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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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残された彼女たちの決断




 一方、同ダンジョン内上層13階層。


 突如として流霞の足元に現れたトラップ。

 それが〝発生型〟でもなんでもなく、アーティファクトを利用して姿を消した上で近づき、タイミングを見計らって使われたスキルであったこと。


 その可能性に気が付いた雅が、即座に〝魔女の饗宴〟の面々がつけているARレンズに向けて指示文を提示。

 周囲を攻撃し、犯人がいるかを確かめてほしいという助言に気が付き、即応した結果見つかった一人の侵入者――〝掃除屋(イレイザー)〟。


 男は莉緒菜によって捕らえられた後、配信画面外へと連れて行かれて取り調べ――という名の魔法回復薬を使った割と非合法な尋問(拷問)――を受けて観念し、情報を語った。

 なかなかにショッキングな映像や音声になりかねないため、〝金銀花(カプリフォリオ)〟も〝魔女の饗宴〟も、両方とも配信を一時的に中断している状態であり、ダンジョン内を映して声が載らないようにミュート状態を続けている。


 ともあれ、そうして語られた真実を、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の奏星と美佳里に共有しているところであった。



「――中層の、深部……」


「えぇ、そうみたい。――雅ちゃん、聞こえているわね?」


《――聞こえてる。りおなん、ここからどーする?》



 ドローンから聞こえてきた雅の声に、莉緒菜が淡々と続けた。



「私たち〝魔女の饗宴〟は行けるところまで行くつもりよ。中層の深部までなら挑戦したこともあるわ。ただ、『指定ダンジョン』であることを考えると、魔物の数が多くて手が足りない可能性もある。そこで雅ちゃん、『明鏡止水』の護衛メンバーを派遣してもらうことはできるかしら?」



 いざという時のために『明鏡止水』からもメンバーを派遣されていることは、〝魔女の饗宴〟を率いる莉緒菜らにも伝えてあった。

 そんな彼らに動いてもらえるのであれば、動きようもある。


 しかし。



《……ごめん。今回ウチらの護衛についてきてくれてるの、レベル3のパーティなんだ》



 もしもここに来ているのがレベル4、あるいはレベル5のパーティであったのなら、かなり力強い増援であっただろう。

 だが、今回『明鏡止水』から密かに派遣されているのは、あくまでも初動対応に遅れてしまわないための人員でしかなく、レベル4以上――つまりは一線級の戦力には該当しない者たちである。


 レベル3パーティでは、一般的には中層に入ってすぐ、中層浅部の探索が限界だ。

 深部に飛ばされているという状況である以上、戦力としては厳しいと言わざるを得ない。



「そう、まあしょうがないわ。なら、こちらに来てこの犯人の護送を頼んでもらえるかしら?」


《おけ。ちょいメッセージ送ってみる》


「――りおなん」


「……ついてくるつもりね?」


「もち。るかちーがピンチなら、あーしは絶対行く」


「同じく。ウチらだってできることあるだろーし」



 真っ直ぐ自分を見つめて断言してみせる奏星と、それに続く美佳里。

 彼女たちを一瞥して、莉緒菜は逡巡する。


 奏星の【太陽】というダンジョン因子、レベル2とは思えない火力ならば、一般的なレベル3パーティよりも余程戦力になる。

 加えて、流霞と奏星、美佳里は人為的『魔物氾濫(スタンピード)』で異形の怪物を倒しており、すぐにレベルが上がってもおかしくはない。


 そうなれば、レベル3になってスキルが増える。

 魔物の数を処理するのに必要な火力面での不安は解消できる可能性が高い。


 そうでなくとも、二人の実力ならば〝魔女の饗宴〟のメンバーの力を温存してそれなりに進むことも可能だろう、とも思う。


 しかし、今は一刻を争うような状況だ。

 気が逸り、ちょっとしたミスを起こしてしまい、大きな事故に繋がる可能性もある――と考えて奏星と美佳里を改めて見やる。


 二人からは、焦燥や動揺によって気が急いているような気配は感じられなかった。


 決意が固まっている。

 不安はあるだろうが、それでも、もう間に合わないと諦めている訳でもなければ、現実を受け入れていない訳でもない。

 現実を受け入れ、その上で流霞が生きている、生き抜いてくれると信じている、そんな目をしていた。


 ――強い子たち。本当に、すごく真っ直ぐ。


 素直に莉緒菜は、そしてやり取りを見ていた瑛里華や聖奈、菜桜も思う。


 まだ決して付き合いは長くはない。

 だが、この二人と流霞、それに雅と雪乃を含めた5人は、打算や下心というものがなく、本当に真っ直ぐな繋がりでそれぞれに信頼し合っているのだとよく分かる。


 ならば――。



《――お待たせ。今こっち出発した。それと、ストックの魔法回復薬類も持たせるだけ持たせたから、できれば合流してから行ってほしいかも》


「ありがとう、助かるわ。――菜桜、あなたはここであの男の見張りと、魔法回復薬の受け取りをお願い。あなたなら、追いつけるわね?」


「ん、問題ない」


《それと、りおなん。できれば――》


「――分かっているわ。私と瑛里華、聖奈は奏星とミカミカを連れて出発するわ」



 ――――自分たちもまた、そんな仲間として恥じぬよう、信じ、支えようではないか。



「るかちーは中層深部。普通なら絶体絶命の状況よ。けれど、きっとあの子はそんな状況でも、いつも通りきひっと笑っているでしょう。だから、そんなあの子が帰ることを忘れてしまわないように、私たちが迎えに行きましょう」


《配信への状況説明はこっちでやっておく。みんな、るかちーのこと、お願いね》



 そうして、菜桜と共に、両手両足を縛られすっかり動かなくなった〝掃除屋(イレイザー)〟を残して、莉緒菜たちは中層へと向かって進んで行ったのである。




 そんな一行の動きを見つめていた雅は、雪乃の操作しているモニターを見つめた。


 流霞の装備に取り付けられているボディカメラ。

 配信用ではなく、緊急時の状況確認用のそれがうまく起動してくれれば、流霞のいる階層が魔物の種類から割り出せるのではないかという考えからのものだ。


 

「ゆっきー、どう?」


「キツそ。中層深部まで潜る予定なんてなかったから、映像の伝達性能高くない使い回しカメラだし……! あー、こんなことなら強いのにしときゃ良かった……ッ!」


「しょうがないよ。さすがに今回は予想外過ぎる。次からはそうしよ」


「っ、次があるかどうか分かんないじゃん!」



 比較的淡々とした物言いをする雅の言葉に、雪乃の沈痛な叫びが響き渡る。

 そう、それこそが一般的な反応ですらあった。


 普通に考えて、レベル2の探索者が中層の深部に飛ばされたのであれば、もう生き残れる確率は皆無に等しい。


 まず、魔物の強さが大きく跳ね上がる。

 さらに最上層や上層とは異なり、中層になると広い空間に出ることもある。


 そうなれば、ただでさえ強い魔物が、一斉に押し寄せてくることもあるのだ。


 ましてや、ここは『指定ダンジョン』ですらある。

 魔物の数は頻繁に攻略されているダンジョンに比べても圧倒的に多いと考えるべきだろう。


 よしんば、運良く魔物の通らない小部屋などに逃げ込めたとしても、だ。

 そのままそこから動かずに救助を待ち続けて、幸運にも救助が間に合う、なんていう可能性はほぼほぼ有り得ない。


 食料も水もないまま、助けなんて来るかも分からないまま、ただただ待ち続けるのは難しい。

 精神が摩耗して、助けが来ないのではと不安になり、冷静な判断が下せなくなるのだ。結果、無謀にも動こうとしてしまう。

 


「――確かに、あーしもそう思う。普通だったら無理だって。でもさ、こういう言い方はアレだけど、今回飛ばされてるの、るかちーなんだよ」



 そこまで言ってから言葉を区切り、苦笑混じりに雅は続けた。



「普段はおどおどしてんのに、ダンジョンじゃきひって笑ってさ。レベル1でイレギュラーを真正面から殴り伏せて奏星を助けて、天秤トラップん時はトロールと対峙してみせた。んで、人為的『魔物氾濫(スタンピード)』ん時なんて、あの化物を見事に誘導した、るかちーだよ? なんかさ、どうにかなりそうじゃん?」


「それは……そうだけど……! そんなの……――ッ」



 雪乃が言い募ろうとして雅へと振り返り、そして気が付いた。


 雅の握られた手は震えていた。

 瞳は揺れ、泣き出してしまいそうな程に弱々しく表情は歪み、しかしそれでもなお、口を強く結んで耐えているのだということに。


 そんな親友の姿に気が付いて、雪乃の頭が急速に冷える。


 雅だって不安で、心配で、取り乱したいのだ。

 けれど彼女は〝がちけん〟の代表であり、かつ今回の作戦の発案者でもあるからこそ、ここで取り乱して騒ぎ立てる訳にはいかないのだ。


 だから、歯を食いしばって耐えるしかない。

 流霞ならば、彼女ならばどうにか生き残ってくれると、そう信じて。



「……ごめん、雅。取り乱した」


「ううん。じゃああーし、視聴者に状況共有する前に、お父さんにも電話してくる」


「ん、分かった」



 彼女たちにとっての戦いもまた、こうして始まっていた。


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