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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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レベルとスキル




 ――包み隠さず言うのであれば、〝虎〟にとって、〝金銀花(カプリフォリオ)〟は「まだ世間を知らない子供でしかない」という評価であった。


 とある理由で一度はその内面を、その性質を確認するために会いに行ってみたものの、楽しそうに買い物する姿はただの女子高生に過ぎなかった。


 元々望み薄ではあったのだ。

 年齢が低ければ低いほど、かえって何も知らないまま平穏に生きられる。

 そう考えていたからこそ、〝虎〟は流霞と出会い、その態度を見ても落胆はせずに、「だろうな」としか思わなかった。


 だから、もう交わることはないだろう。

 そう思っていた。


 自分たちは日陰者でしかなく、世間一般から見れば犯罪集団でしかない。

 そんな自分たちが、明るく、暖かく、穏やかな日常を過ごせるはずもないし、そんな日常に生きる者を引きずり込むのも気が引ける。


 けれど、まさか取引先を介して手持ちの金を稼ごうと潜った、人のいないダンジョンの奥深くで流霞と出会った時、〝虎〟は驚愕した。


 中層深部。

 〝表〟の世界では未だに突破できていない、そんな場所。

 食事休憩でもするかと川に近づいた〝虎〟の耳に届いた激しい水音に、〝虎〟は警戒しながら近づいていった。


 この階層の魔物は水辺にはいない。

 一種の安全地帯であるここに、何が起きたんだ、と思いながら。


 そうして茂みの中から〝虎〟が見たのは、レベル2程度の流霞が、血に染まり、水浸しになって膝を抱えて震えた少女。

 そして、その少女が、獰猛な光をその双眸に宿している姿だった。


 決して強くはないはずの少女が、こんな場所にいながらも、決して生を諦めず、踏み潰し、喰らい尽くし、飲み干してやろうという強烈な気配を放っている姿に、強烈な違和感を覚えた。


 そんな流霞という少女に興味が出て、とりあえずは顔を合わせて飯でも食うかと誘ってみた。

 そんな勢いで、二人は食事を供にした。


 そうして聞かされた、〝発生型〟トラップという聞き覚えのある陰謀。

 転移でこの場に飛ばされて、レッドスケルトンを屠り、ブリッツウルフに追われ、少し離れた絶壁の崖から飛び降りるハメになったということ。


 どれもこれも、普通に生きていれば味わうことのない大事件のオンパレードである。


 だから、〝虎〟はお節介を焼いてやろうと決めた。

 近くにいる仲間に護衛と伝言を依頼したのは、そんなお節介からだった。

 どうせこの場所から戻るのだから、守って連れて行ってやろう、と思ったのだ。


 だが、仲間である〝椿〟にそのことを依頼し、改めて連れて行ってやろうと告げようとしたところ降ってきた一言が、もうダメだった。



《――ここの魔物の倒し方を教えてください。私は帰るために、強くならなきゃいけないので》



 平和に生きてきた者が、発するような言葉ではなかった。

 平穏に暮らしてきた者が、願うようなものではなかった。


 何か底知れない光を宿した灰色の双眸に見据えられ、〝虎〟はその言葉に、言葉通りにぶるりと震えた。


 ――コイツは、《《普通じゃねぇ》》なぁ……。


 そう思ってしまったら、もうダメなのだ。

 そもそも〝虎〟という男は、平凡というものを酷く退屈に思う男である。

 そんな自分が惹かれるものを発してくる存在は、滅多にいない。


 その珍しい流霞という存在が、力を欲するというのなら、敢えてそれに協力するのも悪くはない。

 そう思ってしまったからこそ、〝虎〟は流霞の言葉を快諾した。



「はぁ、はぁ……っ! どう、でしょう……?」



 目の前にはレッドスケルトンが倒れ、その前で流霞が呼吸を整えながら訊ねる。

 ギリギリの死闘ではあるものの、レベル3になったおかげで相手の攻撃をどうにか対応することができるようになった。おかげで、かなり戦いやすくなった。


 とは言え、今も〝独自魔法〟は常に使っていなくては届かず、【朧帳】や【潭月鏡身(たんげつのかがみ)】を使ってどうにか、というのが正しい。

 深い傷は負わなかったが、余裕を持っての勝利とは言い難い内容であった。


 そんな戦いを終えた流霞の視線の先には、中層深部で出会った、〝虎〟と名乗る男が腕を組んで険しい表情を浮かべていた。



「……おまえさんは確かにレベルに比べて強いは強い。が、どうも腑に落ちねぇな」


「え?」


「なあ、その【朧帳】と【潭月鏡身(たんげつのかがみ)】っての、《《何段階目》》だ?」


「……?」



 問いかけられた質問の意味が理解できずに首を傾げる流霞。

 そんな流霞の反応を見て、〝虎〟は僅かに目を丸くすると、深く溜息を吐き出すと、がりがりと自分の頭を掻いた。



「はあ~~……。やっぱりかよ……」


「えと……?」


「『ダンジョン因子の成長』について、誰かから聞いたりしてねぇのか?」


「……いえ、初耳、です……」



 一応は勉強もしている流霞ではあるが、さすがにそんな話があれば耳にするぐらいはしているはずだ。

 しかし、流霞には『ダンジョン因子の成長』と言われても聞いたことはなく、それが一体何を指しているのか、どういうものなのかが掴めずにいた。


 しばし流霞の表情を見ていた〝虎〟も、さすがに流霞がそれを知っていながら隠しているとは思えなかった。



「……チィッ、やっぱりか。いや、《《表》》じゃ出回ってねぇのか……? この辺は俺より〝鴉〟の方が詳しいんだがなぁ……」


「〝鴉〟?」


「ウチの研究馬鹿のことだ。あー、俺もいちいち説明したことなんてねぇから分かりにくいかもしれねぇが、説明してやる。まずそもそも、レベルアップってのはなんだ?」


「え、っと……因子の成長による肉体強化、ですよね?」



 改めて問われて、流霞は思い返す。


 魔物を倒し、危機を乗り越えることによって得られる祝福とでも言うべきか。

 ダンジョンにいる魔物たちを相手にするために、強さを得るためには避けて通れないものである。


 しかしその実、厳密にレベルアップについて人間に理解できていることなど、たかが知れていた。何者かの声が頭の中に響き渡り、科学では説明できない大幅な肉体強化、ということぐらいしか分からないのだ。

 それ以上に詳しいことは知られていない、というのが実状である。


 しかし、〝虎〟はそんな流霞の回答に対して、全く異なるものを返した。



「俺のとこの仲間が言うには、レベルってのは〝ダンジョン因子による人体汚染度〟だそうだ」


「汚染……!?」


「あぁ、そうだ。聞こえは悪いんだが、言われてみりゃあその通りでな。まず、ダンジョンに入ってダンジョン因子なんてもんを得た俺たち人間は、このダンジョン因子が原因で力を得ていくだろう? それはつまり、ダンジョン因子によって身体そのものが汚染され、作り変えられていっているとも言えるんだとよ」


「作り変えて……」


「そうだ。それはダンジョンに入らなかった既存の人間から見れば、〝ダンジョン因子によって汚染される〟とも言えるんだとか。ウチの〝鴉〟は、そう判断しているらしい」



 ぎょっとした流霞ではあったが、改めて言われてみれば、なるほど、と納得できてしまう説明であった。


 特に、流霞や奏星、そして莉緒菜はレベルアップによって髪の色、瞳の色が変色している。そうした症状が出るからこそ、〝虎〟の仲間である〝鴉〟とやらの言う、身体が作り変えられているという解釈はしっくり来るというのもある。


 驚きはしたものの、頭ごなしに否定しない流霞の態度を見て、聞く気があるのかと判断したらしい〝虎〟はさらに続けた。



「で、だ。〝鴉〟(そいつ)が言うには、レベルアップってのは汚染レベルの上昇であり、レベルアップ時に得るスキルって呼ばれている力は、〝完成形を手に入れる〟んじゃなくて、〝汚染度の上昇によって表出したダンジョン因子の力の一部を自覚したに過ぎない〟んだそうだ」


「ちょっと何言ってんのか分からないです」


「おう、もうちょっと頭働かせて噛み砕いて考えろ、アホ」


「うぐぅ」



 見るからにヤンチャそうで、頭なんて使わずに真っ直ぐぶん殴りに行きそうな空気や態度の〝虎〟にあっさりと言い切られる流霞である。どうやら脳筋レベルでは流霞の方が上回っているようであった。


 

「スキルの獲得によって、何も教わらなくたって手足が動かせるように、当たり前のようにスキルを扱えるようになる。さも最初から知っていたかのようにな。それと一緒ってことだ」


「あ、なんとなく想像がつきました」


「おう、そうかよ。つまり、だ。ほんの一部、自覚しただけの力を使えるままに垂れ流してんのが〝スキルの1段階目〟であり、始まりとも言える。そこからさらにスキルってのは進化するんだよ」


「スキルが、進化……?」


「そうだ。ダンジョン因子によって得た自分の力を知り、幅を広げ、理解を深めていくことで、スキルは進化する。その進化が、おまえさんからは一切感じられねぇ。〝独自魔法〟とやらに浮気したせいだろうよ」


「う、浮気……」



 流霞の脳内に〝独自魔法〟と顔の部分に書かれた雑な間男イメージが登場する。

 NTR文化には理解を示すつもりのない流霞が、自分の妄想だけで〝独自魔法〟をちょっと嫌いになった瞬間である。


 ともあれ、言わんとすることは理解できた。


 確かに探索者に成り立ての頃は【月】とはなんぞやとひたすらに瞑想し、お月見をしてみたり月見団子を食べ続けてみたりもしたことはあったが、〝独自魔法〟が得られてからはそうしたことはしなくなっているのは事実であった。


 ――そう言われても、【月】ってなに……?


 もちろん、空に浮かんでいるアレだとは分かっているのだ。

 無駄に調べてみたりもした。

 だが、それが力になると言われてもピンと来ないのは相変わらずであった。



「むむむ……」


「おまえさんのダンジョン因子が何かは訊くつもりはねぇが、どんなダンジョン因子であっても、スキルの発展性っつーのはダンジョン因子に対する本人のイメージと結び付きやすいんだとよ」


「イメージ……?」


「あぁ、そうだ。実際、俺も俺のダンジョン因子にゃ苦労させられたが、自分のイメージにかっちりと嵌まってからは一気に伸びたからな。だから、ダンジョン因子としてっていうよりも、そのダンジョン因子が示すものは、おまえさんにとってどういうイメージなのかを突き詰めるこった」


「私の、イメージ……」



 月と言われても漠然としかイメージがつかなかった流霞の中に、一つの道筋が照らし出されようとしていた。



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