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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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【配信】『指定ダンジョン』配信 Ⅲ




「トラップの解除、の解説……」


『なおちゃん……w』

『ちょっとしょぼんとしてるw』

『どっちかっていうとクールだったのにw』

『いや、しゃーないw』

『なんなのあのJKたち……w』


「――あったあった。ほい、っと。おけー、解除おわー」


「ないすー」


「ミカミカすごい」


「んー、あーしの場合、ズルっていうかさー。なおなおんみたいに実力じゃないから褒められたもんじゃなくない?」


「んなもん、解除できるんやったらどっちでもええやん」



 美佳里が魔装の眼鏡越しにトラップを発見。

 スイッチを見るか罠そのものを見るかによって、そこから伸びる光る線を撃ち抜いてしまえば、仕掛けは止まるようだと気付くまでにかかった時間はあまりに短かった。


 軽い調子で告げる美佳里に、奏星と流霞が素直な称賛に美佳里が謙遜したところに飛んできた瑛里華の一言に、美佳里は気まずい気分になりながら菜桜を見やる。



「……気にしなくていい。ミカミカのその力は、凄く有用。瑛里華の言う通り、トラップに気付けて、仲間を危険から遠ざけられるなら、それに越したことはない」


「なおなおん……」


「瑛里華の言う通り。正しいもズルいもない。……ない」


『なおちゃん……!』

『その表情では説得力が……!』

『無表情キャラの貴重な不機嫌シーンw』

『かわいいww』

『いいこと言ってんだけどなぁww』



 色々と先輩として教えてあげたりできると、ちょっとウキウキしていたのだ。

 なのに、魔装の斜め上へのアップデートが入って邪魔をされ、ウキウキシチュエーションを堪能することもなく、美佳里がトラップをどうにかできるようになってしまったのが面白くないのである。


 そのせいでむすーっとした表情が隠しきれていないのである。


 いいことを言っているのだが、どう見ても納得できていなさそうな雰囲気だ。

 おかげで美佳里は申し訳なさそうだが、コメント欄は愉悦で溢れかえってしまっている。



「そ、それよりさ、なおなおん。さっき言ってた〝固定型〟と〝発生型〟ってどんなの? あーしそーゆーの詳しくないから、やっぱプロの目線から聞きたいっつーか」


「……プロの目線」


「そーそー。ウチらじゃそーゆーの分からないじゃん? ね、るかちー」


「あ、私は勉強して――ない! から分かんないなぁ! なおなおんさんに教えてもらいたいです!」



 こういう場面で余計なことを言いそうになってしまうのが、コミュ障オタク少女の欠点である。

 しかしそれでも流霞は気が付いたのだ。

 奏星や美佳里から「それはダメだよ? 分かるよね? ん?」みたいな気迫が乗せられた、そんな表情に。


 危なかった。

 こういうところで空気を読まずに「私は勉強したから知ってるよ」とでも言おうものなら、きっとギャルに「空気読めよー」と呆れながらツッコミを入れられ、そのままそういう存在として扱われることになるところであった。


 と、流霞はそんなことを思っているが、実際に奏星はもちろん、美佳里も流霞がそういうタイプであることは察している。言わないだけである。



『きひ子ちゃんww』

『こーれダメそうっすww』

『いや、待て』

『なおちゃんww』

『満更じゃない顔してるww』

『可愛いかよww』



 明らかに嘘だと分かるような流霞の言葉に諦めムードが漂いかけるコメント欄であったが、しかし、ドローンが菜桜の顔を映し出す。

 菜桜は基本的に無表情ではあるのだが、何やら無表情の中にも僅かな変化はしっかりと出ているようで、〝金銀花(カプリフォリオ)〟に頼られたことで心なしか満たされてきているようで、目が輝いて鼻の穴がひくひくと動いているのが見て取れた。


 ――ちょっっっっろ。


 美佳里と奏星が思わずそんな感想を抱いた瞬間であった。



「うぉっほん。じゃあ、〝固定型〟と〝発生型〟の説明を始める」


「うぇーーい」


「よっ、待ってましたー」


『なんかはじまたw』

『発生型って初めて聞いたかも』

『気のせいか莉緒菜様たち苦笑してっけどww』

『都市伝説じゃね?』

『滅多に出ないらしいけど』

『あれ、でも一時期話題になったよな』



 やんややんやと盛り上げてみせる美佳里と奏星、それに付き合って拍手をしてみる流霞。

 そんな彼女たちの前で、菜桜がすっと手を挙げた。

 すっかりその気であるらしいのでみんなも黙る。



「簡単に言うと、〝固定型〟も〝発生型〟も、その言葉の通り。〝固定型〟はダンジョンが登場した時から存在しているトラップ。場所が変わったり、消滅したりっていうことはない。その一方で、〝発生型〟は前触れもなく突然発動して、そのまま〝固定型〟になるものもあれば、そのまま消えるものもある」


「残るのもあれば、消えるものもある……?」


「そう。だから、通い慣れた道だからって注意が散漫していると、〝発生型〟から〝固定型〟になったトラップに引っかかる、なんてこともあるから注意が必要。慣れ親しんだ道でも、油断はダメ」



 それはなかなかに悪辣と言うべきか、厄介だな、と流霞も思う。

 ダンジョンの道は基本的に変わらない。魔物が出てくる、出てこないの差はあったとしても、通路の道幅であったり正しい道が変わったりということはない。

 だから、下の階層に向かっている際、正しい道を覚えていると、どうしても注意力が散漫となる。


 もしも慣れ親しんだ道がある日、大量に〝発生型〟によってトラップが生み出されていたら。それに気が付かずに足を踏み入れてしまったら、命を落とす危険性も否めない。


 そんな危険性を美佳里や奏星も理解したのだろう。

 二人の表情が確実に強張っているのが見て取れた。



「けれど、私が〝発生型〟を見たことがないと言った通り、もしかしたら凄く珍しいケースなのかもしれない。だから、どれだけ慣れた道でも、この階層から先を進む時は、トラップがあるかも、っていう意識だけはしっかりと残しておくといい」


「っ、わかった」


「ミカミカも、破壊だけじゃなくてトラップの解除方法は覚えておいた方がいい。場所によっては破壊しきれないものがあったりするから。るかち、奏星も、ここからはトラップの特徴と、解除方法を伝えておく。最低限どういうものなのかはしっかり覚えておいて」


「おけー! ありがとね、なおなおん!」


「壊せないのもあるんだったら覚えとくかー。るかちー、どする?」


「私は魔物の警戒強めておくから、奏星がトラップ見ておいて」


「おけおけ」


「私たちもいるから、トラップの方に集中していていいわよ」



 流霞と奏星のやり取りに声を挟んだのは莉緒菜だった。

 上層12階層の魔物はシャドウウルフにグレーホブゴブリンの武装バージョンと、11階層と変わらない。ただ、トラップが大量に存在しているという点だけが大きな変化というところだろう。


 問題なく倒せる相手だ。

 ならばその魔物しか出ない今の内にトラップについての知識を深めておいた方がいい、というのが莉緒菜の判断であったようで、流霞の視線を受けて瑛里華や聖奈も頷いてみせた。



「トラップの知識は持っておくべきだわ。戦いの中で落とし穴を踏んで分断されてしまうことも有り得るもの」


「せやな。ウチらもみんな、簡単なトラップの見極めと解除方法ぐらいは履修済みやで」


「ふふ、そうですね~。今は私たちがいますから、頼っていただいて大丈夫ですよ~」


「……うん、ありがとう」


『〝魔女の饗宴〟がまとも、だと……!?』

『いつもよりギスギスネタが少ないと思ったら……!』

『いや、これはこれでてぇてぇ分が補給できてお得なのでは?』

『↑』

『コメ欄に天才おったわ』

『有能』

『〝魔女の饗宴〟のてぇてぇが供給できる配信なんてあっていいんですかっ!?』



 素直に従ってトラップの勉強を始めた流霞を見つめながら、そっとコメントを見てから呆れる莉緒菜たちであった。



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