゆらゆらと身体を揺らして、魔装である銀の棒を抱えて、流霞が殺意を滾らせてグレーホブゴブリンを睨みつける。



「――……ぶっ殺す」



 静かに、鋭利な刃を思わせるような冷たい殺意を宿して、静かに流霞が告げる。



『ひえ』

『こわ』

『え、ちょっw』

『ぞわっとしたわw』

『やばww』



 全世界に向けて配信され、かつ、イレギュラー対応という意味でちょっとずつ注目を集めているということも知らない流霞が、ただただ小さく告げた本気の殺害予告。


 その直後、流霞が真っ直ぐグレーホブゴブリンへ間合いを詰めると、それに応じるようにグレーホブゴブリンが直剣を振るう。

 傷だらけの身体で振るわれた一撃は、これまでのグレーホブゴブリンの攻撃よりも数段劣る速さで流霞へと迫る。


 しかし、その一撃が流霞にぶつかるその寸前、流霞の動きがピタリと止まり、直剣が流霞の眼前数センチのところを虚空を斬って通り過ぎる。

 流霞は真っ直ぐ走りながら魔装を使って身体を支えながらピタリと止まったのだ。



「――きひっ!」



 通り過ぎた直剣を引き戻そうとするグレーホブゴブリン。

 その姿を笑いながら見つめていた流霞が、魔装を突き出し、グレーホブゴブリンの右足を後ろから払うように素早く引いた。


 唐突に足を払われてバランスを崩し、直剣を持った右腕を大きく振ったその瞬間を、流霞は見逃さなかった。

 魔装をくるくると回しながら空へと打ち上げるように直剣を弾き飛ばし、その勢いのままグレーホブゴブリンの頭を後方に押されるように殴りつけ、グレーホブゴブリンを仰向けに転ばせた。


 グレーホブゴブリンが転ぶ、その視線の先で、大きく魔装を振り上げた流霞の姿が目に映る。


 それは奇しくも、つい先程グレーホブゴブリンが奏星にやろうとしていた、まさにその再現にも似た構図となっていた。



「――何発殴れば潰れるかな?」



 ぶおん、と音を立てて、魔装がグレーホブゴブリンの顔面目掛けて振り下ろされた。


 その後、グレーホブゴブリンが息絶えるまでに何度も魔装を振り下ろす流霞の姿が配信され続け、コメントと奏星が軽くドン引きすることになったのは、言うまでもなかった。



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