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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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流霞の孤独な戦い Ⅱ



 魔法回復薬を飲み込んで、流霞は自分の身体を引きずるように再び砂利道横の森の中へ、満身創痍の身体を捩じ込んだ。


 貫かれた肩の焼けるような痛みは、じくじくと内側で疼いているが、少しずつ塞がっていっているらしい。

 身体のあちこちの切り傷もだいぶ塞がってきて、地面についた血の痕から逃げるように、森の中を進む。


 ――上層……どっちに……? 分からない、けど……。


 流霞が選んだのは、先程レッドスケルトンの集団が歩いて行った方角だ。

 気持ちとしては先程の魔物たちから距離を取りたいところではあるのだが、魔物は奥から手前に向かって移動しているものが多い。

 そのため、追いかけるように進んだ方が上層側へと近づけるのではないかと判断した。


 傷が治り、少しずつ肩を庇うように力を入れずとも歩けるようになった流霞は、改めてこの場所がどういった場所なのかを確認するように視線を巡らせた。


 オーロラのかかる夜空の下、薄暗い森。

 それでもしっかりと周囲を視認できる程度にある光量は、空のオーロラが明るいおかげか。

 それでもお世辞にも明るいとは言い難いおかげで、森の中に入り、気配を消しさえすればレッドスケルトンからは逃げられた。


 けれど、レッドスケルトン以外の魔物にそれが通用するとは限らない。


 たとえば匂いを辿るような魔物であったのなら。

 レッドスケルトン以上の身体能力を持つような魔物であったのなら、逃げ切れるとは思えない。


 だからこそ、尚更に一対一の魔物とは戦うべきだと、そう考えた。

 格上であることは重々承知しているが、それでも、レベル2でしかなかった自分の実力では、そのまま逃げ切れるとは思えなかったからだ。


 果たしてその結果は、流霞にとっては都合の良いものであった。


 相手が一体だけで孤立していること。

 技巧派であり、身体能力は確かに凄まじいが、まだマシな部類であったこと。

 これらが流霞にとってはプラスに作用した。


 もともと、人為的『魔物氾濫(スタンピード)』での戦いでレベルも上がっていなかったが、死闘を潜り抜けたのは事実だった。

 あとは魔物を討伐する数を増やせばレベルは上がるのではないか、という話が持ち上がったことはあった。


 レベルアップの条件やその詳細は、未だに不明瞭な部分が多い。

 しかしその一方で、〝死闘を踏み越えればレベルアップが確定、あるいは近づく〟というのは知られてきた。


 だから、戦うしかなかったのだ。

 そうでなければ逃げ切れないと、本能的に悟っていたから。


 結果、レベルを上げることに成功した。

 単体に勝つことすら難しいような場所。レベル2では全くと言ってもいい程に対応しきれないような相手でも、レベル3になれば少しは選択肢が広がるかもしれないと、瞬時に判断し、実行に移したのは正解だった。


 とは言え、だ。


 ――……魔法回復薬はあと4つ。もう一つレベルを上げられるなら上げたいぐらいだけど、正直、リスクが高すぎる、かな。


 魔物から隠れて進みながら傷の具合、それにレベルアップによる身体能力の上昇ぶりを確認しつつ、流霞はひたすらに思考を巡らせていた。


 レベル2のままでは、失敗を恐れ、魔物との戦いを後回しにしても命を落とすような状況であった。

 魔法回復薬を使ってでも、無理やりにでも勝利をもぎ取るという選択しかなかったからこそ思いきりよく割り切ることもできた。そうするしかなかった。

 だが、レベル3になれた今は、無理に戦うのはリスクが大きすぎるし、上手く逃げ切る方向に舵を切れる可能性が高い。


 身体能力は確かに上がっているが、先程のレッドスケルトン相手に無傷で勝てるという程ではない。

 だからと言って戦うとなると、魔法回復薬に頼らざるを得なくなる。

 だが、魔法回復薬を湯水の如く消費していけるほどのストックを有しているわけではない。


 だから、流霞は限界まで息を潜め、逃げることを最優先に移動する。

 いざという時にすぐに動けるよう体力を温存しながら。


 周囲の音に、気配に細心の注意を払いながら進んでいく。


 だが、現実は厳しかった。


 ――ッ、そんな……ッ。まさか、狼タイプの魔物……!?


 音を立てないように進んでいた流霞の視線の先に見えた、僅かな影。

 慌てて森の中に隠れた流霞が見たのは、四本脚で立っていながらも流霞の目線よりも高い位置に顔がありそうな、巨大な狼型の魔物であった。


 遠目にははっきりとその巨躯を判別することは難しいが、しかしそれにしてもあまりにも大きすぎる。


 そんな存在に気が付いて動きを止めた流霞だったが、次の瞬間、狼型の魔物がぴくりと鼻を動かすと、スンスンと周囲のニオイを確認するように僅かに顔をあげて匂いを嗅ぎ始めた。


 そうして――狼型の魔物は。

 レベル5の魔物、〝ブリッツウルフ〟と呼ばれ、巨躯からは想像もつかないような、その名の通りの凄まじい速度を武器にする巨狼は、流霞の潜む方向へと顔を向けた。


 ――まさか、血のニオイ……!? ッ、気付かれたッ!


 刹那、ルオォン、とでも言うような独特な遠吠えのような声をあげて、ブリッツウルフが天を仰ぐ。

 遠吠えをしたブリッツウルフのすぐ近くに、さらに2匹のブリッツウルフが姿を現し、何かを確認するように再び周囲のニオイを確認し、流霞へと顔を向けた。


 だが、その頃にはすでに流霞も動いていた。

 距離を取るべく、一目散に砂利道を突っ切り、道を挟んで反対側の森の中を真っ直ぐ駆けていく。


 不規則に生い茂る木々は、容易く人の方向感覚を狂わせる。

 真っ直ぐ進んでいたはずが、木々を避ける度に徐々に方角を見失わせ、一度でも選択を誤って木などを目印にしようものならば、そこからはあっという間に明後日の方角に誘導されてしまう。


 けれど、今はそれでも構わなかった。

 ひたすらに距離を稼ぎ、逃げることだけを最優先に森を駆ける。


 レベル3になった流霞の身体能力は、流霞が思っている以上に大きく跳ね上がっていた。

 速度はもちろん、その速度での移動に頭がしっかりとついてくる。一瞬の情報の処理能力も跳ね上がっていると言っていいだろう。


 この調子でいけば、かなり距離を稼げるはず。

 そう油断しかけた、その時。



「――ッ!?」



 斜め後方から飛んできた、見えない何か。

 直撃するコースに真っ直ぐ、木々を斬り裂きながらやってくる不可視のそれを、流霞は目の前の木を蹴って態勢を無理やり変えることで、どうにか避けた。


 ――追いつかれた……! 今の魔法!? 見えない、風の刃……!? 次がくる!


 着地と同時に、〝独自魔法〟で自分の身体を浮かび上がらせ、重力の向きを変えて身体を射出――させると同時に、自分がいたその場所を斬り裂く不可視の風の刃が着弾し、周辺の木々もろともに地面に深い斬撃の痕を残した。


 一方で射出された流霞は重力を戻して地面を前転するように転がると、身体を起こして反転し、ロッドを自分の身体の前に差し込んだ。

 

 巨大な前足、鋭い爪が、流霞のロッドを捉えて、踏ん張りの効かない流霞の身体をあっさりと吹き飛ばし、大木に背中から打ち付けられる。



「……っ、が、はぁ……!」



 一瞬、遠のく意識。

 それでも相手は待ってくれずに襲いかかってきている。


 身体を動かすのは難しく、再び〝独自魔法〟を用いて己の身体を横に滑らせると、流霞が打ち付けられていた巨大な木の幹へ、唸り声をあげたブリッツウルフが噛みつき、砕くのが見えた。


 間一髪で避けることはできたが、未だに身体の自由は効かない。

 衝撃が芯まで響いたかのようで、呼吸すらままならない。


 ――っ、このまま、じゃ、やられる……。


 必死に反撃の糸口を、回避のルートを見つけ出そうと周囲を見回して、流霞はようやく気が付いた。



「……しま……っ!?」



 重力に導かれながら真っ直ぐ進んだ流霞がいたのは、切り立った崖の目の前だ。

 魔法を解除してどうにか動きを止めようとするが、重力に引き寄せられて流霞の身体が滑っていく。


 手に力を入れて、爪が剥がれそうな痛みを味わいながらどうにか地面を掴んで身体を止められたのは、しかし崖の切れ目の目の前で。


 目の前にはブリッツウルフの一匹が、すでに跳躍して流霞へと接近していた。



「――ッ、喰われるぐらい、なら……!」



 咄嗟に手の中に魔装を顕現させて、流霞がブリッツウルフの大きく開かれた口の中に突き出す。

 ガツン、と口内に突き当たったロッドにブリッツウルフが驚き、前足で流霞の身体を殴り飛ばすように振り払い、そして。



「――……ぁ」



 流霞の身体が、崖の向こうへと投げ出された。


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