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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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今更知られる流霞の生い立ち




 遠くから聞こえてくる、ダダダダ、という連続音。

 何事かと思いながら流霞と奏星、美佳里が振り返れば、そんな3人の間を突如として風が駆け抜けた。



「――ん、おまた。にんにん」



 声が聞こえて振り返れば、壁に着地するように動きを止めながら人差し指と中指を眼前に立て、くるりと回転しながら着地した忍者――風の『魔導防具(マギア・ギア)』に身を包んだ菜桜だ。


 なるほど、確かに忍者っぽい動きであった。

 特に壁に張り付いたり、手が何かの印みたいなのを結んでいたり。


 そんな唐突な登場に呆気に取られている流霞や奏星、美佳里を他所に、菜桜は得意げだ。鼻息が「んふーっ」と鳴っている。

 そんな菜桜へ、莉緒菜が振り返った。



「ごめんなさいね、菜桜。少し違和感があったからあなたを呼び出させてもらったわ」


「問題ない。……でもなんか魔物、少ない……?」


「えぇ、さすがね。その通りよ。〝不法探索者(アビューザー)〟が入り込んでいる可能性があるわ」



 この場所に来るまでに状況を見ていて異変を察知していた菜桜。

 そんな彼女と言い、冷静に状況を把握して対応してみせている莉緒菜たちといい、これがレベル4探索者パーティ、〝魔女の饗宴〟の実力なのか、と〝金銀花(カプリフォリオ)〟組は喉を鳴らした。


 一方、〝不法探索者(アビューザー)〟と聞いた菜桜の表情が引き締まる。



「……分かった。私が調査してくればいいの?」


「えぇ、浅い階層だけ、ね。今日の下見動画は私たち〝魔女の饗宴〟から探索者協会に提出することになるのだし、〝不法探索者(アビューザー)〟がいる可能性がある以上、〝金銀花(カプリフォリオ)〟を巻き込む訳にもいかないわ。下見は私たちだけでさくっと終わらせましょう。るかちー、奏星、ミカミカ。あなたたちの出番は明日までお預けよ」


「りょー」


「は、はい」


「あいあい」



 奏星、流霞、美佳里の返事を受けた莉緒菜が頷けば、菜桜が周囲をぐるりと見回した。

 真剣な面持ちだというのに、相変わらず印を結ぶように顔の前に出した手を下ろすつもりはないようである。



「瑛里華は?」


「今は横道の探索中よ。けれど、おそらくは空振りに終わるでしょうね。菜桜、あなたは上層10階層あたりまでさくっと見てきてちょうだい。それまでに魔物の数が増えていたり、〝不法探索者(アビューザー)〟らしき存在がいたら戻ってきていいわ。それらしいものがなくても10階層に入ったところで引き上げてちょうだい」


「ん、分かった」


「それと、ちゃんとボディカメラを録画状態にしておいてちょうだい」


「あ、忘れてた。……おけ。じゃ、行ってくる。にんにん……煙玉ないけど」



 配信であればドローンが一般的ではあるのだが、探索録画用であれば自分が映る必要はないため、ボディカメラを使って録画することも珍しくはない。

 探索時、パーティでの行動であれば一人が録画していれば全員が全員録画する必要もないため、菜桜はカメラに異常がある場合のみ録画を担当するというぐらいしかボディカメラを使う機会もない。そのせいですっかり録画を忘れていたようである。


 録画の操作をするなり、菜桜は再び疾風になって一行の前からあっという間に消えるようにダンジョン奥へと進んでいった。

 煙玉なんてものがあったらこの場で使っていたのだろうか、と困惑する〝金銀花(カプリフォリオ)〟メンバーたちである。



「えっと、りおなん。ウチらはどうする感じ?」


「あぁ、そうだったわね。私から聖奈に連絡をするけれど、今日の予定としては下見は中止になるわ。あなたたち〝金銀花(カプリフォリオ)〟のメンバーとあっちの二人は一旦このままダンジョンの外へ出て待っていてちょうだい。私と瑛里華、それに聖奈はこのまま奥に行って、菜桜の戻りを待つわ」


「奥に?」


「えぇ。もしも〝不法探索者(アビューザー)〟が口封じに攻撃してきたりした場合に、対処しなくちゃならないもの」



 それはつまり、人と戦う可能性がある、ということでもある。


 ダンジョンという場所は、そういったことも起こりかねない場所だ。

 それは流霞や奏星、美佳里たちも理解していた。

 とは言え、昔に比べて今となってはそんなものは稀で、滅多に起こらない事例になっている。


 しかし、〝不法探索者(アビューザー)〟のような存在にそういった道理が通用しないのもまた事実だ。

 もしも襲われたら、抵抗しなければ自分たちの命がなくなる。


 ――その時、自分たちは戦えるだろうか……。


 と、思わなくもなかった。

 そう、奏星と美佳里は。


 ――人相手かぁ。フェルディナンド様の缶バッジ勝手に触られた時、魔装で殴ろうかなって思ったけど、実際に戦うのは孤児院以来かな。


 今更明かされる真実である。

 ぼっちコミュ障オタク少女の流霞が、奏星のことを強く意識したあの日。

 推しグッズを手垢塗れにした男子生徒が騒いでいたあの時、実は流霞はあと数瞬時間が経っていたら、あの男子生徒をロッドで殴ろうとしていたのである。


 つまり、後日にその男子生徒が自身で口にした通り、「きひられる」一歩手前だったのだ。



「……るかちーはなんか気にしてなさそうに見えるけど……?」


「え?」


「るかちー、人と戦うことに抵抗はないの?」


「へ? うん、別に」



 莉緒菜に問われて、流霞はあっけらかんと答えた。



「私のいた孤児院って、その、結構暴力とか当たり前だったので」


「んんんん? ねえまって?」


「孤児院出た後は、なんか平和過ぎてびっくりしました」


「おかしいわね。えぇ、おかしいわ」


「え、孤児院ってそんな感じなん? ってことは、ミカミカもそうなん?」


「え゛っ、いやいやいや! そんなことないけど!?」



 唐突に届く美佳里への風評被害であるが、この美佳里の反応に一番驚いていたのは流霞本人であった。

 何故こんなに驚かれるのか、流霞にはまったくもって理解できていないのである。



「いや、確かに戦闘訓練とかはあったけどさぁ。あんなの、ちゃんばらレベルじゃん?」


「え?」


「えっ?」


「……私がいた孤児院、ガッツリ系だったよ……?」


「……マ?」



 同じく孤児院出身でありながら、全く違う環境にいたらしい二人がお互いに顔を見合わせて固まった。


 実際、流霞が預かられていた孤児院は、元探索者の女性が経営している施設であった。

 彼女は孤児である流霞やその他の子供たちに対し、両親を神奈川崩壊事件で失くした子供たちに対し、二度と理不尽に苦しまないよう、〝生きる力〟を与えることを意識して教育を施したのである。


 一般的な知育訓練から芸術性テスト、興味の有無の診断。

 その中には運動、戦闘訓練も当然含まれていた。

 何せいざという時に信じられるのは、己の腕であり、足なのだから、と。


 そうしてそれぞれにテストを行っていく内に育成方針を決め、そちらの方向に伸ばしていく。

 型に嵌めるではなく、自由に子供たちを〝強くする〟という方針を取っていた施設で、流霞の才能もまた見出されたのだ。


 そう、戦闘の才能とも言えるそれだ。


 流霞は痛いのが嫌でひょいひょい避けるくせに、長引くのが嫌で相手を容赦なく攻撃する。

 その思いきりの良さに目をつけられ、戦闘能力を引き伸ばす方向で育成方針が定まった。


 そして今、きひ子ちゃんと呼ばれるようになっているのである。


 早く終わりたいから容赦なく相手を殴り、気絶させる。

 そのあまりの容赦と躊躇のなさのせいで、訓練が終わった頃には周りからも怖がられ、ぼっちになる。

 結果として、コミュ障陰キャオタク少女でありながらも戦闘狂という精神性を有した流霞が出来上がったのであった。



「――戻ったでー……って、どないしたん?」


「……ちょっとるかちーの真実を知った気分というか……」


「は? なんや、それ?」



 ――それ、私のセリフ……。


 自分が普通じゃなかったと知った流霞が、ある意味一番ショックを受けていた。


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