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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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【配信】『指定ダンジョン』攻略 Ⅰ




 ダンジョン上層、11階層。

 石造りの遺跡の広間を疾駆する流霞が、グレーホブゴブリンという因縁の魔物が振り下ろした剣を掬い上げるようにロッドを振るってかち上げる。

 開いた胸元を踏み台にするように、そのまま後方宙返りすれば、流霞のいた場所、宙にいた流霞の視線の先を炎の刃が走った。


 燃やし尽くされたグレーホブゴブリンの後方、魔法を使ってくるタイプのグレーホブゴブリンが流霞を狙って手を翳した――が、次の瞬間、その頭が遠方から飛んできた魔弾に撃ち抜かれ、ぐしゃりと崩れた。

 美佳里の魔法銃から放たれた一撃が、寸分違わずグレーホブゴブリンを穿ったのだ。


 そんな美佳里へ、横合いから駆けてくるシャドウウルフ。

 美佳里が舌打ちしながら一歩下がると、その場所へ奏星が、そして流霞が駆け込み、それぞれに一匹ずつシャドウウルフと対峙する。


 上層のかなり深いところまで進んでくると、すでにレベル1――いわゆる一般人の身体能力では戦いきれないような魔物たちが出てくるが、シャドウウルフのそれはまさにその筆頭とも言える。

 すぐに流霞と奏星から距離を取るように跳び、壁を蹴って立体機動を軸に動き始めた二匹のシャドウウルフが、リズムを変えて流霞と奏星の二人に向かって飛びかかる。


 しかし。



「――沈め」



 魔力を操り、特徴的な淡い光を纏う流霞が、ロッドの先端を地面に叩きつけて短く告げる。

 すると、斜め上空から飛びかかってきた二匹が、不可視の何かに押し潰されるように落下し、床に強く叩きつけられた。


 シャドウウルフが顔をあげるよりも先に、奏星が、そして美佳里が動く。

 奏星はすでに一匹に肉薄して細剣を振るっており、一方美佳里は、ホルスターから引き抜いたフリントロックピストルを思わせる片手銃を引き抜いて、もう一匹のシャドウウルフの眉間を撃ち抜いた。



『ナイス!』

『レベル2、しかも3人でも楽勝か』

『まあそうじゃなかったらスタンピード止めれてないわなw』

『マジで将来に期待できるわw』

『〝魔女の饗宴〟のメンバー、ちょっと苦笑気味なのうけるw』



 流霞たち〝金銀花(カプリフォリオ)〟側に流れているコメントの数々は、今回は奏星や美佳里はもちろん、〝魔女の饗宴〟メンバーにも見えていないものの、荒れることもなく順調であった。


 そんなコメント欄の中でも触れられていたように、〝魔女の饗宴〟メンバーは一連の戦いを見て、はっと我に返って演技モードに入った瑛里華がニタリと笑う。



「……やるやん。レベル2の3人編成で危なげなく処理しよった」


「あの子たちがこの程度で苦戦するなんて、思ってもいなかったわ。〝独自魔法〟を上手く使っているあの子たちは、既存のレベル2探索者の実力を大きく上回っている、と考えるべきでしょうね――」


『普通にびっくり』

『レベル2ってここら辺かなり無理ゲーじゃなかったっけ?』

『だいたいジリ貧になって撤退したりするね』

『莉緒菜様、きてる!』

『シャドウウルフきてるよ!』


「――まあ、もっとも、それは私たちにも言えること、なのだけれど」



 ドローンで映し出された莉緒菜が、振り向きもせずにパチン、と指を鳴らす。

 直後に一行の後方、最後尾にいる聖奈の後ろに魔法陣が浮かび上がり、直後に現れた巨大な真っ黒な腕が、ブラックウルフを掴み上げ、そのまま握り潰してみせた。



「……莉緒菜、後ろは私の仕事のはず」


「そう怒らないでちょうだい、菜桜。あなたを信用していない訳ではないのよ。ただ、あなたは《《速すぎる》》から、視聴者(オーディエンス)が何が起こったかも理解できない内に終わってしまうと思って」


『出た、悪魔の腕!』

『ひぇ』

『強すぎぃ……』

『え、菜桜ちゃんいつの間にそこに!?』

『ガチ忍者過ぎて草枯れる』



 握り潰したブラックウルフが消え、莉緒菜が出した【悪魔の腕】と名付けた〝独自魔法〟が消えると、そこには短剣を手にした菜桜が立っていて、じとりと菜桜を見やる。



「ウチらが暴れんのは中層からの予定やったけど……、見てるだけっちゅーのんは性に合わんなぁ」


「ふふ、落ち着いてくださいね~、瑛里華?」


「言われんでも我慢しとるやろ?」


「言わないと、ちょっと気分転換、で突っ込みかねないあなたですから~」


「……言うてくれるやんけ、似非聖女」


「あら~? 駄犬はそろそろ躾が必要そうですねぇ~?」


『はじまたw』

『えっ、え?』

『この二人仲悪いんです?』

『いや、そういう設定w』

『設定って言うなw』

『だってプライベートで仲良く喫茶店で談笑してるのSNSでもアップされてるしw』

『草』



 険悪なムードで一触即発――に見えるような寸劇を挟んでいるのだが、すでに〝魔女の饗宴〟のことを熟知している視聴者たちから言わせてもらえば、この二人のやのやはいわゆる『お約束』のようなものであった。



「はいはい、今日はあの子たちの保護者役よ。くだらない諍いはそこまでになさい」


『そしてこれもいつもの』

『草』

『ネタバレやめたげてw』

『たまにアドリブめっちゃ入るけど、今日は割とスタンダードだなぁ』

『金銀花ちゃんいるから遠慮してんじゃね?』



 ――視聴者やめてね? そういう核心を突くの、良くないよ?


 呆れたような物言いで二人を止めつつも、莉緒菜が心の中で静かに突っ込みを入れる。

 実際、〝金銀花(カプリフォリオ)〟がいる手前、演技中はちょっとやりにくさを感じてみんなの声が小さかったりするのだ。

 そういうのは気が付いても言うものじゃない、と言いたい莉緒菜であった。


 一方で、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の流霞や奏星、美佳里はと言えば、戦い方をお互いに確認し、次はどうするか、合図をもうちょっと変えてはどうかと意見を交換し合っていた。



「こんぐらいなら問題ないけど、この前の『魔物氾濫(スタンピード)』レベルになると結構キツかったんよね」


「合図をもうちょい簡単にするってのは?」


「んー、複雑にすると簡単な合図じゃ間に合わないし……。あ、私が前に出てるから、できたらミカミカが指示できるようになってくれるとか……」


「えぇっ!? いや、それだったら奏星の方が良くない!?」


「あーし無理。ミカミカファイト」


「ちょっ」


『草』

『仲いいなww』

『きひ子ちゃんも笑ってるしw』

『きひ子ちゃん最近なかなかきひらんなw』

『もうちょいきひってもろてw』

『相手が強ければ強いほどきひるんだよなぁ』

『どこの戦闘民族ですかねぇ……?』



 コメントを気にする様子もなく会話を進めているが、視聴者も気にせずに自分たちで盛り上がっているようであった。

 元々ダンジョン探索では一般的な自宅での配信や、会話しながら行うような探索とは違い、魔物に注意していたり、罠を警戒しなければならないということも多い。そのため、コメントに反応がないというのも珍しい話ではないというのも大きいのだろう。


 表面上は非常に平和な配信が続いていると言えた。




 しかしその一方で、雅と雪乃もまた徐々に増えてきているアンチコメント、荒らしコメントを見て顔を顰めつつあった。



「うーわ、コイツ裏アカで戻ってきた。はい、特定完了ー。今どき、アカウント変えたって意味ねーし」


「なんかさぁ、そういう捨てアカじゃないのにAIに弾かれてるってことは、分かってないってことっしょ? ネットリテラシーヤバすぎん?」


「捨てアカはだいたい中年ぐらいだよ。やり口が昔と変わってないし。で、分かってないのは多分うちらよりちょい上ぐらい。全然仕組みとか分かってなくて、怖さとか理解してない世代ってヤツ。つまりゆっきーが言ってんのは若い世代」


「マ? 勉強しろー?」



 雪乃の呆れたような声を聞きながら、雅が手動判断をAIから要請された内容に目を通し、容赦なく開示請求対象になる存在をまた一つリストに突っ込む。


 ただの批判や意見程度ならいいのだが、何故流霞や奏星、美佳里に対して「謝罪しろ」だの「活動自粛しろ」だのという謎の説教や、「魔物にやられちまえ」というぶっ飛んだコメントや、ライン越えとなるのが分かりきった発言をいちいち送るのか、雅には理解できない。


 後者はもちろん一発アウトだが、今のご時世、前者のような発言も「執拗な嫌がらせ、悪質な妨害」として警告対象になり、それでも繰り返していればアウト判定になるのだ。

 そんなものが見逃され、許されると思うなど、一体いつの時代のネット環境を生きているのやら、と思う。


 それでも、今のところは順調だ。


 もしかしたら〝不法探索者(アビューザー)〟がいるのではないかと慎重になっていたものの、今のところは何もおかしな事件は起こっていないし、真鶴ダンジョンに潜っていることなどはダンジョンアタック中は黙秘しているため、おかしな連中が近づいてきているようなこともない。


 万が一にも探索者協会や、その協会を擁護しているような者たちに襲撃されるようなことがあるのではないかという可能性を危惧して、実は離れたところから『明鏡止水』の数名が護衛にもついているのだが、今のところ雅の端末に異変を知らせるような連絡はない。


 ――考え過ぎ、だったのかな。


 そんな風に思いながら配信を観ていると、一行はついにトラップが多くなってくるという上層12階層へと足を踏み入れていた。



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