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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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【配信】『指定ダンジョン』配信 Ⅱ




「――ダンジョン上層12階層。ここからは、ダンジョンが違う意味で牙を剥いてくる。それが、トラップ。そして入口にはこれ、トラップのお約束、踏むと矢が飛んでくる突起がある。こうすると……」



 菜桜が説明しながら足元にある出っ張ったレンガを踏み込む。

 するとカチリ、と小さな音が鳴ったかと思えば、即座に天井から矢が放たれ、スイッチの少し前方に突き立った。


 菜桜の立っている位置ならば当たらないが、何も考えずに前に進めば直撃するようなコースだ。

 それに気が付いた〝金銀花(カプリフォリオ)〟の面々が思わずといった様子で息を呑んだ。


 だが、菜桜にとっては大して驚くようなものではなかったのだろう。

 何事もなかったかのように振り返り、菜桜は続けた。 



「ここからはこういう罠が増える。オーソドックスな突起型のスイッチもあれば、ちょっと服を引っ掛けただけで切れる糸だったり、体重に反応して開く落とし穴なんかも。だから、基本的には周囲をしっかりと見る必要がある」


『助かる』

『え、これ魔物と戦いながら気をつけんの?』

『実際、このトラップで命を落とす探索者は割と多い』

『魔物がいるところでトラップを踏んで追い詰められる探索者はちょくちょくいる』

『ダンジョントラップの初級編って感じだね』



 配信を観ている視聴者たちもトラップがなんたるかを知らない者は多い。

 コメントでも驚いている者はいたように、上層で順調に魔物を倒せていたからと油断した結果、トラップという存在は忘れられがちなのだ。


 そんなコメントを気にも留めず、菜桜が続けた。



「これが中層になってくると、トラップの種類も増える。だから、上層にいる内にトラップについて慣れないと死ぬ」


「えぐぅ……」


「そう、ダンジョンはそういう場所。だから、トラップは基本、見破れる知識、解除できる技術を持つべき。これは斥候役だけに限らない。最低限見破れれば、いざという時には魔法だったり投擲でトラップを破壊することもできる」


「るかちー、トラップとか分かりそ?」


「……分からない、かも」


「それな」



 戦闘中にそこまで周りを細かく見ていられるかと言えば、なかなかに難しい。

 そう思ったのは奏星だけではなく流霞もまた同じだったようで、眉間に皺が寄った。


 そんな中、美佳里が怪訝な表情を浮かべていたかと思えば、ゆっくりと口を開いてみせた。



「……ええっと、なおなおん。もしかしてあそこの壁の斜め下にあるのもトラップだったりする?」


「ん? ……うん、そう」


『おっと?』

『ミカミカちゃん、目敏い系?』

『さすがスナイパー』

『え、どれ? 見えんけど』

『よく分かるな』



 突然美佳里が声をかけ、しかもトラップを見抜いてみせたことに、目を丸くして驚いたのは菜桜や視聴者だけではなかった。当然、その場にいた他の面々も同様だ。


 しかし当の美佳里は、トラップを見つけてみせたことに喜んだり、自慢げに胸を反らしてみたりというようなこともなければ、周囲の反応を気にする余裕などなく、ただただ困惑したような表情を浮かべて眉間を揉み解すように人差し指と親指で眉間を摘んでいた。



「えっと、ちょい両方ドローンミュートにしてもらって良さげ?」


『お?』

『スキル系か?』

『俺らにも聞かせてよー!』

『スキル隠すのはよくあること』

『対応早くて草』

『しばらくお待ちください、的なダンジョン映像配信始まったw』



 ドローンがミュートモードになり、カメラ横のマイクミュートを知らせるオレンジのランプが点灯する。

 それと同時にドローンが一行からカメラを外す。口の動きで解析されるのを避けるためだ。


 そんなドローンの動きを確認してから、美佳里が眼鏡を外してみせた。



「やー……、なんかさー。あーしのこの眼鏡、トラップの色が変わってどこにあるか分かるようになっちゃったっぽいんだけど」


「は?」


「え、なにそれ?」



 声をあげたのは瑛里華と莉緒菜の二人であった。

 先程までの演技はミュートモード中ということもあって解除されたのか、それとも、あまりに予想外な出来事に忘れ去られてしまったのか、素の声が漏れている。


 全員が全員、言葉を失って固まっている中で、美佳里がなんとなーく気まずい気分になりながら、自分の後頭部を軽く掻いて苦笑した。



「なおなおんから説明聞いてたら、いきなりシステムアップデートなんちゃらって文字が出てさ。んで、直後にトラップのトコとこ、もやもやした虹色みたいなのに光んのよ」


「トラップが光る……?」


「ん、そそ。ほら、奏星、つけてみ?」


「え? いいん? ……あれ、なんも見えないけど?」



 美佳里が言うまま奏星が美佳里の魔装である眼鏡をかける、が、何も見えない。ただただ伊達眼鏡でもかけているかのような光景で、何も変わることはないようだ。

 眼鏡を外して美佳里へと返すと、美佳里はそれを受け取りながら口を尖らせた。



「えー? おっかしーなー……。ほら、あーしがつけたら見えっけどー?」


「あー、ミカミカの眼鏡は魔装やろ? 他人が使うと制限がかかるタイプなんちゃうか?」


「そのタイプの可能性が高いわね」



 魔装は他者と共有できるタイプのものもあれば、流霞のロッドのように、流霞以外にとってはひたすらに重い代物に感じるなど、他者に貸与すると本来の性質を失ったり、制限がかかるようなものもある。

 美佳里の眼鏡は正にそのタイプであったようだ。



「あー、そーゆー感じかー。え、んじゃあーしの言葉って信憑性ないじゃん」


「ううん。ミカミカが言ったのは合ってた」


「マ? ならいーけどー」


「とりあえずこのまま進んで幾つかのトラップを確認してみて」


「おけー。雅ー、ミュート解除よろー」



 菜桜に言われて納得した美佳里が声をあげれば、ドローンが再び一行へと向き直り、マイクミュートを知らせるオレンジ色のランプが消えた。



「お待たせー。いやー、ちょい確認したいことがあってさー。悪いねー」


『問題ない』

『確認はしっかりしないとね』

『おかー』

『何があったのか気になる』

『あんまスキル系とかは詮索すんなよー』



 コメント欄も唐突に待たされることに対して文句を言っている様子もなく、コメントを確認していた莉緒菜や瑛里華、聖奈は密かに胸を撫で下ろした。

 突然配信をぶった切るような真似などはこれまでの〝魔女の饗宴〟での配信ではなかったことだ。


 些細なことがきっかけで炎上するようなこともあるのがインターネットの怖さでもある。

 責められるほどのことをしなくても、炎上で世間を騒がせたから謝れ、というような圧がのしかかってくることも珍しくはない。


 それが皆無なのは、今頃コメント対策をしてくれている雅や雪乃のおかげなのだろう、と思っていた。


 だが、実のところ、雅や雪乃はこれには何もしていない。


 というよりも、正確に言えば、こうした中断は実は探索者配信の中では特に珍しいことでもないということ。

 さらには、いかにもギャルな感じが溢れ出ている奏星や美佳里たち〝金銀花(カプリフォリオ)〟――なお、流霞は除かれる――なら、そういうことをしても違和感がない、という視聴者の先入観も働いていたりもする。


 ギャルは自由な生き物だ。

 唯我独尊とまでは言わないが、マイペースに色々やる生き物であることを、視聴者はなんとなくだが理解(偏見)しているのである。


 もちろん、これを奏星たちが聞けば反論が飛ぶだろうが、それはともかく。



「じゃ、行動再開。ミカミカが上手くトラップを見極められそうだから、しばらく私は何も言わない。ミカミカ、トラップ対策よろしく」


「りょー、まかせろしー」


「ただ、トラップには〝固定型〟と〝発生型〟がある。私は目の前では見たことないけど、運が悪いと突然足下にトラップが新しく生えることもあるから、注意して」


「げー、性格わる。そんなんあるん?」


「うん。噂で聞いたことがある」


「マジか。気をつけよ」



 そんな会話をしながら、一行はゆっくりと奥へと進んでいったのであった。


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